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第36話 魔族の倒し方

 ジョセフの使用するレイピアは刺突(しとつ)用の剣であり、その名が示す通り突き刺すことに特化した武器である。

 細い刀身は刃がなく切ることが出来ず、折れやすいことから護身用または決闘で使わることが多い。そんな戦場にはあまり向かない剣を使うのはジョセフのスキルが大きく関わっている。


 彼の持つスキルは『潤滑(じゅんかつ)』手に持つ武器の摩擦を下げることができる。これによりジョセフは相手の攻撃を刀身でいなし剣先で突き刺す戦法を取るのにレイピアとの相性がいいのである。


 しなやかに、ときに鋭く突くレイピアの攻撃に合わせ、別の冒険者たちが左右から剣を振るうそれをヘルベルトはマントで受けつつレイピアを紙一重で避けてみせる。

 その場で一回転しマントを(ひるがえ)し左右の冒険者を吹き飛ばすと、ジョセフの剣を避け後ろにいた盾を持った兵士を盾ごと蹴り後ろへと吹き飛ばす。


 ジョセフのレイピアによる連続突きを避けつつ長く伸びた爪を振り上げると、ジョセフの肩当の一部が切断されてしまう。


「獣のような戦い方、荒々しくも油断なりませんね」


「今さら褒めても逃がさんぞ。人数が多くて一瞬焦ったが油断ならないのはお前と……」


 そう言ってヘルベルトがセシリアの方を見るがその姿がないことに目を見開く。


「「うおおおっ!!」」


 目で動かしセシリアを探すヘルベルトに兵士たちが盾を構えたまま突進してくる。それらをマントを(ひるがえ)し払ったところで別の方から冒険者たちが剣を振り上げ向かって来るのがヘルベルトの視界に入る。

 目をそちらに向けた瞬間、先に吹き飛ばされて宙を浮いている兵士たちの隙間から紫の光が漏れる。


「しっ、しまった!?」


 兵士の隙間から弧を描く紫の光をヘルベルトが腕で受け止めるが、腕は深く切り裂かれ青い血が散る。


『斬り損ねた! こやつギリギリで避けおった』


 聖剣シャルルの声が頭に響くなか、腕を押えるヘルベルトに睨まれて目を丸くして怯えるセシリアの瞳に閃光が走る。


 ジョセフの放った渾身の突きがヘルベルトの胸に突き立てられる。


 その光景にみなが決着がついたと、ヘルベルトが倒れ勝敗が決まる瞬間を待ち静まり返る。


「なるほど、これは……」


 静寂のなかジョセフが呟いたと同時にレイピアの先端がパキっと小さく音を立て床に落ちる。


「くっくっくっく、はっはっはっはぁ! なるほどな念のため警戒していたが、お前ら俺ら魔族と戦ったことないな! これなら恐れるべきは聖女の持つ剣のみだ!!」


 高笑いをしながらヘルベルトは切れた腕を押さえつけると傷は消えさり、手を握ったり開いたりして動きを確かめると冒険者と兵士の振るう剣を素手で受け止め力に任せ引っ張り床に叩きつける。


「人数だけ集めたところで役に立たずどもの烏合の衆よ!」


「さて、それはどうかな? 我らが姫の攻撃が有効なのが分かったのならやるべきことが明確になっただけ。そうは思わないかい?」


 折れたレイピアをヘルベルトの腕に突き立てたジョセフが兵士が投げたバックラーと呼ばれる円状の盾を受け取る。


「お前のレイピアじゃ俺には刺さらないぞ。まして折れた武器で何をする」


「どうせ刺さらないんだ。先端がない方が割り切って使えるってものだよ」


 ヘルベルトが振るう爪をバックラーでジョセフが受け流す。


「滑るだと!?」


 攻撃を勢いよく流され態勢を大きく崩すヘルベルトの肩をセシリアの振るう聖剣シャルルが切り裂く。ヘルベルトが肩を押さえセシリアの方を向くがカバーに入った兵士たちの盾がセシリアを隠す。


