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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
王都へと出た少年、聖女の階段を昇る

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第14話 ベテラン記者は聖女を知る

 モルター・ヴィターレは王都を中心に最新の情報を届ける為に記事を書く、いわゆる記者である。


 若い頃はスクープを求めて躍起になり危ない橋を渡ったこともあった彼だが、年を取り引退の二文字が頭を過るようになった今は何気ない日常を切り取った記事を書くことが多くなった。


 長い記者生活で得た人脈でスクープに繋がりそうな噂が入ってくるが、若い者の今後の経験にと譲ることも多くなった。

 いや、正しくは追いかける気力が湧かないのかもしれない、心まで年老いたなと考えながら煙草を吹かす彼の元に一人の男が近づき声を掛ける。


「モルターさん、調子はどうだい?」


「あぁ、あんまよくねえな」


「またまたぁ冗談を。それよりもこれ見てくださいよ」


 冗談じゃないんだがなと思いながら肩をダルそうに叩き、男が寄越した紙を広げて文字を目で追う。

 初めはゆっくりとダルそうに動いていた目が段々とピッチを上げて文字を追い始める。


「面白いだろ? 興味ねえか?」


「興味あるかどうかは俺が決めるってんだ。横から茶々入れんなって」


「悪かったって。そんなに怒るなよ」


 モルターと紙を寄越した男の名はアキム。彼らは言い合っているように見えるが、決して喧嘩をしているわけではない。付き合いの長い二人のいわゆるお約束のやり取り。


 そして、モルターが眉間に深いシワを寄せ黙って紙を睨んでいるときは興味があるとき。

 その証拠にアキムはその顔を見てしてやったりの表情でニヤニヤしている。


「ちと用事が出来た。悪いが礼は後だ」


「あいよ、ごゆっくり気の済むまで」


 慌てて帽子をかぶり出ていくモルターの背中にヒラヒラと手を振るアキム。


 先ほどまで調子があまり良くないと言っていた男は今、アキム持ってきた資料を頭の中で読み返しながら駆け足でギルドへと向かう。



 * * *



 モルターはギルドのドアを開けるなり早足で入ってすぐにある総合案内の受付に向かって駆け寄る。


「メランダ、ちょっと尋ねるんだがセシリアと言う名の冒険者は今日は来ておるか?」


「あらあら、モルターさんお久しぶりです。セシリアちゃんですか? 今日はまだ来てませんよ」


「そうか、いつ頃来るかとか分かるか? それかどこへ行けば会える? 拠点があるなら教えて欲しいんだが」


「まあまあ落ち着いて下さい。セシリアちゃんはまだ冒険者になったばかりですから拠点とかありませんし、何よりも今のモルターさんの勢いで会ったらセシリアちゃんびっくりしちゃいますよ」


「む、むぅそ、そうか」


 メランダに(いさ)められ口ひげをさすりながら、ばつの悪そうな顔で目線を逸らすモルターの肩をポンと叩く手があった。


「ようモルター久しぶりだな。お前さんがここに来るとはベリタ新聞もいよいよ人材不足か?」


「なんだヴィットリオか驚かすな」


 モルターが肩に乗った手を払った相手は目尻の深いしわを、更に深くして少年っぽく笑う。白髪の男が笑うたびに貯えた顎ひげが動く。


「お前の方こそ、天下のギルドマスター様がこんなとこで油売ってていいのか?」


「おうよ、うちは優秀な人材が多いんでな俺が出張るまではないってことだ。ってそんな睨むな、悪かったって。詫びにお前さんの取材に付き合ってやるからよ。大体何を聞きに来たかは察しがつく」


