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第48話 禁書を読まされて

「これが禁書!? 思ってたのと違う」


 思わず声を出してしまったセシリアをアメリーが不思議そうに見ている。


「どうかした? 禁書ってなに?」


「あ、いや、なんと言うか、こう降りて来たみたいな?」


「あぁ~なるほど神の啓示ってことね。突然くるとか、やっぱり聖女って大変なのね。体に負担とかないの?」


 セシリアが適当に誤魔化すとアメリーは納得して、続いて心配そうにセシリアの顔をのぞき込んで来る。


「だっ、大丈夫」


 アメリーの顔が近くて恥ずかしくなったセシリアは慌てて顔を逸らしてしまう。


『セシリアよ、もっとよく見たい。手に取ってくれるか』


 聖剣シャルルに言われ仕方なく禁書を手に取ったセシリアが、聖剣シャルルに見えるように表紙を傾ける。


『ふむ、これはやはり禁書で間違いない。もう何百年も前にほとんどが失われていたと思われたがここまで綺麗な状態で残っているとは驚きだ』


『わらわが見たのもここまで綺麗ではなかったのじゃ。ページも欠けておったしな』


 感心したように言う聖剣シャルルとアトラの補足が入る。表紙を見て読む気が失せたセシリアが禁書を手放そうとするが、その手を握ったアメリーが期待に満ちた目でセシリアを見ている。


「ねぇ、なんか降りてきたのならもしかしてこの文字読めたりする?」


「い、いや……」


『我は読めるぞ。さあセシリア、禁書を開くのだ。我が読んでくれよう』


 頭に響く聖剣シャルルの声と、期待の目で見つめてくるアメリーのプレッシャーに負けたセシリアは二人に向かって「分かったよ」と答える。


「大好きお兄ちゃん……」


 表紙にあるタイトルを読んだ時点でセシリアは読み始めたことを後悔する。だが文字を読んだことで、続きを期待するアメリーが目を輝かせ圧をかけてくる。

 仕方なく表紙を開くと表紙の女の子が背中に包丁を隠し持ち、男の人と向き合う絵があった。


「こほん、えーっと……

 ──お兄ちゃん誰と会ってたの? またあの女のところでしょ?

 ──ち、違うよ。

 ──うそ! あの女の匂いがするもの。かれえ? の匂いもする!」


 聖剣シャルルが読む声に続きセシリアも声を出すが、一ページ目でもう既に読みたくない。


 禁書と呼ばれる本には大きく絵が描かれ、その横辺りに小さくセリフだけが書かれており、地の文などはなく絵の動きとセリフで読むものらしいことは読んでいくうちになんとなく理解できたので、アメリーに絵が見えるようにしてセシリアは読んでいく。

 アメリーは興味深々でセシリアに密着して禁書を覗き込んでくるので、アメリーの感触を意識しないように淡々と読むことにする。


 そのせいもあって、段々と興奮気味になる聖剣シャルルの声とは反対に、セシリアは棒読みになっていく。


「──あの女じゃなくて私を見て。私に触れてよ……あの女よりも私の方が胸も大きいんだよ……」


 読んでるだけとはいえ、女の子の前で変なセリフを言わされるこの状況に耐えられなくなってきたセシリアが、震え始めた手でページをめくる。


「!?」


 セシリアは勢いよく禁書を閉じる。


「えっ、どうかした?」


「こ、これはダメ。ダメです」


 顔を真っ赤なにして首を横に振るセシリアを少し不満そうな表情で見るアメリーだったが、恥ずかしがって首を振り続けるセシリアを見て諦めたのか立ち上がると本棚をあさり始める。


『セシリアよ続きを読むのだ! そこからが大事なところだぞ。妹が兄に思いを伝えるため衣服という大きな壁を取り払い、何も隠さない純粋な姿でお互い心と体で触れ合うことでだな』


