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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
封剣カシェと使い手の思い

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第188話 姫を守るために

 クラーケンに巻き付かれギリギリと音を立てるトリヨンフローレを見て、恐怖から身動きがとれなくなってしまう冒険者や船員たち。


 そんななかでも二人の男が移動式大砲を押してくるが、クラーケンが目を揺らすと、漏斗から鋭い墨の塊を吐き出し砲台ごと男たちを吹き飛ばしてしまう。


 あまりに一瞬のことに顔を引きつらせてしまう男たちだが、セシリアの持つ聖剣シャルルが刀身を震わせ鳴く甲高い音が耳を突き抜け、否が応でもセシリアの方にみなが注目することになる。


「これよりクラーケンの相手は私が引き受けます! クラーケンがしがみついている今こそ好機です! 足を切り落とし無力化してください!!」


 セシリアの言葉にみながトリヨンフローレに巻き付くクラーケンの足と、船体に近づいた巨大な本体を交互に見る。


「確かに、今まで攻撃が届かなくて何も出来なかったけど、この距離なら俺の剣でも届く!」


「そうだこれはピンチじゃねえ! チャンスだ」


「さすが聖女様だ! こうなるようにクラーケンの野郎をおびき寄せたんだ」


 活気を取り戻す男たちに(たまたまこうなっただけで、それはちょっと違うんだけど)と思いながら、セシリアは魔力を溜める時間のない今、最低限の出力で相手の攻撃を受け流しながらクラーケンの視界に入り続け、相手の気を引くよう攻撃を繰り出す。


 そのセシリアを守るため、矢を放ちながら自分に攻撃を引きつけ避けるリュイが、海面から飛び出してきた先の切れたクラーケンの足を身をひねりながら飛んで避ける。


「ギリギリ……ってまずいっ!?」


 空中に身を置くリュイ目掛け、クラーケンが漏斗から墨の砲弾を放つ。


 真っ黒な弾丸に捉えられ、迫ってきて大きくなる弾丸を見ることしかできないリュイの襟首を、甲板を蹴り高く飛んだワイキュルの口が掴み、墨の弾丸からリュイを救い出す。


「間に合って良かったー。大丈夫リュイ?」


「あ、ありがとう……ございます」


 手をパンと叩いて喜ぶカメリアが、ワイキュルにくわえられたまま目を丸くしているリュイに、手を伸ばして引っ張り自分の後ろに乗せる。


「戦えないけど、走り回って撹乱くらいならーできるんだからねぇ。リュイ、矢はまだある?」


 そう言いながらワイキュルにくくりつけてある、カメリアがどこかで拾ってきたであろう矢の入った袋を前を向いたまま指差す。


「ありがとうございます」


 袋を手に取り中身を見てお礼を言うリュイに、ワイキュルの手綱を握ったままのカメリアがフッと笑う。


「姫には敬語でいいけどー、私には普通に話してほしいなー」


「え、でも……」


「私ねーせっかくリュイと仲間になったんだから仲良くしたいなーって思うの。敬語じゃなかったら仲良がいいってわけじゃないけど、リュイって距離とりたがるよね。手始めにわたしには遠慮なく話してみてよー」


 二人は会話を交わしながらも、ワイキュルは甲板の上を高速で駆けクラーケンの足の攻撃を避けていく。


「リュイ、いけそー?」


「う、うん。いけまぁ……いけるぅ」


 普通に話そうとして語尾がおかしくなるリュイに笑いながらカメリアが姿勢を低くし、ワイキュルを加速させる。そして真っ直ぐ突いてくる足を飛んで避けると、その足の上に爪を立てワイキュルが本体に向かって走る。


 後ろに乗るリュイが弓を引き、屈むカメリアの上に矢を通していく。本体に向かう矢を漏斗から吐き出した墨の弾丸で吹き飛ばし、カメリアとリュイを狙うがワイキュルは大きく飛んで甲板に落ちていたモリの端を踏んで着地すると、跳ねたモリをリュイがキャッチしそのままクラーケンに向け投げる。


 勢いよく飛んだモリは胴体に突き刺さる。一番注意すべきセシリアに集中して広い視界の端で片手間に攻撃していたとは言え、小さな人とトカゲに攻撃されたことに苛立ちを感じたクラーケンは僅かに大きな右目をカメリアとリュイに向ける。


