第43話 魅力はやっぱり聖女が上なわけで
上半身が女性で下半身が蛇の魔族はセシリアを下から上まで見るとニタァっとねっとりとした笑みを浮かべる。
「あははははっ、やっぱり改めて見ても田舎臭いちんちくりんな娘じゃないか。わらわに魅力がないと申すか?」
そう言いいながらミミル王子の足から腰に蛇の体を這わせ、顔をミミル王子の頬に擦り寄せると、長い舌をチロチロと出しながらミミル王子の首を撫でる。
「この王子さまはわらわの魅力に骨抜きなわけじゃ。小娘、お主にできるのかえ?」
ふふんっと小馬鹿にしたように笑うと、セシリアをチラチラ見ながらミミル王子の耳元で甘い声で囁く。
「あの小娘がわらわをいじめるのじゃ。その剣であの醜い顔を切り裂いて欲しいのじゃ、愛しのわらわの王子様お願いなのじゃ」
そう言って魔族がセシリアに顔を向けた瞬間、いつの間にか魔族の前にセシリアがいて聖剣シャルルを振りかざしミミル王子の首に向かってフルスイングする。
魔族もいきなりのことに、したり顔から一変、顔を強張らせ驚きの表情を浮かべてしまう。
「ごめんなさいっ!」
セシリアが謝りながら鞘に納められたままの聖剣シャルルでミミル王子の首をとらえ吹き飛ばす。
「ぬわっんじゃと!? おぬし何をする!? 一国の王子に向かって剣を振るうとか正気か!」
吹き飛ばされたミミル王子の傍で慌てふためく魔族と、王子の取り巻きのメンデール王国の兵士たちだが、セシリアは聖剣シャルルを勢いよく地面に叩きつけ大きな音を立てるとみなの注目を集める。
「あなたは男を惑わし人を喰らう魔族ラミアですね。メンデール王国の兵士のみなさん慌てることはありません。ラミアに魅了された者の目を覚まさせるには聖剣による打撃が一番効果的なのです!」
聖女セシリアの宣言にメンデール王国の兵士たちは床でぴくぴくとけいれんする王子を見つつも、聖女が言うならそうなのかもと思いひとまず落ち着きを見せる。
だが、セシリアの宣言は嘘である。セシリアは魔族ラミアを睨んだまま、口をあまり動かさずに聖剣シャルルに話し掛ける。
「ちょっと、これどうするのさ」
『バレる前にこやつを倒せばよかろう。変に王子に暴れられるよりも気絶させた方が我らも動きやすい。それに見ろ、ラミア自身もそうなのか? って顔してるから大丈夫だ』
コソコソと話すセシリアが聖剣シャルルの言葉を聞いて魔族ラミアを見ると、確かにオロオロしていてセシリアや兵士たちよりもミミル王子の様態を心配しているように見える。
「聖女セシリアとか言っておったのぉ。わらわも知らぬ魅了の解除術を知っているようだが調子に乗るでないぞ」
魔族ラミアはキッと睨むとヘビの体を艶めかしく動かしセシリアの前に立つ。
「わらわの力の前におぬしは泣きながら謝ることになるのじゃ!」
そう言い放った魔族ラミアは目をぎゅっとつぶり手をグッと握ると、水に濡れた犬のごとく体をブルブル震わせる。
体を震わせると蛇の部分の鱗がはがれ落ち工場内に飛び散る。キラキラと光る飛び散る鱗の攻撃をみなはそれぞれにガードしたり物陰に身を隠し避ける。
一番近くにいたセシリアもグランツの力によって生えた翼で鱗をガードする。
『思った以上に攻撃力がありません。おそらくこれはスキルの発動を意味するものかと』
グランツの声が頭に響くと同時に魔族ラミアが不敵な笑みを浮かべ、握っていた右手の手のひらを上向きにして開く。
「わらわの魅力に落ちるがいいのじゃ」
不敵な笑みと共に開いた右手の指を子指から一本ずつ折り畳み、再び握ると辺りに散った鱗が小刻みに震え始める。
それと同時に周囲の兵士たちや工場の作業員たちが頭を抱え苦しそうに唸りながら膝をついてしまう。
