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第47話 久しぶりの休息

 椅子に座るセシリアのもとに元気な足音が近づいてくる。


「セシリアお姉ちゃん、おまたせしました~」

「しましたぁ〜」


 パタパタと足音を立てやってきたのはセラフィア教会に住むペイネとソーヤの二人。


 お茶請けにと麦で作ったクッキーを皿にのせ、セシリアの前に置く。


「どーぞ召し上がれ!」

「召し上がれ!」


 ペイネの後に続き真似するソーヤが胸を張る姿を見てセシリアは微笑む。


「じゃあ遠慮なくいただこうかな」


 皿にのったクッキーを摘んで口に運ぶセシリアの手に合わせて動くペイネとソーヤの頭の動きに笑いそうになりながら、クッキーを口に入れる。


「おいしい! ん? クルミが入ってる?」


「さすがセシリアお姉ちゃん。こっちのはね牛乳が入ってるの食べて」


「へぇ~、こっちもおいしい。ペイネはお菓子作りがどんどん上手になるね」


 セシリアがペイネの頭を撫でると嬉しそうに照れる。その横で指をくわえるソーヤを見たセシリアが手招きをすると笑顔になって近付き、頭を撫でられると嬉しそうに目を細める。


「ソーヤも上手に出来たね」


「うん、わたしもコネコネしたんだよ!」


 ソーヤはセシリアに抱きつき喜ぶ。


「セシリア様のおかげで教会に寄付がなされ、食料や勉強の道具まで買えるようになりました。ありがとうございます」


 セシリアの前にお茶を置いたデイジーの表情は前よりも明るく見える。


「私はなにもしてないよ。寄付をしてるのはステファノ公だけど、でもデイジーが喜んでるなら私も嬉しいな」


「セシリア様は本当にすごいですよね、尊敬します。それに比べうちのアメ姉ときたら……ひいっ!?」


 小さく悲鳴を上げたデイジーの後ろには、いつの間にか立っていたアメリーが背中から抱きつく。


「デイジーちゃん私のこと呼んだかなぁ? なんか聞こえたんだけど」


「この際だから言わせてもらうけど、アメ姉はちょっといいからセシリア様を見習ってよ」


 アメリーの束縛から逃げ向き合ったデイジーが強めの口調で言うが、アメリーは人差し指を自分の唇に当てニンマリ笑みを浮かべる。


「ん~? 私もセシリアを見習ってまずは下着を買ってみて使ってるよ」


 ぶふっ!?


 アメリーの発言にセシリアがお茶を吹く。


「し、下着って……この間アメ姉が振り回してたヤツ」


「そそ、デイジーも興味深々だったじゃん。こんなのセシリア様が使ってるの!?

 って言ってガン見してさぁ、なかなか返してくれなかったし」


「あ、あれは、驚いただけで興味があるとかじゃなくて……」


 二人がセシリアを見る。


「セシリア、デイジーに言ってやってよ。あの下着使いやすいからオススメだって」


「あ、その……下着の話はやめよう。ほら、みんないるし」


 セシリアの言葉にデイジーは顔を赤くし、アメリーはとくに気にしてない様子でセシリアの隣の席に座る。


「じゃあ、じゃあ。今、(ちまた)で噂になってる聖女の恋愛模様について聞かせてよ! 王国騎士団のロック・マーケットと、冒険者のジョセフ・マードレ。さらにはメンデール王国のミミル王子、だれの求婚を受けるの?」


 ぶっー!!??


