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第177話 新生シクハックは姫を冠に

 ラボーニトに乗ったセシリアが走りだすと、それに続いてワイキュルに乗ったペティたち四人も走り始めトレントを中心にして散開する。


 セシリアがトレントの腕に斬りかかっている隙に、クリールに乗ったペティがリュイのもとへと駆けよる。


「おい、乗れ」


 手を伸ばすペティをリュイがビクッと体を震わせ目を丸くして見つめ、おそるおそる手を伸ばす。その手をペティが掴むとリュイを引き上げる。


「今から走りながら作戦を伝える。揺れるが我慢してくれ」


 リュイが後ろに乗ったのを確認するや否や、クリールを走らせ始めたペティが声を上げる。振り落とされないためにペティの服を握るリュイが遠くで走るセシリアを見つめる。


「……セシリア様の後ろが……よかったなぁ」


「失礼なヤツだな。まあいい、矢はあと何本ある?」


「六本です」


 リュイの本音に突っ込みながら矢の本数を聞いたペティは頷き言葉を続ける。


「あいつの空きっぱなしの口に矢を刺せるか? それも真っ直ぐじゃなくて矢尻を上にして斜めに口を塞ぐようにだ」


 ペティの指さすトレントの口を見たリュイが小さく頷く。


「や、やってみせます」


「よし、期待してるぜ。矢にスキルを付けたいから撃つ前に一回あたいに渡してくれ」


「わ、わかりました」


 リュイの返事を聞いたペティがニヤリと笑うとクリールを加速させる。四方に散らばった三人とペティがトレントを中心に囲いながら走り回る。


 そして、ペティとカトリナがすれ違う瞬間、二人が同時に手に持っていた石を投げ合いキャッチするとカトリナはトレント目掛け石を投げる。

 その間にファラとすれ違い先ほどと同じように、それぞれ持っていた石を投げて交換しあう。そのままノルンとも同じことを行い、ペティから渡された石を三人がそれぞれトレント目掛け投げつける。


 三人が投げた石を振り払おうと振った手に石が引っ付く。石が引っ付いたことに気を取られたトレントの後ろに回り込んだペティが、スキルを付与した魔力の球を投げつけトレントに引っ付ける。


 べっとりと手に付いた粘度のある魔力に気が付いたトレントが気を取られている間に、三人娘が投げた石が飛んできて腕や体に引っ付いていく。


 ファラたちがペティから渡された石には一面だけ『粘着』のスキルが付与されている。それを投げつけることによってトレントに引っ付けているわけだが、当たる面によってはスキルの効果がないため引っ付かずに地面に落ちるがあくまでも陽動なので問題はない。

 三人の攻撃で気を引いている間に、ペティが死角からスキルの付与された魔力そのものを投げつけ動きを邪魔することが出来れば、三人娘の攻撃に意味を持たせ警戒心を煽ることが出来る。


 トレントがペティたち四人を敵とみなし指を飛ばし攻撃を始める。


「わひゃああっ!」


「こわいこわいこわーいっ~!?」


窮地(きゅうち)……やばい」


 叫ぶ三人娘ががむしゃらに走りまわり飛んでくる枝を避ける。その隙に一気に駆け寄ったペティの後ろに乗るリュイが弓を引く。放った矢はトレントの上唇辺りに斜めに刺さる。さらに地面スレスレを振りかぶった腕を避けるため大きくジャンプしたクリールが地面に足を付け姿勢を低くした瞬間に二本目の矢が放たれる。


