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第140話 七つの剣

 部屋のなかを右へ左へと歩きながらソワソワするセシリアを、ベッドの上に座るグランツが長い首で追う。


『ニャオトを助けられるのはセシリアだけだ。血も涙もない酷い言い方に聞こえるかもしれないが、まずは落ち着け』


 セシリアは聖剣シャルルの声に足を止め、ベッドに寝かせてある聖剣シャルルに対し何か言いたげな表情をしながらも我慢しているのか左の頬を膨らませにらむ。


 影から出て来たアトラがセシリアの腰に手を回すと、そのままベッドの端へと座らせる。


「後悔なぞ後だからこそ無限に出て来るものじゃ。ニャオトがさらわれたのはセシリアのせいではないのじゃ。

 それにあの場で戦闘になっていたら、わらわたちも正直まずかったのじゃ。シャルル先輩が牽制し周囲の魔力を集めておいたお陰で、タルタロスとか言うヤツの魔力集めを妨害できたのじゃ」


 アトラの説明を聞いたセシリアは聖剣シャルルの方を向くと頭を下げる。


「ごめん、シャルルが悪いわけじゃないのに八つ当たりでにらんだりして」


『構わぬ、怒りを溜め込むより吐き出した方が楽であろう。我はセシリアの思いならばいくらでも受け止める自信があるぞ』


「何から何までごめん」


 肩を落とすセシリアに聖剣シャルルが鞘を鳴らして答える。


『だが今回、魔族がニャオトを狙って来るとは思わなかった。魔族は寿命が長いゆえ、自分たちの故郷フォルータへ迷いなく向かっていると思っていたがまさか遊技語(ゆうぎご)を求めていたとは……』


「どうかした?」


 途中で黙った聖剣シャルルを心配そうにセシリアが見つめると鞘をカタカタ鳴らす。


『いや、魔王が現れたのが三百年ほど前、人にとっては長い年月ではあるが、あまりにも人々の記憶にも文献にも残っていないと思ってな。

 それに魔族にも誰かしらフォルターの場所を知っている者がいるはずだが、どうにも腑に落ちないと思ってな』


「この世の中でシャルルでも分からないことあるんだ」


『我を買いかぶり過ぎだ。この世は我にも分からないことだらけだ。だから面白いのであろう?』


 聖剣シャルルの言葉にセシリアが笑みを浮かべると、満足に鞘の音を響かせる。


『さて、タルタロスと言う我と似た存在が出てきたわけだ。色々と気になるであろうし、丁度いい機会だ、我の生い立ちについて話しておこう』


 聖剣シャルルの言葉にセシリアはもちろん、隣に座るアトラやベッドに座っていたグランツも首を上げ興味を示す。


『まずはじめに、人は魔族に傷をつけられない。これは魔力の大きさが関わっている。体を強大な魔力に守られた魔族は生半可な武器や魔力では傷がつけれないと言うことだ。

 単純計算になるが、人の二〜三倍の魔力を持つのが一般的な魔族、強い個体で五倍。魔王と呼ばれるクラスで八〜十倍、そしてこの大陸で一番強いとされるドラゴンが十五倍程度とされる』


 セシリアたちはここまでは分かったと頷いて意思表示をする。


『そして我々、星屑(ほしくず)を集めたと言う意味を持つ者、ラプトワルと呼ばれる六本、正確には七本の剣が最大まで魔力を溜めたときの力は三十倍以上、ドラゴンの約倍の力が出せる。全員ではないがな』


「三十倍!? 二、三倍の魔族でも凄い魔力もっているのにその三十倍とか想像もつかない数字なんだけど。それに七本ってシャルルとタルタロス以外にも剣があるってこと?」


 目を丸くし驚くセシリアに、頷く代わりに鞘をカタンと一つ鳴らした聖剣シャルルは言葉を続ける。


『一番初めに作られた『封剣(ふうけん)カシェ』、次に『烈剣(れっけん)タルタロス』そして我『智剣(ちけん)シャルル』、それから『翔剣(しょうけん)ヴィルヴェル』『弓剣(きゅうけん)アタンドール』最後に『双剣(そうけん)ポロン&セレネ』の計七本がこの世に存在していた。今は誰がどこにいて、どうしているかは分からないが』


()()()()ですか。その言い方気になります」


 聖剣シャルルの言葉が一区切りしたとき、グランツが質問を差し込んでくる。


『グランツは前に言ったな。我自身が持つ魔力がちぐはぐだと。そしてドラゴンより倍の力、人の三十倍以上の力が出せるのかと言えば答えは簡単だ』


 そこで聖剣シャルルが言葉を切ると、シャルルの視線が三人を順に追って見渡したいるのを感じたセシリアたちは一瞬静かになってしまう。


『二十人以上の魔族の魔力を集め鉄と一緒に練り込んで剣として作り上げた。そして奇跡的に自我を持ったのが我々だ。つまりは約二十人分の魔力の器を持つゆえに、周囲の魔力を集め保持することが可能だというわけだ』


「待つのじゃシャルル先輩、魔族の魔力を集めたと言ったがまさか……」


 アトラが顔を青くしてシャルルを見つめる。


『魔族は寿命を迎えたとき、魔力の結晶として弾け消えて行く。その瞬間に閉じ込め集めた魔力と言うより、正確には魔族そのものだな。ゆえに我も人工的ではあるが一応は魔族という括りになる。魔族が斬れないなら魔族に斬らせればいい、なかなかに人間もとんでもないことを考えるものだと……セシリアは優しいな』


