第233話 糸を石へ
セシリアの放った一撃で地面に頭がめり込んだザブンヌ。静かになったのは一瞬、セシリアが翼を羽ばたかせ大きく後ろに下がる。僅かに遅れてザブンヌが腕を振るいながら勢いよく立ち上がるが、腕は空を切る。
それと同時に周囲の兵たちがザブンヌ目掛け槍を一斉に突き出す。もちろんそれには攻撃力はなく、あくまでもけん制の一撃。
後方から、紐の両端に錘をつけたボーラと呼ばれる投てき用の武器が一斉に投げられる。
錘の勢いで回転する紐はザブンヌの手足に絡み、身動きを封じる。紐など構わず引きちぎっていくザブンヌだが、わずかにできた隙にセシリアが聖剣を振り払う。
魔力の乗った聖剣を腕でガードしたザブンヌは、体ごと振られるが地面に足をめり込ませながら受け止め切ってしまう。
聖剣を握り、動きの止まったセシリア目掛け放たれる、アッパーを混合軍の者たちが身を呈して受け止めるが、威力に負け吹き飛ばされていく。
大の大人が数人まとめて宙を舞う下を、ミルコが走り抜け、ザブンヌの腹に突きを入れる。
先ほど吹き飛ばされた分の衝撃を重ねて、放った一撃にザブンヌが眉を動かす。
「お前……そこら辺の奴らとは違うな。スキルかなんだか知らないが、俺の体に打撃で衝撃を走らせるとは、おもしれえ」
テンション高く声を上げたザブンヌが、ミルコに向かって怒涛の勢いで拳を振るう。ミルコも負けじと拳で対抗する。
体格差も然ることながら、人間と魔族の差も大きく、圧倒的に押されつつもミルコは殴られながらも殴り返す。それは喰らったうちの1/10でも返せばいいくらいの誰から見ても劣勢な状況。それでも殴り返してくるミルコに、ザブンヌは嬉しそうな表情で手を休めることなく殴り続ける。
「魔族の中でも、俺の拳を受けて殴り返してくるヤツなんてそうそういねえぜ! いいなお前」
テンション高く話しかけるザブンヌだが、ミルコは黙ったまま睨みつけ拳を振るい続ける。その姿に気をよくしたザブンヌがさらに拳を加速させる。
ザブンヌの巨大な拳がミルコの顔面を捉えたとき、ミルコは立ったまま動かなくなる。
「どうした? もうお終いか?」
ザブンヌの言葉にミルコの右手がピクッと反応し、そのままザブンヌの腹部に拳をあてる。
「全部……返す」
ミルコが呟いた瞬間、拳は凄まじい衝撃を持ってザブンヌの腹にめり込み、衝撃波がザブンヌの背中まで抜ける強烈な一撃が放たれる。
体をくの字に曲げて吹き飛ぶザブンヌ。足で地面を削りながらブレーキをかけ、転倒を防いだザブンヌは、腹を擦りながらミルコを見てニンマリと笑う。
「今のはなかなか効いたぜ。ダメージを返す系のスキルといったところか。もう一度やってみろ」
「ばかを言うな……今のが渾身の一撃だ。お前の拳を受けれるほど俺の体は頑丈じゃない……」
ミルコはザブンヌを睨んだまま白目を向くと倒れる。
その瞬間に一斉に投げられるボーラ。ザブンヌは自分に絡みつく錘付きの紐に舌打ちをして苛立ちを見せる。
紐をちぎる最中のザブンヌに向かって、馬とワイキュルに乗ったリュイとペティが走って向かって来る。
彼女たちが手を叩くと魔力の糸が伸び、左右に分かれてザブンヌの間を通り抜け糸を引っ付けると、そのまま周囲を旋回しザブンヌを糸で巻いていく。
「魔力が込められているようだが、こんな糸で俺が捕らえられると思うなよ」
ザブンヌが腕に力を込めたそのとき、上空から巨大な影が落下してくる。
コケェーー‼
巨大なニワトリの体に蛇の尻尾を振りながら翼を広げ、トサカを揺らすコカトリスのピエトラの登場にザブンヌだけでなく、人間の兵たちも驚きの表情を見せる。
ペティが引っ張ってきた糸を鋭い爪を持った足で受け取ったピエトラが、鋭く鳴くと糸が一瞬で石化する。
魔力が込められた石の糸に体を巻かれたザブンヌが思わずよろけると、ピエトラがザブンヌの頭を足で掴み、そのまま上に放り投げる。
空中に投げられ身動きが取れないままのザブンヌが目を大きく見開く。その視線の先には聖剣に魔力を溜め空中で待ち構えていたセシリアの姿があった。
「殴り合いに夢中になり過ぎたか……先にあいつの名前聞いておけばよかったな━━」
ザブンヌが呟いたときセシリアの放つ一撃が放たれる。
凄まじい量の魔力が地上目掛け落ち、地面にぶつかるとはね返った魔力が空へ向かって柱を作る。
魔力の柱が消えたあとには、大きく凹んだ地面にめり込んだザブンヌの姿が残る。その近くに駆け寄ったペティが作った糸を、リュイとラファーが走りながら糸を編み、網状にするとザブンヌに被せる。
そしてピエトラが糸を石化させ、ザブンヌを地面に縫いつけてしまう。
「ミルコ、大丈夫ですか?」
地上に降りたセシリアが急いで倒れているミルコの元に駆けよる。
「うぅ……セシリア様の愛を受ければ……ぎゅっと抱きしめてくれるか……キ、キスなんて……すれば大丈夫になれるかも」
「元気そうで何よりです。ラファーさんお願いします」
セシリアの手を握って願望を呟くミルコだが無視され、セシリアに呼ばれたラファーが角でミルコを突っつきながら癒していく。
「うっ……チクチクするのに、体の傷が治っていく……新しい痛みと共に痛みが引いていく変な気分だ……」
別に角で突っつく必要はないのだが、セシリアの手を握るミルコに苛立つラファーは、割とマジで突っつくせいで、ミルコは怪我が治っていくのに苦悶の表情を浮かべる。
そのまま衛生兵に担架で運ばれていく、ミルコを見送ったセシリアはラフアーに乗る。
そこに近づいてきたピエトラが首を伸ばすと、セシリアが抱きしめつつ撫でる。
「ピエトラさん、助かりました。ありがとうございます」
『聖女セシリアファンクラブの五号としては当然、当然』
セシリアに撫でられ、嬉しそうに目を細めるピエトラをラファーが睨む。
『おい、ピエトラ。もう帰っていいぞ』
『なに言ってんのさ? 僕の活躍はここから。帰れとか、ラファーはバカなのかな? うんきっとそう。バカだね』
『なんだと』
「はいはい、二人ともそこまで。ファンクラブの第一条は?」
『みんなで仲良く協力すること!』
『みんなで仲良く協力すること! うん間違いない』
声を揃えて聖女セシリアファンクラブ第一条を口にするラファーとピエトラをセシリアは「よく言えました」と褒めながら撫でる。
自分のファンクラブの規約を言わせる、その行為に恥ずかしさを感じるセシリアは、頬を赤くして二頭を撫でる。その行為と表情に周囲の視線が集まるわけだが、セシリア本人は恥ずかしい方が強く気づいていなかったりする。
伝説級の魔物たちに愛情を持って触れ合う、聖女の姿に感心すると同時に、癒される混合軍の面々をセシリアが見渡す。
「この勢いで、進軍を開始します! ボノムを制圧したのち、ブルイヤー経由でベンティスカへ乗り込みます‼」
セシリアの一声に混合軍が雄叫びを上げ進軍を開始する。




