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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
両腕に聖なるものを、姫プレイを兵法に

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第16話 王に呼ばれて

「はぁ」


 ため息しかでないのも仕方ないことなのかもしれない。意味はないと分かっていてもついついため息をついてしまうのだ。


 セシリアはため息の原因である便箋(びんせん)を手に取る。

上質な紙で作られた封筒には赤い蝋で封がされており、その封蝋には太陽を口に咥えるドラゴンのマークが刻印されている。

 そのシンボルが意味するとこは、それはアイガイオン王国から直々の手紙と言うこと。


 セシリアはつい先程の出来事を思い出す。


「なんだか立派な鎧を着た人が来て、これをセシリア様に渡してくれって言ってました」


 廊下を歩いていたセシリアにパタパタと走って近づいてきたラベリが手紙を手渡してくる。

そのまま腕にしがみつくと、目をキラキラと輝かせセシリアを見上げてくる。


「ど、どうかしたのかな?」


「さすが私のセシリア様! 王国から直々にお手紙がくるなんて! 冒険者の中で名指しで呼ばれる人なんて私聞いたことがありませんよ」


 ラベリがさりげなく()()と言っていることにセシリアは気付いたが、めんどくさいので聞き流す。

 なおも尊敬の眼差しを向けつつ腕にしがみついてくるラベリを押さえながら手紙を眺め、まずは一つ目のため息をつくのだった。



 ***



「悩んでいても仕方ないか。取りあえず中身を確認してみないとな」


 意を決してナイフを取り出し封の上部を切り中身を取り出す。


「えーと、拝啓……」


 瞳だけを動かし文を追っていくと同時にセシリアの表情が曇っていく。


「つまりは巷で聖女と呼ばれる人物の噂を聞いた王様が、俺に会いたいと……そう言うことか」


 そこまで呟いて再び視線を文へ落とすと、『聖女』の二文字で目を止める。


「完全に勘違いしてるよな。俺は聖女ではないし、そもそも女性でもない……」


 視線を『聖女』の文字から移動させ最後の『明日の朝に迎えの者を寄越す』の文で止める。


「これ逃げられないよな……」


 昨日の号外のせいでセシリアの顔は王都内に広く知れ渡っているであろうことは、大体理解している。

 そんな状況だか外を歩くだけでも人目につくだろうに、ましてそんな状態で王都の外へ逃げるのもさらに難しいことだと思われる。


 実際に町の人々がどんな反応をするのか分からないが、クルトン一家の態度を見た後考えると外へ出るのを躊躇(ちゅうちょ)してしまう。


 冒険者として一歩踏み出すのだ! とか言ってる場合ではなく、宿屋からも一歩も出れていない自分に笑ってしまう。


 手に持った手紙を見て冷静に今後のことを考える。これをここに持ってきたと言うことは、既にセシリアの居場所は知られていると言うこと。


 もしかすると宿屋の周囲には王国関係者の見張りがいるかもしれない。そう考えると逃げるのは得策ではなく、素直に王に会うのが一番ではないかとの結論に至る。


「噂の聖女とやらが興味あるだけだろうし、謁見して興味がなければすぐに終わるはず……たぶん」


 言っておきながら、セシリアの胸の中で元気に手を上げて存在感をアピールする不安ってヤツを、必死に抑えながらそっと便箋の中へ手紙を戻し、もう何度目か分からないため息をつくのだった。



 ***



「セシリア様! いってらっしゃ~い!」


 手をブンブン振るテンションの高いラベリとは対照的にセシリアのテンションは低い。


「うん、いってきます」


 セシリアはなんとかそれだけ言ってぎこちない笑みを浮かべ小さく手を振り返す。


 今日の王との謁見のことを考えよく眠れなかったのもあるが、朝になってみれば宿屋に立派な鎧を着た王国の使者が迎えに来て、さらには立派な馬車に乗せられれば不安も大きくなってしまい結果この顔である。


「セシリア様、本日突然のお呼びだししたこと、誠に申し訳ないと王からの伝言です」


「い、いえ、そんな。私などが謁見することの方が申し訳ない気持ちです」


 馬車が出発し程なくして目の前に座る本日の案内係を名乗る男が話しかけてくる。

 名をステファノ・コロモと言う。この状況に緊張しているセシリアにとってこの男との会話を楽しんでいる余裕はないのだが、そんなことは構わず話し掛けてくるステファノは少しぽっちゃりとした頬を揺らしながら、垂れ気味の目を更に垂れさせ笑う。

彼がふくよかなお腹を抱え体を揺らし笑うと、もじゃもじゃの金色の髪もわさわさと揺れる。


 丸い鼻に、ちょっと困り気味な八の字の眉、人当たりの良い話し方が人の良さを滲ませていて王の側近の一人と紹介されて緊張していたセシリアの気持ちを幾分か和らげてくれる。


