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第75話 注目の男

 今回の王都武術大会はいつも以上に参加人数が多いため、闘技場を四分割して木で作られた剣や槍などで行われる。

 人が多ければ盛り上がると言うわけでもなく、グダグダになる試合も増える上にセシリアにアピールするだけが目的の者も少数だが存在していて、さきほど自分が言った言葉は届いてないとセシリアを悩ませる。


 ただ、今回聖女セシリアのために観客がどの試合が良かったか、点数をつけるイベントが行われていて知らない者たちが戦う予選でも真剣に見る人たちも多い。

 予選でも現在の五大冒険者が出ると歓声が起こり盛り上がるのは彼らの人気を証明している。セシリアも知っている顔があればついつい見てしまうし、戦いを見たことのないフェルナンドとニクラスがどんな戦い方をするのか興味を持って見てしまう。


 そして、なによりも気になるのは同郷であり幼馴染のミルコである。


 小さな顔に筋肉で包まれた巨大な体と、どこかアンバランスな彼は足には防具がついているが上半身は薄いシャツ一枚だけである。武器は持たず手の拳から甲を守るガントレットのみの装備となる。


 ──あいつ剣は使わないのか。剣士を目指すとか言ってたけど……それに防具なしはスキル的にもどうなんだ? 


 セシリアが心のなかで呟くと予選開始の笛が吹かれ、各場所で冒険者同士が一斉に戦い始める。



 ***



「おい、かかってこないのかよ」


 バルコニーにいるセシリアの方を見上げていたミルコに対戦者の男が声を掛ける。


「ああすまない。では、いかせてもらう」


 ミルコが地面を蹴り一瞬で相手の男に詰め寄ると拳を振るう。


「ちっ、速いが防げなくもねえ」


 ミルコの拳を左腕に付けたバックラーで受け止めた男がニヤリと口角を上げると、右足を大きく踏み込み木刀をミルコの首目掛け振るう。


「ふん!」


 それを左腕で受け止めるミルコだが、全力で振るった木刀と生身の体がぶつかればいくらガードしたとはいえ常識で考えれば結果は木刀に軍配が上がると見ていた誰しもが思っていた。


「防具もなしにくる素人が! おおかたセシリア様狙いで参加したんだろうがてめえはここで終わりだ!」


 次の攻撃に入る男をミルコがにらむと、男は一瞬背中に冷たいものを感じ頬に汗が伝うが構わず木刀を振り降ろす。


 ガンッ!


「な!?」


 男の振り降ろした木刀をガントレットを装備した手で掴み受け止めるミルコに会場の注目が集まる。


「二撃か。まあ、俺単体の攻撃だけでも問題はないが、蓄積したままにはできないので放たせてもらう」


 ミルコが握った木刀を引っ張り、男から引き取ると後ろへと放り投げ拳を握る。


「はあああああっ!」


 ミルコが雄叫びを上げ気合を全身に溜めると着ていたシャツが弾け吹き飛ぶ。そして放たれた拳は男の鎧へと打ち込まれる。豪快な一撃を受けた男は大きく吹き飛び闘技場の壁に激しくぶつかると、気絶して白目をむいたまま力なくズレ落ちる。


「勝負あり! 勝者ミルコ!」


 勝者の名が呼ばれる最中、大の大人が吹き飛ばされるというミルコの放った一撃の威力の凄まじさにみなが驚き、立ち上がってしまう人たちまでいる。

 セシリアもミルコの攻撃を見て驚き思わず立ち上がってしまう。


 ミルコは自分の拳を見たあと、バルコニーで立ち上がったセシリアを見て一礼すると会場を後にする。

 ミルコの放った攻撃にも注目されたが、聖女セシリアを立ち上がらせたことにもみながどよめき、あの男は何者だと騒ぎ始める。


 ──なんだあの威力……『蓄積(ちくせき)返し』ってスキルあんなに強いのかよ。それにあの防御力、あいつこの短期間でどれだけ鍛錬したんだ。


 幼馴染の変わりように驚くセシリアを見た王は、今の試合に心を動かされたのだと思い嬉しそうにあごヒゲを撫でながら嬉しそうに頷く。



 ***



 会場を後にして控室までの廊下を歩くミルコは足を止める。壁に寄りかかるフェルナンドは足を止めたミルコを見て不敵な笑みを向ける。


「その辺の雑魚とは違うみたいだが、俺のところまでちゃんと上がってこいよ。じゃないと消し炭にできねえからな」


「……気遣いありがとうございます」


「はん、どう捉えようがお前の勝手だが、俺にあれだけの口をきいたんだ。途中で敗戦とかつまんねえことするなよ」


 それだけ言うとフェルナンドはその場を立ち去る。その様子を見ていた他の冒険者たちはミルコが先ほど予選で見せた攻撃力、フェルナンドに声を掛けられさらには聖女セシリアを動かした人物として注目されることとなる。

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