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第160話 移動する民族

 ティナンが手を上げ手招きをし合図を送ると、周囲に控えていた馬に乗った男たちが姿を現す。

 そして目の前にいるのが聖女セシリアであることをティナンに説明されると、土下座せんばかりの勢いで謝られる。


 セシリアは必死に頭を上げるよう説得し、ティナンの馬に乗って彼らの住む村へと行くことになる。



 ***



 ティナンに連れられ着いた場所は薄い茶色の丸いテントがいくつも並んだ場所。

 簡易的な柵がありその中に馬や、ウルルンやムトーンと言った家畜がいて地面に生えている草を食べているのが見える。


「自分たちはオードスルヌ内を移動しながら生活しています。家畜の食べる草を求め一所には留まらず移動するため、住宅は折りたたみ式となっています」


 ティナンの説明を聞いて、自分の目の前にあるテントと家畜たちが並ぶ光景にセシリアは納得する。


「そう言えばティナンさんがおっしゃったオードスルヌは、サトゥルノ大陸東側にある名前だと記憶してますが、間違いありませんか?」


「ええ、オードスルヌはサトゥルノ大陸の東側。フォティア火山を北にミストラル大森林の南に置く場所となっています」


「教えていただきありがとうございます。それで私にお願いというのは?」


 ティナンの詳しい説明に自分が今いる場所がハッキリと分かったことに安堵感を覚えたセシリアは改めてティナンに尋ねる。


「ここでは失礼ですので自分の家の中へどうぞ」


 ティナンの案内で一つのテントの中へと案内される。中は広く、土を平らにした上に敷かれた赤を基調とした絨毯(じゅうたん)と家具とベッドも配置されている

 真ん中には薪ストーブがあり、ストーブ長い煙突はテントの明り取りのためなのか薄くなっている布を突き抜け外へと延びる。


「聖女セシリア様、こちらが自分の妻のリーズと息子のシエルになります」


 天井を見ていたセシリアがティナンに紹介され視線を前に向けると、黒髪の女性とその足にすがる男の子の姿があった。


「聖女セシリア様をお連れした。すまぬがお茶を出してもらえるか?」


「聖女セシリア様? あの赤竜を倒したと言われるお方?」


 目を大きく見開きセシリアを見るティナンの妻、リーズに対しティナンが大きく頷く。


「ああそうだ。その辺りの詳しい話もしたい、村のものを集めてくるからその間聖女セシリア様を頼む」


「ええ、分かったわ。聖女セシリア様。どうぞこちらへ」


 リーズがセシリアを椅子に案内すると、壁に掛けてあったケトルを手に取って外へと出ていく。


 その間残されたセシリアは同じく残されたティナンの息子シエルと目が合う。セシリアが微笑みながら手招きをすると、シエルはどうしていいか分からずキョロキョロと周囲を見渡す。


「お名前は?」


「シエル」


「そう、素敵な名前だね」


 名前を褒められ恥ずかしそうに体をもじもじさせるシエルを見て、セシリアは目を細める。


「私の名前はセシリア、よろしくね」


 セシリアが椅子から立ち上がりシエルに近づき、かがんで挨拶するとシエルは頬を赤らめて無言で何度も頷く。

 そうしているうちにリーズが水を入れたケトルを持って帰ってきて、薪ストーブの上に置くとお茶の準備を始める。


 お茶の葉を入れるリーズの足元に駆け寄って足にすがったシエルは、リーズを影からチラチラとセシリアを見てくる。


(弟たちも小さいころあんな感じだった。知らない人が来るとすぐに母さんに隠れてさ、可愛かったなぁ)


 セシリアが昔を思い出しながらチラッと覗き見るシエルに手を振ると、恥ずかしがって隠れてしまう姿に可愛いらしさを感じてしまう。

 シエルが知らない人だからではなく、セシリア自身に照れているなどとは思わずセシリアが微笑みを向けているとテントの入口が開きティナンと多くの男女が入ってくる。


「お待たせして申し訳ありません。改めまして自分はプレリ族の族長のティナンです。先ほども少し説明しましたが自分たちは家畜を育て生活するため、餌を求め移動して生活をしております」


 ティナンの説明を受けながらセシリアはリーズに案内され椅子に座ると、折りたたみの小さなテーブルが置かれお茶がそそがれる。


「セシリア様は、ディルーパーと言う名前を聞いたことがありますか?」


「ディルーパーですか? ルーパーと呼ばれる獣型の魔物でしたら効いたことがありますが、ディルーパーは分かりません」


 セシリアはオオカミに似た獣型の魔物を思い浮かべながら答える。


「さすがは聖女セシリア様です。ディルーパーとはルーパーの突然変異種。通常のルーパーが人と大体同じぐらいの大きさに対し、倍とまではいきませんがかなり大きく凶暴です。なによりも大きく違うのは、尻尾を含めた三足歩行を行い非常に賢いことです」


 真剣な面持ちのティナンが説明の途中で喉を鳴らして唾を飲み込む。その様子から緊張感を感じ取ったセシリアは真剣な表情で話に耳を傾ける。


「自分たちプレリ族は種族の全滅や家畜を失わないように、四つの村に分かれの各地に散って生活をしております。そして今自分たちの村がディルーパーに家畜を襲われる大きな被害を受けています。他の村にも応援を要請し対抗したのですが、手強く追い返すのが精一杯なのです。それにその際に怪我人も多数出ていて、次にディルーパーが現れたときには対抗できるか分からないと言った状況なのです」


 ティナンが現状を説明し終えると周りに人たちが顔に影を落とし、不安そうな表情をしたリーズが足もとにいるシエルを抱き寄せる。


『セシリアのことだ、元々この依頼を断るつもりはないのであろうが、我からも受けることを提案する。いずれ魔王との戦闘に望むのであれば我々の力と連携を高めるべきだからな』


 胸に抱く聖剣シャルルの声に背を押されたセシリアは、ティナンが次の言葉を言う前に口を開く。


「状況は理解しました。ディルーパーの討伐、私でよければお引き受けいたします」


 セシリアの力強い言葉にティナンたちの影が落ちていた顔に光が射す。

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