第203話 聖女ここに!!
雲が厚く月のない夜空が広がるファーゴ城の最上階にあるバルコニーに立ったセシリアが、聖剣シャルルを天に向かってかかげる。
剣先を天に向けた聖剣シャルルが周囲の魔力を集めると紫色に輝き始める。その光は段々と強く大きく膨らんでいく。
ファーゴ城で輝き始めた神々しい光に人間が、膨大に膨れる魔力の前に魔族が手を止める。さらに膨らんでいく光と魔力に戦闘をしていた者たちだけでなく、王都に住むものたちの多くが城の上を見上げ注目してしまう。
ファーゴ城の上で大きく膨れた広がった光だが、突然逆再生のように城の上に戻り始めたかと思ったその瞬間、目もくらむ光を放ちながら天に向け紫の光が昇る。
ファーゴ城から立ち昇った光は雲を突き抜け、上空で弾け大きく円状に広がっていく。
周囲にあった雲を吹き飛ばしながら紫の光は、地上に夜とは思えないほどの光をもたらしながら広がっていく。
光が広がったあとに雲に隠れていた月があらわになり、優しい光を地上に降りそそぎ始める。
眩い光から一転、月夜の優しい光に照らされ始めた地上で誰かが呟く。
「聖女セシリア様が放つ光の輝きは紫色だと聞いたことがある……」
その声に自分も知っているぞと声が上がり始め、
「つい最近、フォティア火山で聖女セシリアがフレイムドラゴンを討ったと噂されたときも同じ光を見た」
との声に自分も見たと興奮気味に人々は話し始める。
夜中にもかかわらず騒がしくなっていく町をファーゴの兵や冒険者を引き連れたエルフの少女たちが声を上げながら駆け抜ける。
「聖女セシリア様によって、ファーゴ城は解放されましたぁー!! 喜ぶのはいいですけど怪我しないようにお願いしまーす!! あとー魔族の人いらっしゃったらファーゴ城に向かってくださーい。人間の人たちは魔族の人に手を出さないでくださいね。聖女セシリア様が魔族の人を探してますので怪我とかさせちゃダメですよー!!」
聖女セシリアによってファーゴ城が解放されたこと知った人々が、不安から解放され家や物陰から飛び出てきて盛大に湧き上がる。
お祭りでも始まったかのような騒ぎを背にファラたち三人はワイキュルを走らせ、セシリアの勝利を町中に伝えて行く。
***
セシリアが放った魔力の光は空で広がり、遥か遠くまでその存在を知らしめる。
フォティア火山で傷を癒すため伏せていたフレイムドラゴンのフォスが巨大な魔力の柱の存在に気づき首を上げると、口角を上げ笑い目をつぶり静かに寝息を立てる。
フォティア火山を中心に住む、ユニコーンのラファーが、コカトリスのピエトラにバジリスクのウーファーもそれぞれの場所から空を見上げる。
ミストラル大森林からも見える光の柱に、エルフのアンメール女王が本を閉じるとロッキングチェアに揺られながらその光を見て微笑む。
各地にいるセシリアと関わった人たちが光の柱を見て、聖女セシリアの存在を強く感じるのである。
そんななかある者が騒ぎに跳び起きて、もう一人寝ぼけている人をベッドを蹴り飛ばしたたき起こす。
「アメリー、寝てる場合ですか!」
寝ぼけているアメリーの頭を叩きながらラベリが外へ連れて行くと、紫の光の柱と空に円状に広がる紫の光を見上げる人たちであふれていた。
「セシリア……生きてたんだ」
「当たり前です! セシリア様がやられるわけないんですよ!!」
行方不明になっていたセシリアの存在を感じ涙を流すアメリーとラベリが抱き合って、親友が無事だったことを喜ぶ。
***
人間や一部の魔物が好意的に聖女セシリアの放った光を見つめるなか、ミストラル大森林から帰る途中のメッルウは夜空に翼を広げ浮いたまま、その光を見て歯ぎしりすると光に向かって飛んでいく。
