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第127話 刀身に秘めた思いと過去を鳥は見抜く

 ファディクト王国の城にてバタバタと走るのはニャオトと数人の男たち。彼らは遊戯語(ゆうぎご)を翻訳しまとめるチームである。


「明後日には出発ですから今日中には荷物をまとめないといけません」


「ネボウシタノ、マズッタ」


「ええ、朝まで資料をまとめていたらそのまま寝てしまいましたからね」


 ファディクトにおいて大切だろう資料はほぼ読み終えていたニャオトたちは、異世界における文化、主に萌的談義で盛り上がりついつい朝まで話し込んでしまったのだ。

 元々寝癖や服がヨレヨレなのも気にしない人が多い翻訳チームのメンバーは、徹夜で目が充血しまぶたが腫れている以外いつもとあまり変わらなかったりする。


「それにしても初めに来たときは、なんていうかこうピリピリした感じがファディクト内に漂ってましたが、今は嘘のように穏やかになりましたね」


 翻訳仲間の男に話しかけられたニャオトは大きく頷く。


「ウン、セシリア、スゴイ」


「ええ、セシリア様はただ魔族を討伐するだけでなく人の心、国までも癒し支えるのですからとても凄い方ですよね」


 自分たちの荷物を片付けながらニャオトたちはセシリアの功績を称え、そこから段々とセシリアの魅力について熱い談義が始まってしまう。話し始めると夢中になってしまい手が止まるどうしようもない彼らの荷造りは困難を極める。



 ***



 セシリアはベッドからのそのそと這い出し化粧台の前に立つと椅子にペタンと座る。それを待ってましたとばかりに影が上に伸びアトラが顔を出すと、そのまま全身を影から出し手に持っていたくしを使ってセシリアの髪をとき始める。


 寝ぼけまなこのセシリアはカクカクと首を小刻みに揺らす。一定のリズムを刻み揺れるセシリアの頭に合わせてアトラは器用に髪を整えていく。


 ネグリジェをだらしなく着て左肩をさらけ出すセシリアの肩を優しく叩くと、セシリアはゆっくりと立ち上がり、両手を上げアトラに脱がしてもらう。

 立ったままでも相も変わらず眠そうに頭を揺らすセシリアの後ろに回ったアトラが、パットマシマシなブラを付けると肌着を着せ、聖女セシリアのシンボルともいえる藍色のドレス調のワンピースに袖を通させる。

 白い襟を整えブーツを並べるとセシリアの手を取り履かせる。


 アトラはセシリアの周りを回りながら髪や服を整え直すと満足気に大きく頷く。


「できたのじゃ」


「んーありがと……」


 立ったまま目をつぶったセシリアがお礼を言うとそのまま大きくよろける。


「いやん、大胆なのじゃ」


 倒れるセシリアを受け止めたアトラの胸に顔うずめ、そのままスースーと寝息を立ててしまう。自分に飛び込んできて喜ぶアトラだったが寝息立てるセシリアを見て、微笑むと抱きかかえベッドへ寝かせる。


「服にしわがつくけどまた着替えればいいのじゃ」


 と言いながらアトラはセシリアの隣に寄り添うと密着し背中をリズミカルにトントンと叩き、気持ちよさそうに寝るセシリアを見てニンマリと幸せそうな笑みを浮かべ、ときどき緩んだ口から垂れそうになるヨダレを拭く。


 一連の流れを『ていてい』と言いながら見ていた聖剣シャルルとグランツも、気持ち良さそうに眠るセシリアを優しく見守る。


『セシリア様、相当疲れてますね』


『仕方ない、ここ連日お偉いさんたちとの話し合いばかりだったしな。口では文句を言いながらもきっちりこなしてくれたんだ、疲れもたまるだろう。今日の予定は午後からルーティア王子たちのお見舞いしかない。もう少し寝せておこう』


 グランツは長い首を動かし聖剣シャルルの方へ顔を向ける。


『三百年前に起きた人と魔族の争い。そのとき人間に使用された武器、そしてシャルル先輩の存在……それらが元々何なのかをセシリア様が知ったとき、優しいセシリア様は傷付くと思いますよ。どこかでちゃんと話すべきでは?』


『なぜそれを知る? いくら三百年以上生きている魔族と言えども知っている者は少ないはずだが』


 グランツはくちばしを器用に片方だけ上げフッと笑う。


『この体になって探知能力が各段に上げった結果です。凄まじい魔力を放出することが出来るシャルル先輩ですがそれは周囲の魔力を変換したもの。実際に本人が持つちぐはぐな魔力を感じ取って考えた結果です』


『むぅ、我の魔力のズレを感じ取るとは、その探知能力は頼もしくもあるが恐ろしくもあるな』


 カタンと刀身を鳴らす聖剣シャルルは目こそないが、ベッドで寝るセシリアの方へと視線を向ける。


 セシリアを寝かせていたアトラもいつの間にか寝ており、二人が頬を引っ付けたまま気持ち良さそうに寝息を立てている姿を見て刀身を揺らす。


『ふむ、別に隠すことでもないのだが、どうも言いづらいのでな。ないとは思うがセシリアに嫌われるかもと思うと踏ん切りがつかないというか』


 いつになく歯切れの悪い聖剣シャルルを見てグランツがフッと笑う。


『大丈夫ですよ。セシリア様がシャルル先輩のことを嫌いになるわけないでしょう。それに私個人もシャルル先輩の生い立ちが気になりますし是非とも聞かせて欲しいですね』


『そうだな。魔族との戦いも本格化しそうであるし、ここで話すのがいい機会かもしれんな。近々話すことを約束しよう』


『楽しみに待ってます』


 スヤスヤ眠るセシリアとアトラを見て聖剣シャルルは決意し、グランツは首を丸め目をつぶりひと眠りを決め込むのである。

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