第251話 精鋭たちの苦悩
ピエトラが翼を広げ足を上げて向かって来るメッルウに蹴りを放つ。それを空中で避けたメッルウが掌に生み出した炎を投げつける。
ピエトラの背の上で短剣を抜いたリュイがその場で一回転しながら、刀身をピエトラの翼に擦りつけながら炎に向かって振り抜く。
短剣が当たった瞬間、炎が砕ける。
「あたしの炎を砕く剣だと!?」
驚くメッルウ目掛け、ピエトラが石化した翼を真横に振り抜いたのを真下へ降り避けたメッルウが地面に足をつけ、そのまま炎の剣でリュイの短剣を受け止める。
「なるほど、剣を石化してコカトリスの魔力を付与したわけか」
メッルウが自分の炎の剣を受け止める、リュイの短剣を見て険しい表情で煩わしそうに言う。
「あ、あなたをここで止めてみせます」
「聖女でもないただの小娘が大口を叩く」
言葉を交わし終えた二人が同時に剣を引くと、両手に炎の剣に持ち変えたメッルウの斬撃を、リュイが短剣で受け流しながら蹴りを入れる。
蹴り自体に威力はなく、メッルウを蹴った勢いで跳んで距離を取ったリュイに代わり、ピエトラが翼を大きく広げ蹴りを放つ。
続けて翼を振りながら連続で攻撃してくるピエトラと、メッルウの剣がぶつかる。
「コカトリスがこんな厄介な魔物だとはな。初めに懐柔すべき相手だった」
『お前、あっちこっちで魔物を操ってたヤツ。だよね? だよね?』
「操るとは失礼な! あたしはかつて人間どもによって住処を追われた魔物に力を貸していただけだ」
ピエトラの石化した足とメッルウの炎の剣が激しくぶつかり、派手に火の粉が散る。
『戻りたいと思っているヤツもいるとは思うよ。うん、でも今が当たり前のヤツもいるんだねこれが。そう、そう、それにお前、魔物を追いやったのが人間だけとか思っているのが、嫌いだね。うん、嫌い。お前たち魔族も同じことしたくせに』
ピエトラの言葉にメッルウ目が大きく開くと、その隙を見逃さずピエトラはメッルウの腕を足で掴み、そのまま振り上げると地面目掛け振り下ろす。
激しく叩きつけられバウンドしたメッルウは、すぐに翼を羽ばたかせ起き上がる。胸を押え苦しそうな表情でピエトラを睨むメッルウだが、すぐに自分目掛け飛んでくる膨大な矢の存在に気がつく。
ピエトラが石化した翼をパンパンと叩き、大きく広げるとコケェーっと一鳴きする。
その瞬間メッルウ目掛け飛んできた矢が全て石化し襲い掛かる。
「ちっ!」
舌打ちをしたメッルウが自身の体を炎に包むと炎の渦が巻き、飛んでくる石の矢を弾きながらメッルウは炎の鎧を身にまとう。
炎の盾と剣を生み出し矢を全て払ったメッルウは、追撃してきたリュイの攻撃を受け止める。
リュイの振るう石化した短剣をメッルウが炎の盾と剣とが激しくぶつかり合う中、ピエトラが石化した翼を振り下ろし参戦する。ピエトラが振るう翼をリュイとメッルウがぶつけ合っていた互いの剣同士を押して慌てて離れる。
地面に叩きつけた翼をそのまま振り回すピエトラの攻撃をメッルウは盾で受け流して、右手に持っていた剣から炎の弾を撃つ。
『剣なのに飛び道具とか卑怯! 卑怯だ!』
炎をまともに受け体についた火を消すため、転がりながら文句を言うピエトラを嘲笑うメッルウはリュイに向かって炎の弾を放つ。
だが、飛んでくる炎の弾をリュイは、腕に装備しているバックラーを振ってかき消す。
「盾が特殊なのか、スキルが関係してるってところか。面倒くさいったらありゃしないね」
「あ、あなたの攻撃は効きません」
