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第72話 私のために争わないで! そんなシチュエーション

 メランダの恰好はいつもの受付嬢のものではなく、休みなのかオフの姿である。なのになぜメガホーなる音声を拡散するためのマイクを持っているのか、突っ込みたいところではある。


 一見頼れるお姉さん的雰囲気をふんだんに醸し出すメランダ。だが、その本質は場を混乱させる人物であるとセシリアは確信している。


 しかし、この場を仕切れるのはおそらくメランダしかいないことも分かっているセシリアはこのまま頼っていいのか分からず頭が痛くなってくる。


「はいは~い、まず喧嘩は止めてくださいね~。ギルド側の人間として冒険者同士、ましてやトップ(ファイブ)の四人が争うのは見過ごせませんから」


 手をパンパンと叩きながら訴えて、一触即発状態だった空気を一瞬で沈静化させれるのは、このメンバーが全員知っているギルドの受付嬢メランダだからこそできることである。


「はーい、じゃあこの争いの原因はセシリアちゃんの取り合いなわけですよね。ならば決着を付けてセシリアちゃんの気持ちを奪ってしまえばいいわけですよ! 知っての通り王都武術大会が開催されるわけですから、実力を見せカッコいいとこ見せてセシリアちゃんの心を自分に向けさせるまたとない機会だと思いますよ」


 そして新たな争いの種、主にセシリアを中心とした混乱をもたらすのもメランダだからこそ。


 メランダの言葉にみなが黙り何やら考えているような素振りを見せる。そこへ長い剣を差した一人の男がやって来る。


「その勝負、私も参加させてもらおうか」


 ややコケた頬に影のある顔ながらも眼光は触れれば切れそうな程の鋭さを持つ男、五大冒険者のナンバー2であるグンナーが立っていた。


「グンナー、お前が女に興味があるとは驚きだぜ。どういう風の吹き回しだ?」


 フェルナンドが愉快そうに笑いながらも、目は笑っておらずグンナーを鋭くにらむ。


「セシリア様は罪を犯した私を許すどころか生きる意味までも与えてくれた。そんな女性に惚れないというのは無理なことだろう」


「くくくっ、こりゃあ愉快だ! 剣しか興味ねえあのグンナーが女に惚れただと! ああいい、ますます聖女様に興味が湧いてきたぜ。

 なにせ冒険者のなかでもトップにいるヤツが三人も惚れる女だ。これは俺が勝負しないわけにはいかんだろう。絶対にこの女を俺の物にしてやる」


 フェルナンドの言葉にジョセフ、ロック、グンナーそしてミルコが殺気立つの感じ、なぜこんなことになっているのだとセシリアは自分の横に立つメランダを見る。


「一人の女を取り合う男たち。いいわこのシチュエーション! 今回の王都武術大会は熱くなりそうね」


 そんなことを呟きながら拳を握りしめ、頬を少し赤くし鼻息荒く、興奮気味のメランダを見たセシリアはこの人はダメだと判断する。


 ──そもそもなんで自分を男どもが取り合うって話しをしているんだ? 俺は誰のものにもなる気はないし、こっちの気持ち無視かよ。


 そんなことを思うと、段々と腹が立ってきたセシリアは作物を置くと前に出る。


 無言で圧を掛け合う男たちの前に聖女セシリアが前に出てきたことで、ミルコたちはもちろん周囲の野次馬たちも固唾を飲んでセシリアの言動を見守る。


「私は誰のものでもありません! 勝手に大会の景品みたいな扱いはしないでもらえますか。私の気持ちを無視して話を進めるのは止めてください」


 周囲の注目を浴びながらセシリアが発言した内容に、ミルコ、ジョセフ、ロックとグンナーをはじめ多くの人がハッとした表情になる。

 だが、フェルナンドは膝を叩き苛立ちを見せセシリアをにらむ。


「気持ちだぁ? そんなの今から向ければいいだろ? ようは俺たちはだな聖女様とお近づきになる切っ掛けが欲しいんだよ。

 戦う姿を見せ強いところをアピールして、周囲を納得させた上でお前と二人っきりになるチャンスを掴もうとしてるわけだ。気持ちなんざそこから向けさせるに決まってんだろが」


 乱暴な物言いだがある意味一理ある。まずは自分を知ってもらうためのチャンスを作る、そのために強さを見せアピールするのは冒険者なら考え付く方法だとセシリアも納得はする。

 だが、その方法で喜ぶ人もいればいない人もいるであろう。フェルナンドの態度が好ましくなかったのもあって腹が立つ、そしてなによりも男と二人っきりで互いを知り合うなんてそんなことは何としても避けなければいけないセシリアも負けじとフェルナンドをじっと見る。


