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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
聖女セシリア

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第238話 あっちが二つならこっちは沢山

 影に包まれ炎を防いだセシリアは影を振りほどき、近くの木に影を絡めてしがみつくと、吹き返しの風に耐える。


『セシリア様、メッルウの魔力が大きくなっています。注意を!』


 グランツの声に警戒するセシリアが吹き返しの風が終わり影を戻した瞬間に、炎の弾が高速で飛んでくる。

 セシリアがギリギリで避けたときには、次に飛んできた炎の弾が眼下に迫ってきていた。聖剣の腹で受け止めたセシリアだったが、衝撃で大きくよろけてしまう。


 さらに飛んでくる炎の弾を影が弾くが、炎の弾は更に加速して休む間もなく襲いかかってくる。


『速い上に重いのじゃ』


 炎の弾の勢いに振られるアトラの声を聞きながら、セシリアが弾こうと振るった聖剣の方が勢いに押され思わず聖剣を落としてしまう。


「しまった⁉」


 水しぶきを上げ落ちた聖剣シャルルに目を落としたセシリア目掛け、放たれた炎の弾の存在に気づき顔を上げ、瞳に炎を映したセシリアが固まってしまう。


 次の瞬間、セシリアの前に立ったリュイが盾で炎の弾を弾き、かき消してしまう。


「はぁ、はぁ、上手くいった……」


 息を切らしながらセシリアの前に立つリュイが、大きく息を吐くと次に飛んできた炎の弾を弾きかき消す。


「セシリア様! このまま行きます!」


 背中を向けたまま声をかけるリュイに頷いたセシリアは、影が拾ってくれた聖剣シャルルを手に取る。


 飛んでくる炎の弾をかき消すリュイを先頭にして、セシリアは進む。


「すごいよ! 『受け流し』使えるようになったんだ」


「チリッとしたら発動でこの炎の弾は消せますけど、他の分はタイミングが分かりません。一定のスピードで飛んでくるものなら、体でタイミングを覚えればいけそうですけど、緩急をつけられると多分ダメです」


 答えながら飛んできた炎の弾をかき消した、リュイ目掛け振り下ろされるオルダーの剣をセシリアが受け止める。


「なるほど、よく分かった。飛んでくる炎の弾は任せたよ。リュイ頼りにしてる」


「は、はい! 任せてください!」


 セシリアに声をかけられたリュイは頬を赤くし、興奮気味に返事をして盾を構える。


 高速で振られるオルダーの剣を、セシリアが受け止めつつ、牽制で飛んでくる炎の弾をリュイがかき消す。背と背を合わせた二人が、それぞれの攻撃を受けながら立ち位置を回転させ、リュイがオルダーの正面に立つ。


 その行動に疑問を持ちつつも、オルダーは躊躇することなく剣を真横に振る。セシリアの足もとから伸びた二本の影がオルダーの剣を受け止めると、踏ん張るオルダーの足下をリュイがすり抜ける。


 そして踏ん張る前足ではなく、膝を伸ばしている後ろ足の関節を踏みつけ跳躍したリュイに、重心を崩されたオルダー目掛け、回転しながら放つセシリアの一撃をメッルウの剣が受け止める。


 メッルウ目掛けリュイが放った矢を、オルダーが斬り落とす。その隙にオルダーの足に影が巻き付き引っ張る。こけそうになるオルダーをメッルウが背中で支えつつ、セシリアの聖剣を受け止める。


 そこへ水しぶきを上げながら走ってくるワイキュル、クリールに乗ったペティが魔力の球を投げる。腕に引っ付いた魔力の球を燃やし消し去るメッルウがペティを睨む。


「粘着女が、ベトベトとうっとうしい!」


 セシリアの聖剣を剣で、リュイの短剣を素手で受け止めたオルダーから離れ空中に飛んだメッルウが、背後に炎の弾を生み出し次々とペティ目掛け発射する。


 爆発する中を、姿勢を低くしたクリールが素早く避けていく。その上でペティが指を立て手を組み指を回す。


「粘着女とか腹立つ呼び方するんじゃねえ!」


「大した力もない者が文句を言う資格はないね!」


 メッルウが炎の弓に矢をつがえ放つ。着弾する瞬間にクリールが真上に跳ね、丸くなった背中を蹴ったペティが空中で魔力の球を投げる。


「バカの一つ覚えが! 近距離で投げても当たるわけがないだろう!」


「っせえ! それしかできないんだから仕方ねえだろうが!」


 ペティが投げた魔力の球をメッルウが頭をずらし避け、弓を引き狙いを定める。だが、狙われたはずのペティがニヤリと笑うと同時に、メッルウの避けた魔力の球が後方で開き、大きな網を形成する。背後に違和感を感じたメッルウが弓を引いていたまま目を見開く。