 セシリアが再びお茶を吹く。


「そ、それ私も興味あります」


 珍しく興奮した様子のデイジーがアメリーとは反対側の席に座りセシリアを挟む。


「だ、だれのも受けません。そもそも私は聖女として使命を果たすのが優先で結婚を考えているひまはないのです」


 抱きしめられて愛をささやかれたり、髪を撫でられたり、指輪をもらって欲しいと求婚されたことを思い出して、鳥肌の立った体を震わせながらセシリアが否定すると二人は残念そうな顔になる。


「そうですよね、セシリア様には聖女様としての使命があるのですから恋愛をしている暇なんてないですものね」


 デイジーは肩を落としうつむく。


「なんでデイジーがそんなに悲しそうなの?」


「い、いえ。ただちょっと気になっただけですから、うひゃ!?」


 いつの間にかデイジーの背後に回っていたアメリーが再び背中から抱きつく。


「この子ね、昔から強くてカッコイイ男の人に憧れてて、そんな人が迎えに来てくれないかなぁ〜って思ってるの。だからセシリアが羨ましいなあって」


「ちがっ、もうアメ姉! それは昔の話! そりゃあまあ、王都の五大冒険者二人に一国の王子に求婚されるなんてうらやましいといえばそうだけどさ……」


 ゴニョゴニョと言うデイジーに苦笑いしつつ、ふとセシリアの脳裏に疑問が過る。


「そう言えば、王都五大冒険者って、一位と二位、後五位の人って誰なの?」


「それはボクがお答えします!」


 セシリアたちの間に割って入ってきたのはオトカルとヒックに続きアランとラルの男の子四人組。ヒックの頭の上にはグランツが座りグワグワ鳴いている。

 そしてここを仕切るのは年長でありリーダー的ポジションのオトカルである。冒険者に憧れる彼は冒険者の知識もこのメンバーのなかでは一番なのだ。


「まず第一位は、猛炎(もうえん)のフェルナンド・ツァイラー。剣に炎を宿し戦う姿はすごくカッコイイんだ!

 で、二位が剣聖のグンナー ・ヴェルミリオ。めずらしい剣を使って目にも留まらぬ神速の剣筋で相手を一刀両断するんだよ。これがまたカッコイイんだ!

 三位はセシリア様も知ってる、流水のジョセフ・マードレ。流れるような剣技で相手の攻撃を受け流しつつ鋭い一刺しで相手を貫くのがカッコイイんだよ!

 四位もセシリア様が知ってる、穿孔(せんこう)のロック・マッケート! 彼の使う槍は全てを貫くって言われてるんだ。五大冒険者の中で唯一の騎士団所属の人だけど偉ぶらず、気さくな性格も人気なカッコイイ人だよ!

 最後の五位は双闘斧(そうとうふ)のニクラス ・ヴレトブラッド。五人の中で一番体が大きくてその体に負けないほど大きな戦闘用のハンマーアックスを二つも使うんだ! 豪快な戦い方は派手で人気も高くてカッコイイんだ!」


 セシリアは息もせずに一気に説明してくれたオトカルの話を聞きながら、ジョセフとロックの戦い方と二つ名を照らし合わせ納得する。


「ちなみに、フェルナンドとグンナーは大陸中を旅しながら活躍する冒険者で、ニクラスは王都から離れた山に住んでて木こりを兼業してるから普段はあまり見れないんだよ。でも今年の夏には五大冒険者を決める三年に一回ある王都武術大会が開催されるからみんな見れるはずだよ!

 あ、そうだ! セシリア様も参加したらどう? セシリア様なら五大冒険者になれるよ!」


「わ、私!? ムリムリ。世間じゃ色々言われてるけど本当に弱いんだよ」


 首を横に振りながら否定するセシリアを見てオトカルは残念そうな顔をする。


「オトカル、セシリア様を困らせてはダメでしょ」


 デイジーがオトカルに注意するのを見て、セシリアはさすがデイジーだと頷く。


「セシリア様は聖女様。守られるべき存在。多くの人の憧れでジョセフ様やロック様、更には一国の王子からも求婚される存在なの! 私がセシリア様の立場ならどうしていいか分からないのっ!」


