第54話 セラフィア教会本部へ聖女セシリア様が行かれるようです
セシリアは地下で見たこと、そして手にした書物をアイガイオン王へ差し出す。
書物は介添え役の女性がトレーに置き運ぶと王へと渡される。
「ほう」
ザッと読んだ王がセシリアを見る。
「つまり先日捕らえた者は過去に存在した遊戯人なる種族であり、魔族の動きが活発になったとき我々にとって有益な存在となる可能性があるということか」
目をつぶった王は長いあご髭をさすり思考する。その様子を固唾を飲みながらセシリアは王の言葉を待つ。
「セシリアの頼みじゃからな。すぐにでもニャオトを出して、セシリアが見つけた部屋に連れて行き有益となる情報を探し出したいところなのだが、コーアプの丘はセラフィア教会の所有地。余が直接動いたとなると教会本部がちとうるさいかもしれんの」
セシリアが見つめ返すと、咳ばらいをした王が少しバツの悪そうな顔をする。
「もともとセラフィア教はこのサトゥルノの大地に昔から根付いている教えであり、多くの者が信仰するものだ。余のアイガイオン王国の建国にも大きく関わっており、あまり強く言えぬところなのだ。それにな……」
王が手招きをするのでセシリアは周囲を見回すと兵たちがそっぽを向いている。それを見たセシリアは意図を察してゆっくりと王へ近付く。
小さく手招きをし耳を近付けろと言うので耳を傾けると王が小さな声で耳打ちをする。
「今の教祖であるゲンナディー・リヴィングストンという男。あまりいい噂を聞かぬ。ゆえに関わること自体勧めれないのじゃが、その施設に入り使用する為にはその男を説得するしかあるまいな」
「私、その施設に入ってしまったんですけど」
「そこは、教会関係者がたまたま見つけ困って聖女セシリアに相談したでよかろう。教祖の許可が必要と判断したセシリアが教会本部へ赴き会いに来たという流れでどうであろうか?」
セシリアと王は見つめ合うとゆっくりと頷く。
***
セシリアとアメリーが見つけた地下室を使うために、そこが教会の土地だということで本部へ許可をもらいに行くことになったセシリアは急ぎ旅支度を始める。
今回の話はこうである。
いつものお勤めに向かうアメリーが、たまたま不穏な空気を感じ日頃は通らない場所へと向かったら穴に落ちて謎の本を偶然拾った。よく分からない文字のなかに『魔王』と『魔族』の言葉があり怖くなったアメリーは友人であった聖女セシリアに相談した。その場所をもっと詳しく調べたいのでセラフィア教会の教祖であるゲンナディー・リヴィングストンに許可をもらいに来たである。
「本当に大丈夫かな。今回はアイガイオン王国は関われないからロックさんたちも行けないし、ジョセフさんも遠征でいないんだよね」
『メンデール王国のときと逆だな。アイガイオン王国が関わってるのを見せると刺激してしまい今後の関係に問題が生じるかもとな、難儀なものよ。それでどうするのだ』
「う~ん、シャルルたちがいるとは言え私自身は弱いわけだから、道中を考えたら仲間は必要だと思う。だからギルドで一緒に行ってくれる人を募集しようかなと」
セシリアは久しぶりに冒険者っぽい行動にちょっぴり興奮していた。そもそもセシリアは冒険者になりたてのただの少年なわけだ。聖剣を手に入れたことを考慮しても魔族であるヴァンパイアを討伐し、国に潜んでいたラミアを討伐するなど一人の冒険者としての範囲を超えているのを感じていた。
今回の教会本部へ向かうというのも冒険者としての範囲を超えてはいるが、遠征するのに仲間を募集するという行為自体が嬉しく思えるほど、セシリアは普通であることに飢えていたりする。
だが、そんな普通であるはずの行為もセシリアが行えば普通ではなくなる。
カランカラン!!
