第202話 霧を捕らえるは蜘蛛の糸
セシリアとネブラが聖剣シャルルと大鎌をぶつけ合うのを合図に、リュイとジョセフも参戦する。
ネブラの大鎌をセシリアが受け止めた瞬間、リュイがナイフを投げジョセフが斬りかかる。
二人の攻撃が当たる、そう思った瞬間ナイフは明後日の方向へ飛んで行き、ジョセフの攻撃は空を斬る。
「彼のスキルは『空間屈折』です! 攻撃をズラされているか、彼自身の位置がズレている可能性があります!」
セシリアの助言に先に反応したジョセフが、空間に魔力の線を引き始める。
それらをネブラは体の一部を霧状に変化させ器用に避けて行く。
避けるすきを狙ってナイフを投げるリュイだが、ナイフは霧状のネブラに当たることなくすり抜けていって壁に当たって床に落ちてしまう。
「なるほど、たとえ霧状で物理は当たらなくても、魔力を帯びたものは嫌うみたいですね。ならばやりようはあると言うことです」
セシリアの一撃を大鎌で受け止めたネブラを見てジョセフが呟く。
「つまり、私が魔力で押しつぶせば体が霧になろうと攻撃を与えることができると言うわけですね」
セシリアが聖剣シャルルに集めた魔力を燃やし強引に受け止められた大鎌ごとネブラを振り払う。
セシリアに吹き飛ばされてしまうが、ネブラは空中で霧状になって留まると、大鎌を振り下ろす。その大鎌をセシリアを守るため前に出たジョセフが受け流しつつ、ステップを踏みレイピアで突きを放つ。
頭を傾け突きを避けるネブラに対し、ジョセフが突きを次々と休みなく繰り出していく。それらを避けていくネブラだが、連続で放たれる攻撃の前に受け止めきれなくなった突きを大鎌で受けようと振ったとき、手に持った大鎌の軌道がジョセフが繰り出す突きとは関係ない方へ流れてしまう。
驚くネブラのこめかみにジョセフの突きが当たる。そのタイミングを狙って、真上から翼を広げ落下してくるセシリアが振り下ろす聖剣シャルルの一撃を、体を霧状にして逃げるネブラだったが、ジョセフがここまで攻撃しながら引いた魔力の線に触れた霧がバラバラに流れてしまい元の形に戻らなくなる。
四方に散った霧が慌てて戻ろうとするところを、セシリアが横に振った聖剣シャルルの一撃が、まだ霧にはなれていなかった大鎌を弾き飛ばす。
逃げながら必死に空中で集まった霧が右手を押えるネブラの形を作る。
「滑る……それがそこの剣士のスキル。なるほど面倒だが、我もレイスの端くれここで負けるわけにはいかないのでね」
ネブラが広げた手のひらに丸い魔力の大きな球を生み出すと、そこから魔力の小さな弾が連続で射出される。
連続で飛んでくる拳大の魔力の弾をセシリアたちが避けたあとに、柱や壁、床が砕け小さなへこみができていき、魔力の弾の威力を物語る。
一旦収まったかと思ったのも束の間、再びネブラの手のひらに魔力の球が生み出されそこから魔力の弾が射出される。
「魔力の枯渇を狙う前に、こっちが避け切れなくなってしまうのが先かも」
柱の陰に隠れたセシリアが、呟いた瞬間ネブラの放った魔力の弾が空中で揺らいだかと思うと、軌道を変えセシリア目掛け飛んでくる。
「うそっ!?」
紫の魔力をまとったアトラが影を伸ばし、魔力の弾を弾く間にセシリアは翼をひろげ後ろに飛んでいく。
そこ目掛け次々と飛んでくる魔力の弾を、聖剣シャルルで振り払うセシリアのもとにジョセフが駆けつけレイピアで受け流していく。
「『空間屈折』とはまた厄介なスキルですね」
レイピアに付与した『潤滑』で受け流すジョセフの額に汗が流れる。
魔力の弾がセシリアとジョセフに集中したすきに、隠れていたペティが柱に手を付け魔力を伸ばし別の柱に手を付ける。そうやって柱や床に引っ付けては魔力の糸をあちらこちらに引いていく。