 デイジーは両手で顔を覆い自分のことのように恥ずかしがりながら本気で悩み始める。


「あ〜デイジーもちょっとおかしい……」


 一番まともな人と思っていたデイジーが恋愛が絡むと少し暴走気味になることを知って、セシリアはちょっと困惑してしまう。


「ねえねえ、セシリア。今日こそ私の部屋に来てくれない? 一緒に読んで欲しい小説があるって言ってたじゃない。今日は暇で夕食も食べるって言ってたから時間あるでしょ?」


「あ、うぅ……うん。分かったよ、ちょっとだけなら」


「やった! 私、友達を部屋に呼んだことなんてないから嬉しいっ!」


 アメリーが手を叩いて喜ぶとセシリアの手を引っぱる。


 女の子の部屋に入るのに抵抗があるのもそうだが、アメリーは前々から恋愛小説的なものをセシリアと一緒に見たいと言っていたのでそれとなく断っていたのだ。

 だが、メンデール王国から帰って来てしばらくは休もうと考えたセシリアは、ヒックとソーヤの様子を見に教会に来て、今日は暇だから夕食も一緒にできると言ってしまった手前、アメリーの誘いを断る理由はなく無抵抗で部屋へと連れて行かれる。


「ちょーっと散らかってるけど、セシリアなら見られても問題ないから大丈夫」


 バツの悪そうな笑顔でアメリーが開けた部屋は、脱ぎっぱなしの服がベッドに投げてあり、机に適当に積まれた本が散乱している。

 脱ぎ捨てたのか、畳んでないだけかは分からないが下着が落ちている部屋を見て、全然大丈夫じゃないんだけどと思いながら、あまり見ないようにしつつ案内されたベッドの上に座る。


 本棚をゴソゴソしたアメリーがセシリアの隣に座ると、体を密着させ本を開いてセシリアに手渡す。その本の表紙は朽ちてボロボロになっており、中も文字がかすれてギリギリ読めるといった感じで保存状態はよくない。


 破れないようにとそっと手に取って、開かれたページに書いてある文字を目で追いページを進めていくセシリアだがその表情は苦悶に満ちている。


「あのさ、これってなに?」


「なにって恋愛小説よ」


「いや、まあ確かに恋愛だけど、こう男女イチャイチャするのが激しいというかそっちがメインというか……それによく分からない言葉が時々出てくるんだけど、カイシャに狩りに行ってシャイン一丸となって情報漏洩にいそしむってどういうこと? 後私とカイシャどっちが大事なの? とかよく意味が分からないんだけど」


「私もそこは分からないけど雰囲気で読んでるの。それよりもどう? 刺激的じゃない?」


 アメリーに同意を求められて、ただでさえ女の子の部屋にいるだけでも緊張するのに、男女の恋愛模様からの際どいシーン多めの小説を読んでどう反応していいのか困るセシリアがなにかコメントしようと、適当にパラパラとページを進めると最後に見慣れない文字が書いてあることに気が付く。


「この文字、なんて書いてあるの?」


「あぁそれ? 私も分かんないんだよね。そうそう、その文字しか書いてない本も持ってるんだけど興味ある?」


「この変わった文字だけの本があるの? そもそもこの小説はどこで買ったの?」


「買ってないわよ、拾ったの。今話した本も拾ったんだけど、これがまた変わってるのよ」


「え? 拾ったのこれ?」


 朽ちた恋愛小説を不思議そうに見ていたセシリアにアメリーが本を手渡す。その本はページが少なくそれゆえにやけに薄く、なによりも表紙に大きく絵が描いてあるのが特徴であった。


 その絵は薄着の女の子がちょっぴり上目遣いで色っぽっくこっちを見てて、タイトルと思わしき場所に先ほどの見たことのない文字が書かれている。


「なんだコレ?」


『それは禁書!?』

『のじゃ!?』


 その表紙を見てドン引き気味のセシリアの頭のなかで聖剣シャルルとアトラが同時に叫ぶ。

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