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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
大森林とエルフに新しい風を

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第171話 闇存し光瞬く夢幻の里

 グランツの探索を頼りに先に進むセシリアたちの目の前に現れたのは、ここまで歩いてきた森とは違い木と木が密集してまるで中に入るのを拒絶する塀のようにも見える場所だった。


「セ、セシリア様。どうしましょう。先へ進みますか」


 密集した木のせいで暗く先が見通せない森を見つめながら、不安そうな表情のリュイがセシリアに尋ねる。

 足もとにいるグランツと話していたセシリアが、グランツを抱えてリュイを見る。


「グランツが奥にエルフらしき魔力を感じるって言ってる。ちょっと怖いけど行ってみようか」


 そう言ってセシリアは光の粒になったグランツを取り込み翼を生やすと、怯えた表情のリュイに手を差し伸べる。


 リュイは驚きつつも嬉しそうに、そして照れながら手を握りセシリアとリュイは暗い森のなかを進む。


「セ、セシリア様は暗くても見えるんですか?」


 リュイの手を引いて歩くセシリアが迷うことなく道を進むのを見てリュイが尋ねる。そして振り向いたセシリアの瞳がほんのり光っているのを見て、リュイは感嘆(かんたん)のため息をつく。


「セシリア様の目キラキラ光っていて、とても綺麗です」


 うっとりとした表情で感想を述べるリュイだが、セシリアは慌てて自分の目の辺りに触れる。


「えっ!? 目が光ってるって本当に?」


 何度も頷くリュイを見てセシリアはため息をついてしまう。


「はぁ〜、最近魔力だけじゃなくて探知能力が全体的に上がってるって感じてはいたけど、目が光るかぁ……。普通に怖いよねそれって」


「い、いいえっ! とても綺麗です。わた、わたし感動しました!」


 必死に訴えるリュイを見てセシリアは笑みを浮べる。


「目が光るとか驚いたけど、リュイがそう言ってくれるならいいかな」


 正直セシリア本人としては色々思うことはあるが、聖剣シャルルたちとの契約に加え、三人の魔力に幾度も触れ続けたことが原因だと分かっている今は深く考えないことにする。


 さらに森の奥へと進んでいくと、突然密集していた木々がなくなり視界が開ける。

 開けたと言っても木が密集していないだけで、巨大な大木が何本も生え、枝葉(えだは)が天を覆い隠し空からの光を遮っているゆえ、今はまだ昼のはずなのに相変わらず辺りは暗闇に包まれている。


 ただ大きく違うのは、大きな木々に覆われていることで家々には常に影が降りているが、木の根や道沿い、そして階段などに生えたユリの花に似た植物が、花の中心が発光し生まれた光が花弁(はなびら)を通し優しい光に変換され温かい光を周囲にもたらしているので真っ暗ではない。


 さらには、木の枝にぶら下がっているランタンのなかに浮かび漂う丸い綿毛が、ぼんやりと光り瞬きながら色を変えて幻想的な雰囲気を漂わせているので、暗闇なのにどこか温かい気持ちになる、そんな不思議な空間が広がっている。