「ははは、そんなご謙遜なさらなくても。王はセシリア様に大変興味おありですので一度お話してみたいそうなのです。話が好きな気さくなお方ですからお気軽にお話ください」


「ええ……」


 そんなこと言われても気軽に話せるわけがないだろうと思いながら短く返事をすると、ステファノは満足そうな笑みを浮かべ頷く。


 その後も軽く受け答えした後、沈黙が訪れ車内には車輪の回る音と馬の(ひずめ)が石畳の上にぶつかる音が響く。


 舗装された道を走る馬車に揺れに加え一定のリズムの揺れと音、そして寝不足と極度の緊張からの一時的な解放がもたらすもの、それは眠気である。


 初めこそ閉じそうになる瞼と時々飛んでしまう意識に、寝てはダメだと抵抗するが段々と睡魔が勝ちゆっくりと目を閉じてしまう。


 座ったまま目を瞑り馬車に揺られるセシリアをステファノはずっと観察していた。


 この男ただの案内役ではない、人を見る目に自信がありこれまでの国内の人事関係、他国との対話で人の見極めを行ってきたその業績から、王の信頼は厚くこの度の聖女と呼ばれる少女を見極める役目を仰せつかっていた。


(王に会うと言うのに落ち着いた態度。少し控え目過ぎる節はあるが、無駄な返事をせず余計なことは喋らない。


 わざと沈黙を作り行動を観察すれば、時折目を細め儚げな表情を見せ、それは見る者を引き込ませる魅力を感じさせる。


 そして今は静かに目を瞑り一定のリズムで呼吸をする、つまりは瞑想状態。その姿は美しく凛としていて尚且つ周りの者に安心を与えてくる。


 セシリア・ミルワード……聞いたこともない名前の少女。一般市民であることは間違いないが、ただの少女が突然の王の呼び出しにここまでの落ち着きと魅力を見せるだろうか?


 いいや、否である! この者は私が今までに出会ったことのない人物。人々が聖女と呼ぶのはそれなりの理由があると言うことか……。)


 心の中で観察したことをまとめているステファノは人を見極めるプロである。人を観察するときもガン見するなんてことはない。視界の中心では捉えず端の方で見て、視線を悟られぬようにしている。


 観察を続けるステファノの視界でセシリアがうっすらと目を開ける。

 瞼を開けきれていない、僅かに潤んだ紫の瞳は視界の端であっても魅力を感じさせる。

 そんなとき、セシリアが微笑み小さく口を動かし、そしてまた静かに目を閉じてしまう。


 その一部始終を見ていたステファノが驚愕の表情を浮かべ思わずセシリアを凝視してしまう。


 (な、なんだと……「見てたわ」だと……いやそんなまさか。この私が観察していることに気付いていただと言うのか。

 各国の要人にも悟られず我が国に利益をもたらす為に人を見極め続けた私の視線に気付いたと言うのか……。)


 驚きを隠せないステファノはさらに驚愕する。セシリアの口が小さく動き、やがて目をゆっくりと開きステファノを見ると恥ずかしそうに笑う。


 (か、かくも聖女とはこう言うものなのか……自分が小さく、そして愚かに感じてしまう。)


 ただただ眠いだけのセシリアがふとした瞬間に起きて「寝てたわ」と寝ぼけ眼で呟き、再び眠りに落ち目を覚まして「あぁ、また寝てた……ステファノさんに気付いてなぁ、あっ、足広げ過ぎっ! こんなので正体バレたらまずいでしょ……内緒にしてくれたり、あっ、ヨダレがっ! 見られたら恥ずかしいでしょ、これっ」と照れ笑いをしながらステファノを見ただけだとか、そんなことはステファノは知らない。


 儚い表情が見せる魅力的な表情に、安心感を与える存在感。「見てたわ」と全てを知りつつも「また見てました? ステファノさん……気付いてます。もっ、見過ぎっ! ……正体バレたらまずいでしょ? ……内緒にしてますから……見られると恥ずかしいです、こらっ」と|モゴモゴと喋ったとは言え、盛大に読唇術どくしんじゅつ失敗しまくっていたことにステファノは気付かない。


 王が謁見する前に、事前情報としてステファノが見て感じたことを書き記したで手紙を内々で渡すことになっている。


 セシリアに城の様子と作法などを尋ねられそれらに答えながら、王への手紙の内容を考えるステファノは目の前にいる聖女と出会った王がどんな反応するのか楽しみになるのである。


~この者、ただ者ではありません。私の存在に気付き、そしてなんと存在に気付きつつも私の仕事に理解を示しあろうことか許してくれたのです。さらには女性をじろじろ見てはいけないでしょと優しく怒ってくれました。

 私の目で見て判断する限り聖女と呼ばれるのに相応しい人物であるかと思われます。~


 そんな手紙が内々で王の元へ届けられることになるとは知らずに、まだ寝ぼけ(まなこ)のセシリアは馬車に揺られ城へと近づいていくのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] この「私の曇りなき眼で見極める!」(かけてる色眼鏡は曇りすぎて透明度ほぼ0)みたいな状況に草しか生えない。
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