第148話 全ての中心にいる聖女セシリア
ピエトラやウーファーがフォスと激しくぶつかった影響で、周囲の木々が倒れ地面が抉れる。
倒れた木を人間数人がかりで引っ張り集めていく。そこに蔦を持ってきた者たちが現れ、木と木を括りつけるため数人で木を浮かせ下に別の木を差し込み蔦を結んでいく。
「短いな、もっと長いヤツはないか?」
「木の上に絡まっているんだが、なにせ高い位置にあるし、蔦が絡んでいる木が細いんで苦戦している」
兵と冒険者の男が会話を交わしていると、数人の獣人が近づいて来る。突然の来訪者に聖女セシリアから、魔族が話し掛けて来るかもしれないと聞かされていても身構えてしまう。
ピリッと走る緊張感を双方が放つが、獣人の男が先に口を開く。
「我らが三天皇であるメッルウ様からのお前たち人間を手伝えとの命令だ。何をすればいい?」
「あ、ああ。俺たちはこの木を縛って、コカトリスが作った岩を投げる投石機を作るんだ。だから木を集めるのと、それを縛る蔦が必要なんだが」
ぎこちない会話を交わす人と獣人。獣人の男が説明した男の手と結んでいる男たちを見て自分の手を見る。
「細かい作業は我々は向いていない。だが、木には素早く登れるし運ぶこともできる。必要なものを集めるから教えてもらえないか?」
「ああ、先ずは長い蔦、それに必要な木材は目利きができるヤツが森の方に配備されているからそっちに聞いてもらえるか?」
「分かった。お前たち聞いたか、我々がやるべきことは物資の調達だ。木に登るのが得意なヤツと力に自信があるヤツと別れろ」
獣人の男が頷きながら返事をすると振り返り仲間たちに指示を出していく。
人間が足の掛けれる場所を探しつつ、ときにはロープを幹に巻いて徐々に木登りをするのに対し、獣人たちは手足の爪を引っ掛け一気に木の上に登る姿に人間側から驚きの声が上がる。
細い木も器用に登り長い蔦切り下へと落としていく。木を運べば大きな木を人よりも軽々と運んでいく。
そうして集まった木を二本を十字に重ね、先端に岩をセットできるように木と蔦を編んでくぼみを作っていく。鮮やかに物を作っていく様子に感心の声をあげる獣人たちの前に、本来の投石機ほど複雑ではないシーソに似た単純な作りの投石機が出来上がる。
「最後に土を掘ったくぼみにこっちをセットして、跳ね上がる木の先端が地面に当たらないようにすればいい。あとは……!?」
説明していた兵が言葉を止め目を丸くする。その様子を不思議そうに見た獣人の男が兵の見る方向を振り向き見て同じく目を丸くし耳と尻尾をギザギザにして驚く。
目の前にいたピエトラに言葉を失う人と獣人だが、ピエトラは鋭い足で地面を掴み土を丸めると『石化』で岩へと変える。それを投石機のくぼみの上に置く。
「え、えっと。ここを踏むと、ここの岩が飛ぶ」
ピエトラと目が合った兵が身振り手振りで説明しながら、岩を指差し孤を描いてフォスの方を指差す。
首を傾げたピエトラが、投石機に近づくと兵が指さした木の先端をじっと見つめ、足を上げると勢いよく先端を踏む。
シーソの要領で跳ね上がった木で作った投石機は、くぼみに設置した岩を勢いよく飛ばしフォスの方へ向かって弧を描き飛んでいく。
その飛距離に驚く人と獣人たち、そして遠くに飛んでいく岩を見てテンションが上がったのか、羽をバサバサと羽ばたかせながら飛び跳ねたピエトラはひと鳴きすると、勢いよく走り始める。
そして、人間と獣人が作った投石機を発見すると先端を踏んで岩をフォス目掛け飛ばす。その間に土を岩へ変えつつ、自分も岩を投げ攻撃を繰り出す。
「ちぃっ、鳥めがうっとうしい」
上から岩が降りそそぎ、正面から岩を投げてくるピエトラに苛立ったフォスが吐く熱線を、猛スピードで駆けながら避けつつ、体を回転させは足で掴んだ岩を次々と投げてくるピエトラに怒りをあらわにするフォスに、ウーファーが口から圧縮した水のブレスを吐き出す。
圧縮した水のブレスは線のように細く鋭い。さらに水には魔力が含まれており、計り知れない威力を持っている。
だがそれをいとも容易くフォスが燃え盛る手でブレスを受け止めると、炎と水がぶつかり凄まじい勢いで蒸気が派生する。周囲を熱気をふんだんに含んだ蒸気がフォスの上半身を包む。
