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第49話 遊戯人

 教会で夕食を食べ、泊って欲しいというソーヤをはじめとした女の子たちの誘いをなんとか断り、いつもの宿屋のベッドで横になる。


 天井を見上げ体を横にすると、ベッドの枕元に立て掛けている聖剣シャルルを見る。


『セシリア、今日も可愛いな』


「いきなり何を言い出すんだろうね、この剣は」


 寝転がったまま聖剣シャルルを睨むとグランツが、ベッドに上がってきて、セシリアの影からニョロリとアトラが這い出てくる。


『その寝間着姿、可愛いと思います。正直ドキドキです私」


「ネグリジェとか言ったかえ。可愛いものじゃ、わらわも着てみたいものじゃな」


 二人の褒め言葉に自分の姿を認識して、恥ずかしくなったセシリアは思わず体を起こし枕を抱きかかえ体を隠す。


「こ、これはほら、朝突然ラベリが飛び込んで来たりするから、男物だとおかしいかなって……」


『うむ、そうかそうか』


 言っている途中で言葉に詰まったセシリアに聖剣シャルルが同意したことで、さらに恥ずかしくなったセシリアは枕に顔を埋め首を振る。


 そんな姿を三人が、


 (((可愛いっ(です)(のじゃ)!)))


 などと思いながら温かな目で見つめてるとは知らず、セシリアは枕に顔を埋めたまま喋り出す。


「自分だって最近言動がちょっとおかしいなって思ってるし。聖女っぽく振る舞ってるうちに段々とそっちが普通になってるの感じてるもん!」


 (((「もん!」だってますます可愛いな(です)(のじゃ))))


「実家にバレてたらどうしようって思いながらも、こんなに注目されて後に引けないんだよぉ~」


 枕に顔を埋めたままパタンとベッドに倒れ込むセシリアの姿に癒される三人は、セシリアの一連の言動を心に深く刻むのである。


「セシリアよ、わらわたちがおるのじゃ」


 ニョロリと近寄ったアトラが枕に顔を埋めるセシリアの肩にソッと触れ優しく語りかける。


「ちょっと、触り方がやらしいんだけど」


「そ、そうかえ?」


 自分の背中をなでなでするアトラを枕で口元を押えたまま僅かに顔を上げて上目遣いで睨むセシリアだが、その姿はただただ可愛いだけであり三人をさらに喜ばせる。


「聖女って勘違いされただけでも困ってるのに、聖剣やら鳥やらアトラが来てもっと困ってるけど一人だったらどうにもならなかったし、こうして話せてることは感謝もしてる……だからまあ、その……ありがとう」


 体を起こし枕を抱えたまま、顔と視線を逸らしながら頬を桜色に染めるセシリアの感謝の言葉の破壊力に、鼻血がでそうな鼻を押えるアトラと後ろにひっくり返って翼で自身を抱きしめ悶えるグランツ、カタカタ音を鳴らすことしかできない剣であることを後悔する聖剣シャルルの姿があった。


「そうだ、シャルル。前から気になってたんだけど遊戯人(ゆうぎびと)ってなんなの?」


『うむ、禁書のこともあるし遊戯人(ゆうぎびと)について話すにはいい機会だな』


 聖剣シャルルの声にセシリアは枕を抱えたまま向き合い、その隣にグランツが座り反対側にアトラがセシリアに寄りかかり座る。


『待て、話すにはこの位置ではダメだ。我はセシリアの胸元がよい』


「ったく、本当に意味分からないんだけど」


 ベッドから降りて、聖剣シャルルを掴むと枕の代わりに抱きかかえる。


『文句を言いつつもやってくれるセシリアのこと、我は好きだぞ』


「あぁはいはい、それよりも早く話してくれる」


『まずこの世界がもう一つ別の世界と繋がっていることを理解してもらおうか──』


 出だしから聖剣シャルルの言葉に 驚きつつも続きを聞こうとみなが耳を傾ける。


 ──繋がる世界の名前はチキュウのニホンと言う。


 理由は分からないが周期的になにかのタイミングで一瞬だけ繋がったとき、あちらの世界から流れてくる漂流物があった。


 その漂流物は書物や人形と言ったものが多くこちらの世界の住人は意味の分からなさに困惑した。書物に書いてある文字を長い年月かけ紐解いていくと、どうやらこことは別の世界というものが存在しておりその世界の住人を転生もしくは転移させると、とてつもないスキルや力を持って無双するということが分かったのだ。

 一人で千人を相手に立ち回り勝利を収めたり、魔法一撃で城を吹き飛ばす。巨大なドラゴンも魔王ですら一撃に沈める、そんな活躍が書かれた書物が数多くあった。

 当時人同士、つまりは国同士で争いが絶えず、魔族も加わって緊迫していた世界で無双できる存在が手に入ったら他より有利に立てると、各国こぞって異世界の人をこちらの世界へ連れてこようと躍起になった。


