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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
聖女と魔王

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第152話 囚われた遊戯人と魔族たち

 フォスとの会話が一段落するなりメッルウが翼を広げ飛び立つ。


「全軍撤退!」


 空から響く声に獣人たちは耳と尻尾を立て気を付けの姿勢を取ったあと、次々とメッルウの去っていた方へ走り始める。


 そんななかセシリアのもとに獣人が二人走ってやってくる。


 黒い毛並みと灰色の毛並みの二人の獣人の少女は、ティーグルを連れセシリアの前に立つと頭を下げる。


「聖女セシリア……さま。私の名はミモルと申します。隣にいるのがララム、そしてコッレレ」


 ミモルが頭を上げると、左に並ぶララムとコッレレを順に紹介する。紹介に合わせ会釈をしていくララムとコッレレを見て、ミモルはセシリアの方を向き深々と頭を下げる。


「先日はマイコニドに寄生された私たちを助けて頂きありがとうございました」


「ありがとうございましたですもん」


「がうっ」


 律儀に頭を下げるコッレレに感心しながらセシリアは、お礼を言われたことの喜びからいつも以上の笑顔をミモルたちに向ける。


「体の調子はいかがですか?」


「あ、はい。お陰様で調子いいです」


 ニコニコするセシリアに尋ねられ慌てて答えるミルモは、終始笑顔を見せるセシリアの視線に顔が熱くなるのを感じ直視できなくな目を泳がせてしまう。


「マイコニドを起こしたことに関しては褒められませんが、いずれは目覚めたマイコニドによって同様の災害は起きたことでしょう。それにマイコニドの胞子に対抗するためのデヒュミの葉をララムさんが知り合いと一緒に集めてくれ、結果一人の犠牲も出さずに終えれました。大変でしたけど、お互い無事で良かったです」


 マイコニドの件で人間側に被害を与えたことに対し、何かしら文句を言われると思ったミルモは優しく語り掛けられて返事のタイミング見失い大きくした目でセシリアを見つめてしまう。


「今回のことも含め手伝っていただきありがとうございました。みなさんの助けがなければこの度の勝利はありませんでした」


「え、あ、はい」


 さらにお礼を言われ、なんと言葉を返していいか分からず困惑するミルモにセシリアが優しく声を掛ける。


「メッルウさんたち随分と先に行ってしまったみたいです。早く追いつかないと心配されますよ」


「は、はい。ララム行こっか」


 セシリアに促されコッレレの背に乗ったミモルとララムはセシリアに一礼するとメッルウを追い掛け走り去る。


 二人が去るのを見送ったあと、セシリアが少し目を大きくし口を開ける。


「あ、メッルウさんにドルテって子のこと聞きそびれちゃった。ニャオトさん元気にしてるかな……」


『今日出会った魔族たちを見る限り、乱暴をされることもないだろう。遊戯語(ゆうぎご)を解読する目的で連れ去ったのならなおさら丁重に扱われているはずだ』


「うん、そうだね」


 セシリアはメッルウたちが去った方向を見つめ、ニャオトのことを思う。



 ***



 ──セシリアたちがフォティア火山へ向かう数日前。ファーゴの城にて


 ニャオトがドルテに連れてこれて数日が立っていた。異世界に来て見たこともない動物や植物を見て感動したが、まさか自分が魔族にさらわれ人から少し離れた見た目をしている魔族たちと生活をすることとなろうとは夢にも思っていなかった。


 ファンタジー的な見た目をした獣人やゴーレム、リザードマンたち。鬼やゴブリンもいて見た目は怖いが意外と気さくな者が多く、ニャオトに話しかけてくれたりする。

 もちろん丁重に扱えと言う魔王の命令があってのことかもしれないとは、思いながらもそれほど恐怖心を抱かなくていいのは、ニャオトにとって嬉しい誤算であった。


 ただ、セシリアの目の前でさらわれたことを思うと、心配と迷惑をかけてしまったことに心が痛くなる。


「あーあー今日もいい天気。でもこの地方は寒いです。外では雪がちらついてます」


 ニャオトはだれもいない部屋で壁に向かって日本語で話しかける。ときどき母国語を話さないと忘れてしまいそうで、一人になったときニャオトがよくやる行為である。

 言葉に触れて忘れないためなのもあるが、こうして懐かしい言語を声に出してみるとなんとなく落ち着くのである。


「元の世界に帰る方法は……ない」


 壁に話し掛け微妙に反射してくる声が耳に入る。懐かしい言葉だが、残酷な現実。


 ここ最近魔族から翻訳を頼まれ渡された資料にあった一文。


 最初こそ翻訳を拒否していたが、セシリアのために翻訳をしてその内容を魔族に教えなければいいのだと思い、様々な資料を読み進めていくうちに過去に日本から来た人たちの手記が見つかる。そこで知り得た情報はこの世界が元の世界のどこにあるのかを推測したもの。


「日本を上流とすればこの世界は下流に位置付けられる。川の流れのように上から下へと流れる水が逆流しないのと同じく、元の世界に戻る手段はほぼないと断言できるか……別に日本に絶対に帰らないといけないわけじゃないけど、帰れないと分かると寂しいものだなぁ」


