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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
北の大地に光を

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第222話 虚空のオルダー

 前脚で土をかいていたラファーとグラニーが同時にスタートを切ると、真正面からぶつかる。


 角と鉄が激しくぶつかりあう。幾度かぶつけあったあと、グラニーが首を伸ばし回り込むと、尖った牙を剥きだしにした口を開きラファーの首に襲いかかる。


 前脚で地面を蹴り大きく反り返ったラファーが、角をグラニーの口に突っ込む。そのまま高く上がった前脚でグラニーの体を蹴り、伸びた首を引っ張って地面を引きずった挙句、首の力だけでグラニーを放り投げる。


 投げられたグラニーが足で地面をえぐりながら、転倒を防ぎそのまま埋まった蹄で土を蹴りラファーへ突進をする。それを正面から受けようと角を向けるラファー。


 二頭が接触する寸前、グラニーの顔面の縦に線が入るとそれは尾まで伸び、左右対称に分かれてしまう。左右のグラニーの間には、数本の薄い支柱が伸びていて、繋ぎ支えるその支柱には刃がついている。その全てがラファーに向いて迫ってくる。


『なんだコイツ⁉』


 驚きの声を上げたラファーが角で横に這う刃を受け止めるが、その瞬間グラニーは左右に分かれた体をもとに戻し、ラファーの角を挟むと首を振り上げ、今度はラファーを空中へと投げる。


 空中を蹴って踏みとどまったラファーの腹に、跳躍してきたグラニーが頭突きを喰らわせ、さらに上空へと吹き飛ばす。


 落下してくるラファーを地上で待ちかまえるグラニーの前頭部に二本の角が生えてくる。


『角はな、多ければいいってもんじゃねえ!!』


 ラファーが落下しながら角をグラニーへと向ける。一本の角と二本の角がぶつかり合う。そして、落下の衝撃をじょうずに受け流しながら二本の角で絡めたグラニーが、ラファーを投げる。


 宙で身を翻し、四本の足で着地したラファーが角をグラニーに向け走り出す。再びぶつかる角と角。


『やるじゃねえか。だがな、俺が勝つ!!』


***


 激しくぶつかりあうラファーとグラニーから少し離れた場所では、セシリアとオルダーの周囲に聖剣と剣がぶつかり散った火花が幾度となく咲く。


 純粋な剣技で、鋭い剣閃を繰り出すオルダーに対し、セシリアは聖剣シャルルとアトラに攻撃の補助をしてもらい、グランツに剣の軌道予測と体のバランスをサポートしてもらって、ようやく対処できている。


「……魔力操作によって、私の剣に対応するか。面白いものを使う」


「真正面からだと絶対に敵うわけがないんで」


 やや押され気味なセシリアが、今できる精一杯の笑みを浮かべオルダーの剣を受け止めたとき、聖剣シャルルの刀身に這ってきた影がオルダーの剣に巻きつく。

 その瞬間、巻きついたままの剣をセシリアが引っ張り、オルダーの手から剣を引き抜き、そのまま投げ捨てる。


「絡め手でいくしかないので、悪く思わないでください」


「……ほう」


 剣を抜きとられたオルダーが、感心した声を出す。


『セシリア様!!』


 グランツの鋭い声が頭に響くと同時にセシリアは、強引に回転させられ翼に包まれる。


「……翼に魔力の膜を張り防御するとは器用だな」


 紫に光る翼の向こうで聞こえて来る声に、セシリアはつぶっていた目を、恐る恐る開ける。


『セシリア、我をしっかりと持ち斜め上に振り上げろ』


 聖剣シャルルの言葉に頷いたセシリアは、グランツが翼を下げた瞬間言われた通り斜め上に振り上げる。


 ガキンッ!!


 激しくぶつかる金属音は聖剣とオルダーが持つ剣の音。オルダーが剣を手にしているのを目にして、驚きの表情を見せるセシリア


 お互いに剣を押し合うが、オルダーの方が圧倒的に力が強いためセシリアは、身をかわしながらオルダーの剣を受け流す。

 オルダーもそれは予想して剣を反らし、自身に引きつけすぐに次の斬撃は放つ。アトラのサポートを受けながら止めたセシリアが、急ぎ剣を引き次の斬撃を払った瞬間。


 カーンッ!!


 と軽い金属音が響き、オルダーが手に持っていた剣が宙を舞う。一瞬なにが起きたか理解が追いつかないセシリアだったが、自分の振った剣が偶然オルダーの手元に当たり剣を手放させたのだと理解する。

 聖剣を持つ手に力を込めたとき、セシリア自身の意志とは関係なく翼が大きく開き羽ばたく。


『罠だセシリア! 下がって追撃に備えろ‼』


 羽ばたいた翼と、影に足を掴まれ後方へと大きく後ろに下がったセシリアの目の前で剣閃が縦に走る。それがオルダーが放った一撃だと理解するよりも先に、大きく一歩踏み込んだオルダーが真横に振った剣を聖剣シャルルが動き、受け止める。


「……さすがだな。私にここまでやらせてなお、受け止めてみせるか」


「魔力操作のサポートがあって、なんとかですけどね……」


 まだ、オルダーがなにをしたか理解はできていないセシリアだが、冷静な振りでオルダーとの会話に望む。


「……戦闘においてどう戦うかは個人の自由だ。剣で向かって来る相手に、剣で対抗しなければいけない道理はない。魔力操作ができる、それも聖女の力だ」


「確かにそうですね。オルダーさんのその力も……」


「……これはとっておきだ。私自身のこだわりとして、不意打ちは望まぬところなのだが、聖女相手には出さざるを得なかった」


 まだ理解のできていないセシリアが濁した言葉に、オルダーは自らの体である鎧の隙間に手を入れ中から剣を抜き出す。


「……私の二つ名は『虚空』それは、スキルの名であり私の空虚な体を表す名でもある。魔王様に仇をなすものであるが、その実力認めざるを得ない。私の相手にとって不足なし」


 オルダーのまとう魔力が周囲を威圧するほど強くなる。


「まだ、そんな魔力を持っていたんですね。ですが私も負けるわけにはいきません。なにがなんでも、オルダーさん、あなたに勝ってみせます」


 セシリアもまた手に持つ聖剣にまとう魔力を大きく高めていく。


 向かい合って睨みながら互いに魔力を高めていく姿に、周囲の集まって来た人々はこの戦いの終わりが近いことを悟る。


「っと間に合ったけど、これはあたいらが今更どうにかできるレベルか?」


 集まってきた人々のなかにいた、ペティがギャラリーの中央にいるセシリアとオルダーを見ながら背中に乗るリュイに話しかける。


「で、ですけど。なにか、なんでもいいからセシリア様の力添えになれれば……」


 ペティの背後から顔を覗かせて、セシリアを見つめるリュイの隣にラボーニトに乗ったミモルがやって来る。


「言っとくけど、あれは私らが入れるレベルじゃない。オルダー様のあんなに激しい姿見たことない。そこまで本気にさせる聖女セシリアも強いってことだと思うけど」


「それは分かってますけど……」


 納得のいかない様子で二人の睨み合いをリュイは見つめる。

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