第236話 すれ違う幼馴染み
セシリア率いる軍がボノム城を駆け抜け、ブルイヤーとの国境沿いに入る。浅い川の中を馬に乗って水しぶきを上げ走る。
「敵襲!!」
鋭い声が響くと馬の上げる水しぶきとは別に川から現れたリザードマン数人と川を囲む獣人たちと、混合軍がぶつかる。
水しぶきを上げながらあちこちで戦闘が繰り広げられる中、ラファーに乗ったセシリアが混戦の間を駆け抜けリザードマンたちを無力化していく。
陸上ではリュイが攻撃をいなし、よろけた獣人にペティが粘着力を付与した魔力の球を顔面に投げつけ視界を奪って無力化していく。
リュイが獣人の鋭い爪を受けながしたとき、大きな影がリュイを覆う。
「あぶね!」
ペティのワイキュルがリュイをくわえて影から逃げると、大きな影が放った腕が持っていた爪が地面を抉る。
リュイとペティが並んで向かう相手は、トラ型の魔物、コッレレに乗った獣人の少女ララム。
「人間! ミモルをどこへやったのだもん!」
指をリュイたちにさして睨むララムの前にミモルが立つ。
「ミモル……人間と一緒にいるって本当だったもんね……」
「ララム聞いて、私は、聖女とっ!?」
喋っている途中のミモルに向かって鋭い爪が振り下ろされ、跳ねて避けたミモルがララムを睨む。
「最後まで話を聞いてよ」
「うるさい! ララムは凄く心配してたのに、なんでミモルは人間と一緒にいて、味方してるんだもん! 許さないもん!」
「昔から人の話を聞かない子だったけど、今日ほど腹が立つ日はないんだけど」
睨み合った二人が同時に踏み切り、コッレレの爪を避けたミモルがコッレレの腕を掴み、そこを軸にして回転する。腕を捻じられまいとミモルと一緒にコッレレも回転し、空中で互いに離れ地面に足をつけた瞬間、飛び掛かるコッレレとスライディングして地面を滑るミモルが上下ですれ違う。
地面に爪を立て急ブレーキをかけたミモルとコッレレが、それぞれ逆の円を描きながら距離を詰めると、コッレレの振るった腕をバク転で避け宙に浮いたミモルがコッレレの頭に蹴りを入れる。
衝撃で頭が縦に大きく揺れるコッレレだが、歯をむき出しにして衝撃に耐えると空中で体を捻りながらミモルの足を押し切って後ろ足で蹴りを入れる。
吹き飛ぶミモルが地面を転がりながら受け身を取り体を起こした瞬間、コッレレの太い腕が両肩を押さえミモルを地面に叩きつける。
「ミモル! なんで魔王様を裏切って聖女の味方するんだもん!」
「だっ、だから味方とかじゃなくて、あのときあの場を治めるためには聖女と共に私がいくことが一番の方法だったから……」
「うそだぁ! はじめっからミモルは聖女のところへ行くつもりだったんだもん!」
コッレレに両肩を押えられて、身動きがとれないミモルにララムが泣きじゃくりながら声を荒げる。
「な、なにを根拠に」
「フォティア火山で聖女にお礼を言いにいくとか、ミモルらしくないって思ってたもん! それに皆ミモルが裏切ったって、最初から裏切るつもりでチャンスを狙っていたって噂してるもん!」
「私だってお礼くらい言うって……の。それに周りの噂って、もう少し幼馴染みのこと信じてくれてもいいじゃん」
「ララムだって違うって、違うって皆に言ったもん! でもミモルは仲間を傷つけたんだもん! だからララムも裏切る気だろう? って皆に言われて、違うって……」
泣きじゃくるララムにミモルは目を細める。
「あぁ……私が浅はかだったわ。ララムに辛い思いさせてしまったね……ごめん」
「いまさら謝ったって遅いんだもん! それにミモル、その服なんなんだもん? 人間みたいな格好して!」
戦闘を行うためにシンプルかつ、ミモルがもと着ていた服に寄せて仕立てられているが、獣人の着る服とはあからさまに違う服装にララムが怒りをあらわにする。
