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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
大森林とエルフに新しい風を

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第158話 冒険者ぽい!……けど

 真っ暗な空間を歩いていたセシリアがふと止まり聖剣シャルルを鞘から抜く。それと同時にグランツが光となってセシリアの翼に変化する。


 続いてセシリアが構えた聖剣シャルルに影になったアトラが巻き付き、聖剣シャルルの魔力を得て紫色に光ると刀身の周りを渦となって回転し始める。


 剣先を闇に刺し回転する影の刃が闇をズタズタに切り裂いていく。裂けた割れ目から勢いよく入ってきた空気は、何も動かなかった闇の中に風を起こし空気を動かし音をもたらす。


 久しぶりに風になびく髪が気持ちよさそうなのは、セシリアの表情がそう見せているのかもしれない。


「さてと、どこへ出るのか分からないけど、出ないことには始まらないし行くよ」


 影の回転が勢いを増し一気に闇を払うとセシリアは開いた穴に飛び込む。


「うわわわっ!?」


 セシリアが飛び込んだ穴の先は立てるような場所はなくもの凄いスピードで落下していく。

 急いで翼を開き、落下の速度を押えつつセシリアは周囲を見渡す。


 辺りは暗く、頭上に黒い雲に隠れる月がほんの少し顔を出していて今が夜であることを教えてくれる。眼下に広がるのは夜風に揺れる草原、少し離れた場所には森が見える。

 目を凝らして見てみるが目立つ建物等はなく、ただただ草原と森があるばかりである。


「これだと場所が特定できないね」


『今は夜みたいだしな。朝になって改めて周囲を探索するとして今は体を休めるのが先決だ。下りたら寝床を確保するとしよう』


「うん」


 夜の空を白い翼を広げ草原へと舞い降りたセシリアは地面に手を付き顔をほころばせる。


「ちょっとの間しか離れてなかったけど、やっぱり土の上に立つっていいね」


 嬉しそうに言うセシリアの足元に光が集まりグランツが姿を現すと、くちばしの先にある鼻をスンスンさせる。


『草の匂いに混ざって人っぽい匂いが混ざった気がします。近くに村とかあるようには思えませんが、一応注意をしてください』


「うん、分かった。グランツ一応翼でいてくれる? そっちの方が私も気付きやすいし」


『承知しました。ところでセシリア様、最近魔力探知が出来ている気がするのですが』


 長い首だけ後ろに向けセシリアを見上げたグランツが尋ねると。セシリアは唇を押さえ目を上に向けて少し考えたあと口を開く。


「んーそうなんだよね。最近なんとなく魔力を感知できるんだよね。おかげでシャルルの魔力の動きもよく分かるようになったんだ」


 セシリアの言葉に羽をくちばしに付け考え込むグランツと、影の中からアトラが這い出てくる。


「そう言えばわらわも最近、影を伸ばす距離も長くなって色んなものを掴めるようになった気がするのじゃ。それに防御力も上がったように感じるのじゃ」


『私も探知能力がさらに鋭くなり、翼になったときの強度とバランスの立て直しが早くなった気がします』


 そこまで言った三人の視線は自然とセシリア抱く聖剣シャルルに向く。


『うむ、多分複数契約した上に我の膨大な魔力を何度も受けたことにより、セシリアを中心にスキルや能力が混ざってきたんであろう』


 サラッととんでもないことを言う聖剣シャルルを凝視した三人だが、真っ先にセシリアが聖剣シャルルを揺さぶる。


「ちょっと待って。混ざるって契約のときそんなこと言ってなかったよね」


『いや、普通複数の魔族と契約できる人間なんていない。さらには我が集めた魔力を何度も体に通すことで能力に変化が生じたのではないかと言う推測だ。正直我も分からんのだ。我が鑑定した感じセシリアの健康に影響は見られないし、それぞれの能力向上と言うプラスの方向への変化だろうから問題はない』


