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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
エピローグ

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第265話 聖女は海を渡る ~前篇~

 鞄の中に荷物を詰め込むと小綺麗に片付いた部屋を見渡したセシリアは、少し寂しそうな表情をする。


「ここでの生活も長かったから、やっぱり寂しいね」


 セシリアが呟くと、影からアトラが出てきてベッドに座る。


「やっと帰って来たと思ったらすごく忙しくて、ほとんどここにおれんかったのじゃからの。この二日間は久しぶりにゆっくりとできたのじゃ」


 アトラがベッドの上で跳ねると、先に座っていたグランツが揺れながらくちばしを開ける。


『セシリア様、再び旅に出ることになりますが私、グランツはこれまで通りお仕えすることを宣言いたします』


『かったいなあ』


『硬いのじゃ』


 きまったとくちばしの端を上げて、ニヤリと笑ったグランツにシャルルとアトラがツッコむ。くちばしをパクパクさせショックを受けるグランツの後ろでカタカタと聖剣シャルルが音を鳴らす。


『セシリアよ、いよいよ出発の日だ。いくら聖女セシリアの名が海を越え広まっているとはいえ、本人を見たことのない人々は一目見てセシリアとは分からないであろう。それは即ち過酷さを意味する。だが安心しろ、我がどんな困難でも払いのけてみせよう。ゆえに我の胸にドーンと飛び込んで、ぎゅ~ってしても良し。スリスリしても良し! 称賛の言葉よりも愛の言葉なんてふふっ……言ってくれても良いのだふふふ』


 はじめこそ渋い声で話していた聖剣シャルルだが、途中から興奮したのか早口になり変な笑い声を漏らし、カチャンカチャン刀身を鳴らす変な剣を冷めた目で見ていたセシリアの手をアトラがそっと握る。


「セシリア、わらわと一緒に森の中へ愛の逃避行してもいいのじゃぞ」


「う、うーん。森の中はちょっと……」


 セシリアが返事に困っていると突然部屋のドアが勢いよく開いて、ラベリが飛び込んで来る。事前に察知したグランツによってアトラは影に戻り、セシリアは何事もなかったかのように飛び込んで来るラベリを受け止める。


「セシリアさまぁ~本当に行っちゃうんですかぁ。ここに住んでくれてもいいのにぃ。なんでしたらこの宿を潰してセシリア様のお屋敷にしてしまってもかまいませんよぉ。あ、お屋敷の土地が足らないならこの辺り一帯に住む人たちを立ち退かせましょう。みんな喜んで立ち退きますよ」


「さりげなく物騒なこと言うね……そんなことはしないよ」


 胸でぐすぐすと泣くラベリの肩をポンポンと叩いたセシリアを、ラベリが涙目で見上げる。


「私が、もっと……セシリア様に言い寄ってくる男どもを跳ね除ければ……ぐすっ、セシリア様も困らなかった……のにぐすっ。私が権力に屈しなければ……うぅ、こ、こうなったら今から刺し違えてでも!」


「い、いや、やめてくれるかな。何回も言ってるけど別に結婚が嫌で旅に出るんじゃないんだよ。私にはまだやらなきゃいけないことがあるんだ」


 ラベリの肩を持ったまま、セシリアが優しく語りかける。


「はじめは魔王を討伐することでサトゥルノ大陸に平和を取り戻すこと、それが私の使命だと思っていたんだ。だけどドルテとの戦いを経て気づいたんだ。私はもっと多くの人や魔族と関わってこの世界のことを知らないといけないって」


「ぐすっ……セ、セシリア様は……聖女だから……ずびっ、仕方ないけど、でも……うぅ」


 下を向いてぐすぐすと泣くラベリが腕で目を乱暴に擦ると、泣いて赤く腫れた目でセシリアを見つめる。


「私待ってますから。ちゃんとこのお部屋を掃除して待ってますから。だから、だからここへ帰ってきてくださいよぉぉぉ」


 言っている途中で我慢できなくなったのか、ラベリは再び涙を流し始める。


「ちゃんと帰ってくるから安心して」


「う、ううっ、うん。はい、信じてます」


 無理矢理笑顔を作って見上げるラベリにたじたじになるセシリアは、そのまま抱きつくラベリに戸惑いつつ宥める。


「私はここでお見送りします。極秘とはいえお見送りに来ている人も多いでしょうし、こうやって特別なお見送りができるのは私だけの特権ですから!」


 そう言って再び抱きつくラベリにセシリアは困りつつも優しく微笑む。


「それじゃあ、ちょっと行ってくるね」


「はい、お気をつけて!」


 元気よく返事をしたラベリに頷いたセシリアは、聖剣シャルルを抱きグランツと影を連れ部屋をあとにする。

 宿の窓から手を振り続けるラベリの姿が見えなくなったところで、セシリアは大きなため息をつく。


「もともとは婚約とかしたくないから旅に出ようって理由なんだけど、そんな理由で旅に出れるわけもないからそれっぽい理由をつけたわけだけど、ラベリの姿みたら罪悪感が半端ない……」


 項垂れて地面に落ちたセシリアの視界に人影がさす。顔を上げたセシリアが少しだけ目を大きく開き驚きの表情を見せると、ゆっくりと口を開く。


「ミルコさん、もう体の方は大丈夫なんですか?」


 セシリアの問いかけにミルコは右腕に力を入れはち切れんばかりの筋肉を見せ応える。


「え、えぇ……っと大丈夫そうでなによりです。それでは私はいくべき場所がありますので」


 ミルコの横を横切ろうとするセシリアの腕をミルコが掴む。


「セシリア……お前」


 ミルコの話し方にハッと目を見開いたセシリアがミルコを見る。


「ミルコ、もしかして記憶が戻った?」


「魔王の闇から解放されたとき、ふっとな」


「良かったぁ! すごく心配したんだよ」


 ぱあっと嬉しそうに笑顔を向けるセシリアを、抱きしめようとするミルコが聖剣シャルルの魔力に弾かれ吹き飛ぶ。


「いや、ミルコ。記憶戻ったんだよね? その行為の意図が分からないんだけど」


 尻餅をついたミルコに警戒心マックスで見下ろすセシリアに対しミルコがふっと笑う。


「セシリア、やっぱりお前女だったんだな」


「いや、普通に考えて違うだろ。村で普通に過ごしてきて、どこをどうしたらそうなるんだ?」


「ふっ、聖女として覚醒するまで敵に知られるわけにはいかない。ゆえに村では男として育てていたのだろうが、俺には分かっていた」


「おーい、変な設定を勝ってに作るのやめてくれないかな」


 セシリアの呼びかけに対してふっふっふと笑いながら立ち上がったミルコは手を差し出す。


「ミルコ・アドフォース、セシリアの盾として未来永劫守ることを誓う。世界を救う旅へ同行させてもらう」


 決め顔で宣言するミルコを呆れた顔で見ていたセシリアだが、ふっと笑みを見せる。


「お断りします」


「えっ⁉ なぜ!!」


 断られないと思っていたのか驚くミルコにセシリアは、笑顔で応える。


「まだ完全に記憶が戻ってないようですね。もっと大切なことがあったと思うんですけど」


 ふふっと笑うセシリアの笑顔と思わせぶりな言葉にミルコは腕を組んで首を傾げる。


「大切なこと?」


「ええ、とても」


 そう言っていたずらっぽく笑ったセシリアは、首をひねるミルコを置いて足早に去って行く。


 ミルコが追ってきていないことを確信したところでセシリアは呟く。


「やっぱ逃げよう」

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