「ほう、ギルドマスター様直々に取材受けてくれるなんてありがたいことだな」


 笑うヴィットリオを不機嫌そうに睨んでいたモルターだが「取材を受ける」の言葉に一転、鋭い目つきになりいつの間にか手にノートとペンを持っていた。

 ヴィットリオはその姿に感心しつつ笑みを浮かべる。


「時系列からメランダから説明した方がいいだろ。すまないがメランダ頼めるか」


「お任せ下さい! まずセシリアちゃんはとても可愛いんです!!」


 自慢気に張った胸をドンと叩くメランダがセシリアがいかに凄いのかを熱く語り始める。

 それに相づちを打ちながら補足説明するヴィットリオと、真剣な眼差しで質問しメモするモルターの取材は、ときにやってくる冒険者たちも混ざり数時間に及ぶ。



 ***



「ほう、つまりデトリオの傷を治してさらには内なる力を覚醒させてくれたと」


「ああ、しかも俺だけじゃなくて周囲の人たちにまでだぜ。すごくないか?」


 ランニングのシャツでは隠せない鍛えられた筋肉を誇る青年、デトリオは先日の戦いで付いた傷跡をモルターに見せながら語る。


「あんな凄いことしてさ、私は何もしてませんとか言うんだぜ。皆さんの方が凄いんですとか言う姿にもう、こうやられたね」


 自身を抱きしめてくねくねしながらデトリオのことなど、既に興味のないモルターは自分の書いた文字を睨み唸っていた。


「昨日の夜もさ、俺の母ちゃんがやってる飯屋に来てさ。初めは子供二人連れてきてビックリしたけど、聞けば路頭に迷っていた子に飯を食べさせに来たって言うんだぜ。

 しかもこの間討伐報酬でもらったお金を喜んでくれるならって、服まで買ったって言うじゃないか。俺なら即効で飲みに行くのにさ。すげーよな? 感動しないか?」


「なんじゃと!? そんな話があるのか! あるなら早く言え! もっと詳しく話せ!」


「あいててっ、そんな興奮すんなよ。話すから落ち着けって」


 デトリオは自分の腕を掴み揺さぶるモルターの迫力にたじろぎながら事の経緯を話し始める。


「なるほど、その子たちを教会へか。有力な情報ありがとよ」


 モルターが親指で弾いた物をデトリオがキャッチすると、モルターは手を上げて足早に目的の教会へと向かっていく。

 デトリオが握っていた手を開くと銅貨が姿を現す。それを見て一瞬ニンマリと笑みを浮かべるがすぐに真面目な表情に戻る。


「そういやセシリアちゃんが、母ちゃんに新しいおたまを買うと喜ぶかもとか言ってたな」


 もう一度手の平にある銅貨を見つめると大きく頷き、手を握りしめるとデトリオは雑貨屋のある方へと足を向け歩き出す。



 ***



 古びた教会のドアにあるライオンが咥えてある輪っかを握りノックすると、程なくして人の気配が近付きゆっくりと扉が開き女性が顔を覗かせる。


「あらっ? セシリアじゃないどうかしたの?」


 セシリアに親し気に話し掛けてくるのはこの教会のでシスターをするアメリーである。


「えっと、この子たちをのことで相談があるんですけど時間取れますか?」


「んー? この子たち?」


 アメリ―がセシリアの両隣でスカートにしがみ付くヒックとソーヤに目を向ける。


「まっ!? セシリアあなたもしかして、あぁ皆まで言わなくていいわ。そうよね一夜限りの間違いだなんてよくあることだもの!

 そう雨の激しい夜2人は濡れた肌を重ね合いお互いの冷えた体を温め合い熱い夜を過ごしたの! その愛は幻なんかではなくこうして今存在する! でも聖女としての立場から、ああっ、なんて悲しいこと!

