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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
封剣カシェと使い手の思い

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第191話 クラーケンしめっ!

 セシリアがマストの場所に飛び降りたあとペティは、頭上で揺れるクラーケンの巨大な足を見上げる。

 左右ではそれぞれ二本の足と、二本の触腕を相手するジョセフとニクラスがいる。必然的に残り一本がペティの頭上で揺れることになる。


「逃げ回って時間稼ぎ。つーかそれしかできねえし」


 ペティが意を決するのを待ってくれたかのようなタイミングで振り下ろされたクラーケンの足を、クリールを走らせ避けつつ手のひらに作った『粘着』つきの魔力の球を投げつける。

 船体にめり込んだクラーケンの足に引っついた魔力の球は粘着を付与するが、クラーケンの足を止めるには力不足で、足止め出来ずに引きちぎられてしまう


 めり込んだまま真横に振られ、船体を削りながら迫ってくる足を、クリールが大きく跳ねて飛び込えて避ける。


「あ、あぶねぇー」


 胸を押えて安堵するペティに横払いしたのとは別の足が、斜めに振り下ろされる。クリールが船体を蹴り大きく後ろに下がって避けたところを、更に別の足が襲い掛かってくる。


「うそだろっ!?」


 避け切れないと立ち止まってしまうペティの前に滑り込んできたジョセフが空中に魔力の線を引き、空中でクラーケンの足を滑らせ軌道をずらす。


「大丈夫ですか」


「あ、ああ。ありがと」


 お礼を言うペティに歯を光らせながら笑顔を見せたジョセフが、さらに空中に数本の線を引き足を逸らしていく。


「すげぇな……」


 感動の声をもらすペティの手を、いつの間にか近付いてきたジョセフが握る。


「私の勇姿に見惚れるのは仕方ありませんが、ここは危険です。美しきペティさんが怪我をしては大変です。さあ、ここは私にお任せを」



「なあ、ちょっと興味あるんだがいいか?」


「おおっ、私に興味を持たれるとは自覚はありますが私も罪作りな男です。セシリア様という心に決めた人がいますが、来る者を拒むような小さな男でもありません、クラーケン退治が終わりましたら少しお互い知り合うなんてのも素敵ですね。是非とも甘いひと時を過ごしてみませんか」


「あとじゃなくて、今すぐ知りたいんだが」


「おおおっ!? なんと積極的なのでしょう! ペティさんの熱い思い、このジョセフ受け止めてみせましょう!」


 両手を広げてペティを向かい入れる姿勢を取るジョセフの手をペティが掴む。


「なあ、どうやってスキル使ってるんだ? なんで空中にスキルを乗っけた魔力が引けるんだ?」


「あ、えっと……スキル? 興味って私を思っているとかじゃなくて?」


「どう思うか? あぁよく喋るうるさ……面白いヤツとは思ってるけど。それよりスキルの使い方教えてくれないか?」


 途中、うるさいを面白いに言い換えられ、気を使われたことにも傷つくジョセフが顔に影を落とし目線を下に向けたままペティの質問に答える。


「魔力を放出すると同時にスキルを掛けるんです。魔力は個人の持つ質にもよりますが、紙に線を引く感じで引けば空中に残すことができます。練習は必要ですが」


「へぇ~、練習してみるか。あんがとよ」


 お礼を短く言ったペティが去って行くのを見送ったジョセフは、悲しみにくれながら迫る足を受け流していく。

 後方でジョセフが悲しんでいることなど気にすることもなく、ペティは手のひらに魔力を放出し始める。そのまま手を振ってみるが、スキルが付与された球が関係ないところへ飛んで行ってしまう。


「上手くいかねえな。練習あるのみか」


 手のひらを見て呟くペティを乗せたクリールが大きく跳ねて、クラーケンの足を避けたところでファラによる放送が船内、外に響く。


「「あー、あー。みなさん今からトリヨンフローレの船体を元に戻しつつクラーケンに一撃お見舞いするから、しっかり掴まっててよー。せーので始めるからよろしくねっ!」」


 およそ戦艦に流れる物言いとは思えない、緊張感に欠ける放送が流れたかと思うとすぐにファラの言葉が響く。


「「はい、じゃあいくよー。せーの!!」」


「準備する間も無しかよ! あいつ無茶苦茶しやがる!」


 文句を言いながら慌てて船体の内側に飛び込み、壁に向かって落下するペティたち。


 そんな彼女たちの真上に紫の光が真っすぐ上がると、翼を広げたセシリアが聖剣シャルルを振りかぶる。

 そして剣先に作られた大きな丸い魔力の球を剣を振って投げる。ゆっくりと飛ぶ魔力の球がマストの間を抜け、海面に当たる寸前にセシリアが二撃目に斬撃を放ち魔力の球を破裂させる。