 次に目に飛び込んで来るのは、巨大な木の幹の周りに木を組み作られた大きな建物である。木製の建造物は城のようで、天に向かって高く伸びている。

 その城を中心にして生える各木にも家が建てられていて、まるで家から木が生えているように見える。


 森と闇と光、そして自然と人工物が一体化した街並みは人間の世界ではまず見られないもので、その不思議で美しい光景にセシリアとリュイは思わず息をのむ。


 町並みに見惚れる二人の前にたまたま歩いてきた、両腕に果物の入った袋を抱えた一人のエルフとセシリアは目が合う。

 つい先日見たエルフ四人組とは違い、良く言えば物静か、悪く言えば覇気のない感じの顔でエルフの女性はセシリアたちをじっと見つめる。


「こんにちは。ちょっとお尋ねしたいんですけど」


 セシリアが話し掛けるとエルフの女性は目を丸くして体を震わせはじめ、小さく叫んで手に抱えていた果物を投げ捨て走り去ってしまう。


「え、えー……逃げられちゃった」


「な、なんだか親近感を感じてしまいます」


 話し掛けたエルフの女性に逃げられてしまいショックを受けるセシリアと、どこか嬉しそうなリュイだが、すぐに複数の足音が迫ってくることに気づき警戒する。


「何者だ!」


 槍を持った四人のエルフたちが横並びになり、セシリアたちの前に立ちふさがる。この町の警備兵であると思われる女性のエルフたちが手に持っている槍は、金の装飾が施された立派なものではあるが、どこか飾り物的な雰囲気を感じさせる。

 そしてなにより、二人の髪がボサボサで、一人はシーツか何かで出来た跡が頬にクッキリとついており寝起きなのが丸分かりである。

 穂先をセシリアに向けるエルフの女性は必死に鋭い視線を作っているが、右足しかブーツを履いておらず、左足は裸足なのでどこか迫力に欠ける。


 冷静に四人を見て戦い慣れしていないと判断したセシリアは、胸に抱えていた聖剣シャルルをそっと地面に寝かせる。


「ひっ!?」


 セシリアが動いたことで一人のエルフが後退りすると、そのエルフを残り三人がにらみ、後退りしたエルフは何度も頷きながら列に戻る。


「脅かしてごめんなさい。お尋ねしたいことがあってここに来たんですが、どなたかかこの森周辺に詳しい方を紹介してほしいのです」


 セシリアが尋ねると四人はそれぞれ顔を見合わせあって困った表情をする。どうしていいか分からずソワソワする四人を前にセシリアがどうしようか悩み始めたとき奥の方から一人のエルフが肩に槍を担いでやってくる。


 他のエルフたちに比べ背も高く袖をまくり、やや筋肉質な腕をさらしている女性のエルフを四人が見ると安堵の表情を浮かべて道を開ける。


 セシリアたちの前に立った女性のエルフが持つ槍は、他のエルフたちの槍と違い装飾はなく穂先に細かい傷がありよく使い込まれているのが分かる。


「よそ者が侵入してきたと聞いたが、まさか人間なのか……」


 肩に槍を担いだまま女性のエルフは青い瞳を見開き驚きの表情を見せる。


「突然の訪問で驚かせたことを心よりお詫びいたします。私の名前はセシリア・ミルワードと申します。そしてこちらが仲間のリュイです」


 スカートを摘まみ華麗に挨拶をするセシリアを見て、リュイも慌てて自分のハーフパンツを摘まむが伸びないのでシャツを摘まんで頭を下げる。


「ここにはフォルターと呼ばれる場所を探しに来ました。それと先日私たちとは別の人間がこちらに来ていないかをお尋ねしたいのですが」


 セシリアが話すのをじっと見ていた女性のエルフの頬がぴくっと動く。


「人間ねぇ……。一つ尋ねる、最近なぜにミストラル大森林深くに人が入って来る?」


「私と同じ理由で、フォルターと呼ばれる場所を探している者たちです。悪意や攻撃の意志はありません」


「ふむぅ……ん? その剣はお前のものか?」


 女性のエルフが少し驚いた表情で聖剣シャルルを指さす。


「はい、私の剣です」


 セシリアの答えを聞いた女性のエルフは、あごに手を当て視線を上に向けしばらくなにやら考えたあとセシリアに視線を戻す。


「昔、それと似た剣を見たことがある。色はたしか青だったが。まあ敵意はなさそうだし、いいだろう女王に会わせよう。申し遅れた、私の名前はアクト・レプラ・クラージュ・ドメレファク・パンセだ。ついて来るがいい」


(ヤ、ヤバい、名前長すぎて覚えれなかった……)


 名前や剣のことを聞き返す間もなく背中を向け歩き出す女性のエルフのことを、とりあえずアクトと呼ぶことにしてセシリアはついて行くのである。

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