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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
北の大地に光を

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第212話 急がば回れってヤツ

 ネーヴェの森での戦闘を終え、森に残ると言った獣人たちをあとにし、セシリアたちは既に魔族のいなくなった王都ネーヴェへと入り解放宣言をする。


 アークの活躍もあり瞬く間に広がるネーヴェ解放に沸く人々。


 そんななかセシリアたちは、今後の作戦と次の行き先を決めるためにネーヴェ城の一室を借りて話し合う。


「魔王がいるとされるベンティスカへ、一直線に向かうのはオススメいたしません」


 地図の上に王冠の刻印されたコインを置いて説明するのは、ネーヴェでかつての軍師をしていたランドルトという名の年老いた男である。


 魔王襲撃で多くの国が実行支配を受けるなか、いち早く全面降伏を宣言する。なおかつネーヴェが地理上他の国へのアクセスがしやすく、拠点としての利便性を魔王に進言したことで、魔王を滞在させ魔族軍の統率と国民の暴動抑制を同時に図る。結果的にだが、国の被害をほぼ無傷で終えることに成功させた人物である。


 彼曰く、聖女セシリアを当てにした完全な運任せな作戦だったが、おかげで魔王から信頼を得て、しばらく拠点として使用することになり、長く接する機会に恵まれたと言う。


「魔王は近づくだけでもその威圧感に押し潰されそうになる男です。なおかつ聡明であり仲間思いであると私は感じました。その魔王がベンティスカへ下がったのはおそらく、グラシアールとブルイヤーに挟まれた場所であるからだと思われます」


「魔王に向けて真っ直ぐ進むと、上下にある両国から攻撃を受けてしまうというわけですか……」


 セシリアの発言にランドルトは大きく頷いて肯定する。


「ここは一旦後方へと下がり、グレジル、ヴェルグラを取り戻すのが良いかと思われます。特にヴェルグラはプレーヌと繋がる国、南側と繋がることは非常に有利に働くかと。魔族一人一人の力は脅威ですが、数では人間の方が有利、国を守るには魔族の人数が少なすぎますから、聖女セシリア様が周囲から攻めていけばおのずと魔族は魔王のもと一点に集まっていくはずです。そうなれば周囲の国を解放するのもたやすくなるかと」


 セシリアはランドルトが魔王に支配されている、グレジルとヴェルグラの上に置かれている赤色で塗ったコインを青く塗ったコインと置き換える。


「徐々に魔王の居場所を狭めた上で、グラシアールかブルイヤーを取り戻せば魔王への道が開けそうですね」


 魔王を示す王冠のコインを囲む青いコインを見てセシリアは頷きながら発言する。


「ええ、魔王軍の三天皇の一人を破り、ここは一気に攻めたいところでしょうが、こういうときこそ慎重に行動すべきと進言します」


「急がば回れってことですかね。国の復興に忙しいなか、ご指導ありがとうございます」


「いいえ、私なぞ老いぼれは誰からも必要とされず隠居していた身。それをこうして聖女セシリア様に使っていただけ、お役に立てるなんて光栄の極みです」


 深々と頭を下げるランドルトに、セシリアは慌てて頭を上げるようにお願いする。


 ようやく頭を上げたランドルトが、部屋の端に座るミモルを一瞥(いちげん)すると、少し険しい表情をセシリアに向ける。


「先に事情はお伺いしていますが、あの獣人と共に行動されるのは如何なものかと。魔王と対峙したとき、それこそ後ろからやられ兼ねないと思うのですが」


 ランドルトの言葉にミモルが眉間にシワを寄せ、ランドルトに不服そうな視線を返す。


「このファーゴを開放するにあたって、獣人たちとの約束はミモルが私のことを監視するです。約束は守らないといけません。それにミモルはそんなことをしないと思います……と言うのは楽観的でしょうか?」


 話している途中でランドルトの表情が険しくなったのを見て、セシリアは発言を途中で切って苦笑いをしながら尋ねる。


「ファーゴ開放の条件にこの獣人を同行させることが含まれていると言うのであれば、ファーゴの人間である私たちが口を出せる立場にはありません。ただ、感謝しているからこそセシリア様の身を心配しているのだと言うことを、せんえつながら申し上げます」


「ご心配していただきありがとうございます。行き当たりばったりかもしれませんが上手にやってみます。困ったときはランドルトさんを頼ってご意見を伺うかもしれません」


「聖女セシリア様の意志が固いことは理解しました。大きなことや、新たなことをするにはリスクは付き物でしょうし、視野も広い方がいいものですから。この老体が役立つというのであれば、喜んでお手伝いいたしましょう」