「捨てるんだもん、そんな服!」
「……それは無理」
ミモルの返事に泣き顔のままララムが犬歯を見せ唸り怒りを露わにする。
「本当は魔族も人間も同じ。でも魔族の力を恐れる人間と、人間の群れを恐れる魔族のすれ違いがこの現状を起こしているだけで、ちゃんと話し合えば争う必要はなくなる……くっ!!」
語りかけるミモルの肩にコッレレが体重をかけ押さえつけると、ミモルが苦悶の表情を浮かべる。
「やっぱりミモルは人間の味方なんだもん。話し合えば分かる? 同じ魔族で、同じ獣人で小さい頃からずっと一緒だったララムとミモルですら分かり合えないのにそんなの嘘なんだもん‼」
ララムが叫ぶと同時にコッレレが大きく口を開け、ミモルに噛みつこうとする。そのとき、コッレレの大きな口に短剣が突っ込まれ鋭い牙とぶつかり、肩にワイキュルの頭突きが入る。
「わ、私だってもう少し相手の話聞けます……大切な友達ならなおさら……聞いてあげるべきです」
「あたいらが入るとややこしくなると思ってたが、見てらんねえから割り込ませてもらうぜ」
コッレレの攻撃を受け止めるリュイとペティを見て目を見開いて驚くミモル。対してララムが怒りを露わにして、それに応えるかのようにコッレレが体を振ってリュイとペティを吹き飛ばす。
「人間が、そうやってミモルを……ララムの邪魔を……許さないんだもん!」
牙を剥きだしにしてリュイに飛び掛かるコッレレだったが、リュイの前に白い影が割り込み、角と牙がぶつかると、そのまま振られコッレレは弾き返される。
空中で身を翻し着地するコッレレの前に、ラファーが立ちはだかる。唸るコッレレに対しラファーは静かにミモルのもとに近づくと、ミモルをくわえ自分の背に乗せる。
『リュイ、ペティ。セシリアお嬢さんがお呼びだ。ここは俺が任されたから行ってくれ』
ラファーに声をかけられたリュイとペティは大きく頷くと、ミモルに向かってなにかを言ってセシリアのもとに戻って行く。離れていて常人では聞こえにくい二人の言葉は、獣人であるミモルには聞えていて、分かったからこそ目に溜まった涙を拭う。
「頑張れとか……」
『セシリアお嬢さんから、二人の仲直りを手伝ってやってくれとのことだ。任されたからには全力でサポートする。いくぞ』
「うん」
目に涙を溜めたままのミモルがラファーの言葉に力強く頷く。
コッレレがしなやかに体を、躍動させ跳躍し腕を広げミモルたちに襲いかかる。だがそれは、ラファーによってあっさり弾き返される。
毛を逆立て牙を見せ唸るコッレレに対し、ラファーが静かに歩み寄る。威嚇するコッレレだが臆することなく、凛として歩くラファーが一歩踏み出すごとに、コッレレはジリジリと後ろへと下がっていく。
『お前はまだ獣に近い魔物だ。本能で分かるだろう。絶対に俺に勝てないことがな』
低く吠えたコッレレが飛びかかるが、足で頭を踏みつけられ地面に激しく叩きつけられてしまう。
『勝てないと分かっていて、主人のために戦うことができるお前は強くなれる。ここで終える命ではないと思うがな。それにだ、主人のためにも、今はお前が出しゃばるときではない。二人のためにも引け!』
ラファーに凄まれ、小さくなって大人しくなってしまうコッレレをララムが揺さぶる。
「動け! 動くんだもん! コッレレまでララムを見捨てるつもりなんだもん」
「ララムやめて! コッレレはあんたのために戦ってくれたんでしょ!」
「うるさいっ!! もう皆嫌いなんだもん!!」
ララムがコッレレから飛び降りると、走り去ってしまう。それを見たラファーが、コッレレから足をのけるとララムが去った方へ体を向ける。
『追うぞ』
「うん」
ラファーとミモルがララムを追いかけ去ったあと、残されたコッレレはゆっくりと体を起こし皆が消え去った方を見つめる。