 二本目の矢も見事にトレントの上唇に突き刺さる。


 二本の矢が斜めに交差しあいトレントの口の左端でバツ印を作る。そして矢尻に付与されたペティのスキル付きの魔力が崩れ、矢尻からシャフト部分に流れ出す。


「さすが、やって欲しいって言って完璧にやってくれるって本当に凄い」


 トレントの目の前に走ってきたセシリアが、ラボーニトから飛び降り影に受け止められつつ聖剣シャルルを斜めに地面に突き刺すと、地中で魔力を爆発させる。


 大量の土がトレント目掛けて飛散する。飛んだ大量の土は開きっぱなしになっているトレントの口の中へと入っていく。

 土が飛び目くらましとなっている間にセシリアの影が伸び、切り落としたトレントの腕をかき集めると、聖剣シャルルを振りかぶるセシリアの前で上に向けまとめて投げる。


 落ちてくるトレントの腕だったものを、トスバッティングさながら魔力を込めた聖剣シャルルで打ちトレント目掛け飛ばす。

 大量の土に続き飛んできた木片たちが、トレントの口に刺さっているペティの崩れた魔力によって粘着力を持った矢に引っ付き口の一部を塞ぐ。


 翼を閉じ、影を滑らせるセシリアが横に走ってきたラボーニトを掴み、鞍にまたがったのを合図にペティたちの攻撃が再び始まる。


 走り回る四人に指を飛ばし攻撃をするトレントの口から白い煙が上がる。それは今までよりも濃く、目を凝らして見ないと見えなかった初めとは違い誰の目でも確認できた。


『口が塞がれ、水分の動きが一部に集中したせいで視認しやすくなったのだと思われます』


「グランツの推測通りだったってわけだ。さすがだね」


『我は? 我は? 我も褒めてほしいぞ!』


 セシリアに褒められ、むふふと笑うグランツに聖剣シャルルが声を被せアピールしてくる。


「はいはい、シャルルもすごい。ほら、次が来るよ」


『最近冷たい……』


 ラボーニトから飛び降りたセシリアが、しゅんとする気配を抱えた聖剣シャルルを地面に突き立てると土をトレントに被せ木片を飛ばしトレントの口を更に塞いでいく。


 五本目の矢が突き刺さり、矢を受け取ったペティだが頭上をかすめるトレントの攻撃を避けたとき矢を落としてしまう。


「あっ、わりい」


「むぅ」


「そ、そんなに怒るなって。あたいが悪かったから。なんか別のもの飛ばそうぜ、なっ? なっ?」


 後ろに乗って頬を膨らませて怒っているリュイをペティが必死になだめる。


「もう飛ばせるものがないんですけど」


「う~ん。お? その盾とかどうだ?」


 ふてくされ気味に答えるリュイが左腕に付けていた小さな盾、バックラーを見たペティの提案にリュイはさらに頬を膨らませる。


「投げてもいいですけど、わたしには飛ばす手段も技術もありません」


「そのなんだ、こう横にしてぴゅーって投げればいけそうじゃね?」


「なんだか適当です」


 フリスビーでも投げるようなジェスチャーをするペティにリュイが不満をぶつける。


「じゃああたいが投げるから。こう見えても投げるのには自信があるんだぜ。ほら魔力の球投げるのとか上手くね?」


「んー、じゃあ。お願いします」


 ここまでペティが魔力の球を投げるのを見ていたリュイは納得し、渋々だが盾をペティに渡す。


「まあ見てなって」


 盾を受け取ったペティは自信満々に構えると、スキルを付与し盾を投げる。横回転しながら盾は真っ直ぐトレント目掛け飛んでいく。


 べしっ!


 間抜けな音と共に投げた盾がトレントの腕に弾かれ、上に飛んでいく。


「「あ」」


 ペティとリュイの声が重なる。


 上を見上げる二人の耳に鋭い(ひづめ)の音が響いたかと思うと、ラボーニトの背に立つセシリアが大きく空中へ跳躍し翼を広げると落ちてくる盾の縁を蹴る。


 セシリアに回し蹴りされた盾はトレントの口に飛び込んで上唇に張り付く。


 そして地上へと滑空しながら影が巻き上げた木片をフルスイングして、トレントの口を完全に塞いでしまう。


 セシリアの一連の動きを見たペティが胸を張って指さす。


「ほら、これを狙ってたんだって」


「……うそだぁ」


 自慢気に言うペティを疑いの目で見るリュイ。そんな二人はセシリアの叫ぶ声に我に返る。


「くるよ! みんな避けて!!」


 全ての手を全方向に広げたトレントの体の節と言う節から水蒸気が噴き出し、本体が小刻みに震えている。それを見たペティたちがワイキュルを全力で走らせ、トレントから離れる。


 トレントの震えが止まり、一拍置いたのち水蒸気の爆発と共に腕や指を全方向に向け一気に飛ばしてくる。

 飛んでくる枝や木片にリュイやペティたち五人が悲鳴に近い声を上げ逃げるなか、ラボーニトに乗ったセシリアが姿勢を低くし、アトラが最低限の木々を弾きつつトレントへ向け一直線に走る。


 セシリアに気づいたトレントが残った腕を全て集めて襲い掛かる。


「そうくるよね。だから」


 ラボーニトの背を蹴って飛び上がると聖剣シャルルを突き出す。その刀身をトレントが掴んだ瞬間、光輝く影が渦を巻き大きく広がって残った腕を全て吹き飛ばす。


 そのまま下を走るラボーニトの背に着地したセシリアは、聖剣シャルルを構えすれ違い様に一閃斬撃を引く。


 セシリアが駆け抜けたあと、上下にゆっくりとズレ落ちていくトレントが土煙を上げ静かに倒れると、目の赤い光が静かに消えていく。


「終わったよ。私たちの勝ち。みんなありがとう」


 そう言って笑顔を見せるセシリアに集まってきたペティたちが声を上げ喜びをあらわにする。

 テンション高く喜ぶ四人から必死に抜け出て来たリュイが、セシリアのもとへと近づく。


「リュイ凄かったよ!」


「は、はぅ、そ、そんなこと……ないですぅ。もったいないお言葉ぁ」


 セシリアを称えようとする前に先に褒められ驚き、嬉しさで恥ずかしがるリュイの後ろからペティが声を掛ける。


「セシリアは本当に凄いな。これがチーム聖女としての一歩ってわけだけど、かなり大きな一歩になったな」


 自分とセシリアとの間に割り込んできたペティを不満そうにリュイが見ているとは知らずに、ペティだけでなくさらにファラたちが割り込んで来て勢いに負けたリュイが後ろへ下げられてしまう。


「姫はホントにすごいです! こうバーンって剣を振って攻撃するの、もぅ凄くてわけわかんないです!」


「作戦も完璧だし。姫はすごーく強くてカッコいいし!」


「しかも美しい」


 ファラたちに褒めちぎられ恥ずかしがるセシリアは頬をかきながら口を開く。


「そうそう、みんな私のチームになったわけだけど、名前はそのままシクハックにしようよ」


「でもそれだとセシリアが入ったって感じがしないんだが。一応トップはセシリアなわけだろ? 勝負に負けたあたいとしてはなんか腑に落ちないんだよな」


 ペティが不満そうな意見を言うと、ファラが手を上げて割り込んで来る。


「じゃあ、姫シクハックでいいんじゃないんですか?」


「あ、いいね! 強さと可愛さがマシマシって感じがする」


「よき、よき」


 三人娘の意見を聞いて、セシリアとリュイにペティも頷く。


「じゃあ、今からこのチームは『姫シクハック』ってことで!」


 セシリアの宣言にみんなが声を上げ湧く。


『あ、シクハックって言葉は多分だが……うむ、まあいいか』


 聖剣シャルルが声を掛けようとするが、喜ぶみなの水を差すまいとやめる。こうしてなんとも姫が四苦八苦しそうなチームがミストラル大森林に生まれたのである。

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