「あはははっ、わらわのスキル『魅了』によってコヤツらはわらわの可愛い下僕になったのじゃ。そっちのイケメン二人は抗っておるようじゃが落ちるのは時間の問題なのじゃ」
ジョセフとロックは膝を付き胸元を押さえ苦悶の表情を浮かべている。額に汗を掻きながら必死に何かに耐える二人の周りで膝をついていた兵士たちがゆらりと立ち上がり、一斉にセシリアの方を向く。
その顔は血の気がなく、瞳に光がない生気のない表情をしていた。
「どうじゃ聖女よ。おぬしの聖剣があろうともこの人数を相手に出来るか? 無理であろう? あははは!」
嬉しそうに笑うと長い舌をチロチロと出し入れしながらセシリアに不敵な笑みを向ける。
「さあてどうしてくれようか。この男たちに襲わせ辱めを受けさせてくれようか。小娘が泣きながらわらわに許しを請う姿を見てからなぶり殺してくれようか。あぁ~考えただけでもゾクゾクするのじゃ」
両頬を押さえ顔を赤らめながら良からぬ妄想に酔いしれる魔族ラミアにセシリアは思わず後退る。
「ど、どうすればいい?」
ジリジリと寄ってくる男たちに後退りしながらセシリアが慌てて聖剣シャルルに問いかける。
『屈強な男にセシリアが可愛いがられるか……ちょっと見てみたい気もするな』
『ですね。私も興味があるような……』
「真面目に考えてもらえるかな? 私より先にキミらを投げて屈強な男に可愛いがってもらってもいいんだよ」
『も、もちろん冗談だぞ』
「本当にぃ?」
セシリアが聖剣シャルルを地面にベシベシ叩きつけながら低い声で圧を掛ける。
『本当だとも。なあグランツよ』
『え、ええ先輩の言う通りです』
慌てて言葉を並べる二人にセシリアは圧をかけ続ける。
『それよりもセシリアよ。なぜセシリアに魅了が掛かってないか気にならないか?』
聖剣シャルルの問にセシリアは自分の体を見ると、胸元に王妃が刺してくれたラーヘンデルの花がボンヤリ紫の光を放っていることに気がつく。
『まず第一にセシリアは我とグランツとの契約により魔族の放つ精神系の技に耐性がある。そしてその花、ラーヘンデルは魔除けと安らぎの花。魅了から守ってくれたわけだ』
セシリアは胸元に刺さっていたラーヘンデルを手に取る。
『つまりその花を使えば魅了から完全開放とはいかんかもしれんが、効果を和らげ安らぎを与え眠らせることは出来るであろうぞ』
聖剣シャルルの言葉にセシリアは小さく頷きラーヘンデルをそっと握ると、自分のスキル『広域化』を使用する。
元々紫の光を放っていたラーヘンデルはセシリアのスキルによって、更に濃い紫色を放ち周囲を優しい光で包む。
「な、なんなのじゃこれは!?」
突然工場内を包む紫の光に魔族ラミアは目を手で覆い隠しながら叫ぶ。
セシリアに向かってジリジリと詰め寄っていた兵士たちや作業員は、ラーヘンデルの放つ光に当てられると糸が切れたように倒れてしまう。
だが倒れた兵士や作業の顔は血の気が戻っており、静かに寝息を立てている。
「小娘、おぬし何をした。まさかわらわのスキルを打ち消したというのか!」
セシリアは紫の光に輝く聖剣シャルルを抜き、背中の翼を大きく広げ剣先を魔族ラミアに向ける。
「私の方が……み、魅力が上ってことです」
恥ずかしそうに言うセシリアの言葉を受け膝をついていたジョセフとロックが共に立ち上がり武器を構える。
「そういうことです。貴方は本当の魅力を知らないようですね」
「姫の前で醜態を晒したこと後悔させてやるからな。覚悟しろよ」
「ひっ!?」
殺気立つ二人と、煌々と輝く聖剣シャルルを持ったセシリアに囲まれ、魔族ラミアは涙目になるのである。