 破裂して魔力の球が、海面から全方向に向かって強風をもたらし、マストに張った帆がそれを受け船体を右舷の方向に押し戻していく。


「「カメリアいっちゃえ!!」」


 風が吹き荒れるなか響くファラの声に、左舷にある大砲が火を吹く。大砲が放たれた衝撃と帆に風を受けたトリヨンフローレの船体は、巻き付いたクラーケンの足をめり込ませながらも強引に傾きを修正する。


「「リュイ、いま!!」」


 さらにファラの合図で、今度は右舷方向の大砲が火を吹き、しがみついているクラーケンにヒットする。大砲の直撃を受け引っ張られる足は、ここまで兵や冒険者たちがつけていた傷が広がり、うまく力を入れることができないクラーケンが船体から離れていく。


「今なら行ける!」


 空中で力を溜めたセシリアが聖剣シャルルを振り抜き放つ斬撃が、船体とクラーケンの間にできた隙間に向け飛び二本の足を切断する。

 二本の足が切れたクラーケンは大きくバランスを崩し、体を傾けてしまい左半身が海に浸かる。


 空中にいたセシリアが船首に向かって滑空すると、前方にある方向転換可能なアンカーのもとに飛び降りる。

 ハンドルをアトラのサポートを受けながら回すと、クラーケンに狙いを定め射出用レバーを引く。


 太いロープをシュルシュルと伸ばし飛んでいくアンカーは傾くクラーケンの胴体に突き刺さると同時に、飛んだセシリアがレバーを蹴ってブレーキを掛ける。


 海の青さと空の青が混ざりかけた海上に引かれた一本のロープが、トリヨンフローレとクラーケンを繋ぐ。



 ***



 セシリアが放ったアンカーを見たファラがパチンと指を鳴らして、壁に寄りかかって座るヴァーグ船長を見る。


「右に船体を切るときってこっちに回すので合ってる?」


「違う、そっちは取舵(とりかじ)だ。面舵(おもかじ)はこっちだ」


「あぁーもう専門用語分かんない。こっちに回せば船は右に向くってことで合ってる?」


「ああ、そうだ」


 呆れたように答えたヴァーグ船長はよろけながら立ち上がる。先ほどの攻撃で操舵室(そうだしつ)の壁を突き破って横たわっていたクラーケンの足も後退し、今は左右に開いた穴があるだけである。


 クラーケンの足が通って壊れた床の上をファラがジャンプして飛び越えると伝声管(でんせいかん)に向かって話し掛ける。


「次、船体を右に回しまーす。ノルンは帆の操作お願い。カメリアは合図待って待機してて!」


 放送を終えたファラがジャンプして戻ってくると、ステアリングホイールを握る。


「船を操縦したことなんてないから、テンション上がる~って重っ!?」


 ステアリングホイールに手を掛け回そうとして、その重さに驚くファラを見てヴァーグ船長が少し小馬鹿にしたようにふっと笑う。


「ヌクロンおいで」


 ファラがヌクロンを呼ぶと嬉しそうに寄ってきたヌクロンが、ファラの指示のもとステアリングホイールに噛みつき引っ張る。


「う~ん、いまいちだな。そうだ、蹴ったらいけるんじゃない?」


 ファラがヌクロンに飛び乗ると、ステアリングホイールの右側に立ち、手綱を引きヌクロンに右足を上げさせステアリングホイールの出っ張りに足を掛けさせる。

 そのまま体重を掛けて押すとステアリングホイールは大きく右に舵を切り始める。


「いけた、いけた! えーとなんだけっ? 右に曲がりまーす!」


 とんでもない舵の切り方に驚き声も出ないヴァーグ船長のことなど気にも留めず、ヌクロンが足で押さえている間に上から飛び降りたファラが館内放送を実施する。


 その声を聞いたノルンの指示でマストに張られた帆が風を捉えるように調整され、トリヨンフローレはゆっくりと右に舵を切る。加えてセシリアが放ったアンカーの刺さったクラーケンが起点となり、右に舵を切るトリヨンフローレは船首をクラーケンに向ける。


「これ、距離的に届くのかな? おじいちゃん船長! 船の先にある槍ってこの位置から届く?」


「誰がおじいちゃんだ……」


 文句を言いながら壁を伝って歩いて来たヴァーグ船長が、前方の窓に寄りかかって船首に目をやる。


「遠すぎる。この位置からではトリヨンランスはヤツに届かん。前進して近づかないと当たらん」


「え~、どうやって前進すればいいの?」


 ファラの質問に眉を動かし、イラっとした表情を見せたヴァーグ船長が外の帆の向きを見る。


「帆の向きを変えさせて前進させるしかないが、それよりもクラーケンのヤツが動き出したぞ」


 ヴァーグ船長の言葉にファラが船首を見ると、クラーケンがゆっくりと足を戻し船から距離を取ろうと後ろに下がり始める。アンカー付きのロープがあるおかげで、クラーケンが下がるとトリヨンフローレも一緒に引っ張られ前に進む。