 大きく広がった網はまさに蜘蛛の巣のようで、それが頭上から覆いかぶさりメッルウの翼に絡みつき、メッルウは空中でバランスを崩してしまう。その姿を横にペティはクリールの手綱を持ち地上へと急降下する。


 派手に水しぶきを上げ着地しそのまま走り始めるクリールのあとに、落下しながら炎をまとい網を燃やして消したメッルウが水面に着地した瞬間、メッルウの足を中心に水面が破れ網が張り出してくるとメッルウを下から包む。


「エノアさんとファラに殺されるんじゃないかってくらいに編み物指導された、あたいの努力の結晶なわけよ。雑魚は雑魚なりに進化するってこった!」


 網に絡まってコケるメッルウを見てニンマリと笑ったペティが、すぐさま真剣な顔をして、クリールの背に中腰で立つと、歯を食いしばり後ろへ飛び下りる。


 クリールが尻尾をピンと伸ばし、それをペティが掴むと同時に飛んできたセシリアがペティを抱きしめ着地する。


 ペティを立たせたセシリアが、ペティとクリールの間に伸びた糸を聖剣で巻き取って絡めると、向かって来たオルダーの剣を受け止める。セシリアの背後でペティが投げた魔力の球を、オルダーの背後にいるリュイがキャッチし短剣にまとわせオルダーの背を斬る。


 リュイの攻撃では傷一つ入らないが、オルダーの背から伸びた糸がついた短剣を握り締めリュイが構える。セシリアがオルダーの剣を弾くと、糸のついた聖剣と短剣を握った二人が同時に斬りかかる。


 先ほど同じく聖剣を剣で、短剣を素手で受け止めたオルダーだが、二人がそれぞれの剣を引くと間に糸が伸びる。

 間髪入れず斬りかかる二人の連撃が重なる度、そしてペティから糸を伸ばすクリールが走り回る度に濃くなっていく糸に、オルダーの動きは鈍くなってしまう。


「……くっ、厄介なことを」


 糸が絡み動きが鈍くなるオルダーにリュイが攻撃を続け、セシリアが魔力を溜め始める。


『セシリア様!』


 グランツの鋭い警告に背後から飛んでくるものに気づいたセシリアは、溜めるのを止め身を翻しながら、影を伸ばしリュイを掴むとオルダーから引き離す。

 その瞬間オルダーに炎の鞭がからみ引っ張る。空中で炎に包まれながら糸をちぎったオルダーがひざまずきながら着地する。


「……すまない。助かった」


「どういたしましてだ。聖女はもちろんだが、この二人思ったより厄介だ」


 メッルウが自分の肩についていた糸を握り燃やすと、目の前に並んだセシリアたち三人を睨む。


「……それに囲まれたようだ。そろそろ引き際だ」


 オルダーの言葉にメッルウが辺りを見回すと、自分たちを囲む混合軍たちがいることに気づく。


「ちっ、やられっぱなしってのは気に食わないけど、仕方ないね」


 メッルウが翼を広げオルダーを掴むと、回転しながら炎を周囲に放ちそのまま上空へと飛んでいく。


「三天皇が二人で奇襲とは厄介なことしてきますね」


 見えなくなったメッルウたちから視線をセシリアに向けたリュイが声をかける。


「ここに来たのが二人だけってのが気になる。今回の奇襲は私たちを狙ったというよりも、分断が目的だった……」


 セシリアが考え込むとペティがセシリアの背中を叩く。


「ピエトラがサポートに回っているから分断した軍は無事だろうよ。どっちかっていうと、あたいらの本体が削られていってるから、合流か進軍かを決めないとな」


 ペティの言葉を受けたセシリアが真っ直ぐ前を見る。


「進軍します。おそらく私がべンティスカへ向かわないと自体が大きく進展しないでしょうから、相手の罠の可能性があったとしても進軍あるのみです。皆さんには苦労をかけますがよろしくお願いいたします」


 セシリアの言葉に、リュイとペティは大きく頷き、混合軍も切れのある返事をして応える。

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