表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/283

第18話 聖剣との出会い

 王を先頭にして向かう先はタレットと呼ばれる、城の端から天に向かって立てられた小塔。複数あるうちの中で比較的小さな党は外から見えにくい場所にある。

 ステファノたちも初めて来た場所なのか、緊張した面持ちで王とセシリアを警護しながらついて行く。


「ここは誰も入れぬ聖域。ここにおる家来たちはもちろん、王族の中でも存在すら知らぬ者が多い。」


 王の説明を聞きながら綺麗な城の中では少しカビ臭くお世辞にも手入れがされているとは言い難い円柱の棟に沿って螺旋状(らせんじょう)に伸びる階段を上がる。慣れないスカートで長い階段を上がるのは初めてだったのもあり、苦戦気味のセシリアが足元を確認するため下を向く。


「ほう、さすがだな」


 (え? 何が?)


 王の感心した声に意味の分からないキョトンとした表情で見てしまうセシリアだが、王には驚き見開いた目が「ええもちろんですとも」と訴えているように見えた。


「歴代王には週に一度祈りの時間と呼ばれ祈りの()に入る時間がある。そのとき来るのがこの塔の中、つまり聖剣へと通ずるこの道を王自ら清めるのが努めであるからな」


 突然語りだす王にまだなんのことやら分からないセシリアは、足元を見て言葉の意味を探る。


「そうだ、だから誰も知らず本来なら人が通らないはずのこの道に埃が落ちておらぬのだ。余自ら掃除しておるのだからな。早々にそこに気付くとは流石だ。掃除をやった甲斐があるというものよ」


 機嫌良さそうに王がセシリアを褒めるものだから、ステファノたち護衛組も感心したように頷きながらセシリアに尊敬の目を向ける。


 (これ……綺麗なのかな?) 


 階段の隅に溜まっている(ほこり)を見て割りと汚いけどなぁなどと思いながら、それよりも聖剣の眠る場所へ近づいていることを実感し憂鬱(ゆううつ)になってくる。


 王の説明を半分聞きながらこれからの運命を考え歩くセシリアが、スカートに足をとられ、足を上げきれずに段差に引っ掛かりよろけてしまい慌てて壁に手を付き踏みとどまる。


「セシリア様大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」


 突然階段で止まったことに心配するステファノに答えつつ、手に違和感を感じたセシリアが自分の手を見ると、人差し指の先がちょっと切れて血がにじんでいるのが見えた。

 おそらくセシリアが壁に手を付いた際、壁の石のおうとつによって指先が擦り切れたのだろうが大したことないので、セシリアは笑顔を作ってみせ答える。


「塔の頂上が祈りの間となっておるが、聖剣はそこには眠らず道に途中にある。そう、ここが扉となる」


 突然始まった王の説明に皆がハッとした顔をして王を見て続いてセシリアを見る。


「場所まで分かるとは聖剣に呼ばれている者とはこうも凄い者なのか。これは益々聖剣が(さや)から抜かれる姿が見れそうじゃの。楽しみで仕方ないのお」


 愉快そうに笑う王は何もない壁に広げた手を付けると、触れた石の隙間から光が漏れ始めその光が一本の線となり伸びていく。そして長方形に形、扉の形を作ると僅かに後ろに下がって横へスライドしていく。


 中は白い壁で囲まれており、奥には石で出来ており横に長い両端に飾られた花にのある祭壇が一つあり、壁にはこの国の旗である太陽を咥えるドラゴンが掲げられている。


「余はこの祭壇の花を交換することしか出来ぬ。目の前に聖剣はあると言うのに触れることも……いや嘘を言っても仕方ないの。触れたことはあるのだが弾かれるのだ。

 その衝撃は凄まじくてな、吹き飛ばされ壁に叩きつけられるほどなのだ。まだ若かれしころ血気盛んな余が興味本位で触れて吹き飛ばされてそれ以来怖くて触ることも出来ないのだ」


 はっはっはっと昔を思い出して懐かしくなったのか、感慨深(かんがいぶ)かそうに笑う王の言葉にセシリアの背筋には冷たい汗が流れる。


 そもそも聖剣に呼ばれていないというか、存在だってさっき知ったばかりである。王が吹き飛ばされる聖剣なんかにどう考えても自分が選ばれるわけがない。

 聖女でもなければ、ぽんぽん草一つ納品出来ない冒険者……いやよくよく考えれば冒険者カードだって本当のセシリアとして登録したわけではないので、今ここにいるのはただの一般市民である。


 走って逃げだしたいが後ろを振り返れば、王とセシリアを守るため入り口を警備する兵たちと、横を見れば期待に満ちた王の顔がある今逃げれるわけがない。もう聖剣を手に取るしかないのだ。


 王に目を向けると、王は大きく頷く。セシリアが聖剣を手に取ると完全に勘違いしている顔である。


 仕方なく重い足を祭壇に向け前に進むと石の祭壇で上で一本の剣が横たわって待っていた。


 握りの部分はシンプルながらも柄頭(つかがしら)にある丸い装飾品に、ガード部分に埋め込まれた真っ赤な宝石とそれを支える波のように彫られた溝。

 金の蔦の装飾が施された鞘が高貴な存在であることを主張してくる。


 聖剣が高貴な光を放てば放つほどセシリアの心臓の鼓動が速くなり、不安が加速する。振り返らなくても背中にささる王を始めとした期待の眼差しを受け、大きく息を吸って吐くと聖剣に目を落とす。


 (吹き飛ぶとかじゃなくて、もういっそ爆発してみんな巻き込んでくれないかな?)


