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第7話 いつの間にか戦乙女と噂され、聖女の属性も追加されそうです

 盗っ人である少年と一悶着あり興奮気味の店主は、突如現れたセシリアを鋭い目付きで睨む。


 セシリアはそれが怖くて思わず身を強張らせてしまう。


「あの子昨日の……」


「あぁ! そうだ昨日町を救うため冒険者を導いたって噂の!」


「思い出した! 確か勝利を導く戦乙女とか噂になってる!」


 セシリアの登場に注目したのは店主だけではない、周りの人たちも騒ぎの中に突如現れた銀髪の少女に注目していた。


 昨日の今日なのでまだセシリアの姿や名前を知っている者は少ないが、ギルドに登録した初日に功績を上げて、一気に冒険者等級ブロンズまで昇格したレアスキルを持つ少女がいるらしいと噂になっており耳にしている者も多くいる。


 さらに冒険者であれば少なからず目にした者もいて、特徴的な銀髪に反応したのである。


 店主も客が噂しているのを聞いた程度ではあるが、目の前にいる少女がそうなのかと、怒りよりも興味の方が勝り鋭い眼光が僅かに和らぐ。


 セシリアは『戦乙女』ってなんだよ。戦ってもないのにいつの間にそんな名前がついたのかと突っ込みたい気持ちを押さえ、この状況を利用して押しきるしかないと奮起する。


「このパンをください。その男の子の分も合わせてこれで足りますか?」


 店にあった一つのパンを指さし、ポシェットから出して手に持っていた金貨を改めて見せる。


「あ、あぁ……」


 突如現れたセシリアが発した言葉は店主の思いもよらないものだったのか、あっけに取られた店主の少年を押さえつけていた手が緩む。

 突然緩んで壁から解放されたことでよろけて尻餅をついた少年だが、直ぐに好機と立ち上がってこの場から逃げようと手を付いたときだった。それを遮る手が伸びる。


「ほら、きみの買うパンも袋に入れてもらうから立って」


 突然差し出された手に思わず身をすくめてしまう少年だが、逃げることよりも目の前で笑みを向けるセシリアに思わずみとれてしまう。


「走ったら転ぶよ。そのパンは大切なものじゃないの? 食べさせたい人がいるなら汚さない方がいいよ」


 セシリアが優しく話し掛けようと苦労しながら、更に怖がらせまいと必死に笑みを作っているなどとは知らない少年は、自分に向けられる微笑みに見とれただ呆然として頷いてしまう。


 セシリアが話し掛けている間に店主が袋に詰めたパンが差し出される。


「ほら、これもあげるからきみを待っているあの子と一緒に食べて」


 セシリアの選んだパンが入った袋も渡し、少年を不安そうに見る女の子に視線を向けると言葉の意味に気が付いたのか、少年は袋を受け取り小さく頷き女の子の元へと駆け寄る。


 パンの袋を抱え女の子の手を取った少年が去り際に一瞬立ち止まって振り返りじっとセシリアを見つめるが、すぐに背中を向けると駆けて去っていく。


 去っていくのを見送った後、お金を払おうと振り返ったとき自分が民衆に囲まれ視線に注目を集めていることを改めて自覚し、今になって恥ずかしさが込み上げてきてしまう。

 さらにセシリアの行動を見た周囲の目は、好奇心から称賛のものへと変わっていた。


「なあ、凄くないか」

「ああ、争いを収めただけでなく少年に慈悲を与えた」

「お前さ、小さな女の子のこと気がついてたか?」

「女神か」

「神に祝福された子、そう聖女のようだ!」


 ひそひそと話しているつもりだろうが、はっきりと聞こえてくる称賛の声。

 恥ずかしさを我慢しながら金貨を渡そうとするが、自分の動作の一つ一つに視線が注がれているのに気付いて恥ずかしさの頂点に達したセシリアは、店主の手に金貨を置くとくるりとターンをして背中を向け逃げるようにその場から離れていく。


「お、おい! お釣!」


「め、迷惑料ですっ! 受け取って下さい!」


「いや、いくらなんでも多すぎる!」


 セシリアは短く答えると背中に掛けられる店主の声を振り切るように、お釣も受け取らずに走り去っていく。


 この騒動はパンを買えない貧しい少年、それを見守る女の子、さらには店主まで慈悲を与え、誰も傷つけず救った一人の少女がいると噂になるには十分な出来事であった。

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