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第167話 案内役は人見知りなあの娘

 ミストラル大森林へ行くことを公言したセシリアの言葉を受けティナンが人を集めた結果、そのまま宴をすることになる。

 明日には出発すると言うことから、早めに宴を行い休んで欲しいとの気遣いもあってのことなので、セシリアも断らず参加することにする。


 丁度他の村からもティナンが治める村に向かっている最中だったこともあり、宴は日没前から始まる。


 日が沈みかけオレンジ色の光が眩しいなか、木を放射型に組んだ大きな焚火を囲んでプレリ族に伝わる踊りを見るセシリアのもとに次々と料理が運ばれてくる。


「こ、こんなには食べれないんだけど……」


 積み上がる大量の料理に困惑するセシリアがふと目をやると、飾りを付けるために立てた柱の陰から覗く人を見つける。目が合うと慌てて隠れるが、柱の方が細いので隠れ切れず丸見えである。


「こっちにおいで」


 その様子がおかしくて笑いながらセシリアが優しく声を掛けると、柱の陰からそっとティナンの息子であるシエルが姿を現す。目が合いセシリアが頷くとシエルが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「セシリアさま、お祭り楽しい?」


「うん、シエルたちのおかげで楽しいよ」


 セシリアが答えるとシエルは嬉しそうにニッコリ笑う。


「あのね、セシリアさま」


「なにかな?」


 少しモジモジしながら話すシエルにセシリアが尋ねると、シエルは両手をぐっと握り前のめりになる。


「ぼくね、セシリアさまが戦うの見たんだ。すごーく強くて、カッコよくて、それでね、とーってもきれいだった」


「そう? ありがとう」


「綺麗だった」の言葉に少し戸惑いを覚えるが、素直にお礼を言うと嬉しかったのかシエルは目を輝かせる。


「それでね、ぼく決めたんだ。セシリアさまみたいにみんなを助けるため冒険者になるって!」


「そっかぁ。シエルは冒険者になるんだ。それは楽しみだね」


 聖女である今の姿のことは置いて、自分を見て冒険者になりたいと思われたことがとても嬉しかったセシリアは心の底からの笑みを見せる。


「つよい冒険者になって、セシリアさまをお守りしながら一緒に戦うんだ」


「嬉しいなぁ守ってくれるんだ。冒険者シエルは頼りになるね」


 セシリアの言葉に機嫌よくしたシエルは、今にも飛び跳ねそうな勢いで体を動かしながら拳を握って、セシリアにキラキラした視線を送る。


「それでね、それでね。ぼくセシリアさまと結婚するんだ!」


「うっ……」


 ほんのり頬を赤くしながら純粋な目で、プロポーズをするシエルにセシリアは固まる。

 他の男たちと違い純粋な気持ちを言葉にして伝えてくる幼いシエルにどう答えるべきか迷ってしまう。


「う、うん。そっかぁー嬉しいなぁー」


 言っているセシリア本人もびっくりな棒読みなセリフでも、シエルには響いたらしくぴょんぴょんと跳ね全身で喜んでみせる。


「ぼく頑張って強くなるから! セシリアさま、待っててください!」


 意気込みを伝えて手を振って去っていくその純粋な姿に胸を痛めながらセシリアは手を振る。


「うぅ……なんか凄く悪いことしている気分になった。罪悪感がすごい……」


『何を言うかセシリアよ。我はオネショタも好きだぞ。それに数年後出会って立派な冒険者となったシエルと再会。幼き幻影を青年シエルに重ねながら、かつては抱っこできるほど軽かったのに、今は押し退けることもできないんだねとベッドの上で私の上にのる君は──』


「オネショタが何なのかは分からないけど、その手の遊戯語(ゆうぎご)は大体ろくでもないことなのは分かる」


 テーブルに立てかけてある聖剣シャルルが、刀身をカタカタとリズムよく鳴らし、じょう舌に話し始めるのでセシリアが柄を指で弾いて黙らせる。


 叩いたのに嬉しそうな雰囲気を出す聖剣シャルルに呆れて、祭りの様子に目をやったセシリアのもとにティナンがやってくる。


「セシリア様、各村で一番ミストラル大森林に詳しい者を探した結果、グレヌという男が一番くわしいのですが……」


「ですが?」


 話しの途中で申し訳なさそうな顔になるティナンにセシリアは思わず語尾を復唱して圧を掛ける結果となってしまい、ティナンはさらにバツの悪そうな表情をする。


「その、前のディルーパーとの戦いで足を怪我してしまい森の中を案内するのは少し厳しいのです。本人も名誉な役割ができないことを大変悔やんでおります。ご期待に応えれなくて申し訳ございません!」


「いえいえ、大丈夫です。元々一人で行くつもりでしたし、お話さえ聞ければ問題ありませんから」


 ペコペコ頭を下げるティナンをセシリアが必死でなだめるが、ティナンは一層頭を下げるばかりである。


「本当に申し訳ございません。ただグレヌの娘がそれなりに詳しいそうで、セシリア様さえよければ案内役に連れて行ってもらえないかと思いまして。ただちょっと……」


「ちょっと?」


 さっきから含みのある言い方をするティナンに対し、セシリアは思わず聞き返してしまう。そしてペコペコ頭を下げるティナンの後ろに、食材を入れるための大きな箱の影からしゃがんで覗き見る少女の姿を見つける。


「あの娘はたしか……」


「リュイです」


 セシリアと目が合うと慌てて隠れるリュイの姿を見て、固まってしまうセシリアにティナンが再び頭を下げる。


「リュイは狩りも上手で手先も器用なんです。森の中で生きる知識もあり料理も得意な娘。ただちょっと人見知りなだけで……」


「ちょっと人見知りですか……」


 箱の影から顔を覗かせては隠れるを繰り返すリュイを見て、セシリアはティナンの「ちょっと」の部分に疑問を感じ首をひねる。

 セシリアが席を立つと箱の影に隠れるリュイに近づく。


「ミストラル大森林がどんなところかの情報がもらえればいいから、一緒に行かなくてもいいんだよ。無理強いするつもりはないから、断っても大丈夫」


 しゃがみ込んで頭を手で隠し震えるリュイは体を大きく震わせたあと、恐る恐る振り返ると涙ぐんだ目でセシリアを見上げる。


「わ、わたしが行きたいって……お願いしたんです。今のままじゃいやだって……わたし変わりたいって。だ、だから助けて頂いたセシリア様の役に立ちたいんです」


 目を潤ませ見つめるリュイに優しく声を掛けたセシリアが手を伸ばす。


「分かったよ。じゃあ案内よろしくねリュイ」


 セシリアが差し出した手を、ゆっくり手を伸ばしたリュイが掴むとセシリアが微笑む。


「はきゅー」


「ええっ!? なんで気絶?? 大丈夫? 本当にこの娘大丈夫?」


 変な声を上げ顔を真っ赤にし倒れるリュイをセシリアが慌てて支えながら本音を叫ぶ。その後ろでティナンが必死に頭を下げている。

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