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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
北の大地に光を

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第220話 わかんない! けどイヤなものはイヤなの!!

 ヴェルグラ中に広がって行く人の中に混ざるペティたちは、エルフの見た目と服装から周囲と比べると目立ってしまう。それは周囲の兵たちにとって聖女様の仲間だと認識され、自然と保護の対象となる。


 ゆえに守りの固められるペティたちは、更に目立つこととなる。そしてそれはオルダーの命令によって散り始めた魔族にとっても同じで標的の対象となる。


 セシリアがオルダーを追い掛けている今、魔族とまともに戦闘のできるものはおらず、逃げる一択となる。


「ちっ、あたいのスキルじゃなんの役にもたたねえ!」


 自分がまいた『粘着』のスキルが付与された魔力の球を受けても、全く動じることなく走って来るゴーレムを見てペティが悔しさを滲ませる。


「総長! こっち!」


 叫ぶファラに向かって走るペティに、カメリアが手招きをして横に逸れるように指示する。


 意図を察したペティがゴーレムを引きつけつつ、急旋回をしてゴーレムの足もとスレスレをすり抜ける。振り返ったゴーレムも旋回しようとしたとき、ガクンッと体が揺れわずかに沈む。


「浅くて足止めになってねえ!」


「こんなデカブツ落とせる落とし穴なんか掘る時間ねえ!」


 周囲の男たちが怒鳴り合いながらも、わずかにバランスを崩したゴーレム目掛け攻撃を繰り出す。だが両腕を大きく広げ振り回され、周囲の男たちはまとめて吹き飛ばされ倒れてしまう。


 痛みでうめく男たちの姿に顔を青くするペティたちに、別の方向から叫ぶ声が聞こえる。


「リザードマンだ! 逃げろぉぉっ!」


 悲鳴に近い叫び声を聞き、怯えた表情を必死に押し殺したペティが声を張り上げる。


「敵が来るまで待つ意味はねえ! 逃げるぞ。おい、ファラ行くぞ! カメリア、ノルンを頼む」


 声がした方の一点を見つめていたファラがはっとし、カメリアが呆然とするノルンに駆け寄る。


「ノルン、ぼうっとしない! 逃げるわよ!」


「あ、うん」


 カメリアの声に鈍い反応をしたノルンが、自分ではなく目を開いたまま上を見上げたことに気がついたカメリアが、後ろを振り返る。そこには腕を振り上げるゴーレムの姿があり、カメリアも固まってしまう。


 無情にも振り下ろされるゴーレムの腕を、二匹のワイキュルが先に反応して二人をくわえ、その場から走り始めるが、振り下ろされた一撃による衝撃で、カメリアとノルンもろとも吹き飛ばされる。


 ペティたちの悲鳴が聞こえるなか、先に体を起こしたカメリアが顔を上げる。軽いため遠くに飛ばされ、離れた場所で地面に倒れているノルンを見つけると立ち上がる。


 ダメージで震える体を押え、必死でノルンのもとへ向かうカメリアの目に映るのは、こちらに近づいてくるリザードマンの集団。


 リザードマンの一人が地面に倒れているノルンを見つけると、手に持っている槍を構え真っ直ぐ向かってくる。


 震える体でよろけながらも必死に走るカメリアが、リザードマンがたどり着く寸前で、まだ起き上がれないノルンの上に覆いかぶさる。


 ワイキュルを走らせ向かうペティとファラの前で、リザードマンの槍がノルンに覆いかぶさるカメリアに振り下ろされる。


 手を必死で伸ばし叫ぶペティの前で、カキンッ!! と鋭い音とともにリザードマンの槍の先がはじかれ上を向く。


 なにが起きたのか、ノルンをぎゅっと抱きしめ目をつぶるカメリアはもちろん、ペティたちや、リザードマンも分からない状況で震える声が響く。


「だめ……。出てきたらいけないのは分かってる……でも! くっ」


 地面に手をつき、カメリアとファラを守るように、リザードマンに立ち塞がる苦しそうな表情のミモルの姿がそこにあった。


「貴様獣人……裏切りか?」


「ち、ちがう……」


「ならばどうしてそこにいて、我らの邪魔をする」


「わかんない! わかんないけど。この子たちが傷つくのは嫌っ! 嫌なの!」


 リザードマンの問いにミモルが叫ぶ!