 我も専門家ではないから理論は分からないが、魔力を増幅させる魔力回路なる装置を持ってして遂に異世界から人を連れてくることに成功したのだ。それが異世界渡(いせかいわた)りと呼ばれる技術だ』


「ふ~ん、別の世界ってのも不思議な話だけど、そこに住む人を連れてくるとか想像もつかないよ。ところでその異世界の人は期待通りに無双したの?」


 セシリアが抱きかかえている聖剣シャルルに尋ねる。


『いや、これがめちゃくちゃ弱くてな。無双するどころかスキルも持っておらず、肉体的にも弱く力も全く持ち合わせておらんかったのだ。初めこそたまたまそう言う人が来たのだろうと考え、異世界渡りを繰り返してみるが、何度呼んでも誰も戦えずそれどころか戦闘経験すらなかったのだ』


「じゃあ書物に書いてあったことはなんだったの?」


『彼らの想像を描いた小説と言うやつだな。彼らの世界でも武器を使って戦うことはあっても魔法やスキルなんてものは存在せず、ましてや一人で数千人相手に無双など到底無理だったわけだ』


「戦えない彼らはどうなったの?」


 セシリアは質問しながら顔に不安の色を浮かべ、聖剣シャルルを抱きしめる腕に力が入り、鞘のなかの刀身が揺れカタリと音が響く。


『一方的に呼んでおきながら実に勝手なことだが、彼らが戦えないと分かると怒りだす者もいた。虐げようとするこの世界の人間に対して彼らは抵抗した』


「そっか……戦ったんだ」


 セシリアは視線を落としややうつむいてしまう。


『彼らはとても手先が起用でこの世界の人が知らない知識を沢山持っていた。

 そして何より想像力がとても豊かで、思い描いたことを形にすることの楽しさをみなに訴えた。我々は夢と希望を与える存在、遊ぶことに長ける遊び人だと宣言して、みんな一緒に遊ぼうよと、だから争いはやめようと訴え戦ったわけだ』


 聖剣シャルルの話しを聞いて、セシリアはくすくす笑う。


「戦ったって、そういう戦い方なんだ。面白いこと考えるのはさすが遊び人ってわけだね。じゃあ禁書とかも彼らがもたらしたってこと?」


『そうだな実際は伝えた技術の一部ではあるが、残っているということは沢山作られたということ。つまりはこっちの世界の人間も好きだったわけだな。

 そしてそれは人だけでなく魔族にも影響を与えた。全てではないが彼らのおかげで治まった争いもある。

 想像から遊びを作り出し、石や木、粘土を使って精密かつ想像豊かな書物や人形を生み出す彼らを遊びの天才と讃え称賛の意味を込め遊戯人(ゆうぎびと)と呼ぶようになったわけだ』


 自分の抱きしめている聖剣シャルルがどこか遠いところを見ている気がしてセシリアは黙って耳を傾ける。


『我に色をつけ、さまざまな萌えを伝え、そしてなにより男の娘の魅力をふんだんに語って教えてくれたのも遊戯人(ゆうぎびと)であり、我の前の持ち主と言うわけだ。

 まさかこうして男の娘に会えるなんて夢にも思ってなかったがな。実際に出会って男の娘がこんなにも魅力的なものだと感激して毎日が充実しておる。長生きはしてみるものだ』


 うんうん、と頷く感じの聖剣シャルルにセシリア大きなため息をつく。


「ったく、せっかくいい感じに話が進んでたのに意味の分からないこと言い出すんだから。でも前の持ち主がシャルルに大きな影響を与えて、今のこの状況にも大きく関わってるのは分かったよ。そしてシャルルにとって大切な人だってこともなんとなく伝わってきたよ」


『今の我を作ったと言っても過言ではないからな。さて、セシリアの可愛らしい微笑みをもらえたことだし、今日はこの辺りでやめようか。明日の朝は週末にあるお茶会の為の顔合わせの日だっただろ、もう遅いから早く寝た方がいい』


 聖剣シャルルに言われセシリアはベッドから外を見る。


「そうだね。もっと聞きたかったけど、明日も早いし寝ることにするよ。また続き聞かせてよ」


『うむ、早く寝て我にセシリアの寝顔を見せてくれ』


「ベッドの下で寝てもらおうか」


『ベッドのきしむ音……それはそれで妄想が捗る』


 セシリアは呆れた表情をしてため息をつくと黙ってテーブルの後ろに聖剣シャルルを立て掛ける。


『まて! ここでは何も見えんし音も聞こえづらいではないか。すまん我が悪かったからせめてもっと近くに置いてくれ!』


「グランツは椅子の上。アトラはどさくさに紛れて一緒に寝ようとしないの」


 セシリアは叫ぶ聖剣シャルルを無視し、枕元に座っていたグランツを抱え椅子の上に置き、さり気無くベッドに寝転がってセシリアに期待の視線を送るアトラを注意すると影に戻し横になる。


 セシリアは聖剣シャルルの話を思い出しながら目をつぶると、自分でも驚くほどあっさりと眠りへと落ちていくのだった。

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