 ニャオトは元の世界で結婚はしておらず、友達も少ない。仕事に思い入れがあるわけでもない。それでも両親はいて、全く未練がないわけではない。


「前に来た人たちも帰る手段を探してたみたいだけど、こんなに頭がよくて色々な物を作った人たちが見つけれなかったんだよな」


 ニャオトは手記を開き書かれた文字を目で追い『帰ることよりもここでどう生活するかを考えた方がいいのかもしれない』の一文で目を止める。


「セシリア……」


 ニャオトの心の支えである人の名を呟いたとき、ドアがノックされる。

 返事をすると警備にあたる二体のリザードマンに守られた赤い髪の少女が入って来る。人ではないのは額に生える小さな一本の角と、ちょっぴり尖った耳。背中に生えた小さな羽と尻尾が物語っている。


 彼女の名前はイーリオ、三天皇の一人メッルウの妹である。


「ニャオト様、調子はいかがですか?」


 イーリオは大きな青い瞳を輝かせニャオトを見てくる。


「ゲ、ゲンキデス」


「それは良かったです。そうそう、今日はパイを作ってきたんですけど。よろしければ一緒に食べませんか?」


 思いもよらない提案に戸惑うニャオトをよそにイーリオは、リザードマンに手伝ってもらってテーブルの上にカゴを置くと椅子に飛び乗って座る。


 かごから取り出した皿にはパイがのっており、それをナイフで切り分けると小皿に移しニャオトの前に置く。


「どうぞ食べてみて下さい。パイを焼くのはまだ慣れてなくて上手にできてないかもしれないですけど」


 照れくさそうに言うイーリオに勧められ、ニャオトはパイに手を伸ばし口のなかへと入れる。

 女の子の見つめられながら食べるだけで緊張するのに、感想を期待される目で見られては尚更緊張すると言うものである。


「アマズッパイ……シュワシュワ。リンゴ?」


「リンゴ? ニャオトさんの世界だとそう言うのですか? これはガッサーチャと言う実を使ったガッサーパイです。赤い実の果物で酸味と甘みがあって、果汁がシュワシュワする感じが特徴なんですよ」


「ウン、アマイノニ、サッパリシテテ、オイシイ。イッパイタベレル」


「お口にあって良かったです! よろしければもう一つどうぞ」


 そう言って出されたパイをおかわりをするニャオトは、上機嫌な表情で残りのパイを切り分けるイーリオを見る。


 翻訳の作業に入ってすぐにニャオトのお目付け役にとやってきたイーリオは、ただ見張るだけでなくニャオトに遊戯語(ゆうぎご)を教えてほしいと翻訳する傍ら、自らも隣で学ぶのである。


 余ったパイをカゴに入れテーブルの上に、自分のノートと筆記用具を並べたイーリオが子供向けの絵本を読みながら、ひらがなを中心に書き取りを始める。


 一生懸命に学ぶ姿を見ていたらついつい教えてしまい、ニャオト自身も薄い本など読むわけにもいかず、結果翻訳の仕事が進んでいくのである。


 これを狙ってやっているのだとしたら、魔王は恐ろしい人物だとニャオとは思ってしまう。


「ニャオト様、ちょっといいですか?」


 翻訳の作業をするニャオトに申し訳無さそうにイーリオが声を掛ける。


「この文字なんて読むのですか?」


「ソレハ、(なみ)ダヨ」


「ナミ? この読み方のパターンに当てはまらない複雑な文字が文章の所々に混ざってくるので遊戯語(ゆうぎご)って凄く難しいです」


 ひらがなやカタカナはある程度、形を覚え読みを覚えたら読める様になっていくのだが大体みなが漢字でつまずく。しかも時々英語も混ざるので余計に混乱を招くようで、遊戯語(ゆうぎご)の習得は難解を極めている。


(そう言えばドルテって子も漢字が分からないと言っていたなぁ)


 ニャオトがふと自分を連れてきたドルテのことを思い出したとき、廊下のほうが騒がしくなり乱暴に扉が開くと十数人の人間兵がなだれ込んでくる。


「我々人類解放軍! この町に住み着いた魔族を魔王との交渉材料として使用する。よって今からお前たちは我々の捕虜となるゆえ指示に従ってもらう」


 突然の乱暴な物言いに唖然とするニャオトとイーリオの前に護衛のリザードマンが動くが、人間の兵が手にする魔力をまとった剣が振り下ろされると、リザードマンの肩からわずかに血が流れる。


「さすがに戦闘員にはそこまで効かぬか。だがそこの子供や、町に住み着く弱そうなヤツラはどうかな? この魔族殺しの武器たちは魔王には効かないかもしれないが、弱いヤツラには効くんじゃないか? ならば使いようはあるということだ。おっと抵抗するなよ。町の方にも別の兵が向かっているから、我々に何かあれば非戦闘員たちの命がどうなるかは分からぞ」


 肩を押さえて歯をむき出しにして悔しそうに、にらむリザードマンをあざ笑った男は、自分の持つ剣をイーリオに向ける。剣を向けられ顔を青くするイーリオと焦るリザードマンたちを見て、男は嬉しそうに破顔する。


「こっちの男も魔族か? まあどうでもいい。人質として使えればな」


 男があごで後ろに控える兵たちに指示を出すと、数人の兵がニャオトとイーリオに剣が向けられ、捕らえられてしまう。


 そのまま乱暴に連れて行かれる二人と、人質を取られ抵抗することを封じられたリザードマンたちが武器を置き無理矢理歩かされる。


 彼らが過ぎ去ったあとには無造作に床に散らばった本と、イーリオが持ってきたガッサーパイが踏み潰された無残な姿で寂しく残される。

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