「それは人間の味方をする行為。つまり裏切りと言うのだろう。魔王様に仇なす魔族がいるとは同胞としては嘆かわしいな」


「違う! 私は魔王様も魔族も大切なんだ! でも、でも……この子たちと話して、分かっちゃったから……。この子たちも生きてて、私たちと同じく笑って、泣くことを知っちゃったから。そしてなによりも、もっと話したいって……私が思っちゃったから……」


 いつの間にか目に溜めた涙をボロボロこぼしながらミモルは訴えるが、リザードマンは黙ったまま手に持つ槍に力を込めると、大きく一歩踏み込んで槍を突く。


 泣きながら、突かれた槍を飛んで避けたミモルが槍の上に手をつくと、そのまま前転し踵をリザードマンの頭に落とす。


 踵を落としたままもう一回し、手を地面につけたミモルが逆立ちの状態で、頭に受けた衝撃で目を大きく見開くリザードマンの首筋に回転しつつ蹴りを入れる。


 蹴られた衝撃で真横に吹き飛ばされるリザードマンを見て、残り二人のリザードマンがミモルに対して敵意をむき出しにする。


「わた、私は……くっ」


 歯を食いしばり目に溜まった涙を雑にぬぐったミモルが拳を握り構える。そんなミモルの背後にいて、カメリアに抱かれ守られているノルンが泣きながら叫ぶ。


「ミモル駄目!! 帰って!!」


 あっちへ行けと手を振り回して泣くノルンに、ミモルは振り返ることなくその場で何度か軽く跳ねて、トントンとリズムを刻む。


「まったく、なんでそんなに優しくするかな。あーもう、分かんないや。でもノルンたちは守る。あとのことはあとで考える」


 涙のあとが残る頬を緩ませ引きつった笑みを見せたミモルが、二人のリザードマンが振るう槍を体を反らし避け、跳ねると槍を踏み柄の上を走るとリザードマンの腕を踏んで首に蹴りを入れる。


 反動で飛んだミモルが宙返りしつつ、地面に手をつき体を地面に伏せ横に振るわれた槍を避ける。ついた手で地面を押え勢いをつけバク転しリザードマンの腕を蹴る。


 腕を蹴られ槍を落としてしまったリザードマンだが、怯むことなく踏み込み素手でミモルを掴むと、そのまま地面に叩きつける。


「かはっ」


 苦しそうに息を吐くミモルだが地面に叩きつけられたまま、リザードマンの手を取ると足で挟み関節技を決める。


「コイツっ!」


 痛みで顔を歪めるリザードマンが、自分の腕にしがみつくミモルごと腕を叩きつける。


 何度か叩きつけられ、一際大きく振り上げたとき、ミモルが腕から離れてリザードマンの頭を持つと、そのまま逆立ちしつつ背後に倒れながら回転し後頭部を蹴る。


 蹴られてうつ伏せに倒れたリザードマンに追撃しようと一歩踏み込んだミモルだが、大きく後ろに下がり別のリザードマンの振るった剣を紙一重で避ける。


「囲まれたか……」


 応援に来たリザードマンに囲まれて、牙を見せ威嚇するミモルに容赦なく振り下ろされる剣や槍。それらをギリギリでかわしていくミモルだが、所詮一人では限界がある。


 剣をかわしたところで、足に体重を乗せた前蹴りが背中に向け放たれミモルは前方へ吹き飛んでしまう。

 地面に転がって受け身を取るミモルに向け、飛んでくる槍を跳ねて避けたミモルが、リザードマンたちをにらみつつ着地の体勢を整えようとしたとき、ミモルは気配を感じ、その方向を見て目を大きく開く。


「しまっ!?」


 言葉を言い切る前に、待ち受けていたゴーレムが振るう一撃をまともに喰らったミモルは、地面を何度もバウンドしながら吹き飛んでいく。


 震えながら必死に立ち上がろうとするミモルにリザードマンが剣を振り上げる。


「魔王様を裏切る不届き者が。その首を持って償え」


 振り下ろされる剣に、ノルンたちの悲鳴が乗る。


 だが突然、リザードマンが手を止める。


「な、なんだ……これは」


 剣を振り下ろそうとしたリザードマンだけでなく、ミモルも含め魔族たちが異変に気がつき一斉に周囲を見回す。

 ペティや魔力に敏感な者たちも同じく、周囲の空気が変わったことに、戸惑いながら周囲を見渡す。


 遠くから凄まじい勢いで迫ってくる魔力の波が一瞬にして、ミモルたち全員の間を駆け抜けなおも遠くへ広がって行く。


 それからわずかに遅れて、鳥の羽ばたくような音と共に黒い影が迫ってきたかと思うと、一瞬で紫の花びらがその場にいる全員を包みつつ駆け抜け、最初に通った魔力を追って広がっていく。


