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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
封剣カシェと使い手の思い

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第192話 上陸レシフ島

 クラーケンに巻き付かれ損傷した甲板や船内では、忙しそうに船員たちが走り回り応急処置をしている。それを手伝う兵や冒険者たちも合わさり、慌ただしくしているがその表情はみな明るく生き生きとしている。


 リュイやペティたちと一緒に歩くセシリアが通ると、みなが足を止め挨拶をする。セシリアに優しく微笑み挨拶を返されると嬉しそうにして、テンション高く作業に戻って行く。


「姫、姫。最後の一撃凄かったぁ!! 姫の声が聞こえてからバーッて走ったかと思ったらブワッて飛んで、ズドーン! でクラーケンやっつけるし」


 歩きながら両手を広げて、クラーケン戦におけるセシリアの活躍を語るファラに続きカメリアが語り始める。


「私も船のなかの窓から見てたけど、まさか槍を切って飛ばすなんて思ってもみなかったもの。さすが姫よねー」


「姫はすごい。魅力もマシマシで船員たちも夢中」


 ノルンも負けじと割り込んで来るが、その言い回しにセシリアは困ったように笑う。


「みんなが考えてくれた作戦があってこそだよ。まさか船をあんな方法で起こして、攻撃までするなんて思わなかったもの。みんな本当にすごいよ」


 セシリアを称えていたら逆に褒められて照れる三人の近くで、一人黙っているペティの顔をセシリアが覗き込む。


「どうかした?」


「あ、ああ……ちょっと考えごとしてただけだ」


 歩きながら自分の手を見ていたペティだが、突然覗き込んできたセシリアと目があって慌てて足を止め答える。そんなペティを見て微笑んだセシリアが再び歩き出すので、ペティも続いて歩き始める。


「そっか。ペティも沢山の人助けて凄かったよ。おかげで多くの人が海に落ちずに済んだんだから。船員さんたちもペティに感謝していたよ」


「あ、うん、そうか。そうだよな。ありがとな」


 歩きながら話すセシリアをじっと見ていたペティだが、ふっと笑うと、お礼の言葉を口にする。それにセシリアが頷いて答えると、そのままリュイの隣へ並ぶ。


「リュイもお疲れ様。今回も沢山助けてくれてありがとう」


「い、いえ。私は別になにも……」


「リュイがそう思わなくても、私は思ってるからお礼は言わせてもらうね」


 恥ずかしそうに首を横に振ったリュイはさらにセシリアに褒められ、顔を赤くして下を向いてしまう。

 楽しそうに話すセシリアたちの様子を後ろから羨ましそうに見るジョセフと、その後ろを歩くニクラスがいる。


 そんなセシリアたちの前に、数人の船員を引き連れたヴァーグ船長が向かって歩いて来る。


 セシリアたちの行く手を塞ぐように足を止めたヴァーグ船長たちに、セシリアたちも足を止め向かい合う。


「ヴァーグ船長、怪我をされたと聞いていますが、お体は大丈夫なのですか?」


 先に口を開いたセシリアにヴァーグ船長が静かに両膝を立て、そのまま正座をすると両手をついて頭を下げる。それに続き取り巻きの船員たちも続いて床に座って頭を下げる。


「数々の無礼、申し訳ございません。海の女神ティアス様の加護により我々の船トリヨンフローレを救って下さったこと、どれだけお礼の言葉を並べても並べ足りません。加え私の体まで心配してくださるとは、感謝の極みでございます」


「え、えっと……女神ティアスとは?」


 いきなり土下座をされた上に、女神ティアスなる名を呼ばれ困惑するセシリアの耳元でファラがささやく。


「なんかおじいちゃん船長、姫のこと海の女神だって信じてるみたい」


「う、うーん。このパターンか……これ以上新しい肩書や名前はいらないんだけどなぁ……」


 ファラの説明で、ヴァーグ船長がこうなった経緯を察したセシリアが困った顔で、小さなため息をつく。


(否定しても疲れるだけだし、適当に流しておこう)


 自分でもずいぶんと適当になったものだと思いながら、セシリアは女神の呼び方には突っ込まず、ヴァーグ船長の方を向き話し掛ける。


「船体の状態はどうでしょうか? レシフ島への渡航は可能でしょうか?」


此度(こたび)のクラーケン討伐による船体のダメージは大きいですが、ここからでしたらエキュームに戻るよりもレシフ島を経由し、ジルエット王国の港アントワールに向かい造船所で修理を行う方が距離的にも最適な選択と判断いたしましたので、予定通りレシフ島へ向かいます」


