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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
聖女セシリア

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第264話 聖女の願い

 アイガイオン王国の広場にて各国の王や女王をはじめ、要人たちが勢揃いする中この日のために作られた演説台に立つドルテに皆の注目が集まる。


「聖女であるセシリア様をはじめ多くの人の助けを得て、わたくしはこの場に立つことができました。感謝の気持ちと、これからの明るい未来への期待を込め今、わたくしたち魔族は我々の国であるフォルータの建国することをここに宣言いたします」


 ドルテの建国宣言を受け会場が拍手に包まれる。ドルテが一歩下がったところで代わって現れたセシリアの登場に広場にいるものだけでなく、遠くから見ている者たちからも歓声が上がる。

 それらに少し恥ずかしそうに反応しながら演説台の前に立ったセシリアは、やや緊張した面持ちで目の前にいる顔ぶれを見て一旦つぶった目をそっと開くと、ゆっくりと口を開く。


「約300年ほど前、魔族と人間は争いそしてこの度また争うことになりました。ですが、300年前とは違い私たちは確執を持って仲たがいするのではなく、こうして手を取り合い共に共存の道を切り開くことができました」


 微笑むセシリアの優しさを受け、話を聞く者たちの表情も自然と緩む。


「全ての種族の協力を得て魔族の故郷を発見することができ、かつての国と同じ名前であるフォルータを再び建国できたこと、これは全ての者たちの協力があってこそ実現したことだと思います。同じ方向へ皆が向かえたことを嬉しく思います」


 一旦言葉を切り微笑んでいた表情を引き締めたセシリアの紫の瞳に映る王、女王をはじめ要人たちや群衆が緊張した面持ちで続く言葉を待つ。


「ただ、人間と魔族をはじめ今後の関係の構築、行き先を不安に思う方もいらっしゃるのも事実だと思います。そこで魔族の皆さんには友好な人間との関係を構築することはもちろん、このサトゥルノ大陸全体を守護することをお願いしたいと思います」


 セシリアの発言の内容を知っている者たちは表情を引き締め、初めて聞いた者たちは驚きの表情を見せる。

 そんな反応を全て紫色の瞳に映しながらセシリアは言葉を続ける。


「生まれつき持っている力を変えることはできません。ですから人間の皆さんは知ってください、魔族はとても強い力をもっていること。そして仲間を思うとても優しい気持ちをもっていることを。強い力を恐れつつもその力が正しく使えているのか、見守りときに頼りつつも、間違っているときには声をかけてください」


 セシリアは優しく微笑みながら、語りかけるように言葉を紡いでいく。


「魔族の皆さんは自分たちの持つ力が他人を傷つける可能性があることを、そしてその力は他人を救い守ることができることを知ってください。強大な力は自信を与えますが同時におごりをもたらせます。力を使用するとき、その使い道が本当に正しいのか考えられる冷静さを持ってください。それが力ある者の責任です」


 セシリアの言葉を聞いたドルテたち魔族が表情を引き締める。


「そしてここからは私から皆さんへのお願いであり、宿題でもあります。皆さんの優しさを受け聖女と呼ばれる私の言葉に耳を傾けてくれますが、私も人間ですから永遠にいるわけではありません。そのときも今の気持ちを皆が持っていられるように家族、友人、仕事仲間と今日という日を語り、お互いが思いやる気持ちを持って接してください。一つ一つは小さくても重ねれば大きな優しさとなり世界を包んでくれるはずです」


 言葉を切ったセシリアが微笑みながら見渡すと、小さく息を吸って言葉と共に吐き出す。


「魔族の国、フォルータの建国を共に喜び、良き隣人とお互いがなれるように切磋琢磨していきましょう」


 セシリアの宣言に割れんばかりの拍手が上がる。それを見たセシリアはホッと小さく安堵のため息をつくと、まだ鳴りやまない拍手を受けながらセシリアは演説台をあとにする。


「お疲れ様です」


 会場の裏でラベリが冷たい水を持ってきてくれ、お礼を言ったセシリアは美味しそうに水を飲む。


「セシリア様らしいとても素敵な演説でした」


「そう言ってもらえると前日の晩まで頭を悩ませた甲斐があるよ。これでやっと肩の荷が下りたよ。あとは各国が話し合って調整を進めてもらえればいいかな。私の役目は大体終わりかなぁ」


 セシリアが腕を上げ伸びをする。


「じゃあ、本格的に婚姻についての話し合いを進めないといけませんね」


「え?」


 伸びをしたままセシリアが目を丸くする。


「セシリア様、聖女としての役目を終えるまで誰からの好意も受け取れないとか言ったんですよね。じゃあ、役目を終えたら本格化するのは自然な流れです。連日セシリア様に会わせてほしいとの申し出であふれてて、私とカメリア、ファラは毎日てんてこ舞いです」


「うっ……ちょ、ちょっと待って! まだある気がする。聖女としてやらなきゃいけないことが、あっ! もしかしてあれがそうなんじゃ……」


 足早にその場を去って行こうとするセシリアの後ろをラベリも早歩きで追いかける。抱きかかえる聖剣シャルルに視線を落としたセシリアが、揺さぶりながら話しかける。


「ねえシャルル、なんかこの場を切り抜ける方法ない? 結婚とか勘弁してほしいんだけど」


『うむぅ、ないな』


「本当に考えてる? 絶対に今の状況を楽しんでるでしょ」


 即答するシャルルに文句を言うセシリアの肩にグランツが飛び乗る。


『セシリア様、やはりここは旅にでるしかありません』


 フランツの言葉に合わせるように影が這い、セシリアの右手に巻きつく。


『わらわと一緒に逃げるのじゃ。愛の逃避行ってやつなのじゃ』


「て、適当に理由をつけて逃げるしか方法はないのかぁ……」


 先ほど人々に宣言をした聖女と同一人物と思えないほど悶絶しながらセシリアは足早に会場をあとにする。

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