「その方法は人によるでしょう。私は強さだけで人を見てませんから、勝負に勝ったから好きになるわけじゃありません!」


「んだぁ? それじゃあ何か? 勝利した俺よりも地面で這いつくばる敗者に惚れたりするのか?」


「ええ、そうです。あなたのように人を強さだけでは見てません」


 セシリアはフェルナンドをにらむ。澄んだ紫の瞳に映るフェルナンドが顔を押え反り返ながら大きな声で笑う。


「くっくっく、あぁ~こいつは愉快だ! お前みたいな女は初めてだ。この俺にそこまで言うか? あぁいい。本当にいい! なんとしてもお前を惚れさせてみせる」


 ここまで言っても引かないのかと、本当にめんどくさいヤツだとセシリアが呆れていると、ずっと黙って二人のやり取りを見ていたメランダが突然ポンと自分の手を叩く。


「んーと、セシリアちゃん。一つお願いしたいことがあるんだけど」


「え、えーとなんでしょう?」


 メランダに見られ、嫌な予感をひしひしと感じながらセシリアは答える。


「フェルナンドさんが言ったようにみんなね、セシリアちゃんと仲良くするチャンスが欲しいのは確かなわけ。でも現状聖女であるセシリアちゃんと二人っきりになるなんて難しいじゃない? セシリアちゃんの考えには反するんだけど、お話をするチャンスだけでももらえないかな?」


 そもそも男と二人っきりになるのが嫌なんだと、どう伝えればいいか考え黙っているとメランダが分かったよとウインクをしてくる。


「あっ、ちょっと」


 絶対自分が肯定したと勘違いしてやがると声を出すよりも先に、咳払いをしたメランダが手に持つメガホーに魔力を通してスイッチを入れる。


「あぁーあー、みなさん聞こえてますかね? 冒険者ギルドの受付嬢としてこの場で冒険者たちが一人の女性を巡って争いお騒がせしたことをお詫びいたします。

 ですが、この女性を巡る争いは他人事でしょうか? いや! 違います! 聖女セシリア様は言いました。私はだれのものでもない! 強さだけでは好きにならないと! つ・ま・り! だれしもにチャンスがあるわけです!」


 メランダ暴走中! その言葉が頭に過ったセシリアはこの人を止めないといけないと身を乗り出すが、メランダに避けられ肩を掴まれるとみんなの前に押し出され注目を一身に受ける。


「いいですか? もう一度言いますよ。だれしもにチャンスがあるんです! 十日後に開催される王都武術大会、ここを聖女セシリア様へのアピールチャンスの場としたいと考えます。

 つまり、冒険者の一番にならなくても聖女セシリア様の一番になれる戦いを繰り広げる、それは諦めない姿であったり冒険者となった理由であったり様々な方向からのアピールの場。もちろん力が全てというならそれを突き詰めるのもありでしょう!

 自分の全力を出しきり、観客や来賓の方々そして聖女セシリア様の心を揺さぶった者が聖女セシリア様と二人っきりで話せるチャンスを得られる、全試合投票システムを導入し点数の高かった者を一人選びたいと思います!!」


 メランダの宣言に周囲がどよめく。五大冒険者になるのは無理でも聖女セシリア様にアピールできる、つまり自分たちにもワンチャンあるんじゃないかと騒ぎ始める。


 焦るセシリアだが、冷静に考えて受付嬢であるメランダが王都で行われる大会の内容を変えるなんて出来るのだろうか? という疑問が浮かぶ。

 だがそんな心配? は無用だとメランダが視線を上に向ける。


「ギルドマスター! どうですかこの提案? 此度の第七十回大会に相応しい企画だと思いませんか」


 なぜか民家の屋根に立つ腕を組んだギルドマスターがメランダを見て拍手する。


「素晴らしい企画だ! ここ最近、我こそ五大冒険者になってやろうとする野心あふれる者が減ってきて試合にも張りがなくなってきたと嘆いていたのだ。聖女セシリア様の気持ちを向けようと一試合一試合全力でぶつかり合う者たちであふれるのが私には見えるぞ! ギルドとしてアイガイオン王に提案しよう。なに王もすぐ承諾してくれるだろう」


 目をつぶってちょっと涙ぐんだギルドマスターがマントをひるがえし、民家の屋根から飛び降りると走ってどこかへ行ってしまう。ギルドマスターって暇なのかな? とか変なことを冷静に考えてしまうセシリアの頭の上でメランダがメガホーに口を近付ける。


「はーい、というわけで詳しい内容はまたお知らせしますね。みなさん『第七十回王都武術大会~私のために頑張る姿が美しい~』に奮ってご参加くださーい!!」


 いつの間にか変な副題がついていることにセシリアが突っ込みを入れる暇もなく、周囲の男を中心に歓呼(かんこ)の声を上げ参加表明の意志を見せるのだった。


 周囲の歓声のなか、フェルナンド、グンナー、ジョセフ、ロックにミルコが一瞬目を合わせそれぞれの笑みを見せるとその場から離れて行ってしまう。


 もう止められない周囲の勢いに呆然とするセシリアの隣では、やり切った表情を見せるメランダの姿があったりする。

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