第234話 聖女と魔王の駆け引き
セシリアとザブンヌが戦闘に入ったとの報告を受けたドルテは、静かに目をつぶる。
「オルダーさん、グラシアールの戦況はどうなっているのでしょう?」
「……人間の軍が攻めてきたと報告を受けております。当初の予定通り、ゴーレム、スケルトンを中心とした編成で人間を迎えております」
跪くオルダーが顔を上げ答える。
「分かりました。グラシアールは防戦にて陥落を防ぐのみで構いません。ザブンヌさんがボノムでセシリアお姉様を足止めしている間に、オルダーさんはバニアージュから南へ進軍をお願いします。メッルウさんはブルイヤーを経由して正面から敵の本体を迎えてください」
「「はっ!!」」
オルダーとメッルウが立ち上がって颯爽と去って行く。
二人がいなくなるとドルテは玉座から立ち上がる。手を広げ回転しながら飛んでくる魔剣タルタロスを受け止め、胸に抱きしめる。
「ついに始まりましたね。人間たちとわたくしたちが相容れないことは、セシリアお姉様が攻めてきたことで証明されたも同然。せめてお姉様のおっしゃる全力を持って向かうことにいたします」
ドルテは魔剣をぎゅっと抱きしめ、ふっと笑う。
***
ザブンヌを撃破して進むセシリアたちの前に立ち塞がった、オークと鬼の集団であるが、セシリアはもちろん混合軍も怯むことなく立ち向かう。
「さっきの三天皇に比べれば大したことないぞ! 怯むな行けぇ!!」
指揮官が上げた声の通り、先にザブンヌと戦ったことで、巨大なオークや鬼を目の前にしても冷静に戦闘を繰り広げることができる。
ましてや、聖女にユニコーン、コカトリスまで率いていれば、臆するどころか勢いよく攻められるのは当然のことかもしれない。
ピエトラが、スライディングし、地面を削りながら土を飛ばすと、それらを石へと変えオークたちにお見舞いする。
怯むオークに、ラファーが突進すると乗っていたセシリアが聖剣を振るい、オークの意識を奪う。
「姫!」
混合軍の声に、セシリアがラファーから飛び降り、紐で巻かれ動きが鈍くなったオークに聖剣を振り下ろす。
気絶し崩れ落ちるオークの頭を蹴って、鬼が振り下ろした棍棒を避け大きな腕に着地すると、手首を聖剣で叩く。痛みで棍棒を落とす鬼の腕を駆け、首目掛け聖剣を振り抜く。
地響きを起こし倒れる鬼に、ペティとリュイが魔力の糸を巻いていく。あっという間にオークと鬼の軍を無力化したセシリアが聖剣を鞘に納めると、兵たちから歓声が上がる。
「皆さんのおかげで、この場を無事制圧することができました。まだまだ戦いは続きますが、引き続き助けてくれると、その……嬉しいです」
ちょっぴり照れながら言うセシリアに歓声はさらに大きくなる。
***
周囲に大勢の兵を引き連れ、ラファーに乗って走るセシリアは、聖剣シャルルを鞘から抜く。その行為で、敵が近づいてきたことを察した混合軍たちに緊張が走る。
「これはっ⁉ 皆さん、三天皇のオルダーです! 最大の警戒を!!」
セシリアの声に混合軍に鋭い緊張感が走る。と同時に後方の男たちが馬ごと吹き飛ばされ宙を舞う。
ラファーが加速し、混合軍の間をすり抜けると、混合軍を吹き飛ばしながらグラニーに乗ってやって来たオルダーと並ぶ。
目を合わせるなり、互いが斬り合う。激しくぶつかる聖剣と剣が火花を散らす。
平行して走りながら斬り合う二人だったが、ラファーが突然跳ねるとグラニーの前足に石化した糸が引っ掛かり勢いよく空中で回転しコケる。
首を伸ばして地面を噛んで転倒を防ごうとしたグラニーを、ピエトラの鋭い足が掴み、一回転するとそのまま遠くへ放り投げる。
そのまま頭を大きく上げ、空中に身を置くオルダーにクチバシを振り下ろす。剣の腹で受け止めるオルダーだが、ピエトラは構わずクチバシを振り下ろしオルダーを地面に叩きつける。
叩きつけてなお連続で突っつくピエトラを、爆風が襲い吹き飛ばすと、地面を転がるピエトラ目掛け一気に間合いを詰め、振られる剣をセシリアの聖剣とラファーの角が受け止める。
その間に起き上がったピエトラがクチバシを振り下ろす瞬間、セシリアとラファーが左右に身を引きオルダーはピエトラのクチバシを剣で受け止める。
そして、オルダーの背後から連続で放たれたリュイの矢を瞳に映したピエトラがクチバシを引き、足でオルダーの胴を掴むと鋭く鳴く。
飛んでいる途中で石に変化した矢が、オルダーの背中を襲う。
「……ぐうっ」
魔力を持った石の矢にダメージを受け思わずうめき声を上げるオルダーを、ピエトラが足を振ってそのまま真横に投げ捨てる。
地面を擦りながら飛んでいくオルダーをグラニーが受け止め、首を伸ばして自分の背中に乗せる。
「……やるな、だがここで決着をつけるつもりはない」
そう言って踵を返すオルダーだったが、グラニーが足を止める。
「簡単に逃がすわけねえだろ」
ペティと、周囲を囲む混合軍が持つペティの張った魔力の糸がオルダーとグラニーを囲む。それと同時に翼を広げ飛んできたセシリアの聖剣と、オルダーの剣が激しくぶつかる。
「……なるほど、聖女だけでなく周りも成長しているというわけか。前回とは動きも心持も全く違うな」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
短く言葉を交わしながら、数回剣をぶつけ合ったのち、セシリアが大きく跳躍すると囲んできた混合軍が次々と、オルダーとグラニーを挟んで駆け抜けていく。ペティの糸でオルダーとグラニーを捕えていく。
糸に巻かれ動きが鈍くなるオルダーとグラニーだが、突如グラニーの体が光りはじめ、バチバチと口から電撃が漏れる。そのまま首を伸ばし隣にいるオルダーに噛みついて電流を流しながら、オルダーを空中へ放り投げる。
グラニーの放った電流は糸を焼き、脆くなった糸を空中でちぎったオルダーを、高速で飛んできたメッルウが掴みそのまま飛び去ってしまう。
主人が脱出できるのをグラニーが伸びていた首を戻すと、役目は終わったとその場に足を畳んでしゃがみ伏せる。糸をピエトラが石化し、完全に身動きがとれなくなるグラニーだが、抵抗する気はないのか、伏せたままじっとしている。
「やけにあっさりしていますが、今はボノムを経由しブルイヤーへと向かうことに集中しましょう」
メッルウが飛んでいた方を見たあと、セシリアは混合軍と共に進軍を開始する。