 うんうん、今日まで大変だったでしょうけどもう大丈夫! 安心して!」


「な、なにを言っているんですか! わ、私の子供じゃありません。なんでそんな発想になるんですか! 二人とも聞いたらダメだよ!」


 自分を抱きしめくねくねとしながらヨダレをちょっぴり垂らしながら熱弁するアメリ―の姿にきょとんするソーヤと、多少何を言っているのか理解できたのか顔を赤くしているヒックに気付いたセシリアは慌ててヒックを抱き寄せ両耳を塞ぐ。

 その行為のせいで、自分の胸の中でソーヤが顔をさらに真っ赤にしてぐったりしているとも知らないセシリアがアメリーを睨むと、彼女は舌を出して「てへへ」と笑う。


「熱い恋愛とか憧れるじゃない? してみたくない? ね? ね?」


「恋愛するのは自由ですけど小さな子がいる前で過激な話は控えてください」


「あ~それってケッター牧師にもよく言われるわ。じゃあ今度二人でゆっくり話しましょうよ。こういう話出来る人いなくて寂しいのよ」


「うっ、い、そう言う話は経験がないから無理と言うか……参考にならないと思います」


「大丈夫よ、私も経験ないもの。だから二人で話すんじゃないの。

 私の部屋にちょっぴり刺激的な恋愛小説とかがあるからそれを参考にして燃える恋の話しを合いましょうよ! 二人でまだ見ぬ恋を話し合うって素敵じゃない? ってあいた!?」


 教会の中からケッター牧師が現れ呆れ顔でアメリーの頭を叩く。


「あなたは何をしているのです。お客様が来られたなら案内しなさい。申し訳ありませんってあらっ!? 聖女様じゃないですか!? とんだご無礼を!! こらっアメリーあなたって子は」


「あぁ~大丈夫、大丈夫です。アメリーと話しをしていただけですからそんなに怒らなくても大丈夫です」


「あーん、セシリア、好き好き!」


 再び頭を叩かれそうになるアメリーをセシリアが庇うと、アメリーはケッター牧師から逃げると同時にセシリアに抱きつき、口を伸ばしてキスをするような仕草をしてくる。


 そんなアメリーの顔を手で押え必死に抵抗するセシリアだが、その二人に挟まれもみくちゃにされてぐったりしている男の子が一人いたりする。



 ***



「本当にご無礼をお許しください。この子はどうにも聖職者としての自覚がないと言いますか、色恋沙汰に夢中と言いますか……」


「いえいえ、そんなにお気になさらずに」


 頭を抱えるケッター牧師の横で真面目な顔をして立つアメリーと、彼女の行動に慣れているのか、全く動じていない子供たちが並んで立っている。


「それで先程のお話ですが、そちらの二人をこの教会で預かって欲しいと」


「はい、預かってもらえると嬉しいのですけど」


「なるほど、他ならぬ聖女様のお願い、すぐに了承の返事をしたいところなのですがその……国からの補助も少なく寄付もない状態でして……」


 しどろもどろになり歯切れの悪い返事をするケッター牧師にセシリアが白い袋を差し出す。


「みんなが食べていくには少ないですけど、寄付と言うことで受け取ってくれませんか? 一先ずこの子たちを預かってもらう分として」


「んまっ!? きっ金貨じゅじゅ、十枚も!? こんな大金をき、寄付されるのです?」


「この間ギルドから報酬でもらったんですけど、自分には相応しくないお金と言うか、ちゃんとした冒険者になる為にはちゃんと一歩ずつ進みたいって思うんです。

 だから使い方を考えてて、誰かのためになればって」


 自分で言ってて恥ずかしくなったセシリアが見せる笑みは、そんなことを知らない人から見れば聖女の微笑みでしかない。

 キラキラと輝く笑顔に当てられ皆が涙を目に浮かべる。


「私が間違っていました。何かを行うのにお金が必要だと、そればかりに目が行って本質を見失っておりました。人のために生きること、そのための教会であること思い出しました!」


「じゃあこの子たちを預かってもらえるんですか?」


「ええ、もちろんですとも」


「ありがとうございます。私の方でも寄付してくれる人がいないか掛け合ってみますね」


 このときセシリアは、ギルドにいるメランダやジョセフなどに聞けば寄付してくれそうな人の情報が得られるかも、的な意味で言ったのだが、ケッター牧師は寄付だけでなく自分たちのために行動してくれる聖女様の高貴な心に胸を撃ち抜かれてしまう。