 涙をボロボロとこぼしながら話を聞くセシリアに、聖剣シャルルが優しく声を掛ける。


「シャルルの存在を否定するわけじゃないけど、集めた魔族の魔力って無理矢理だよね。それに、同族を斬るために作られたと考えたら……その、悲しいなって。勝手にごめん」


『いいや、謝ることはない。我の集めた魔力を形にするのは持ち主による意志によるところが大きい。相手を斬るのも、叩き潰すのも持ち主次第。セシリアは相手が魔族であっても斬らないようにしたのであろう。セシリアの優しさに触れ、我をただの剣ではなくシャルルとして扱ってくれていることに救われている』


 頷くセシリアの涙を隣にいるアトラがハンカチで拭う。


『我の前の持ち主である遊戯人(ゆうぎびと)の一人、有明(ありあけ)大介(だいすけ)は泣きながら戦っていた。人を守る戦いだと思って前線に出たはいいが、相手の命を奪う現実に心を痛めながらな。最後に我をアイガイオンの前身である国に寝かせるとき我を必要としない世界を望んでいた。

 その思いとは裏腹に世界はまた混沌へを向かい始めた。だが我が、セシリアに出会えたのは幸運であった。優しいセシリアなら人も魔族も救えるのかもしれないな』


 首を横に振って無理だと否定するセシリアに優しい視線を送った聖剣シャルルは、意志を上に向け兄弟のことを思う。


(タルタロス……お前もまた思うところがあるのだろうが、持ち主の手を血で染めてくれるなよ)




 ***



 ペンティスカ王国による魔王軍への宣戦布告。ペンティスカ王国の軍だけではなく、グラシアール・ファーゴから逃げ集まった軍人たちによる三国混合軍によるネーヴェへ進軍。


 それを迎え撃つオルダー率いる、アンデッドとゴーレムによる軍。魔力値が低いとは言え魔族と人が争えば一方的な展開になるはずだが、一体のゴーレムの体に傷が入り膝をつく。


「……下がれ」


 愛馬である鎧馬グラニーに乗ったオルダーが、膝をついたゴーレムの前に出ると追撃の魔力の斬撃を切り伏せる。


「……宣戦布告するだけあって無策ではないということか。魔力を放出する剣とは厄介だな。さすがに無血での勝利はお互いに無理かもしれんな。これ以上攻めてくるようであれば、こちらからの突撃も致し方あるまい」


 オルダーが雪の残る平原でバリケードを張りそれに沿って一列に盾を構え、その後ろで剣に魔力を集め溜める兵たちの姿を見て呟く。


 魔力による斬撃を放ちオルダーの軍を牽制したあと、大きな木の板を張った車輪付きのバリケードを僅かに前へと進め進軍する。魔族が攻めてこないことに気を大きくしたペンティスカ王国の軍は、剣に魔力を溜め次々と斬撃を放つ。

 オルダーの指示によってさらに下がった魔族軍に対し、バリケードを前に進める兵の頭の上に広がる空が黒い光が切り裂き止まると、凄まじい勢いで真下へ落ちてくる。


 地面を大きく揺らして現れた巨大な漆黒の鎧の登場に、動揺するペンティスカ王国の兵たちに真っ赤に光る眼光による圧が襲い掛かる。


「わがはいは魔王。この度のペンティスカ王国からの宣戦布告。その真意を問いたいです」


 魔王の放つ地獄の底から響く声に、多くの者が体の芯から震えあがってしまう。そんな兵たちに発破を掛ける隊長の声に奮闘した兵が魔力の斬撃を放つ。


 魔王の鎧に斬撃が当たった瞬間、魔力の塊はガラスのように派手に砕け散ってしまう。


『あれは俺っちたちを作るための過程で作られた剣。ものも言えないあいつらを解放してやってほしいんだぜ』


 魔王が頭で響いた声を聞いて、手のひらにのせた魔剣タルタロスを見つめ頷く。


 魔剣タルタロスが持つスキルは『倍化(ばいか)』自身のサイズを変え巨大化させることができる。人の扱えない大きさに変化した魔剣タルタロスは、巨大な魔王の手によくなじむ。


『倍化』によるメリットは大きくなることで攻撃範囲の増大すること。そして魔力の器の大きさこそ変わらないが、一番のメリットは魔力を集めるスピードが倍になることである。


 周囲の魔力を一気に集めた魔剣タルタロスの刀身に魔力が渦巻き始める。


 そのままペンティスカ王国軍に向かって魔王は歩みを進める。次々と放たれる魔力の斬撃や矢をものともせずに歩く、魔王の持つ魔剣タルタロスの放つ魔力の渦に巻き込まれただけで人が回転しながら吹き飛んでいく。


 そして軍のなかを悠々と歩いた魔王が魔剣タルタロスの先端を上空へ掲げると、渦巻いていた魔力が弾け空間を震わせると、魔力の圧で周囲の兵たちを地面へ押さえつける。


「宣戦布告の真意はお教えいただけませんか? でしたらこちらも黙って仲間を傷つけられるわけにはいきませんから、その宣戦布告をお受けいたしますが?」


 魔王とは言えたった一人に多くの兵が地面に伏せられ無効化された上、魔王の戦いを受け入れる宣言と相成って動ける兵たちが血相を変えその場から走って逃げ始める。


 逃げる兵を押えようと慌てる隊長たちも巻き込まれ、大混乱のペンティスカ王国の軍を見て魔王はため息をつく。


「オルダーさん。このままペンティスカ王国へ向かいましょう。ここにいる人たちでは決めれないでしょうから責任者の方とお話しいたしましょう。それと、兵のみなさんが持つ武器を全て回収してください。あとで全て処分いたします」


「……はっ!」


 凄まじい魔力を放ちながら、魔王みずから先頭に立ちペンティスカ王国へと進軍する魔王軍。


 それはペンティスカ王国が魔王の属国となることを誓うカウントダウンであることは、混乱し逃げまとう兵たちには考える余裕もないが。

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