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第29話 「みんなとクエスト楽しいです」は国を潤す

 前日雨が降っていたせいで少しぬかるんだ地面を蹴って、セシリアが駆ける。


「もう少し左に追い込んで!」


 男性の声で、セシリアは獲物の右側に回りつつ聖剣シャルルを両手に持ち構える。


 その気配を察したのか、セシリアの目の前を走る猪型の魔物ウーリンは土埃を上げながら左へと進行方向を変えていく。


 対しセシリアはその素早い方向転換に置いていかれ、慌てて転けそうになりながら方向転換をするとウーリンの背を追う。


 してやったりと走るウーリンが茂みに飛び込んで逃げ切ろうとしたとき、茂みの中から鉄の大きな盾が現れウーリンはアタマから衝突して気絶してしまう。


 息を切らせ走ってきたセシリアが肩で息をしながらウーリンを見下ろすと、茂みの中から盾を持った体格のいい男が一人と、木の上から細身の男が下りてきて手を叩きながらセシリアを称賛する。


「セシリア様お見事です! 足がお速いんですね」


「お疲れ様ですセシリア様」


「い、いえ……私は走っただけですから……」


 額の汗を拭うセシリアがニッコリと微笑むと男たちは頬を少し赤くして幸せそうな笑みを浮かべる。


「テイクさんの言った通り、ウーリンって左へ逃げるんですね」


「別名を左旋回のスペシャリストとか言われているんですよ。回転し敵をまきつつときに後ろへ回り込んで突進するなんて攻撃もあって、追っていたはずなのに気付いたら突然攻撃されるなんてこともあるんです」


 テイクと呼ばれた細身の男が自慢気に知識を披露していると体格いい男が押し退けてセシリアの前に出る。


「セシリア様、ウーリンの毛見てください」


 言われる通りウーリンの毛皮に目を向けると体格のいい男が毛を撫でる。


「ウーリンは狭いところでもスピードを落とさず走れる特徴があります。セシリア様お気づきになりますか?」


 そう言いながら男はわざとらしくウーリンの毛を生える方とは逆に手を流し、皮の手袋を引っ掛け撫で辛そうにする。


「う~ん、毛の向きですか?」


 男が手を叩き、セシリアに称賛を示すとウーリンの毛を摘まんで説明を始める。


「そうです! この硬い毛は身を守る鎧の役目ともう一つ、狭い藪の中で障害物を受け流す役目があるのです。つまり……」


 説明の途中で溜め作って、セシリアの視線が自分に向いているのを感じて誇らしげに最後のセリフを言おうとしたとき、テイクがスッと前に出て鞘に納められた剣をウーリンの毛並みとは逆に這わせる。


「ウーリンを斬るときは毛の生え向きとは逆に斬る。突進をかわしてからの後方からの斬撃が基本だな」


「テイク、お前に聞いてねえ、答えるな!」


「ガオスの説明長えんだよ!」


 いがみ合う二人を置いてセシリアはウーリンの毛を撫でる。


 (すごく硬い。身を守るだけでなく受け流す役割もある。それに左に曲がる性質、どちらも生きる為の彼らの武器で脅威(きょうい)だけど、だからこそ自分たちの攻略方法もある。

 うん、経験者の人たちと一緒に討伐に行けたのは大きい! やっぱり冒険者って凄いや!)


 ウーリンを撫でるためしゃがんでいたセシリアが立ち上がって、まだ文句を言い合っているテイクとガオスの方を向く。


「テイクさん、ガオスさん色々教えてくれてありがとうございます。お二人とも詳しいんですね」


 セシリアが笑顔を見せれば、二人には天使に微笑まれたのも同然で争うのもやめお互い抱き合い至福の微笑みを返す。


「おっと、ウーリンの美味しい食べ方、お教えしましょう!」


「お、俺もオススメの食べ方お教えしますよ!」


「本当ですか!! 楽しみです!」


 セシリアが喜ぶ姿に、天にも昇る気持ちの二人はいそいそと料理の準備を始める。そんな様子を離れた場所から見るのは別の冒険者たち。テイクとライズがセシリア様に失礼をはたらかないか監視すると言う名目で覗いているのである。


「くぅぅぅ、なんであいつらだけセシリア様と一緒にぃっ!」


 このとき血の涙を流しそうにしながら悔しがる者も多くいたが、その後セシリアがチームを組まず様々な冒険者とクエストに行くことが分かると自分たちの番が来ることを楽しみに待つようになる。


 セシリアと一緒に行くと、冒険者の知識、魔物の攻略法など質問してくるのでこれらに答えれるように、そして何より教えたときに天使の微笑みで喜ぶセシリアが見たくて冒険者たちがこぞって勉強を始める。

 そのことがもたらすのは、冒険者全体の知識によるレベルアップ。魔物討伐達成率の上昇、採取品の品質向上により国全体を潤すこととなる。


 さらに現場で集めらた情報、知識はギルドと魔物を研究する国の機関に集められアイガイオン王国は他国を凌駕する知識の宝庫として発展していく。

 ここから数百年にもわたりアイガイオン王国が『知識の泉』と呼ばれ反映する(いしずえ)の一つとして聖女セシリアの存在があったりする。


 そんなつもりは微塵もないセシリアは純粋に冒険者たちの知識と経験に感動して、もっと知りたくて質問し話を聞いているだけなのだが、男たちのセシリアへのアピール合戦は戦闘面、学問ともに飛躍的に向上させ国の発展に貢献することになるのである。



 ***



 ギルドのドアを開けて入ってくるのは鉄製のフルプレートで全身を覆った兵を左右に従える、グレーに赤のラインが特徴的な鎧を着る黒髪の男。

 冒険者ギルドは国との関係は深いが、独立した機関であり騎士団が入ってくるのはないことではないが珍しいと言える。まして騎士団長を務める者が直々にくるのはさらに珍しい。


「メランダちゃん、クエスト依頼の手続きしたんだけどいいかな?」


「国からの依頼ですか? 珍しいですね?」


 受付に片肘を付きメランダに話し掛けたロックは書類を差し出す。


「本来この案件は俺らの仕事だろうけど、うちの王がどうしてもっていうわけさ」


 軽い口調で言うロックにメランダが書類を受け取りながらクスっと笑う。


「王様が直々と言うことは、セシリアちゃん絡みですか?」


「察しが良くて助かる。最近クエスト達成数を急激に伸ばしてる聖女様名指しでの依頼ってわけだ。ってのは建前で動向が気になって仕方ないんだろ。なんてたって聖剣を長き眠りから起こした聖女様だからな」


 書類に目を通していたメランダが目を止め少し不安そうな表情でロックを見る。


「このクエストは危なくないんですか?」


「魔物の生態変化の原因と思われるアントンの巣の破壊だから、まだ小さいとはいえそれなりに危険ではあるけど、俺が行くから問題ないさ」


「ロックさんが行くのなら、セシリアちゃんも安心ですね。では手続きしますね」


 拳を上げ、力こぶを作る恰好でアピールするロックを見てメランダは微笑み、手続きの準備を始める。


『アントンの巣破壊依頼』と書かれた書類とロックが記入したクエスト依頼の書類をメランダが事務の女性に渡し手続きは始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 疑問に答えた冒険者に対して、凄くキラキラした目で感謝してるのが目に見える様だ。 分かる、こういう子には良いカッコしたいよね。わかりみが深い
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