「えー、まあそうだけどさ。なんかだかなぁ」


 腑に落ちない、そんな表情で不満を口にするセシリアがハッとした顔になり胸を押える。


「もしかしてだけど、前にアメリーとラベリが変な感じになって私を襲ったのってアトラの『魅了』のスキルが私に影響し始めたとかなの?」


『う、うむ……まあ。うん、そうとも言える』


 慌てて聞くセシリアの質問に、途端に歯切れが悪くなる聖剣シャルルに疑問を感じたセシリアがグランツを見る。

 だがグランツも顔を背けるので、急ぎ下を向いて影に沈んでいくアトラの頭をセシリアが掴む。


「ちょっとどこへ行くのかな? アトラに聞きたいことがあるんだけど」


「セ、セシリア、影に触れるのが上手くなってるのじゃ。まさか影響がこんなところでわらわに不利に働くとは……」


 頭を掴まれたまま項垂れるアトラは観念した表情で告白する。


「そ、そのじゃな。セシリアに魅了が効かないかなぁ~って寝てる間にちょっと……スキルを掛けようとした残り香が影響したのじゃと……思ってみたりしておるのじゃ」


「へぇ~」


「ごめんなさいなのじゃ、ごめんなさいなのじゃ! もうやってないのじゃ」


 目の座ったセシリアに頭を掴まれたまま涙目で謝るアトラを、聖剣シャルルとグランツが心の中で無事を祈っているとセシリアの鋭い眼光が二人に向く。


「そこの二人とも関係ないとか思ってない? アトラを止めなかった、いやむしろ助言とかまでして手伝った気がする」


『い、いやそんなまさかな。なぁグランツよ、ア、アドバイスなんて我がするわけないよな?』


『も、もちろんですとも。魔力を集中させたり、セシリア様が起きないように見張ったりしてません』


 しどろもどろになる二人にセシリアの冷めた視線と圧がそそがれる。


「ったく、三人とも訳分かんないんだから」


 ため息混じりに呆れた声でそう言い放ったセシリアは、草原に吹く夜風になびく髪をかき上げ耳に掛けると遠くを見つめる。


「いつまでもここにいても仕方ないし、休める場所を探そうよ」


 聖剣シャルルを抱きかかえ、背中に翼を生やしたセシリアは寝床を求め歩き始める。



 ***



 森に入ったセシリアたちは木々を集め火を起こし夜を明かす場所を確保する。


「このキノコと山菜は食べれるのじゃ」


 アトラが両手に抱えて来たキノコと山菜を木の枝を削って串を作っていたセシリアが受け取ると火で炙る。

 パチパチと音を立て、身を縮めながら焼き色がついていく側を見ながらセシリアは全面に火が通るように串を回していく。


『なんだか楽しそうですね』


「ん? そうかな。色々心配事はあるんだけど、シャルルが言うように今は考え過ぎても仕方ないかなって思うし。それにこうして寝床を作って食事を作るってなんか冒険者っぽいなって」


 グランツの言葉に顔に揺らぐ火の光を浴びながらセシリアは微笑む。


「ずっと沢山の人と一緒に守られた旅みたいな感じでしか、外に出たことなかったからこうして過ごすのって新鮮に感じるんだ」


 火から目を離し上を見上げると木々の隙間から見える星空を瞳に映す。


「魔王とのいざこざが済んだら、シャルルとグランツ、アトラの三人で冒険に出てみるのも楽しいかもって、今思った」


 そう言ってニヤケてしまった顔を隠すように焚火を見ると、焼けた山菜を火から離し、火傷しないように冷ましながら口をつける。目を細める三人が見つめるなかセシリアは山菜を幸せそうにほおばる。


「……」


 ニコニコしたまま黙ってそしゃくするセシリアを三人が見つめる。


『味が薄いとか?』


「う、ま、まあ調味料とかないし。これも冒険者な感じ」


 そう言って次の山菜を手にして口に入れると、目をつぶって渋い顔をする。


「あ、青臭い味が……それにちょっと苦い」


 舌を出して涙目になって訴えるセシリアの持つ山菜を、アトラがかぶりつく。


「こんなものなのじゃ。焼いてる分マイルドになっておいしいくらいなのじゃ」


「わ、私味覚が子供だから。あっ、キノコが焦げてる!」


 話から逃げるようにキノコに手を伸ばしたセシリアが焦げたキノコをかじる。


「!?……」


 目をばってんにして舌を出したまましばらく固まってセシリアは、ちょっぴり涙目で焦げたキノコを食べ終えたセシリアは、来ていたコートを畳んで枕にして横になる。


「火の番はやっておくから安心して寝るといいのじゃ」


「アトラは寝ないの?」


「わらわは影のなかで寝れるから大丈夫なのじゃ。魔王との戦闘で疲れておるじゃろうし、セシリアが動けないとみな動けないから寝て欲しいのじゃ」


「うん、じゃあお言葉に甘えて。おやすみ」


「おやすみなのじゃ」


 目をつぶったセシリアをしばらく見たあとアトラは焚火の木をくべたりしながら火の番をする。


「……」


「……」


 セシリアがゴロゴロ転がっては地面を擦ったり、手の位置を変えて見たり枕にしているコートを畳み直し高さを調整したりゴソゴソしている。


「……まさかとは思うのじゃがセシリア、地面が硬くて寝付けない……とかかえ?」


「ち、違うよ。疲れすぎて目が冴えてるだけ」


 必死に否定するセシリアだが、アトラは分かったと頷きながら言葉を続ける。


「旅の途中で野宿と言っても、いつも広いテントに用意された組み立てのベッドでふかふかの布団で寝ているから仕方ないのじゃ」


「寝れる! 寝れるから大丈夫!」


 ぎゅっと目をつぶって必死に眠ろうとするセシリアだが、気持ちとは裏腹に目が冴えてしまう。


(まずい。聖女生活にどっぷり漬かり過ぎてる……)


 自分が今日まで冒険者からかけ離れた生活をしてきたことを実感するのである。

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