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第4話 さんてぃーけーっ!

 セシリアの手を握り、性別『女』に丸を付けたメランダが突然立ち上がり書類を掲げると、勢いで倒れた椅子の音も相成って周りの注目を集める。


「遂に! 遂にこのギルドにも女の子の冒険者が来たわ!! ただでさえ『辛い』『疲れる』『楽しくない』ついでに『可愛くない!』3TK(さんてぃーけっ!)とか言われてて、人気のない冒険者になる女の子は少ないっ! それゆえ女の子がいるギルドは(うるお)うと言われているのよ! 私たちのギルドに天使が舞い降りたわ!」


 誰かに向かって説明するように喋り始めるメランダの言葉に、周りの冒険者たちの視線は自ずとセシリアへと向く。


 目をパチパチさせるセシリアに向けられる視線は、好奇の目から好意の目へと変わる。

 無論そんなことなどセシリアに感じる余裕はなく、男の視線を集め気持ち悪いと身を縮めるのである。


「恥ずかしがってる」

「可愛い」

「名前はなんていうんだろう?」


 ひそひそと話す声にセシリアは聞こえないふりをして視線を逸らすが、その行動がまた可愛いと声が大きくなる。


 (この場から逃げ出したい!!)


 そう思いモジモジするほどセシリアの思いとは逆に、周りの可愛いの声は大きくなり泥沼にはまっていくのだ。


 もうどうしていいか分からず泣きそうになるセシリアを救ったのは、ドアが勢いよく開く音と息を切らしながら入ってくる男の存在だった。


「たっ、大変だ!! シュトラウスの群れが南側からこっちに向かって来ているぞ! 南門は補修中で片方の扉が閉まらねえんだ! このままだと町の中をシュトラウスどもが駆け抜けて甚大な被害が出ちまう!」


 急いでいるのに丁寧に現状を説明してくれる男のもとにギルド内にいた男たちが何事かと入口に集まり始める。そんな状況を見てジョセフがメランダヘ話し掛ける。


「町のピンチなわけだ。ここは『緊急クエスト』としてギルドから依頼を立ち上げてもらえないかな?」


 無駄に歯を光らせ笑みを浮かべる、ジョセフの言葉を受けメランダがゆっくりと頷く。それと同時にギルドの2階にあるドアが勢いよく開き、白髪で顎ヒゲを貯えた紳士的オーラを(にじ)ませた初老の男が出てくる。


 踊り場に出た初老の男は下の階にいる冒険者たちを一目見渡すと声高らかに宣言する。


「ギルドマスターの名において緊急クエストを発動する! 報酬は討伐数に準ずる! ただし、市民と町に被害を出さないことが最優先だ! 当たり前のことが守れぬ者は報酬はないものと思え!! まあ、そんな薄情なヤツはここにはいないだろうがな」


 ギルドマスターの問いかけに男たちはそんなの当たり前だと笑みを浮かべる。


「皆さん! セシリアちゃんのギルド登録の記念すべき日です。彼女の為にも町をお願いします!」


「「「「おおおっ!!」」」」


 メランダが立ち上がり訴えると男たちは拳を上げ吠えて答える。


「ほら、セシリアちゃんも一言なにか言ってあげて」


「え、ええっ! えとっあの、頑張って……くださいっ!」


 メランダに腕を突っつかれ、皆の注目を浴び勢いに押されたのと恥ずかしい気持ちが混ざったなかセシリアが言った何でもない言葉は男たちのハートに火を付ける。


「「「うおおおおおっ!!!」」」


 低い唸り声は重低音を生み、建物を空気ごと振動させた男たちは扉をぶち破らんばかりの勢いで外へと飛び出していく。

 流れについて行けず目を大きく見開き、パチパチと瞬きをするセシリアの後ろではメランダが満足そうに頷いている。


「いいわ、いいわ。セシリアちゃん効果がもう出てるわ!」


「さてと、私もセシリアの冒険者デビューの記念日に華を添える為に頑張るとしようか」


 ジョセフが透かした笑みを浮かべながら、背中を向けたまま手を上げセシリアに向かって挨拶をしてギルドを後にする。


「さっ、セシリアちゃんも行こっか」


「行く?」


 冒険者たちとジョセフの背中を見送ったまま、(くう)を見つめていたセシリアの背中をメランダ突っつく。


「どこって応援よ。セシリアちゃんが行ってあげて応援すれば皆やる気出して頑張ってくれるって」


「そ、そんなこと」


「ある、ある。皆セシリアちゃんのデビューだって意気込んでる訳だし、顔出すだけでもしてあげて」


 戦闘力も低い自分が顔を出して、何が変わるって言うのだろうかと想像もつかないセシリアだが、皆が自分の為に行ってると言われた手前行かないと悪い気がしてシュトラウスの群れが出たと言われる町の南側へと足を運ぶ。


 町には来たばかりで地理には(うと)いが、喧騒(けんそう)の激しい方に向かえば、戦いの場へと容易(たやす)くたどり着くことが出来た。


 今朝セシリアが出会ったシュトラウスと同じ個体で、一体ずつだと大したことはないが数が増えるとそれなりに脅威を増す。次々とやってくるシュトラウスに思わぬ反撃を受け傷を負う者も出てくる。


「いててっ……ドジっちまったぜ」


 一人の冒険者が右手を押えながら門の内側に帰ってくる。手を押える布がじんわりと赤く染まっているのを見てセシリアは息をのむ。


 自分が「頑張って」と声を掛け勢いよく出発した冒険者の一人が怪我をしたことに心がチクリと痛み、腰に装備している小さなポシェット思わずをギュッと握ってしまう。

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