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第21話 冒険者としての一歩を

「セシリアさま~!! お帰りなさ~い!!」


 宿屋の前に停まった馬車から降りたセシリアに猪突猛進の勢いで突っ込んできたのは宿の娘であるラベリである。


「お怪我はありませんか? お疲れですか? お食事? お着替え? 湯浴み? あれれ? なんですその立派な剣は?」


 まず一番に気付きそうなものなのに、ひとしきりセシリアに抱きつきクンカクンカして満足してから聖剣の存在に気が付いたラベリが不思議そうにセシリアを見る。


「えっと、なんだか成り行きで王様から譲ってもらったんだ」


「ほへぇ~、さすがセシリア様です! そんなお高そうな剣を頂くなんて王様から気に入られたのですね! 私も鼻が高いです!」


 長い眠りについていた聖剣を目覚めさせたなどと説明する必要はないだろうと簡単に説明をすると、ラベリは腰に両手を当てふんぞり返り自慢気に言い放つ。自分のことでないのに凄く誇らし気に話すラベリに苦笑しながら宿の中へと向かう。



 ***



「ふぅあーーっ!」


 部屋に入りたがるラベリを追いやってようやく一人になったセシリアは、なにか叫びたくて変な声を出しながらベッドに倒れ込む。


『今の声は可愛かったぞ。それに今の姿もなかなか良い』


 倒れ込んだベッドに顔を埋めたままだが、頭に声が響いてくる。


「ったく、変な剣まで手に入れてしまって、これからどうすればいいんだよぉ~」


『変な剣とは酷い言いようだな』


 埋めていた顔を横に向けて倒れ込む際にベッドに投げた聖剣シャルルを睨む。


『うむ、その表情よいっ』


「あぁ~駄目だこの剣。本当にどうしよう~」


 話が通じなさそうな聖剣シャルルにセシリアは頭を抱えてゴロゴロ転がり始める。


『セシリアは冒険者なのであろう。ならば迷うことはないだろう。冒険者として生きればいいではないか』


「そ、そうだ……冒険者なんだから普通にクエスト受けてこなせばいいんだ」


 転がるのをやめハッとした表情になるセシリアだが、直ぐにシャルルを睨む。


「って突然真面目に答えれるなら初めから答えてくれればいいのにぃ。調子狂うなまったくもぉ~」


 頬を膨らませ不機嫌な顔をするセシリアの可愛さにぞくぞくしている聖剣シャルルだが、あまり言うとやってくれなくなりそうなので黙っている。

 本人が意識せず自然体でやるからこそ意味があるのだと、聖剣シャルルは知っている。


「でもありがと、とりあえず明日から装備を整えてクエスト受けてみるよ」


 お礼を述べながら笑顔を見せるセシリアに『たまらん』などと言いそうになるが、グッと堪えた聖剣シャルルは、


『ああ』


 とだけ短く答える。


 (これは思っていた以上に当たりかもしれん。我が身、男の娘と共にあらんことを。)


 そんな訳の分からない誓いを隣でしているなどとは知らないセシリアは、気が楽になったのか鼻歌を歌いながら上機嫌な様子。


 ノック、なんてものはなくドアがぶち破れん勢いで開きラベリが転がってくる。


「セ、セシリア様!! それ、その剣! あっ、ご一緒します」


「ちょ、ちょっと! なんで隣に来るの! ああっ匂わないで、深呼吸しない!」


 派手な登場から一転、セシリアがベッドに寝転がっているのを発見すると素早く横に寝そべる。すぐさまクンカクンカとベッドを嗅ぎ始める。


「う~ん、セシリア様の匂い」


「ちょっと、その言い方やめてほしいんだけど。それよりなんか言いかけてなかった?」


「ああ、そうです。その剣、聖剣なんですね」


「へ? なんで知ってるの?」


 一言もそんな説明はしていないのに聖剣の存在を知っているラベリに驚いていると、ラベリが紙を取り出しセシリアの前に差し出す。


『聖剣を手にして聖女となった聖女セシリア誕生を祝う~聖誕の日~のお知らせ』


「なんだこれ……」


「聖女セシリア様の誕生を祝う国民の祝日制定のお知らせですよ。明日から聖誕祭と称してお祭りもあるみたいですよ」


 いそいそと近付いて来てセシリアに並んだラベリが説明してくれる。かなり近いので横にちょっとズレるとその分詰め寄ってくる。

 性格は置いといて女の子にここまで接近されることはあまり心臓によろしくないので、セシリアとしては離れて欲しいのだがラベリにその意思はなく、あきらめて意識しないようにして一緒に紙を見ることにする。


 紙に書いてある文字を読めば読むほど頭が痛くなったセシリアが、頭を抱える。


「こんなので冒険者として出発できるのかな……」


「セシリア様を祝うお祭りですから、セシリア様はみんなの前に出たりするんですか?」


「そこは出なくても大丈夫みたい」


 書いてある内容に聖女セシリアの誕生を、セシリアに想いを馳せ祝おうと書いてあるから本人が民衆の前にでる必要はなさそうである。あっても出るつもりはないが、自分の祝日制定の現実に頭が痛くなるのである。


「むふふぅ~私はいつもセシリア様のこと想っていますよ」


「そ、それはどうもありがとう……」


 セシリアの顔に触れそうなくらい間近で笑うラベリの顔を直視して思わず顔が熱くなったセシリアは顔を逸らしてしまう。


 (本当にここからどうすればいいんだろう。)


 心の中で大きなため息をつきながら今後のことを考えるとさらに頭が痛くなるセシリアであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これもしかして元の聖剣の持ち主も男の娘だった可能性が…? もしくは変態
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