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第68話 知略の魔王

「さてさて、ここからどうすればいいのでしょう」


 ドルテは自分の言葉で上手くまとまった魔族たちに安堵したのも束の間、次に何をすべきか知るために漆黒の鎧の中で父親残した計画書をパラパラとめくる。


「えーっと、まずはフィーネ島を渡り氷の国、グラシアールを制圧し拠点とする。この国は軍の統率も取れており寒さに耐える精神力も持ち合わせている。

 そして何よりも三百年前の対戦時、魔族を大陸の外へ追いやり、それを見張る名残から魔族対抗の武器が残っている可能性が高い。ゆえ軍の衝突においてはやや苦労するだろうが、メッルウを中心に劫火での町を焼き払い民を混乱に陥れ制圧することとする……ですのね」


 ドルテは眼下に整然と並ぶ魔王軍を見て考える。メッルウたちを行かせて街を制圧すること、本音を言えば争いはしたくない。

 だが父親の悲願であるかつての故郷の奪還と氷に閉ざされた生活からの脱却を叶えたい。そしてその理想に賛同した魔王軍の気持ちを考えれば進軍すべきかとも考える。


 静かにたたずむ魔王の姿をみなが固唾を飲んで見守る。


 突然ガガガッと首を軋ませ目を光らせ威圧してくる魔王にみなが背筋を伸ばすなか、魔王は魔剣をドスンと地面に叩きつける。

 それと同時に凄まじい魔力が放たれさ、らなる圧の追い打ちが魔王軍を襲う。


「まずは足掛かりとしてグラシアールへ進軍いたします!」


 魔王の宣言、言葉遣いがおかしい気もするが、それよりも遂に進軍するというその内容に魔王軍は興奮し腕を上げ吠えて応える。


「では、まずはみんなでいきましょう!」


 魔王の発言に戸惑うのは三天皇たちである。なぜなら事前に計画書から抜粋され渡された指示書と内容と違うからである。


「ま、魔王様! 確認なのですが、事前の計画では炎を持って氷を征すると聞いておりましたが、三天皇全員で行くことにされたのでしょうか?」


 魔王軍進撃の初陣、その名誉ある役割に誇りを持っていたメッルウは魔王に思わず尋ねてしまう。

 それは先程魔王が叱咤したこと、つまり敵前逃亡をした自分に失望したから外されたのではないかという焦りからの訴えである。


 焦る気持ちは分かるが魔王の計画に物申し、じっと魔王を見つめるメッルウをオルダーとザブンヌは心配そうに見つめる。


「三天皇だけではなくわたくし……わがはいも行きますのだよ」


「え? 魔王様自らですか?」


「ええ、みなが怪我などしないように、わがはいが先陣を切ります……ぜ!」


 魔王の言葉に魔王軍にどよめきが走る。魔王が先陣を切る、そんな思ってもなかったことを宣言されてざわついてしまう。


 メッルウたち三天皇は魔王の言葉の意味を考える。なぜメッルウに先陣を切らせず魔王自ら行くのかと。


「……怪我をしない。つまりは無血」


 オルダーが呟くとザブンヌが膝を叩く。


「完全無血での制圧。それは圧倒的力の差を見せつけ戦意を失わせること」


「なるほど、魔王様が先陣を切り人間どもに圧倒的力を見せつけ、敵の戦意を削ったところに我々が登場する……」


 ザブンヌにメッルウが続くと三人が顔を見合わせる。そして想像する。


 氷の国に降り立った魔王の圧倒的力に恐怖する人間たち、そして追い打ちを掛けるかのごとく自分たち三天皇率いる軍勢が国を囲み三方から現れ絶望をより深くする光景。


 ──カ、カッコいい!!──


 三人の心の声が重なる。


「……人間どもを傷つけず心を折り国を落とす、そんなことができる実力を持つのは魔王様だけ。それを成し得た魔王の存在が現れたら人間どもの間で噂になるのは間違いない。噂だけでも魔王様の強さと恐怖が伝わる」


「魔王様が先陣を切り圧倒的力を見せた後、俺等が軍を率いてやって来れば人数の少なさが目立たず、囲まれた絶望感の方が強くなる。それはつまり……」


「無血の勝利、それはあたしらにも犠牲者が出ず、今後の進軍にも有利に働くというわけか。そこまでお考えになっていたとは、さすが魔王様」


 淡々と話し合う三天皇が交わす言葉に、自分たちも魔王様の意図が分かってきたと魔王軍たちも前のめりになって話しを聞き、魔王様の考えの深さに興奮が抑えきれない様子を見せ始める。


 三天皇が胸に拳を当て頭を下げる。


「「「我々三天皇、この初陣に全身全霊を尽くしますことをお誓いいたします!!」」」


 うおおおおっっっっ!!!!


 魔王軍が吠える。その声は魔王城、洞窟を抜け山の外の吹雪までにも響き渡る。


「ふー、上手くいきました。みんなが怪我しないように頑張らないといけませんわね」

『いや、部下たち深読みし過ぎじゃね? まあいいけどよ』


 ドルテは額の汗を拭い眼下で嬉しそうに騒ぐ魔王軍を見てニッコリするのである。

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