各地の城にいた、オルダーとザブンヌも仲間の魔族たちと聖女セシリアの放った光の柱を見上げ黙ったまま静かに殺気立つ。
そして、強大な魔力を感じて起きたドルテは、窓の前に立ち赤い瞳に紫の光を映しながら微笑む。
「セシリアお姉様、やっぱりわたくしの闇から脱出していたのですね。この光は宣戦布告でしょうか? 人間の希望であるあなたが立ち向かうと言うのでしたら、わたくしも魔族の希望であるため立ち向かいましょう」
赤い瞳を輝かせドルテは決意を呟きながら、魔剣タルタロスを手に取る。
***
夜空の雲を吹き飛ばし、月をあらわにしたセシリアの力を目の前にして近くにいた魔族だけでなくリュイとペティも目を丸くして驚きの表情でセシリアを見つめる。
「さて、行こうか」
聖剣シャルルを鞘に納めたセシリアが声を掛け歩いて行く先には、城の広間にネブラによって集められた魔族たちがいた。
「これで全員ですか?」
「戦闘に特化した魔族はまだ数人集まれていないが、九割方集まっている。あとは居住区の魔族なのだが……」
「それは大丈夫なはずです。仲間が連れてくるはずですから」
そのタイミングでドアが開き、カメリアが居住区に住んでいた魔族の人々を引き連れてやってくる。
セシリアが集められた魔族たちの方を見ると、先ほどのセシリアが放った魔力の力を感じてか、みなが萎縮し怯えた目でセシリアを見る。
「はじめまして、セシリア・ミルワードと申します。不安も大きいでしょうがみなさんを傷つけたりはしませんので安心してください」
優しく微笑みながら言うセシリアに、まだ緊張感の拭えない表情ながらも耳を傾ける。
「みなさんには、隣国フォンネージに用意してもらった村に行ってしばらく生活してもらいます」
セシリアは隣にいるネブラに目をやると、ネブラは頷く。
「我らは負けた身であるが、聖女セシリアはそんな我々に避難場所を与えてくれると言う。聖女セシリアのことを知らず不安の大きな者も多いだろうが、だまし討ちをしたり酷いことをする人間ではない。我を信じてついて来てもらえないか」
ネブラの言葉にまだ不安を拭えない様子の魔族たちだが、歯向かう力も気力もない今、否定も賛同もせずしかたなくうつむく。
「不便な生活を強いることになりますが、しばらくの間我慢してもらえますか?」
申し訳なさそうに言うセシリアに対しネブラは首を横に振る。
「敵同士として出会い、本来なら命を奪われても仕方ない立場。それを拘束するどころか住む場所を提供してくれることに感謝こそすれども、文句を言うわけがないであろう。へりくだって言う必要はない、堂々としてくれ。その方が我らも慈悲を受けやすいというものだ」
ネブラに感謝の言葉を述べられ、セシリアは微笑んで静かに頷く。
***
聖女セシリアによるファーゴの解放。この事実は瞬く間にサトゥルノ大陸中に広がる。各地で配られる新聞には聖女セシリアが天に向かって聖剣シャルルを構える姿がはっきり映った写真が掲載されている。
詳しい詳細と、聖女セシリアが他の国々も解放していくと宣言していること、だから不安を感じず待っていて欲しいこと、そして自分が来るまで魔族に対して攻撃などはしないようにと書かれていた。
詳細が書かれ、なによりも聖女セシリアがハッキリと映った写真の掲載された新聞を見て、食堂に座っていた記者のアークがニンマリと笑みを見せる。
「我ながらいい記事だ。今回のボーナスは期待できそうだ」
アークは新聞を畳むと椅子から立ち上がる。
「魔王討伐までは近くで書かせてもらうとするか。前職がここで生きるとは人生とは分からないものだな」
ふっと笑いながら呟いたアークは食堂をあとにする。




