第62話 そっちか!
首を伸ばすセシリアの肩をアメリーが揉む。
「う、うぅ疲れたぁ……」
「それはあれだけの人数を叩けばね……。本当にびっくりしたんだから」
アメリーがセシリアの肩を揉みながら語る内容に、デトリオたち五人の冒険者もそうだそうだと頷く。
「だって、セシリアを助けるためにアイガイオン王に懇願しに戻ろうと思ったら、顔に傷のある男の人が聖女セシリアは無事だって教えてくれてそれで慌てて戻ってきたら、教会本部はボロボロだし、セシリアがビンタしてなぜかみんなお礼を言ってるし、もー訳が分からないのよ!」
頭を抱えて言うアメリーを見てセシリアは少し嬉しそうな表情で笑う。
「アメリーもそんな顔するんだ。ちょっといいもの見れたかも」
「なによそれぇ〜。私本気で心配したんだからね」
「ごめん、ごめん。心配してくれてありがとう」
セシリアのお礼の言葉を聞いたアメリーは恥ずかしさ半分嬉しさ半分といった笑みでセシリアの肩を揉む。
「それにしても俺たちが助けに行かなくてもセシリア様は自力で脱出して、教祖どころか教会そのものを制圧するとは驚きです」
「私らの出る幕はなかったと言わざるを得ないですね」
デトリオとテイクの言葉にセシリアは首を横に振る。
「私が脱出できたのも、セラフィア様の姿を模すことができたのも、大きな騒動になる前に制圧できたのも助けがあったからこそです。
それにみなさんが信者の方を説得してくれたお陰で、平手打ちを途中でやめることができて本当に助かりました。手が痛くて困ってたんです」
手をひらひらさせ笑うセシリアを見て、デトリオたちも嬉しそうな笑みを浮かべる。
「聖女様に懺悔に対し平手打ちで叱咤激励される……俺もやってもらおうか」
「あぁガオスさんのその気持ち分かります。俺もちょっとお願いしたてみたいですわ」
そんなことを頬を赤らめながら言うガオスとティモにセシリアたちは少し引き気味の視線を送ってしまう。
「セラフィア教の教えはね、頑張って結果が出たのは自分のおかげ。辛い時もあるけど自分を信じて頑張ってみよう。それでも無理なときはセラフィア様が応援してくれる。道を外れたら頬を打ってでも目を覚まさせるから、そんなセラフィア様が側にいるから頑張るあなたは凄い。だって」
セシリアは肩に手を置くアメリーを見上げる。
「だから、自分でどうにかして頑張って。結果がでたらセラフィア様のお陰だから感謝しなさいってのは湾曲された教え」
セシリアの言葉を受けてアメリーは一旦目をつぶって、ゆっくり目を開けると同時に嬉しそうに微笑む。
「そうなんだ。そんな教えならちょっとは好きになれるかも。ううん、それよりもセシリアが今はセラフィア様なわけだから私は好きになっちゃうかな」
「いっ! 私はこの場を治めるためにそんな感じを匂わせただけで……セラフィア様とかとは関係ないからもうここには関わらないつもりだけど」
「あら、それって多分無理じゃない? 教祖も含めて現世に降り立ったセラフィア様に夢中だもの。いっそのことセシリア教に名前変えたらどう? 私もセシリア教のシスターなら喜んで名乗るから」
いたずらっ子っぽく笑うアメリーにセシリアは首をブンブンと横に振る。
「いやだよそんなの」
セラフィア様まで背負うくらいなら、聖女でいいやと思ってしまうセシリアの心底嫌そうな顔を見てアメリーはくすくす笑う。
「セシリアも面倒くさそうな顔するんだ。意外っ」
「いつもこんな顔してると思うんだけど」
嫌そうな顔したつもりがなぜか好意的取られてしまうことが多いセシリアにとって、面倒くさそうな顔だと笑うアメリーの言葉になんだか嬉しくなる。
笑う二人を笑顔で見る五人と和やかな雰囲気が流れるが、それをバサバサとグランツが羽ばたく音が掻き消しセシリアの肩に乗ると低い声でグランツが鳴く。
『セシリア様、魔族の匂いがします。おそらくこちらに近付いているものと思われます』
アメリーの手を取りゆっくり立ち上がるセシリアの雰囲気が変わったのを不思議そうに見るアメリーとデトリオたちに向かってセシリアは呟く。
「なにか来ます」
聖剣シャルルを手に持ち遠くの方を見つめるセシリアに、ただならぬ雰囲気を感じた冒険者五人はそれぞれ武器を手に持ちアメリーは後ろへ下がる。
セシリアが見る方から一つの影がゆっくりと近付いてくる。それはゆっくり歩く程度のスピードで近づいて来てやがて人の形だと分かるまで近くに来たとき、セシリアはどこか見覚えのある形に目を細めてじぃーと見る。
「あの人って確か……」
「えぇ、五大冒険者ナンバー2のグンナーですね。いつも辛気臭そうな顔してるのにいつにもまして暗い顔してますね」
セシリアの問いにテイクが答えている間にも影は近付き、やがてセシリアたちの前に立ち腰にさしている剣に手を掛ける。
「聖女セシリアよ、剣を抜け。お前の必殺技紫電乃霹靂を打ち破ってみせよう」
そう言って鋭い眼光を向けるグンナーの瞳は真っ赤に染まっている。
『ふむ、あれは何らかの精神支配を受けてるな。グンナーとやらから魔族の魔力を感じるのもそのせいであろう。今回の件、魔族と関わっていたのはコヤツの方だったということか』
「えぇ~、セラフィア教と魔族は関係はなかったで終わりじゃないの。この人が魔族と関わっていたってこと?」
『詳しくは分からんんが、コヤツを倒せば分かることもあるだろう。さあセシリアよ我を持ち構えろ』
セシリアが構えたのを見て五人も武器を構えグンナーを見据える。