 皆が自分たちを周りを覆う魔力と紫の花びらを見上げ、なにが起きたのか分からず呆然とする。


「こんなにも強大な魔力……むちゃくちゃだ……聖女ってヤツは」


 自分の手に落ちてきた紫の花びらにミモルが呟く。そして突然の浮遊感に目を丸くする。


「い、いつまでも寝てる……ば、場合じゃないですっ!」


 自分を抱え、ラボーニトに乗って走るリュイの姿を見て、ミモルが驚きの表情を浮かべる。


「なんで私を助ける? お前、私のこと嫌いなんだろ」


「だ、だれも嫌いとか……言ってません。た、ただ、セシリア様をバカにしたのが許せなかっただけです。……その、あのときは言い過ぎました。ごめんなさい」


 自分を抱えたまま謝る姿を見て、ミモルは表情を緩める。


「……私も言い過ぎた。ごめん」


 お互い目は合わせないままふと笑みをこぼし、リュイはミモルを引き上げると自分の後ろに乗せる。


「ここから反撃です」


「反撃っていったって、ここで戦える者なんて……」


「セシリア様の加護は多くの人々に勇気と希望を与え、奇跡を起こすんですよ」


 リュイの言葉にミモルが、先ほどまで自分がいた場所を見ると見覚えのある男たちがリザードマンと戦闘を繰り広げていた。


「あれは確かフォティア火山で……」


 上半身裸で鍛え上げた筋肉を見せつけるミルコと、リザードマンの槍を上回る技量で同じ槍とは思えない技を見せるロックの姿があった。


 他にも多くの兵や冒険者たちが魔族たちと交戦しているのを見て、ミモルが目を大きく開く。


 巨大なゴーレムの放った拳をミルコが正面から全身で受け止めると、タイミングを合わせて集まって来た男たちが一斉に拳を止める。


 多くの者がたちが吹き飛ばされる中、ゴーレムにしがみついたミルコが拳を上り、腕の上を走るとそのままゴーレムの顔面を殴る。


「セシリア様のご自愛を受けた俺たちならば、力を合わせることで無限の力を発揮できる!! 俺たちにできないことなどない!!」


 拳をゴーレムの顔面に突き立て、声を上げるミルコに合わせて、雄叫びを上げ男たちが一斉にゴーレムに体当たりを喰らわせていく。


 全員が一塊となって放った一撃で、大きな巨体がグラつく。


 そこへさらに男たちが、体当たりしながら飛びつき、大きくバランスを崩したゴーレムが背中から倒れる。

 それと同時に、ロックが槍で受け流しバランスを崩したリザードマンに、周囲の男たちが飛びかかり、ゴーレム同様リザードマンも倒れてしまう。


 圧倒的実力差のある人間が魔族を押し倒す、その様子をミモルが驚き表情で見つめる。


「セシリア様の力は皆に勇気と力を与えるんです! って私も最近知りましたけど」


「たしかに凄いけどフォティア火山では使ってなかったような……」


「これだけの広大な範囲まで及ぶ力です。きっと、とっておきなんじゃないですか?」


 リュイに言われ納得しつつ、空に舞う紫の花びらを見たミモルは、自分を包むセシリアの膨大な魔力を感じて震える。


(それにしてもこの魔力量ヤバすぎ……こわっ)


 魔族が無意識で感じてしまう、自身より大きな魔力を持つ者へ対する恐怖は今、ヴェルグラ全土を包むセシリアの圧倒的魔力によって広がり、萎縮して動きの鈍った魔族を、実際は全くそんな効果はないが力が増したと思い込んだ人間たちが勢いで押していく。


 こうしてオルダーの奇襲攻撃により戦場をかき乱され、押されていた人間たちは各地で勢いを取り戻し、戦局は反転し始めるのだった。

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