第228話 はじめまして魔王様
魔王が身にまとう漆黒の鎧の腹部が白い煙と共に開き、中から金色の髪をお団子にして束ねた、黒いドレスの女の子がふわりと飛び降りる。魔王の膝を中継点にして軽やかにトントンと軽やかに床に着地する。
後頭部にあるお団子を解くと、長い髪をかきあげ結んでクセのついた髪を直す。そして真っ赤な瞳をメッルウたち四人に向ける。
「この姿では、はじめましてですね。わたくしは前魔王の娘、ドルテともうします」
魔王の体がどういう仕組みなのか、なんで腹部が開いて人が出てきて、さらに出てきたのが少女何者か、全く理解のできない四人は漠然とドルテを見つめる。
「三天皇の皆さんをはじめ、魔族全員をわたくしは騙していましたことお詫びします」
「あ、あの。話が見えないのですが。騙していたとは、えっと……ドルテ様が本当の魔王様で、魔王様の正体を隠していたことでしょうか?」
ザブンヌが恐る恐る尋ねると、頭を深々と下げていたドルテが目を向けて首を横に振る。
「わたくしのお父様、つまり本当の魔王は、魔族の故郷へと向かうため進軍するその日に寿命を全うし消えました。魔王の正体はずっと秘密だったとはいえ、中身が変わったまま計画を進めたこと、それがわたしくしが騙していたことです」
衝撃の事実に皆がポカンと口を開けたまま、ドルテの言葉に耳を傾ける。
「お父様の代わりに魔王として今日までやってきました。ですが故郷へ行くどころか南下することも叶わず、挙句皆さんに怪我をさせてしまったこと、全てわたしくしの不徳の致すところです、大変申し訳ありません」
再び深々と頭を下げるドルテに、皆がどうしていいか分からず戸惑う。そして進軍する前の魔王と、出陣式から今に至るまでの魔王との違いを思い出しながら比較し、中身が入れ替わったことを言われた今、思い当たる節が多くて、納得してしまう。
そんな中、メッルウが口を開く。
「あ、あのぉ魔王様? 鎧の中はずっと秘密だったのですから、入れ替わっても騙してたとはいえないのでは?」
「お、そ、そうです! 誰も知らないわけで騙しているとは違うと思います」
ザブンヌがメッルウに続くと、背負われているオルダーが顔を覗かせる。
「……なにより、予定通りフォルータへ向け進軍しつつ、魔物の生態復帰を試みていたわけですから、そこに嘘はありません。私たちが今日まで魔王様のために戦ってきたことこそ、嘘はない証拠かと」
「オルダー、いいことを言う。魔王様、俺らが今日まで戦ってきたのは、今の魔王様の言葉に賛同し信じてきたからこそです! たとえ中身が入れ替わっていたとしても、俺らの魔王様に対する忠誠心に偽りはありませんから、魔王様と魔王軍との間に噓は存在しません!」
オルダーの言葉にもザブンヌが続き必死に魔王に言葉を向ける。
「それにです、魔王様はあたしたちのことを必死に考えてくれ、仕事の負担も減らし、あたしたちの意見も積極的に聞いてくれました。そのような優しき魔王様を責めることなどできません」
メッルウのもとにイーリオが駆け寄る。
「ま、魔王様のおかげで、お姉ちゃんと一緒に過ごす時間も増えました。それに前よりも明るくなって、その、あの朝もゆっくり寝れて……ご飯もよく食べるようになりました。あと嫌いな野菜も食べてくれるようになって、えっと……」
必死なって発言するイーリオに、メッルウが余計なことを言わなくていいと目で訴えるが混乱気味のイーリオは気づかずに話し続ける。
「うっ……ううっ」
必死に話すイーリオを見ていたドルテが目に涙を溜めて、唇を噛んだ口と体を小刻みにに震わせはじめる。そしてすぐに我慢できなかたのか上を向いてわんわん泣き始める。
「こんなにも、こんなにも優しい方々なのにわたくしは、黙って騙してたなんてぇ~」
