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第161話 闇に潜む者を討つため舞い降りた聖女

 ティナンに案内され来たのはウルルンやムトーンなどの家畜たちがいる柵の前。


 柵で囲まれていると言っても彼らが本気になれば飛び越えれるほどの高さしかなく、逃げ出さないのは信頼関係あってのことなのかもしれない、そう思いながら見つめるセシリアに声が掛けられる。


「自分たちはウルルンの毛、ムトーンの乳を使った食品などに加え森が近ければ獣を狩り、海側なら魚を釣って生活をしています。

 ウルルンやムトーンの(ふん)は床材に欠かせませんし、彼らの肉として食べることもある彼らの存在は自分たちとは切っても切れないのです。一頭でも失うことは大変な痛手となります」


「移住してディルーパーから逃げることはできないんですか?」


 セシリアの言葉にティナンは大きく首を横に振る。


「何度か試してみましたが、どうやら自分たちの村を狙ってきているものと思われます。今はまだ家畜がいますから必要な分だけを狩って満足したら帰って行きますが、いずれ家畜が尽きたときは自分たちが食料として襲われ、だれもいなくなれば別の村がターゲットになるのではないかと……」


 眉間にシワを寄せ辛辣(しんらつ)な表情をするティナンを見て、セシリアも唇を結んでしまう。


「ディルーパーが現れ自分たちの村を襲うようになってから約三ヶ月ほどになります。ヤツは通常のルーパーを十数匹率いて狡猾(こうかつ)な狩りをします。決して一気に襲うことはなく必要な分だけを狩ると帰っていくのです。そして腹が減るとまたやってくる」


「と言うことは大体来る時期が予想できるということですか?」


 セシリアの問にティナンは大きく頷く。


「大体十日周期でやってきますから今晩、遅くとも明日には来るかと思います」


 早急に対処しなければとは思っていたセシリアではあったが、まさか今晩とは思わず驚き言葉を発しないのを、話を続けていいと感じとったティナンは膝を付きセシリアを見上げる。


「急な話で申し訳ありませんが、昨晩空から下りてきた者を見たと報告を受け、それが聖女セシリア様であることを知ったとき勝手ながら自分たちに救いにきてくれたのだと思ってしまいました。情けない話ですが、自分の力ではこれ以上どうしていいのか分からず……その、女性や子供、若者だけでも別の群れに避難させ玉砕覚悟でディルーパーを討つしかないと……」


 すがるような目を向けるティナンに群れの族長であることの苦労を感じたセシリアは優しく微笑む。


「分かりました。ディルーパーの脅威、必ず払ってみせます。そのためにもティナンさんたちの力も貸していただきたいのです。族の未来のため、そしてティナンさん自身のためにもその槍を振るっていただけませんか?」


 セシリアの言葉に自分の槍を見、セシリアに目を向けると深々と頭を下げる。



 ***



 住居であるテントの周りには松明台が設置され、夜の闇を炎が生み出す力強い光で押し退ける。風に運ばれてくる光と熱を体に受けながらセシリアは草原に広がる暗闇を見つめる。


「さてと、今晩来るとして上手くやれるかな」


 暗闇を瞳に映したまま聖剣シャルルを抱きしめるセシリアの胸で、カタカタと刀身が鳴る。


『我々がやるしかないであろう。それにルーパーの突然変異が相手と言えども、今後魔王を相手にすることを考えればここでつまずくわけにはいかぬからな』


 聖剣シャルルの言葉にセシリアが頷いたとき、


 オォーーーン!!


 闇の向こうで遠吠えが響く。その鳴き声にウルルンやムトーンたちが悲痛な鳴き声を上げ落ち着きのない様子を見せる。

 静かな夜が一変し空気が張り詰める様子に、初めて現場に居合わせたセシリアにも、この遠吠えがディルーパーの襲撃を意味するものであることがすぐに理解できた。


 セシリアが右手を広げるとグランツが光の粒になり、そして背中の翼へと姿を変える。初めてその姿を見たティナンたちから感激の声が漏れる。


「これまでの話からディルーパーは通常のルーパーを使役し、戦力の分散の上で村を混乱させ家畜をさらう戦法を取っているようです。

 事前にお話した通り、深い追いはせず近距離でルーパーの討伐に専念してください。万一討ち漏らしても私がいますので、慌てず自分の近くにいるルーパーを確実に仕留めてください」


 セシリアの言葉を受けティナンをはじめとして男たちが力強く頷く。


 鞘から抜き刀身をあらわにした聖剣シャルルを両手持ちし構えたのを合図に、馬に乗ったティナンたちは二人一組となり六方向に分かれていく。


「村を護衛するみなさんも無理はしないで逃げながらでも、私の方へ誘導してください」


 村を守る男女たちの緊張した面持ちも、セシリアの穏やかな口調にいく分か和らぎそれぞれが返事をすると持ち場へと走る。


 テントの中から不安そうに見つめるシエルの姿に気付いたセシリアが、小さく手を振ると少しだけ笑顔を見せる。その笑顔にセシリアも笑みを見せると闇の方へ振り向き聖剣シャルルを構え直す。


「まずは相手の大将を引っ張り出すため的確に状況を判断すること。そしてシャルルの魔力の使い分けを上手く配分すること。できることを全力で頑張る!」


 闇に響く馬の足音に混ざって来る、軽く速い足音を聞いたグランツの報告を受け、セシリアはディルーパーの群れを迎え撃つ。

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