その瞬間ウーファーの目が細く鋭く変わる。彼が発動させるスキルは『猛毒』これは液体、主に水を猛毒に変えるもの。圧縮された水のブレスは真っ黒に染まり猛毒のブレスへと姿を変える。
そして水ブレスを炎で受け止め蒸発させていたフォスが、蒸気が毒霧に変化したことで顔を歪め咳き込む。
「くそヘビがっ!!」
たまらず避けたフォスの周囲に炎の矢が飛んできて次々と刺さると一気に燃え上がる。円を描き設置された矢が燃えることで発生した上昇気流は、蒸発してできた毒の霧を巻き込みフォスを毒霧で包む。
体中を炎で包み毒の霧を一瞬で蒸発させたフォスが矢を放ったメッルウをにらむ。
「魔族が人間に加担するのか? いよいよプライドもなくなったのか罪人よ」
「なんとでも言えばいい。あたしは自分の意志で聖女を手伝ってるだけだ。プライドとかは関係ないが、フレイムドラゴンのその傲慢な態度を折れると考えれば聖女に味方するのもありかもしれないな」
ニヤリと笑みを浮かべるメッルウが炎の弓を巨大な斧へと変える。
「武器の形態を変えたところでわしに通じわけがなかろう」
「それはどうだろうな。やってみなきゃ分からないだろう」
翼を広げ空中を蹴ったメッルウが炎の斧をフォスに向かって振り下ろす。
メッルウが怒涛の勢いで、フォスの周りを飛びながら斧を振り下ろす度に炎が火の粉となって飛び散る。
わずわらしそうにメッルウの斧を受けるフォスは、自分目掛けて次々と飛んでくる岩に舌打ちをする。
岩を避けるフォスが、大きく目を開き何かに気づいた様子である一点を見つめる。その視線の先には巨大な魔法陣に囲まれるセシリアの姿があった。
その意味に気づき怒りで顔を歪めたフォスがと口に炎を溜め始める。
だが遠くからウーファーの放つ水のブレスが、フォスの顔面目掛け飛んでくると顔を反らし思わず手で翼で受け止める。
翼に生える燃える鱗が水が蒸発させた瞬間、水は猛毒へと姿を変える。
「ちぃっ、うっとうしい!!」
苛立つフォスが翼を大きく広げセシリア目掛け突っ込んで行くが、ウーファーが地を張って滑り込み行く手を阻む。
「ヘビが、なにゆえわしの邪魔をする!」
『わしーは聖女セシリアーファンクラブー六号ー。ファンがー推しをー守るのはーじょーしきー。そんなことも知らないトカゲー。バーカ』
フォスが空中でブレーキを掛け地上に降りた瞬間、地面が崩れ足を取られたフォスの体が地面に沈む。
その瞬間、ウーファーの尻尾がフォスの顔面を叩く。そのまま体を回転させとぐろを巻いたウーファーが水ブレスを吐くと片足が土に埋まったフォスは熱線を吐いて対抗する。
動きを制限されたフォス目掛け次々岩が飛んでくる。その隙間を飛び回るメッルウが斧を振り攻撃を仕掛ける。
「調子に乗るなぁっっっっ!!」
足の埋まった土ごと吹き飛ばすフォスの熱風をセシリアの前に立ったラファーが角から発する魔力の壁で守る。
「さすが伝説のフレイムドラゴンだね。大したダメージもなさそうだし、ここからが本気ってことかな」
体を炎に包み炎のドラゴンと化したフォスを見たセシリアの頬に汗が伝う。
『キレて本気を出したってことは、これ以上は無いと言うことだ。だが我らはまだ上の力が出せるわけだ』
「前向きな考え方だね。みんなには頑張ってもらわないといけないけど、私は出来ることをやるしかないわけだ」
聖剣シャルルの言葉に、柄を持つ手に力を入れたセシリアは全身を炎に包んだフォスを見据え声を上げる。
「ここが踏ん張りどころです! 必ずや私が決めてみせます。だから私を守ってえぇ!!」
セシリアの呼びかけに各地で人間たちが怒号を上げ応える。その様子に目を丸くする獣人たちだが、キビキビと動き出す人間に負けじと作業を進める。
「私を守れだぁ? なんともわがままなヤツだ。だが……」
セシリアの呼びかけに奮起し「姫のために」とやる気に満ちて動く人間と、それにつられて動く獣人たち。
さらに、いななくユニコーンに、甲高い声で鳴くコカトリスと威嚇音を発するバジリスクを見てもう一度セシリアの方を見る。
「聖女セシリアとは一体なんなのだ? 人間だけでなく魔物、しかも伝説級のヤツばかりを従え……あたしらも巻き込んでドラゴンに立ち向かう。底が知れぬヤツだ……」
言っている途中で、メッルウ自身もまたセシリアのために戦っている現状に気づき、魔力を増していくセシリアに恐怖を覚えつつフォスに向かって斧を振り下ろす。




