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第2話 装備の修理は叶わなかったけど優しさと服をもらう

 受け付けのお姉さんが眉間にシワを寄せ薬草を凝視する。


「確かに依頼にあったポンポン草ではありますが……状態がよろしくないですね」


 お姉さんは淡々とそういいながら、葉っぱがボロボロになったポンポン草をトレーの上に置く。


「納品の依頼としては量も少ないですし、ちょっと状態が悪すぎなので、申し訳ないですけど達成率10%として処理させていただきます。では、冒険者カードの提示をお願いします」


「あ、はい」


 セシリアは腰の鞄に手を入れようとして、自分の手が空を切ったことに気付く。


 ズボンのポケット、胸元を探りパタパタと身体中を叩いて体中をまさぐる。


「な、ない……」


 セシリアが涙目でお姉さんを見つめると、お姉さんは大きくため息をつく。


「失効した……ということでしょうか?」


 こくこくとセシリアは頷くと、お姉さんは更に深いため息をつく。


「それではこの依頼を受けることはできませんので、まずは冒険者カードの再発行を行ってください。発行手続きの仕方は分かりますね?」


 セシリアは涙目で見返すが、お姉さんのうんざりとした視線が後ろをさしたことに気付き振り返ると、自分の後ろに並んでいる依頼の手続きを待つ大勢の人たちが目に入る。


 これ以上受付にいることは迷惑だと悟ったセシリアは大きく肩を落とすと、受付のカウンターから離れギルドの建物から出て外をあてもなく歩く。


「はぁ~」


 何度目のため息か分からないが、それでもセシリアはため息をつく。


 ポンポン草という綿毛が特徴の草は、名前の由来となった綿毛を傷口にポンポンと当てると光輝き傷を癒してくれる薬草である。

 深い傷は治せないが、綿毛が無くなるまで何度も使え長期保存が出来ることから重宝される。

 自生するポンポン草を取ってきて納品する簡単な仕事だとミルコに言われ、近くの草原に出掛ければ鳥の魔物シュトラウスが巣を作って繁殖していて、追いかけられるはめになる。


 その結果セシリアの剣は折れ、村から大切に持ってきた冒険者カードはポーチごと無くなってしまう。残ったのは折れた剣と身に着けているプレートアーマーに手に持っているボロボロになったポンポン草だけ。


「はあ~」


 やっぱりため息しかでないと下を向くと、銀のプレートアーマーが曲がってることに気が付く。


「まじかよ」


 泣きそうになりながらプレートアーマーを外すと前のへこみだけでなく、背中側もシュトラウスの足型の形にへこんでいることを知る。


「どうりで周りの視線を感じるわけだ、ってうおっ!?」


 プレートアーマーをはずして更に自分の穿いているズボンが破けていることに気が付く。腰を守るパーツがあったからそこまで目立たなかったかもしれないが、この姿で歩いていたと思うと恥ずかしくなり顔が熱くなる。


 熱くなった顔をパンパンと叩き冷まそうとしてふと見上げると、防具屋の看板が目に入ってくる。


 持ち合わせはないが修理の見積だけでもと、年季の入った防具屋のドアに手を掛ける。


「すいませ~ん」


 薄暗い店内は、古めかしいが綺麗に掃除されているのだろう、床や壁に埃はなく展示されている鎧も輝いている。

 店内の奥の方で人の気配がしてのっそりと出て来た男は髪も髭も白く、年齢を感じさせるが筋肉質な体つきと鋭い眼光が只者ではないことをセシリアは感じとる。


 店主であろう男性がセシリアを鋭い眼光で見るとカウンターの裏にある椅子にドカッと座る。威圧感を感じてびくびくするセシリアに店主は長いが整った髭が特徴的な口を小さく開く。


「なに用だ?」


「あ、はいっ。えっと防具の補修の見積もりをお願いしたいんですけど……」


 店主は目だけを動かしセシリアのへこんだプレートアーマーを見ると手を出す。その手が渡せということだと理解したセシリアは慌ててプレートを脱ぐと手渡す。

 店主がフルプレートを手に取ると慣れた手つきで回しながら、鋭い目つきで見るのを緊張した面持ちで見守る。


「前だけ直すなら銅貨五枚、背中は叩いて直すのは無理だから張り替えだな。張り替えることも考えたら買い換えた方が安く済むな。うちで一番安いのが銀貨一枚だ」


「うっ銀貨一枚……」


 銀貨1枚と言えば、魔物討伐のクエスト二、三個でもこなせば、得られない額でもないが、今のセシリアにとっては大金。鞄に銅貨三枚入っていたが、それも鞄を失った今はもうない。