 聖剣なのにハアハア言いながら説明を始める聖剣シャルルの横でグランツがグワグワ鳴いている。


『これが禁書ですか。はー、へー。ふーん。あーそうなんですねー』


 あんまり興味ありませんけど。みたいな感じで翼で腕組みして顔を背けつつも目がチラチラと禁書を見ている。


『わらわもこの文字は読めんから絵から想像しておったが、この禁書は兄と妹の禁断の恋とか言うやつなのじゃの。ほほう、でここからは実際のやり方描かれておるわけじゃな。わらわの見たものより過激じゃな。ほうほうなるほどのぉ、男女の作法的なものが学べるのかえ。勉強になるのじゃぁ』


 対しアトラはセシリアの影を伸ばして禁書のページ持ち上げ、コッソリ覗いて関心したように呟いている。

「やめて」と影を手で摘まんで引っ張るセシリアの横にアメリーが勢いよく座る。


「これも拾ったんだけど、どれも絵しか書いてなくてなにが書いてあるか分からなかったけど、セシリアが読めるようになったから助かるわぁ。

 あ、そうそうこっちは男と男だし、こっちだと女と女同士の恋愛っぽいんだけど、どんな会話しているのか興味あったのよね」


 嬉しそうに言いながら薄い本を数冊手に持ってきたアメリーにセシリアは思わず後ずさりしてしまう。


「うっ、読むのに結構力使うから今日はこの辺で……」


「た、確かにあんまり顔色よくないわね。ごめんね無理言って」


「う、うん。大丈夫。それよりアメリーはこれをどこで拾ったの?」


「あ、やっぱりセシリアも興味あるんだ。一人で行っても場所分かんないでしょ? 今度一緒に探しに行ってみようよ。大丈夫内緒にしとく、だれにも言わないから」


 アメリーが満面の笑みで自分の唇を押えつつウインクする。


「ち、違うって! 拾いに行かないよ。啓示する人が禁書があった場所に古い施設があるかもっていってるんだけど」


 後でコッソリ落ちている禁書を探して拾いに行くと勘違いされ、慌てて否定するセシリアをアメリーはセシリアも好きだねと温かな目で見るばかりである。


「施設? 建物っぽいものは見当たらなかったけどなぁ。場所はね、王都内にあるコーアプの丘ってところなんだけど」


「王都内にあるんだ。意外と近いけどよくいままで誰も見つけなかったね」


「あそこはセラフィア教会の所有地で神聖な場所とされてるから一般の人は入れないもの。丘の上にある鐘を磨くのが私の仕事なんだけど、ちょっとサボろうかなぁって日頃行かない場所に行ったら落ちてたってわけ」


 サボっていることを悪びれもせずに言うアメリーに、セシリアはケッター牧師の日頃の苦労を感じて同情してしまう。


『我は他にも落ちていないか興味あるが、この禁書はいくらなんでも綺麗すぎる。もしかしたら異世界渡 (いせかいわた)りが行われた可能性がある』


異世界渡 (いせかいわた)り? なにそれ?」


『禁書を生むことができる伝説の人、遊戯人(ゆうぎびと)を呼び出す失われし技術だ』


遊戯人(ゆうぎびと)?」


 続けて出てくる聞きなれない言葉を聞き返したセシリアだが、聖剣シャルルとコソコソと話す会話の続きはアメリーの言葉で遮られる。


「ねえセシリア、今週末に一緒に謎の本を探しに行くのってどうかな? 予定ある?」


「今週末……あぁごめん。その日ピクニックに行く予定なんだ」


「ピクニック? 誰と?」


「貴族御令嬢たちと……『聖女とお茶会』とか言うイベントがあってね。一応主役だから出席しないといけないんだ」


「聖女も忙しいのね。残念だけどまた今度にしようか。入念に準備して行くほうがいっぱい拾えるかもしれないし」


 ため息をつきうなだれるセシリアを見て、心配そうに言うアメリーの優しさに癒やされるも、やっぱり禁書を拾いたい人扱いされていることにセシリアはもう一度ため息をつく。


「そうだ! 私たちも今度ピクニックしようよ。サンドイッチとか持っていって謎の本探すの。ねっ、よくない?」


 ピクニック行って禁書を探すなんてとんでもない企画だと思いながらも、頭のなかで三人が行きたいと声を上げるのでセシリアは渋々頷くのである。

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[一言] やはり禁書はウ・ス異本であったか…
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