「ヤツが一気に動けばアンカーは外れるか、最悪船が沈められるかもしれんな」


「えー、どうしよう。あ~ん、カメリアに相談? 総長の方がいいのかな?」


 焦るファラをあざ笑うヴァーグ船長に不穏な空気が漂い始める操舵室(そうだしつ)だが、伝声管(でんせいかん)から響くセシリアの声がその空気を一変させる。


「「ファラ! このままトリヨンランスを撃って!! あとは私がなんとかするから」」


「なっ! バカな。この距離じゃ先端も当たらんぞ。一撃しか使えないトリヨンランスを空振りさせるとか正気の沙汰じゃない!!」


 痛む胸を押え怒鳴るヴァーグ船長を無視してファラが指を鳴らすと、船首の下部行きの伝声管(でんせいかん)の蓋を開け声を掛ける。


「カメリア~聞こえる? うちの姫が撃っちゃっていいって」


「「りょうかーい! 撃っちゃうねー」」


 躊躇(ちゅうちょ)様子など微塵もないカメリアの声が返って来ると、ファラも迷わず操舵室(そうだしつ)の前方のガラスに張り付いて船首を見つめる。


「なんてバカなことをする。あれが最後の切り札になるやもしれんのだぞ」


「うちの姫がなんとかするって言ってるんだから、なんとかするよ。おじいちゃん船長も文句ばっかり言ってないで見ててよ」


 怒鳴るヴァーグ船長を適当にあしらったファラが船首を見つめるので、ヴァーグ船長も仕方なく前を見ると、甲板を高速で移動する翼を広げたセシリアの姿が目に入る。



 ***



 甲板を翼を広げ真っ直ぐ船首に向かって影を滑らせ進むセシリアは、両手に握った聖剣シャルルを構えて魔力をためていく。


「無茶苦茶なやり方だけど、これが一番確実に討伐できそうなんだよね」


『セシリアが言い出したときは驚いたが、我らはセシリアのため全力でサポートするだけだ。グランツ、アトラたのむぞ』


『お任せを』


『任せるのじゃ』


 三人の声を聞いたセシリアがふっと笑みを浮かべ「頼りにしてる」と呟くと、船首の前で跳ねる影を使って大きく飛び上がる。


 同時に船首から煙が上がり、トリヨンランスの柄が飛び出し巨大な穂先を突き出す。突き出し切る瞬間、飛び上がったセシリアが船体から突き出した柄を切ってしまう。


 飛び出した勢いを持ったままのトリヨンランスは船体から切り離され、クラーケン目掛け飛んでいく。その柄の上にある手すりを影が掴むとセシリアは飛んでいくトリヨンランスの上に立ち、そのまま先端に向け走って行く。


 飛んでくる巨大な物体にクラーケンが、墨の弾を吐くがセシリアがそれをはじく。さらに残った足を向かわせるが、トリヨンランスを中心に描く円の斬撃がそれらを全て斬ってしまう。


 穂先に立つセシリアが翼を広げ、左右の翼から魔力を噴出しながらトリヨンランスの軌道を修正していく。


「クラーケンの鮮度を保つために釣ってすぐに締めるのは常識! 大きくたって場所は変わらないはず!!」


 セシリアを乗せたトリヨンランスがクラーケンの目と目の間に突き刺さる。それと同時にセシリアが穂先から反対側、トリヨンランスの切り口に向かって走って行く。


 そして軽く跳ねて勢いよく反対側を踏んで刺さった穂先をやや斜め上に向ける。そのままもう一度飛んで一回転しながら、切り口を聖剣シャルルで思いっ切り叩く。


 眉間に刺さったトリヨンランスは、セシリアのダメ押しの一撃によって胴体の方に向かって深く食い込むと、赤さび色のクラーケンの体が一瞬で透明に変わり巨体がゆっくりと海面に倒れていく。


 海面に浮かぶクラーケンの眉間に刺さったトリヨンランスの切り口の上に立つセシリアが、聖剣シャルルを鞘に納めると笑顔を見せたあとスカートを摘まんでお辞儀してみせる。


 巨大なクラーケンに突き刺さった槍の上で、華麗に振る舞うセシリアの姿に船体全体が湧き上がる。


 そして操舵室(そうだしつ)でことの始終を見ていたヴァーグ船長は、口をだらしなく開けただただ驚きの表情を浮かべる。


「どう? うちの姫すごいでしょ。強くてカッコよくて、その上優しいんだから」


 喜びと興奮に頬を赤くしながら、自慢気に言うファラの言葉など聞こえないと言った様子のヴァーグ船長が口をパクパクさせている。


「あの姿……かつて海の化物を葬ったという女神ティアスにそっくりではないか……」


「女神じゃなくて姫だって」


 セシリアの姿に見惚れるヴァーグ船長の呟きに修正を入れるファラだが、その声は届かない。

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