えぐっ、えぐっっと嗚咽しながら泣き始めるドルテに、ただでさえ魔王から知らない少女が出てきて、前魔王はお亡くなりになったと知らされて驚き続きの四人。
混乱しているのに大泣きされては、最早なにをしていいのか分からずに、四人はオロオロしてしまう。
「はじめから相談すればよかったのです。わたくしが一人で悩んで、皆さんが怪我して帰ってくるのに心痛めることもなかったのです。これなら人間に邪魔されても」
グスグス泣きながら、ドルテは今までぼ苦悩を吐き出し始める。
「魔王様、あたしたちは騙されていたとは思っていません。ここまでこれたのは魔王様のおかげです」
「そうですとも。俺らのことを大切に扱い心配してくださった魔王様だからこそ、俺たちはやってこれた」
「……それに魔王様の強さは本物。それは近くで見てきた私たちだからこそ言い切れます」
三天皇の言葉にドルテが顔を上げる。
「つまり、あたしたちのやるべきことは変わりません」
「俺らの魔族の故郷を人間の手から取り戻す」
「……そのために邪魔者を退け進むのみ」
泣いていたドルテが、目をゴシゴシと擦ると三天皇たちを順に見ていく。
「こんなわたくしを魔王だと呼んでくれるのですか?」
先ほどまで泣いていて、潤んで煌めく瞳で三天皇は見られ、魔王の持つ底しれない魔力の圧に相反して、儚くそして可愛らしい姿に思わずときめいてしまう。
「もちろんですとも! あたしたちは今まで以上に魔王様に忠誠を尽くし、お守りしてみせます!」
「魔王様に指一本たりとも触れさせはしませんとも!」
「……魔王様に全力でお仕えいたします」
三天皇の言葉にドルテの表情がパアッと明るくなる。この笑顔に三天皇が再びときめいてしまう。
「で、では、わたくしたちは、これまでどおりフォルータへ向かう。皆で一緒に!」
「行きましょう!」
「人間ども、聖女を退け」
「……勝利をこの手に」
結束の硬くなる魔王と三天皇たち。それを嬉しそうに見るイーリオ。
だが、近くで見ていたニャオトは違う。これはどう考えてもまずい、ドルテの悩みが解決したのはいいが、セシリアたちにとって脅威となるのは間違いない。
そう考え焦るニャオトは、どう戦わない方向へ向け説得しようかと考えていると、ドルテが口元に手を当てなにやら考える。
「ところで、なんでセシリアお姉様は、わたくしが悩んでいることを見抜き、それをオルダーさんに伝え、挙げ句アドバイスまでしたのでしょうか? わたくしが悩んでいることを知っているなら、オルダーさんを介さずわたくしを孤立させて行くほうが優位に立てるはずですのに」
ドルテの疑問に四人が腕を組み考える。
「ソ、ソレハ!」
そしてこの言葉にいち早く反応したニャオトが、手を挙げ声を上げる。皆の注目を一身に浴びて、緊張しつつも言葉を続ける。
「セシリアハ、ヤサシイ! ドルテノコト、マオウグンノコトヲ、オモッテ。ショウメンカラ、ムキアウタメ」
ニャオトの渾身の叫びにドルテがポンと手を叩く。
「なるほど、全力で正面から向かってこいというわけですね! わたくしが悩んでいては全力が出せないだろうと……なるほどこれがフェアー精神であり、セシリアお姉様も全力でくるという宣言!」
「「「おぉぉ!?」」」
ドルテの言葉に三天皇の声が重なる。
「さすがは聖女セシリア、あたしらに心置き無くかかってこいと」
「こいつは聖女と戦うのが楽しみになってきたな」
「……聖女の名は伊達ではないな」
士気が高まるドルテたちを見て、ニャオトは手をくわえて青ざめる。
そんなニャオトの手をイーリオが引っ張る。
「さすがニャオトさんです! 聖女のことを知っているからこそ、的確に意図を理解し、伝えられるんですね!」
「エ、ア……チガッ」
「違う」と言う前にイーリオに手を引かれ、意気込むドルテたちの近くで一緒にぴょんぴょん飛ぶ羽目になる……。




