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第55話 命を狙われ救う

 セラフィア教会本部はハイリッツベルクと呼ばれる山の上にある。まずは山のふもとにある町、ハイリツまでは馬車で移動したセシリアたち一同。

 一晩、町で泊まり次の日セラフィア教会本部へ向かう予定となっている。


 出発前にメンバー募集し、厳しい面接を乗り越えてやってきた冒険者たちは、かつてセシリアが傷を癒やし聖女になることのきっかけにもなった男、デトリオ。そしてセシリアが冒険者として初めの方で教えを解いてくれたテイクとガオスの二人。それと防具屋の主人に借金兄弟と一括りにされたうちの二人ティモとモースの五人である。


 この五人、実力はもちろん申し分なく経験もそれなりにある。さらにはセシリアと一緒に何度かクエストをこなしていて、セシリア自身の評価も高く、周囲の人望もあることから選ばれたわけである。


 ちなみにセシリアの評価とは受付嬢たちがセシリアとの会話から算出したものであり、周囲の評価も同等である。

 普段、穏やかにニコニコと接っしているように見え、全受付嬢は冒険者たちの動向をきっちり見ているのである。


 そんな厳選されたメンバーであるゆえ、セシリアもそこまで緊張せずに旅を進められている。

 ただ唯一予想外であったことは、セシリアの部屋のテーブルでぐうぐういいながら寝ているアメリーの存在。


 今回の件自分にも責任があるからと、それにセシリアのお世話を私がするんだとついてきたが、初めての旅に興奮し疲れてご飯を食べ終えた後「今晩は寝ずに話しましょうよ!」と意気込んで部屋に飛び込んで来た数分後にこれである。


「ほらアメリー起きて体を拭くか、せめて着替えないと」


「やだぁめんどくさいぃ〜。セシリアが着替えさせてよぉ」


 テーブルに伏せて寝るアメリーを揺らして起こそうとすると、アメリーはまぶたを僅かに開け半目(はんめ)でセシリア見ると、駄々っ子のように体を揺らしながらわがままを言う。


「着替えくらい自分でしてよね。まったくもぉ〜、旅に慣れてないんだからあまりはしゃがないって言ったよね」


「だってだってぇ~」


「じゃあこのまま寝ていいから、朝にはちゃんと着替えてね」


「うん、分かったぁ。セシリア大好きぃ〜」


 駄々をこねるアメリーにため息をつきながらセシリアが妥協すると、満足したのかスースー寝息を立て寝てしまう。


「せめて、自分でベッドに行ってほしいんだけどっ」


 椅子に座って寝ているアメリーをなんとか肩を組んで起こすとベッドまで連れて行き、寝かせようとするが手を滑らせてしまい、勢いよくアメリーが顔面からベッドにダイブしてしまう。


「あわわわっ」


 焦るセシリアの心配など何事もなかったかのように、アメリーはスースーと気持ちよさそうに寝息を立てている。


「ごめんね、朝になったら起こすから」


 セシリアは手を合わせて謝ると部屋を出て、寝るための支度をする。もちろんこのままアメリーと寝るわけにいかないので、元々アメリーが泊まる予定だった隣の部屋へ入る。


 アトラの背中以外も拭きたいという申し出を必死に断りながら、ようやくベッドで横になりうとうとし始めたときだった。


 ベッドの下で体を丸め寝ていたグランツが飛び起きると羽を逆立てバサバサ羽ばたく。


『セシリア様! 隣からガラスを切る音が! 敵の可能性があります!』


「グランツ来て! シャルル、アトラ行くよ」


 光の粒になったグランツを取り込み翼に変え、聖剣シャルルを手に取ると影を滑らせ文字通り隣で眠るアメリーの部屋に滑り込む。


 ドアを勢いよく開けると、全身を真っ黒な服でまとい顔も隠した男と思われる人物がベッドで爆睡しているアメリーへナイフを振りかざしていた。


 黒ずくめの男は、突然入って来たセシリアに表情は見えないが驚いたのか、セシリアとアメリーを交互に見ている。


 そのすきにセシリアの影が伸びると黒ずくめの男の足を引っ張る。突如足を引っ張られバランスを崩す黒ずくめの男に、翼を広げ跳躍したセシリアが振るう鞘に入った聖剣シャルルのフルスイングが首筋に見事に決まる。


 念のためにと聖剣シャルルが放った魔力の電流が、黒ずくめの男を確実に気絶へと導く。


「セシリア様! 大きな物音がしましたが大丈夫ですか、あ!?」


 デトリオたちが駆けつけると、伸びている黒ずくめの男と、ベッドで爆睡のアメリー。それとネグリジェ姿の翼の生えたセシリアが迎える。


「私は大丈夫です。この人から色々と聞きたいことがあるので手伝ってもらえませんか?」


「え、ええ……」


 集まった男たちがセシリアをチラチラと見る、その視線に気づいたセシリアは自分の格好がうっすらと肌の透けるネグリジェであることに気がつく。

 靴も履かず裸足であること、念のためにとつけておいたブラの紐が肩から見えているのにも気が付き慌てて聖剣シャルルを抱えて前を隠す。


 ──ヤバい、あまり見られると男だとバレてしまう。


「あ、あの、この格好だと恥ずかしいんで着替えてきますね」


 聖剣シャルルを抱え恥ずかしそうにしたネグリジェ姿のセシリアが慌てて、裸足で廊下をパタパタと走り部屋に帰る後ろ姿を見た男たちは、それだけでも一緒に来て良かったと感激する。