「ちっ、お前ら邪魔だ!」


 兵士を蹴って吹き飛ばすと、マントを広げ飛び上がり上からセシリアを探すが冒険者と兵士が一斉に盾を上に構えセシリアを隠す。


「こいつら自分の役目を割り切ってやがる。だがな、セシリアお前の剣は一つ大きな欠点がある」


 盾の隙間から漏れる紫の光の場所をヘルベルトが蹴り、盾を持つ兵士を吹き飛ばすと、聖剣シャルルを持つセシリアと目があう。


 慌てて走り出すセシリアとそれを隠すために別の兵士たちがカバーに入る。


「逃げたって無駄だ。さ~て次はどこかなぁっと」


 マントを広げ宙に浮くヘルベルトがニヤニヤしながら盾の隙間から漏れる紫の光を目で追う。光が止まった瞬間狙って空中から落下しながら蹴りを放つ。

 吹き飛ばされた兵士たちの間からふよふよと紫に光る玉が現れる。


「なんだこれは?」


 紫の玉が現れた瞬間、兵士たちの隠す盾の隙間のあちこちから紫の光が漏れ、シャボン玉のような玉が漂う。


 傷を治療する効果のあるポンポン草をセシリアスキル『広域化』で広げ、聖剣シャルルの魔力が乗っかたものがこの玉の正体となる。

 聖剣シャルルの魔力が乗ったところで効能事態に変化はないが、やや広がる範囲が大きくなったのと紫色に発光するようになった。


 一斉に弾ける紫の玉がもたらす効果は擦り傷、かすり傷癒すこと。だがセシリアが使うことで本来はない効果を発揮する。


「きたきたぁ! これで勝てる!」

「うおぉぉぉっ!」


 冒険者たちが叫び一斉にヘルベルトに襲いかかる。先ほどまで簡単に吹き飛ばされていた冒険者たちが攻撃に耐えヘルベルトに突っ込んで行く。


 その様子に兵士たちも自分の体を見ながら呟く。


「なんか体が熱くないか?」

「ああ、これが聖女セシリア様のスキル」

「たしか神域化(こういきか)だったか。傷を癒し、勇気と力を与え勝利に導いてくれるまさにセシリア様らしいスキル」


 どんどんスキルの効能が増えているがセシリア自身、もうどうにでもなれ程度に思っており突っ込まない。


 冒険者たちに続き兵士たちも突撃して挙げ句、やや焦った様子のヘルベルトが、


「な、なんだこいつら。先ほどまで力が段違いだ」


 なんて言えばみんなもう調子に乗って少々吹き飛ばされようがお構い無しに力任せにヘルベルトを押し込んでいく。

 彼らの思いは一つ。自分たちが切ったり刺したりできないならやらなくていい。とどめの一撃は姫が放ってくれるのだから動きさえ封じればいい! である。


 ヘルベルトはそれなりに長い時を生きて来た魔族である。命のやり取りをする緊迫の戦いも多く経験したが、こうも全員が一人の為に動くことがあっただろうかと、誰か一人くらいは自分が功績を上げてやろうと動くものなのに、こいつらは一体何者なんだと長い人生の中でもトップ(スリー)に入るくらい動揺する。


 マント広げつつ回転し周囲の冒険者や兵士を押しやると、ジョセフの折れたレイピアの先端がヘルベルトの目の前に迫る。

 それを上半身を反らしつつ蹴りで反撃するとバックラーで蹴りを流され大きくバランスを崩す。


「お前ほどの実力があっても裏方に徹するかぁ!!」


「言ったはず。最後を決めるのは姫の一振りだということを」


 爽やかに言ってのけるジョセフを睨むヘルベルトの肩に聖剣シャルルの先端が食い込むとそのまま振り下ろされる。


 物理の法則を無視しているのではないかと言われても仕方ないほどに勢いよく吹き飛んだヘルベルトが壁に衝突しめり込み、建物には大きなヒビが入る。


「ぐはっ!? 剣を光らせてたのはフェイクってわけか」


 ヘルベルトが口から血を吐きながら聖剣シャルルを構えるセシリアを恨めしそうに見る。


「シャルル、あの人まだ喋れるんだけど」


『魔族を切れるかどうかは魔力のぶつかり合いを制するかどうかだ。コヤツ思った以上に魔力が強くてしぶといぞ』


「ちっ、ここまでダメージをもらうとはな。流石に体の維持がままならん……」


 埋まった壁から這い出て歩こうとするが大きくよろけたヘルベルトが、踏ん張るために右足を踏み出した瞬間マントを羽のように広げ床スレスレを滑空すると、セシリアやジョセフと全く関係ない一人の兵士に向かって爪を伸ばす。


 ガチンッ!!


 一瞬の動きに反応したのは聖剣シャルルだが、そのシャルルをヘルベルトが口で受け止める。


『こやつ、これを狙って!』


 青い血を吐きながら噛んだ聖剣シャルルを引っ張りセシリアの手から引き抜くと投げ捨てる。そしてセシリアの肩を掴んで抱き寄せると首元に噛みつく。

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