 頭を掻くランドルトは完全には納得していないといった様子ながらも、セシリアの意向に沿う態度を見せる。


 そんなランドルトに頭を下げたセシリアはミモルのもとへと歩みを進める。近づいて来たセシリアにミモルは複雑な表情を見せる。


 セシリアの背後にピッタリと引っ付いて来たリュイが、セシリアの背中越しにシャーシャーとミモルに対し威嚇(いかく)し始める。


「ねぇねぇ、耳さわっていい?」


「尻尾もさわりたい。もふもふな予感」


 背中に引っ付くリュイに困るセシリアが声を掛けるよりも先に、ファラとノルンがミモルの両サイドに立って手をわきわき、目をキラキラさせてミモルを見つめる。


「あ、えぇっと……エルフだったっけ?」


 人間とは違うエルフには少しだけ軟化した態度を示すミモルだが、それよりもファラとノルンの押しの強さにやや引き気味になってしまう。


「そっ、エルフ。私はファラって言うんだけど。あ、そうだ! 私の耳もさわる? それなら不公平じゃないよね」


「あっ、私尻尾ない。じゃあ好きなところさわっていいから。だめ?」


 耳と背中を向けてぐいぐい迫るファラとノルンにミモルが困惑する。


「ほら、ミモルが困ってるから。無理矢理さわったらダメだよ」


「「はぁーい」」


 セシリアに言われ素直に下がって行くファラとノルンに、ホッとした表情を見せたミモルだが、すぐに顔を引き締めセシリアに鋭い視線を向ける。


「ミモルに聞きたいんだけどいいかな?」


「魔王軍の情報は喋らない」


 ふんっと顔を逸らすミモルにセシリアは首を横に振る。


「それは約束だから守るよ。私が聞きたいのは私たちが魔族や魔王と敵対したときミモルはどうするのかなってこと」


「私はなにもしない。あくまでも聖女セシリアの監視者だから」


「うん、分かってる。でも魔族が私たちと一緒にいるミモルを見たときどう思うのかなって考えたら心配なんだ」


 セシリアの言葉にミモルは少しだけ目を大きく開くが、すぐに下を向き膝を抱える。


「大丈夫。覚悟の上だから。それに話せば分かってくれる」


 その答えを聞いたセシリアは優しく微笑みながら頷く。


「分かった。でも、もし魔族側から疑いを掛けられそうになったら、迷わず魔族のもとに帰って」


 セシリアの言葉に顔を上げたミモルが目を見開き口をポカンと開け、驚きの表情を見せる。


「帰る場所がなくなるのは辛いと思うんだ。そのときは聖女セシリアに脅されていたとか言っていいからミモルのいるべき場所に帰るんだよ」


 ポカンと口を開いたまま、見つめるミモルに対してセシリアは笑顔を見せる。


「さてと、ペティそろそろ町へ視察の時間だから行こうか」


「げっ、あたいも行かなきゃだめか?」


「ペティが行かなくてどうするの」


 椅子にふんぞり返っていたペティが、めんどくさそうに答えるとセシリアは頬を膨らませ怒る。


「はいはい、総長行きますよー。ファラとノルンも準備して」


 カメリアが手をパンパンと叩き渋るペティを立たせると、ミモルに近づく。


「姫、ミモルも連れて行くんでしょ?」


「ミモルは私と一緒の方がいいでしょ。ちょっと息苦しいかもしれないけど一緒に行こうか」


 セシリアの伸ばした手を思わず握ったミモルが立ち上がると、ファラとノルンがやって来てロングのケープコートを羽織らせ、頭にボンネット帽子を被せる。

 ボンネット帽子のあご紐を結ぶファラが、後ろに下がっていろんな角度からミモルを観察する。


「もっとこう、フリルとか付けたら可愛くなりそうなんだけどなぁー。コートも男物だし、尻尾も隠すんじゃなくて、生かしたファッションとかありだと思うんだけどな」


 尻尾と耳を隠したミモルの姿を見て残念そうにファラが呟く。そんなファラとは対照的に、大きな服を着せられて困惑するミモルにセシリアが微笑みかける。


「耳と尻尾が見えるとミモルに敵意を向ける人もいるから、苦しいかもしれないけど我慢してくれる?」


 ボンネット帽子をペタペタさわるミモルは、セシリアの言わんとすることに納得して、セシリアを真っ直ぐ見て小さく頷く。


「分かった。問題ない」


「じゃあ、行こうか」


 セシリア率いる賑やかな視察団はこうして町へと向かうのだった。

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