「そうですか。みなさんお疲れでご負担を掛けますが、よろしくお願いします」


「お気遣いいただきありがとうございます。我らトリヨンフローレの船員一同全身全霊を持って女神様のために尽くすことを誓います」


「あ、いえ……無理はしなくてもいいですから。船もそうですが、ヴァーグ船長をはじめ船員の方々も疲れているでしょうから」


「勿体ないお言葉。寛大なお心に感謝いたします」


 なにを言っても感謝される状況にうんざり気味のセシリアは、やや引きつった笑みで頭を下げヴァーグ船長との会話を切り上げようとする。


「女神様」


「な、なんでしょう?」


 その場から離れようとして呼び止められたセシリアが振り返ると、相変わらず正座をしているヴァーグ船長がセシリアをジッと見つめる。


「この船の名をラ・デエスセシリアと名前を……」


「トリヨンフローレのままでお願いします」


 なにを言おうとしたのか理解したセシリアは、ヴァーグ船長が言い切る前に言葉を遮る。悲しそうな顔でしょんぼりするヴァーグ船長を置いて、セシリアはその場を後にするのである。



 ***



 レシフ島はエキューム国の北側、ジルエット国の南方に位置する島で、そんなに大きくはない無人島である。

 島の周辺はゴツゴツとした岩が広がる遠浅な海岸が続き、トリヨンフローレクラスの大型戦艦はもちろん小舟でも島から遠く離れた位置までしかたどり着けない。

 そこからは歩くことになるが、中途半端な深さと歩きにくい岩が続く遠浅な海岸、押し寄せる波に上陸するのには苦労させられる。


 セシリアたちは数隻の小舟にそれぞれワイキュルを乗せ、ワイキュルによる上陸を計画する。


 同じく船に乗っていた、馬のラボーニトがワイキュルたちが貨物室から連れて行かれるときに不服そうにするのを(なだ)めたのを思い出しながら、頭にグランツを乗せたセシリアも小舟に乗り込む。


 トリヨンフローレの船員によって進む小舟は近付ける限界の位置までくると、(いかり)を降ろし停泊する。セシリアと一緒に乗っていたペティの誘導でクリールが船から降りて遠浅な海岸に足を付ける。


「思ったより深いけど、いけそうか?」


 ペティの呼びかけに、膝上まで海に浸かっているクリールが足を上げたりしながら状態を確かめるとゴウっと低い声で鳴く。


 ペティの手を借りてクリールの上に乗ったセシリアは周囲を見渡す。ファラの後ろに乗るリュイとカメリアの後ろに乗るジョセフ。ノルンの後ろに乗るニクラスの姿を確認したあと、セシリアはカメリアに話し掛けようとしたジョセフをにらんで牽制する。


 慌てて前を向くジョセフに呆れたようにため息をついたセシリアを乗せ、ペティはクリールを歩かせ始める。

 最初こそ慣れない塩水に加え、波のある海に苦戦しながら進んでいたが、段々とコツを掴んできたのかスピードを上げて進み始める。


 程なくして上陸したワイキュルたちは、陸上に足を付けたことが嬉しかったのか勢いを増し元気に走り始める。

 僅かな砂浜を抜けゴツゴツの岩を超えると、緑の草が覆い茂りすぐに低い木が所狭しと並ぶ森が目の前に現れる。


 砂浜も、岩もあっという間に到達し草むらを抜け、森へと入るワイキュルたちは久々の森の感覚を楽しむかのようにさらにスピードを加速させていく。


「本当にワイキュルって走るのが好きなんだね」


「クリールたちはとくに走ることが大好きだからな。森を出てこうして色んな所を走れるって意味では、あたいら以上に喜んでるかもな」


 ペティの話を聞いたセシリアはクリールの背中をそっと撫でる。そして上を見上げると、低い木の間から差し込む日の光に照らされ、見たこともない植物の(つた)や花、聞いたこともない鳥らしき鳴き声が聞こえてくることに気づく。


 時々茂みを揺らし、去り行く存在にも自分がまだ見たこともない、動物や魔物なのかもしれないと思うとワイキュルではないが、新たな場所に来たんだとセシリアも少し気持ちが(たかぶ)るのを感じてしまう。


『セシリア、微弱だがカシェの存在を感じる』


 周囲を観察していたセシリアの頭に、いつになく緊張した声色の聖剣シャルルの声が響く。


「グランツ方向分かる?」


 セシリアの背中に引っ付くグランツに声を掛けると、グランツは目をつぶり集中する素振りを見せる。


『シャルル先輩たちの魔力は感知が難しいので断言はできませんが、ここより北西の方角かと思われます』


 グランツの報告に頷いたセシリアが、ペティたちに方角を伝える。そのまましばらく北西の方角へと向かうと、地面が段々と柔らかくなってきていることに、ワイキュルがやや歩きにくそうにすることで気が付く。


 慎重に進むと地表の上に水たまりが現れはじめ、水たまりから段々と地表スレスレを水が流れはじめる沢が現れる。


 沢は段々と広がりやがて大きくて遠浅な池が現れる。


 いつの間にか頭に上を覆っていた木々はなくなり、ポッカリと開いた空間に広がる池は大きく、映し出された空がそのままそこに存在するかのような錯覚を覚える。


『カシェ……』


 聖剣シャルルの呟きにセシリアが目を向けると、池の中心に刺さっているであろう剣のシルエットが見えた。


 池の中央に刺さる剣は、持ち手が青いのか、池の水に反射した空に照らされてなのかは分からないが青く輝いており、それはまるで池の中央に咲く一輪の青い花のようにも見えた。

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