ギルド内にメランダが手に持ったハンドベルの音が響く。
「みなさーん! メンバー募集のお知らせでーす!!」
──えっ、メンバー募集の仕方ってこんなのだったっけ? 掲示板に貼られてそれを見た人がギルドを通して集まるって感じだったような……
初めてのメンバー募集なのでちょっと自信のないセシリアが口を挟めずオロオロしていると、注目を集めたメランダが声を張り上げる。
「聖女セシリア様が、セラフィア教会のあるハイリッツベルクへ行くために一緒に行ってくれる人を募集してまーす!! 募集メンバーは五人! さぁー早く来てくださいねぇ~!!」
メランダの言葉にギルド内がどよめく。
「すまん、急用だ。このクエストは保留させてくれ」
「急用ができたゆえ、こちらのクエストは急ぎでなければ数日後でもいいだろうか?」
クエスト受付カウンターで手続きをしていた男たちが次々とキャンセルまたは保留を始める。
「今日のクエスト俺はいけなくなった」
「奇遇だな俺も行けなくなったんだ」
「ふっ、お前らもか。俺もだ」
仲間同士で集まっていたであろうチームが突然解散しセシリアのもとに集まり始める。先ほどまで仲間だったぞくぞくと集まる冒険者たちに囲まれ萎縮するセシリアと対照的にメランダは満足そうな笑みを浮かべ頷いている。
「こ、こんなに集ってくれたのはいいのですが。ど、どうすればいいんです、決めれないんですけど」
沢山の冒険者に囲まれ慌てふためきメランダに助けを求めるセシリアに、両腰に手を当てたメランダが自信あり気に胸を張り右手を上げる。
「お集まりいただいたみなさーん、これから聖女セシリア様に同行できる人を選ぶため面接を始めまーす! 受付嬢による一次面接、ギルドマスターによる二次面接。そしてセシリア様直々の最終面接を乗り越えて一緒に冒険へ出かけましょう! 題して『あなたも聖女セシリア様のお供になろう!』です!」
おおぉ! っとどよめく冒険者たちの前でメランダが指をパチンと鳴らす。
「さぁ、先ずは受付嬢による面接! 厳しく厳選させていただきますから覚悟してくださいね。シェリー先輩! ソフィア! パオレッタ! 面接の準備をお願い!」
メランダの声を受け各カウンタ―にいた受付嬢たちが広場の方へ出て来る。その表情にはいつもの微笑みや穏やかさは感じられず、何者も近付けさせない迫力をふんだんに含んでいる不敵な笑みを見せる。
四人により広場の四方にテキパキと机が並べられ、仕切りが並べられると各場所に作られた簡易的な面接室が出来上がる。そこにて待つ受付嬢、もといい面接官に挑む冒険者たちの列ができる。
「ひぃぃい、生まれてきてごめんなさーい」
一つの面接室から大の男が泣きながら飛び出てくる。
──な、なにが行われてるんだろ……
面接室でなにが行われているのか気になりながらも想像もしたくないと震えるセシリアは、普段の受付嬢の見せる穏やかさの裏にある圧倒的な力に恐怖するのである。
そして……
トントン
ドアがノックされる。
「はーいどうぞ」
椅子に座るセシリアの隣に立つメランダが答えると、ドアがゆっくりと開き見たことのある顔が覗き中へ入るとドアの前で一礼する。
「お名前をどうぞ」
セシリアが尋ねると男性は背筋をピンっと伸ばして真っ直ぐセシリアを見る。
「はい! デトリオ・アールデックです! この度は聖女セシリア様のお役に立ちたいと思いエントリーしました!」
「はい、それではデトリオさんそちらに座って下さい」
「はいっ! 失礼します!」
そんなやり取りをしながらセシリアは思う。
──これが求めていた冒険者らしい行動なのか……いや、違う……よね?
自分のなかで基準が崩れていくのを感じながら戸惑うのである。