 物騒なことを考えながらゆっくりと聖剣へ手を伸ばす。


 バチッ!!


 触れた瞬間火花が散り電流が流れるような感覚。そして目の前が真っ白になって自分がどこにいるか見失ってしまう。

 例えるなら白いモヤが押し寄せてきて視界を失ったと思ったら、地面に足がついている感覚もなくなり下へ落ちていくような感覚。


 セシリアは真っ白になった視界の中で必死に現状を把握しようと目をパチパチと数回瞬きしてみるが、今置かれている状況はさっぱり分からない。


『血による懇願(こんがん)……受理』


 白い世界に声が響く。それと共に意識がハッキリしてきたセシリアは自分の手足が見えてくる。

 辺りを見回すと真白な世界が広がっており、先ほどまで近くにいた王や兵たちの姿が見当たらない。


「これは一体!?……どこだここ? まさか死んだのか!?」


『勝手に話しを進めるな。お前は死んではおらん、ここは簡単に言えば我の中。精神の世界とでも言えば分かるか?』


 セシリアはどこからか聞こえてくる声にキョロキョロする。


『下だ! し・た!』


「下?」


 視線を声のする下に向けると先ほど祭壇の上で見た聖剣が白い世界に横たわっている。


「えっ!? 剣が喋ってる?」


『なんだその反応は? お前は我と契約しにきたのだろう? 別に驚くことはなかろう』


「契約? いえ、別に。何事もなくお城から帰れたらいいなって思って触っただけなんで」


『なんだそれは? じゃあなぜ血による契約の儀式を申し込んだ』


「血による契約の儀式?」


『お前は自分の血を我に捧げたではないか? それこそ契約の儀式だろうが! 説明書に書いてあっただろ?』


 なんのことか分からず首を傾げるセシリアに、少しイライラした口調で聖剣が怒鳴る。ただ『血』と言う単語に引っ掛かりを感じたセシリアは、自分の手を広げてみると人差し指の傷から血がにじんでいた。

 階段に躓いたとき壁に手を付いて切れた傷。精神世界の中でも血が流れるんだと変に冷静に思いながら、偶然自分が契約の儀式の手順を踏んでしまったことをなんとなく理解する。


「えっと、たまたまです」


『はぁ? たまたま? どういう意味だ?』


「あ、いえ。その聖女に足りないものは聖剣とか言ったら、流れで契約をすることになったみたいで」


『なんだそれは? 意味が分からんがまあいい。契約の儀式の手順は踏んでおる、我を手に取れ!』


「あ、いえ。別に聖剣とか欲しくないんで契約はなしでお願いしたいんですけど」


『なんなんだお前は? こう言っちゃなんだが我は強いぞ。手にすれば自分の実力以上の力が出せる! どうだ欲しくないか?』


「別にそんなに強さは求めていないので、いらないかなって思うんです」


 聖剣を手にすると現状が更にめんどくさいことになりそうなので遠回しに否定するが、聖剣も折れない。


『普通の奴らは力を寄越せと主張してくるのにお前は無欲か? 成り行きとは言え我を手にすれば力が手に入り、ひいては名声をも得ることが出来るのだぞ!』


「名声……あんまり欲しくないかなと思います」


 正直、今の現状に困っているセシリアの本音である。ただでさえ聖女だと周りからもてはやされ困っているのに、聖剣を抜いた日にはもっとめんどくさいことになるのは明らかであった。


『むうぅ、そこまで言うか』


 黙ってしまう聖剣を見ながら、セシリアはとりあえずここから出してもらって「聖剣と契約出来ませんでした」と素直に王様たちに伝えようと決心する。

 結果どうなるかは分からないが、そもそも今の状況がおかしいわけで、自分にできることと言えば素直に聖女にはなれなかったですと言うだけだ。

 うぬ~と時々唸り声をあげ考え込んでいるっぽい聖剣の様子を見て、契約を進めることを諦めてくれそうだと胸を撫でおろす。


 ガタガタと突然聖剣が震え出し、胸を撫で下ろしていたセシリアはその音に身を強ばらせてしまう。


『俄然興味が湧いてきたぞ! お前我を手にしろ! 契約の儀式を行わない限りここからは出さぬ!』


「えっ!? えぇ~っつ!!!!」


 聖剣が宣言するその内容にセシリアは悲鳴に近い叫びを上げる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