 大きなため息をついて、店主からプレートアーマーを受け取ろうとして手を伸ばしたとき、自分のズボンが破れていたことを思いだし慌てて手で押さえてしまう。

 恥ずかしくて顔を赤くして苦笑いをするセシリアを見て、今度は店主がため息をつく。


「待ってな、そのままだと何かと支障があるだろ」


 ボソッと一言だけ言うと店主は店の奥に行きすぐに戻って来る。


「うちの子のお古で悪いが」


 渡されたのは綺麗に畳んであった服。生地は使い込まれ薄くはなっているが、丁寧に使われていたのだろう、状態はよくセシリアが今着ている服より程度がいいぐらいだ。


「あの、お代は?」


「いらん。もう家を出てここには住んでおらんから着ることなんてないからな。それとうちの子は冒険者じゃないから、戦闘向きの服じゃない。そこは勘弁してくれ」


「い、いえっ! ありがとうございます! 本当に助かります!」


 頭をペコペコ下げるセシリアを見て、目を細める店主が奥にあるカーテンを指差す。


「あそこのカーテンを引いて着替えるといい」


 セシリアはもう一度頭を下げて、店の奥に小走りで行くと、カーテンを引き畳んであった服を広げる。


「なんだこれ……」


 綺麗に畳んでいた服を広げたセシリアの最初の感想がこれである。


 両手に広げられた服は庶民的ながらも、胸元にある控えながらもおしゃれなリボンと、スカートの横にある小さなリボンが可愛らしいワンピース。


「俺にこれを着れってか……あの店主、俺のこと女だと思ってるな」


 村で女の子みたいだと馬鹿にされた記憶が蘇り嫌な気持ちになるが、店主が親切心で自分の娘が着ていたワンピースを渡したことを考えると一概に怒ることもできない。

 もう一度破れたズボンをみつめる。針と糸があれば縫えないこともない。だが道具一式も鞄に入れておりそれも叶わず、今更店主に裁縫道具を借りるのも気が引ける。


「ここから宿屋も近いし、走って帰ればまあ……いや、よくはないけど」


 自分で乗り突っ込みをしつつカーテンの向こうにいる店主の気遣いを感じたセシリアは、手にしたワンピースをもう一度見て、意を決した表情をすると自分の着ている服を脱ぎワンピーに袖を通す。


 そっとカーテンから顔だけ出しキョロキョロと辺りを見回すと店主と目が合う。

 このまま出ないわけにもいかないので、恥ずかしさで顔を赤くしながらそっとカーテンから出ると店主は目を細めセシリアを見てくる。その視線から優しさを感じたセシリアは一先ず頭を下げお礼を述べる。


「ありがとうございます」


「娘の小さい頃の服だがピッタリで良かった。ときにあんた冒険者になって何年だ?」


「あ、えっと二年です」


「そうか、冒険者は大変だろう? さすがにタダとはいかないが冒険者初心者のお前さんなら多少は値引きしてやる。ある程度、金をかせいだらまた来るといい、あぁそうだこれは俺のお古だがやるよ」


 そう言って机の中から店主が取り出したのは皮で作られたポシェット型の道具入れ。端の方に紫の小さな花が刺繍されたそれはいかつい店主に似合わないが、それゆえに誰かからの贈り物だとセシリアは気が付く。


「あの、これって大切な物ではないんですか?」


「大切なものだから使って欲しいんだ。元々娘から俺が冒険者として外に出るときに使って欲しいってもらったものでな。今じゃ滅多に町の外に出ることもないし、冒険者として外に出る機会が多いあんたが持ってた方がいいだろう。またコイツを外に連れて行ってやってくれ」


 そこまで言われては受け取らずわけにもいかず、腰にポシェットを巻くセシリアを店主は初めて出会ったときとは違い優しい微笑みを向る。セシリアはその視線に微笑み返し、頭を下げお礼を述べる。

 優しい目を背中に受けながらドアを出たセシリアは、なれないスカートを手で押さえ周りと目を合わせないようにと視線を下に落とし宿屋へと向かう。


「宿泊代先払いしてて良かった。でも今晩の分までしか払ってないから明日からどうしよう……」


 店主からの温かい施しを受けた後だが、今後のことを考えると不安に押しつぶされそうになり、セシリアの目は潤んでしまう。

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― 新着の感想 ―
[一言] おおっと、これは面白くなりそうな予感。 「勘違い」タグが無かったから作品の方向性が予想できなかったけど、この流れは結構好き。
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