 ***



「痛い目見たくなかったら吐け、誰の差し金でセシリア様を狙った」


 覆面を剥ぎ取られ鼻から頬に大きな傷跡がある男は手足を縛られた状態で、デトリオに襟首を掴まれ凄まれるが顔を逸らし口を閉じたまま一言も喋らない。


「コイツ吐きませんね。もう少し乱暴な方法で吐かせるしか……」


 ティモがセシリアをチラッと見る。それがここから傷のある男に暴力を持って情報を聞き出すための許可を求めていることに気が付いたセシリアは少し悩んだ後、傷のある男へ近づく。

 近付くセシリアを見て意図を察したデトリオたちが、傷のある男の肩を押え動けないようにする。


「えーっと、別にあなたが喋らなくてもこのタイミングで私を狙ってくるってことは、答えはほぼ出てるんですよね。ただ、なんで狙ったのかな? と個人的に気になるんです」


 傷のある男はセシリアをチラッと見てにらむと小さく口を開く。


「聖女が邪魔になるヤツもいる。それだけだ」


「そうなんですね。でもその言葉だけでもう一人しかいませんよね。今回セラフィア教会の本部へ向かう理由を知っているのって数人だけなんですよね。ここにいる冒険者のかた方も本当の理由は知りません。ハイリツ村に入って襲ってきたことも考えれば……後は分かりますよね?」


 セシリアが微笑むと傷のある男の眉が僅かに動く。


「正解、ですかね? 意外に顔に出るタイプなんですね」


「くっ、お前カマかけたな?」


「さあ、どうでしょう」


 顔を歪める傷のある男と微笑むセシリアが向き合う。しばらく目を合わせた後、傷のある男がフッと笑う。


「全く聖女とは恐ろしいものだ。俺が来ることも分かってたな。身代わりを置いて俺の奇襲を狙い、捕らえて情報を聞き出そうとしたわけか。俺の負けだ……ただ俺を雇ったのは顔も名前も知らない人物であり、お前の思う人物から直接ではないぞ。故に俺の発言は証拠にはならん。

 さあもういいだろう。仕事も失敗し挙句敵に拘束され情報も吐かされた男に価値などない。好きにするがいい」


 切り落とせとばかりに首を下げる傷のある男を見てセシリアはナイフを手に取ると、手足を縛っていたロープを切る。デトリオたちはその行為に慌てて、それぞれ武器を手に取り身構える。


「仕事を失敗したあなたは命を狙われることになるかと思います。ですが、黒幕と私が直接会って話し合ってみます。それによってはあなたは生きることができるはずです」


「忍び込み人を殺めることしか取り柄のない男が失敗した今、何の価値もないのだぞ。生きている意味など──」


 セシリアが男の唇に指を当て言葉を遮る。


「あなたがやってきたことを肯定はしません。ですがあなたの言う価値がなくなった今のあなただからこそ見えるものもあるでしょう。もしも過去を(かえり)みて思うことがあるなら生きてみてはいかがでしょうか?」


 目を大きく開く男にセシリアは微笑み掛ける。


「それでも生きる価値がないと判断したら私のところに来てください。そのときはもうちょっとだけ一緒に考えてみましょう」


 傷のある男はうつむきしばらく黙っていたが、床に手を付きゆっくりと立ち上がると窓の方へ向かって歩く。

 窓を開け足を掛けたところで立ち止まり振り返ると、セシリアをチラッと見てそのまま外へ飛び出て一瞬で暗闇に溶け込む。


「逃がしてよかったのですか?」


「もう襲ってはこないでしょう。それに彼に止めを刺したところでなにもならないと思います。それよりも眠たくなったのでもう寝ましょうか?」


「え、ああはい。念のためにセシリア様の近くで見張りたいのですが」


 テイクの提案にセシリアは首を傾けて考えると、恥ずかしそうに微笑む。


「お願いしてもいいですか? 私もこの部屋で寝るのでアメリーと一緒に見ていただけると嬉しいです」


「お任せを!」


 テイクたちが急ぎ準備する傍ら、この騒ぎのなか爆睡しているアメリーを見たセシリアは呆れた笑みを浮かべてため息をつく。


 爆睡するアメリーを押して、ベッドに隙間を作ると横になる。持ってきた枕に顔を埋めて目を静かにつぶるとブルブル震える。


「こっ、こわかったよぉ……」


 セシリアは目をぎゅっとつぶって呟く。


『完璧だ! 我のアドバイスだけではこうは上手くいかんぞ。セシリアの演技力あってこそだ』


『ええ、そうです。セシリア様が男の口に指を当てたとき私もドキドキしましたもの!』


『あんな風にわらわもされたいのじゃ』


 頭のなかで三人に絶賛される言葉とは裏腹にセシリアは枕に顔を埋めて震えるのである。


 そんなこととは知らず、暗闇に溶け込んだ傷のある男は先ほどまでいた宿屋の方を見て自分の口にそっと触れる。


「聖女か……」


 ポツリと呟くと暗闇に更に深く溶けこんでいく。

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― 新着の感想 ―
[一言] さ、さすがは名探偵セシリアによる姫プレイ流推理ショー。 勝手に相手が自供する…
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