強気に断言するリュイだが、自分とピエトラの周囲を囲む混合軍を横目で見て唇を僅かに噛む。
(指揮に入ってとは言ったものの、うまく使えない……)
弓を中心に武器を構えている混合軍だが、中心で戦うリュイとピエトラにどう参戦していいか戸惑っている様子に、弱気になってしまうリュイだが、短剣を握り直すとメッルウを睨む。
(セシリア様が到着するまでやるしかない)
決意を新たに地面スレスレを飛んで迫りくるメッルウを向かえる。
***
クリールに乗ったペティは手で魔力を編みながら叫ぶ。
「あぁ~‼ 右の隊いけぇ! そんで、後方の隊は左から回り込め!」
混合軍の一部隊が指示通りオルダーに対し右方向から攻めるが、オルダーの一振りで起きた暴風にあえなく吹き飛ばされてしまう。さらには回り込むため移動する隊目掛け、放たれた斬撃に目的地到達前に潰される。
「……大声で叫んでどうする。動きが筒抜けだ」
「ぐっ、セ、セシリアだってよく指示を叫んでるだろ」
「……あれは、相手を追い込みギリギリのタイミングで指示を出すから、相手も反応できないのだと思うが」
オルダーに指摘され歯ぎしりをして、悔しさを露わにするペティだが、口角を上げると同時に手に持っていた編み込んだ魔力の球を投げる。
「……」
オルダーは無言で剣を振るい斬撃で、魔力の球を地面に叩きつける。だがペティの表情に悔しさや驚きはなく、むしろニヤリと笑みを浮かべている。それはむしろ勝利の確信といってもいいほど自信に満ちた表情。
「……」
「……あれ?」
投げたままのポーズでドヤ顔だったペティに焦りが見え始める。少し離れた位置でザブンヌと戦闘中のウーファーの方へ顔を向けたペティが手を振る。
ペティをチラッと見たウーファーが不思議そうな顔をするが、口をパクパクしてなにかを必死に訴えるペティを見て『あっ』と小さく呟き口をもごもごさせると、ペッと水の塊をオルダー目掛け放つ。
巨大な水の塊ではあるが、バレバレな行動にオルダーは飛んでくるより先に歩き出していて悠々と避けてしまう。
「やるな!」
「……褒められても嬉しくないな」
悔しがるペティに呆れた声を出すオルダーが剣先を向ける。
「……エルフに恨みはないが、人間側につくのであれば敵。斬らせてもらう」
向けられた剣先の鋭い輝きに、思わず喉を鳴らして唾を飲み込むペティを庇うように二人の男が立つ。
「あ、あんたらは⁉」
驚くペティに振り返ってキラリと歯を輝かせ笑みを見せるジョセフと、槍を構えるロックが口を開く。
「セシリア様から急ぎ来るように言われた。俺らに任せな!」
ロックの言葉を聞いたペティが周囲を見回すと、ザブンヌと戦うミルコとニクラスの姿があり、メッルウの前にはフェルナンドとグンナーがいた。
「おぉ⁉ 強者の風格を感じるぜ! やれる気がする!」
思わぬ援軍の登場に興奮するペティ。混合軍も有名な五大冒険者を見て士気が上がる。
そんな中、オルダーの剣が振るい発生した暴風で吹き飛ばされたジョセフとロックが、ペティを飛び越して飛んでいく。
「え……」
突然の出来事に目が点になったペティが、自分の後ろに吹き飛ばされた二人の方を振り向く。
「やりますね。さすが三天皇です」
「へへっ、そうこなくっちゃな」
よろよろと立ち上がる二人を見てペティは思わず声を上げる。
「ほ、本当に大丈夫なんだよな? な?」
ペティの心配をよそに、先ほどの攻撃でわりと傷だらけになったジョセフとロックは再び武器を構える。




