第249話 ファンクラブ精鋭部隊
ピエトラとウーファーの攻撃とドルテと三天皇の攻撃が激しくぶつかる。巨大な力がぶつかり合い、相殺されずに行き場を失った力はグレジルの町を破壊していく。
今や綺麗な町並みの面影はなく、もしもここに人がいたら、犠牲は計り知れないものになっていたであろうことは、誰の目から見ても明らかである。
『このぉ〜! くらぇーったら、くらえ!』
ピエトラが大きく振りかぶった足で地面を蹴り、その衝撃で抉れた地面から飛ぶ土を石に変え散弾のごとく周囲にまき散らす。
飛び散る岩にメッルウの放った炎がぶつかり砕け、砂塵が巻きあがる中を頭を振って攻撃するウーファーを魔王の鎧とザブンヌが受け止めドルテが魔剣を振り抜く。
横っ面を攻撃されるが踏みとどまって反撃をするウーファーと、足で掴んだ岩をメッルウ目掛け投げようとするピエトラの間の空間に亀裂が入ったかと思うと、暴風が吹き荒れ二体は反撃を潰される。
「ナイスだオルダー!」
メッルウが指を鳴らし周囲に炎を生み出すと、オルダーが生み出した虚空へ向かった戻る空気に炎を乗せる。
炎と共に引き寄せられるピエトラとウーファーが炎に巻かれる。
『あちちちっ! ヘビ、ちゃんとやれ!』
『あー、むかつくぅー。うるさーい、トリやろー』
体をぶつけ合って互いに文句を言い、険悪な空気を作るピエトラとウーファー。そんな二体と、ドルテたちの近くに人間の軍が次々と集まってくるが、魔族と魔物戦いにどう介入していいか戸惑ってしまう。
まして、セシリアから手伝ってほしいと言われた魔物が、険悪な空気を醸し出していることでさらに困惑してしまう。
「人間たちが集まってきていますね。セシリアお姉様が来るのも近いといったところでしょうか」
自分たちの周囲に続々と現れる混合軍に、ドルテはセシリアの存在を感じ顔をしかめる。
「やはりここはあたしが各地へ行き、戦況をかき回した方がよろしいのでは━━」
「いえ、このままここにいてください。フレイムドラゴンが来ます」
メッルウが提案を言い終える前にドルテは言葉を遮ると、空を見上げる。地上を覆う黒い影は降りると、背中からリュイとペティが飛び降りてくる。
地上に足をつけるなりペティがピエトラとウーファーを指さす。
「そこの二人! 仲間割れしている場合じゃねえだろ!」
いきなり現れて怒るペティにピエトラとウーファーが不快感を露わにする。
『あ、お前見たことあるね。あるよ、ある。えーと、エルフの……誰だっけ? ま、いいいや。それよりもなんで偉そう? そう偉そうだ!』
『ほんとー、エルフがーわーしに文句言うー資格なーし』
内心ビクビクしているのを悟られまいと、額に滲む汗を拭わず、キッと鋭く睨むペティが言葉を続ける。
『聖女セシリアファンクラブの五号と六号のピエトラとウーファー! あたいらは会員の規律を監視し正すセシリア精鋭部隊のペティとリュイだ! つまりお前たちよりも立場は上なんだぜ』
「え、えっと……そう、です!」
ペティの宣言にピエトラとウーファーが目を丸くする。
『そんな偉い人なんだ。びっくり! うん、びっくり』
『あー、わしー知らなかったのー。すいませーん』
「お、おう。分かればいいんだ。分かればよ」
素直に謝る二体に腕を組み虚勢を張ったまま頷くペティの横では、リュイがオロオロと挙動不審に辺りを見回している。そして、自分たちを遠巻きに見ている兵士たちを見つけると、手にしたメガホーを向ける。
「あ、あのー、今からセシリア様が到着するまで、私たちと共に戦ってもらいます……のでよろしくお願いします。えっとピエトラさんとウーファーさん、フォスさんも私たちの指示に従ってもらうことになります」
リュイの言葉に顔を見合わせて困惑する混合軍たちだが、多くの者が聖女セシリアの両隣にいたリュイとペティを見て知っていたこと、そしてなによりコカトリスとバジリスクを諫めなおかつフレイムドラゴンへ指示をしていることで指揮下へ入る流れとなる。
ピエトラの背中に飛び乗るリュイと、クリールに乗ってウーファーを引き連れるペティとの大きく分けた二つの軍ができあがる。それを黙って見せるため、ドルテたちの前に立ち塞がるフォスが口を開く。
「さてと、人間どもの準備もできたようだ。魔王よ、前回の続きといこじゃないか」
「セシリアお姉様は援軍を防ぐため後方の陣形を整えているといったところでしょうか。抜かりがない……本当に油断のならない人です」
ドルテが魔剣タルタロスを一振りしてふふっと笑う。
「どのみち、全て払わなければわたくしたちの進むべき道はないのです。メッルウさん、オルダーさん、ザブンヌさん。いきましょうか」
ドルテの振るう魔剣とフォスの爪がぶつかったのを皮切りに、戦いの幕が切って落とされる。