「私たち結構いいコンビじゃない?」


「う、うん」


 返事をするリュイにカメリアがワイキュルを操作したまま、右手の手のひらを後ろに向ける。手のひらを向けられたリュイが不思議そうに首を傾げてると、カメリアが笑う。


「タッチしらない? 手をぱちーんって叩いて二人で喜ぶの」


 説明を聞いたリュイが自分の手のひらを見て、カメリアの手を見ると恐る恐る手を伸ばしぺちっと当てる。


「ふふふ、リュイらしいタッチ」


 笑うカメリアの後ろで頬を赤くして、自分の手を嬉しそうに見るリュイの姿がある。



 ***



 クラーケンに突き立てられたモリを見たペティはニンマリと笑みを浮かべる。


「あいつらすげえな。クラーケンの足以外に攻撃通したの一番乗りじゃねえか。あたいも負けてらんねえ」


 意気込むペティが自分の手のひらを見つめる。


「問題はあたいの『粘着』をどう使うかだぜ。やべえことに全く思いつかない。戦場に出て来たらなんか思いつくと思ったんだけど甘かったか」


 ボヤキながらもワイキュルのクリールを加速させると、大きく跳ねクラーケンの足にクリールが蹴りをきめる。


「あんまダメージなさそうだが、セシリアから一本でも気を逸らすことがことが出来ればいいか。ん?」


 クリールに乗って駆けるペティの前を、甲板の上をスケートのように滑りながらやってきたジョセフがレイピアをクラーケンの足に突き立てる。

 連続で足を突いていくジョセフに墨の砲弾が飛んでくるが、ジョセフが空中に引いた魔力の線に沿って砲弾は滑り海へと落ちていく。

 その間にも足に穴を空けていくジョセフを見てペティは感心したように頷き自分の手を見る。


「たしかあいつのスキルは『潤滑』とか言ってたな。あたいと逆で対象を滑らせるスキル……魔力を放出すると同時にスキルを掛けているわけか」


 自分のスキルの使い方との違いを感じていると、船体の上からニクラスが飛び降りてきてクラーケンの足に着地すると二本の斧を怒涛の勢いで叩き込み始める。

 さらに別の場所から男たちが集まって来て各々の武器でクラーケンの足に傷をつけていく。


 クラーケンが左の目を僅かに揺らし視線を向けたとき、船上に紫の光が強く輝きクラーケンの右目ギリギリに大きな傷が刻まれる。


 それが聖女セシリアが放った一撃であることは誰しもが理解しており、同時に自分たちの攻撃で気を逸らすことが無意味ではないことを証明した瞬間でもあった。


「セシリア様のため一丸となって戦うとき、我々は美しく誉れ高き彼女のことを敬い大切に守るべき存在としてこう呼びます」


 ジョセフが周囲に語りながら宙に引いた魔力の線に乗って滑り上へと高く飛ぶ。


「姫と!!」


「姫」の言葉と共にそのまま落下しながら、反対側で斧を振り下ろすニクラスに合わせレイピアを振り下ろす。

 二人が切り進めていくと広がる傷口は、他の男たちが攻撃でつけて来た傷の助けを得て大きく広がっていきクラーケンの足先を切断する。


 クラーケンの足を切断したジョセフがレイピアの先を高々と天に向け掲げる。


「我々の攻撃は弱くても姫への一撃と繋がる一手となる。今こそ姫のため我らの力を合わせようではありませんか!!」


 ジョセフの宣言に男たちが声を上げクラーケンの足に向かって行く。活気づく男たちを後押しするかのように、トリヨンフローレの側面にある大砲が火を吹きしがみついているクラーケンに砲弾を次々と撃ち込んでいく。


 真っ白な煙が船体から上がり、クラーケンの体にめり込んだ砲弾から海水なのか体液なのか分からない水が噴き出し、クラーケンが巨体を大きくのけ反らせる。


「大砲が直撃したぜ!!」


「やってくれるじゃねえか!!」


 歓声が上がるなか、もうもうした煙の奥で縦に開く瞳孔を鋭くしたクラーケンが、やや透明で虹色に輝く体を一瞬で赤サビのような色に変え、トリヨンフローレを締め上げる。


 ギリギリと締付ける足を、各場所で必死に攻撃する男たちだが、クラーケンは船体に体を押し付けられたトリヨンフローレは、左舷方向を海面へと大きく傾けてしまう。


 さらにクラーケンは海中から二本の手である触腕を出し、その先端で大砲が並ぶ面を振り払い大砲を破壊していく。


 右舷に大きな穴を開けられ、傾く甲板の上では、セシリアが翼を広げ飛び傾いた側面に降り立ち、クラーケンの注意を引くべく攻撃を繰り出す。


 他の者たちは傾いた甲板のおうとつに必死にしがみつき、滑り落ちないように踏ん張っている。

 だが一人の男が片手で掴んでいた柵の棒から手が滑り、落ちそうになったとき、魔力の球が飛んできて手と柵の棒が引っ付く。


「なんだこれは?」


 驚く男の胸元辺りに再び球が投げられると甲板にへばりつく。反対の手をそこに引っ付けると甲板と手が引っ付き手にベタベタしたものが残る。

 粘着性の付いた手を使って踏ん張り、両手で棒を掴むと、そのまま自身を上に引き上げる。


 手につく粘着性のものを不思議そうに見る男の目の前を、斜めに傾いた甲板の上をさっそうとワイキュルに乗って走るペティが駆け抜ける。


 手に魔力の球を作り出し『粘着』のスキルを付与したものを落ちそうな人の手元や足元に投げ、一時的な足場を作り出す。


「あれは聖女様の仲間のエルフだったか」


 ペティのスキル付きの魔力に助けられた人々が、人を救うため必死になるペティに感謝の気持ちを送る。


「あぁ〜だりぃいっ! こんな連発したことないからダルいったらありゃしねえ!!」


 そんな気持ちを送られているとは知らずに、愚痴を言いながら口の悪いエルフのペティは魔力の球を投げていく。

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