「ああぁっ……」


 小さく声を漏らし気絶するケッター牧師をアメリーたちが支える。


「あの、大丈夫ですか?」


「ああ、気にしなくて大丈夫よ。いつものことだから」


 心配するセシリアをよそに、手をパタパタとさせ気にするなと言うアメリーと、手際よくケッター牧師を床に敷いた毛布に寝かせる子供たち。


 手際のよさからも、よくあることと言うのは嘘ではないらしい。


「今朝説明した通り、二人とも今日からここに住んでもらうけど」


 向かい合って立つセシリアの言葉にヒックとソーヤは黙ったまま不安そうな表情で今の心境を伝える。


「大丈夫だよ、ほら」


 セシリアが二人の頭を優しく撫でた後、背中に回るとそっと背中を押す。

 向き合っているときはセシリアの背中に隠れていた二人の子供がヒックとソーヤを、キラキラと目を光らせ待ちきれない様子で体をピョコピョコ跳ねさせている。


「ねえねえ、私ペイネ! あなたは、だあれ?」


「ソーヤ」


「可愛い名前だね! じゃあペイネがソーヤに教会のこと教えてあげる! いこう!」


「うん!」


 ペイネがソーヤの手を引っ張ってパタパタと駆けていく。


「俺の名前はオトカル、お前の名前は?」


「……ヒック」


「よろしくなヒック、今日からここに住むんだろ? なんかあったら俺に聞けよな」


「偉そうに、あんた自分の部屋のシーツ洗濯に出した? 洗濯しようと思ったらあんたの分だけ見当たらないんだけど」


「やっべ、忘れてた」


「ったく、後で持ってきなさいよ。騒がしくてごめんね、私はデイジーよろしくね。アメ姉さんを除けば私が一番年上だから。ここでの生活を任されてるから困ったことがあったら聞いてね。

 それであっちで恥ずかしくて隠れているのがアランで、一番小さいあの子がラルね」


 デイジーに紹介され戸惑うヒックが振り替えってセシリアを見る。


「みんなのところへ行っておいで」


 コクっと小さく頷いたヒックがデイジーたちの方を向くが、またすぐにセシリアをじっと見つめる。


「ありがとう」


 いつもよりはハッキリとした声でお礼を言うヒックにセシリアは一瞬驚いてしまう。


「どういたしまして」


 そう言いながら微笑むセシリアから頬を赤く染め、顔ごと目を逸らしたヒックはデイジーたちのもとへと走って行く。


 ケッター牧師の介抱に忙しいアメリーに挨拶をして教会の外へと出たセシリアは、ヒックとソーヤの明るい表情を思い出しながら自分の顔がニヤけていることに気が付く。


「ちょっぴり良いことできたかも。これでお金も無くなったし冒険者として改めてゼロからスタートかなぁ。っとニヤケ過ぎだな」


 今日のこと、これからのことを考えて再びニヤケてしまった顔を引き締め、すまし顔を作って歩くセシリアは、向かい側から来た男とすれ違う。


 男はすれ違い様にセシリアを見て、清ました顔で優雅に歩く少女の放つ高貴さに一瞬見惚れてしまうが、首を横に振ると教会へと歩みを進める。


 男の名はモルター。聖女の噂を調べ記事にするべく向かった、先ほどまでセシリアがいた教会でアメリーたちから話を聞くことになる。

 そしてそれはセシリアの存在をより多くの人に広める知らしめることになるなどとは、冒険者ライフをゼロスタートをしようと考えているセシリアはまだ知らない。

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[気になる点] 何がヤバいって、「アメリーから話を聞く」って点が一番ヤバい感じがする… アヤツ、絶対に有る事無い事話しそう (確信
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