それに気付いたネブラが魔力の弾をペティ目掛け放つが、間一髪でリュイがペティに飛びつき魔力の弾を避ける。
「我をエルフの魔力の糸で捕えようと言う算段かもしれないがそうはいかない」
リュイに飛びつかれ転がったペティだが素早く立ちあがると、再び床に手をつき走って魔力の糸を張っていく。
ペティを目で追うネブラに向かって、翼を広げ飛んできたセシリアが振るった聖剣シャルルを避けつつ、ネブラは魔力の弾を放って全員に向かって攻撃を繰り出していく。
弾を避けつつセシリアが聖剣シャルルを連続で振るって、ネブラの攻撃を阻止つつ押し切って行く。
「なるほど、我を追い込んで捕らえようと。だがそうはさせん!」
セシリアの振るう斬撃の軌道と、ペティが張った魔力の糸の位置を確認したネブラが大きく後ろに下がりつつ、手のひらに生み出した魔力の球から放たれるのは太い魔力のビーム。
空中にいたセシリアは魔力のビームをとっさに聖剣シャルルの刀身の腹で受け止めて耐えてみせる。
「さすが聖女セシリア。だがっ!」
ビームが放たれるにつれ小さくなっていく魔力の球から、別の小さな魔力の弾が生み出され、ビームを受け身動きの取れないセシリアの真横から襲い掛かる。
高く跳んだジョセフが小さな弾を受け流し、受けきれない分はセシリアの周りを一周走ったアトラの影が弾いて行く。
「やるっ、だが我の魔力量をなめては困るな」
間髪入れずに魔力の球を生み出すネブラだが、空中にいるセシリアの下で弓を引くリュイに気がつく。
人に放つ矢など脅威でもないネブラが「牽制か?」そう一瞬思ったとき、リュイの連続で放った矢がネブラの上下左右を抜けていく。
ネブラが違和感に気がついたとき、矢の影を掴んだアトラによって抜けていった数本の矢は一斉に軌道を変え、ネブラの背後でカーブを描き、ネブラを包むように胸の中心で交差する。
「しまった!?」
リュイが放った矢にはペティの『粘着』つきの魔力の糸が引っ付いており、その糸に捕らわれたネブラが焦った声を出すが、それは糸に捕らわれたことに対する焦り。
既に矢と共に飛んできたアトラに掴まれていることにまでには気づけていない。
セシリアの持つ聖剣シャルルが輝きを増したかと思うと、伸びた影を伝ってネブラまで魔力の線が引かれる。
「終わりにしましょう」
セシリアの一言にネブラは自身の敗北を悟り、空洞の目に宿る赤い光を小さくする。
瞬間強く光り、影を伝って走る魔力に焼かれたネブラが立ったまま気絶する。セシリアが影を手繰り寄せ引っ張ると、ペティが下に引いていた魔力の糸に落ちてネブラを完全に捕らえる。
まるで蜘蛛の巣に引っ掛かったような姿のネブラの目に赤い光がまたたくと、ゆっくりと光が大きくなる。
「また我の負けだな……」
「前回はネブラさんを捕らえる方法がないって言いましけど、今回はあったのが私の勝因です」
セシリアの言葉にふっと笑うネブラが項垂れていた顔を上げる。
「今回こそ我を討つか」
ネブラの問いにセシリアは首を横に振る。
「前にネブラさんは、情けを掛けた恩は忘れないって言いましたよね?」
そう言ってニンマリと笑うセシリアに、ネブラが目の赤い光を大きく広げる。
「と言うわけで、恩をここで返してもらおうと思いますから色々とお願いを聞いてもらいます」
「魔王様の命を脅かすようなことはできぬぞ」
「私は魔王を討つ気はありませんから大丈夫ですよ。それよりも今ここで起きている人間と魔族の衝突を止めたいんでネブラさんからも言って説得してもらえますか?」
セシリアの発言に驚きさらに目の光を大きくしたネブラだが、下を向くと肩をすくめる。
「本当に、本当に敵わんな。聖女とはこんなにも大きな存在なのか……」
そう言って口を大きく開けたネブラはおかしそうに笑う。




