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第123話 白馬に乗った聖女様は王子様の運命の人!

 もう力はほとんど残っていない、それでも立ってミノタウロスであるトロストに立ち向かうフェルナンドたち三人の動きはお世辞にも洗練されているとは言えない。だが諦めない前を向く姿勢は生物の生きると言う本能そのものが見せる力強さを感じさせる。

 そこに人間特有の希望と言う気持ちを胸に抱いた三人ならその力強さはなおさら大きく感じさせてくれる。


 ザブンヌは闘技場で繰り広げられる戦闘を目で追いながら、先ほどの揺れの原因を頭の片隅で考える。


(凄まじい魔力を感じた。十中八九例の聖女だろうな……俺らの種族は感知能力が低いから侵入を容易にしちまったっか。まあいい、迎えにいかなくてもあっちからくるのは間違いないし、もう少しこの戦いを楽しませてもらうとするか)


 ボロボロになりほぼ一方的にトロストがフェルナンドたち三人に攻撃をする展開、それでもあきらめることなく反撃をする三人に感心しながらザブンヌは戦いを分析する。


(俺ら魔族も息をする。海に住む奴らやアンデッド系は別としてどんなに魔力が高かろうと呼吸を妨げられると苦しい。人間の肺活量とは比べ物にならないほど大きく長く息が続くとは言え、氷で窒息させようと試みは人数が多ければ成功していたかもしれんな。ん? 下の魔力が段々大きくなっていく……!?)


 ザブンヌは下の階から上がって来る魔力がいきなり膨らみ始めたことに気づき立ち上がる。


「トロスト! 早く突進をかませ!!!」


 観客席から叫ぶザブンヌの声に今まさに突進しようとして地面を掻いていたトロストは目を見開きつつ、自分のタイミングではないが慌てて突進を開始する。


 次の瞬間だった、先ほどまでトロストがいた地面が紫に光ったかと思うと轟音と共に地面が吹き飛ぶ。

 突進を途中でやめ自分の立っていた場所に大穴が空いたことに驚きを隠せないトロストの前に、穴から飛び出て来たセシリアを乗せたラファーが飛び出してくる。


「本当だ、一番大きな魔力じゃなくてこっちが先で良かったね。流石グランツとシャルルだよ」


 聖剣シャルルに話し掛けるセシリアは自分の目の前にいるトロストの後ろにいるフェルナンドたちに気付き、一瞬だけ目を大きくし優しさを滲ませるがすぐにトロストをにらむ。


 出会ってすぐに相手に名乗らせず、探ることもなく放たれるトロストの突進。彼自身目の前に出て来た相手が普通でないことを肌で感じたからこその行動である。


 そしてガツン! っと鈍く響くのはラファーの角とトロストの角がぶつかり合った音。


『牛ごときがセシリアお嬢さんに触れられると思うなよ』


「貴様……魔物が人の味方をするか」


 ラファーと角で鍔迫(つばぜ)り合いをするトロストが低い声で話し掛けるとラファーが鼻で笑う。


『人だ魔物と言うことが小さいなお前。セシリアお嬢さんはそんなものを全て超越した存在なんだぜ』


「なんだと」


『俺らユニコーンが清き乙女にしか懐かないとかそんな概念を取り払ってくれた存在。もはや男女とか超えて伝説をも変えてしまう、それがセシリアお嬢さんだ! その魅力に俺夢中!』


 二人の会話が聞こえるセシリアは、何言ってんだこの馬と思いながらも聖剣シャルルの柄を握り次の動作に入る。


 鍔迫(つばぜ)り合いはラファーが身を屈め、一気に角を振り上げるとトロストを上空へと打ち上げる。

 反るラファーの背中を足で踏むセシリアの影がバネのようにして弾け、セシリアを空中へと(いざな)う。

 空中で翼を広げ一瞬だけ空中にとどまると、聖剣シャルルを鞘から抜きながら振り抜くと、自分よりも高く打ち上げられ落下してくるトロストの腹へ打撃を打ち込む。

 腹で弾けた強烈な紫の光は、煌々とした光の軌跡を空中に引きながら、トロストを真っ直ぐザブンヌのいる観客席へと落とし地面へとめり込ませる。


 自分のすぐ横で起こる凄まじい衝撃音と、観客席の椅子などだけでなく砕けた地面の破片までもが舞い上がるなかにあってもザブンヌは腕を組んだまま微動だにせず、空中にいるセシリアをじっと凝視している。


 翼を広げ滑空してフェルナンドたちの前に舞い降りたセシリアは、ボロボロの姿を見て目を潤ませるがすぐにラファーを手招きして呼ぶと角に触れる。

 弾ける癒しの光は大きな傷までは無理だが、フェルナンドたちの小さな傷を消し去り痛みを和らげる。


 顔色が幾分か良くなった三人を見てようやくセシリアは微笑む。


「怪我は酷そうですが、とりあえず無事出会えてよかったです。捕まったって聞いたときは心配したんですよ」


 キラキラと輝く笑みを見せるセシリアの前に滑り込んできたのはフェルナンドやグンナーではなくルーティアである。


「こ、この方が希望! なんて強くて美しい方なんだ! 白馬に乗って私を迎えに来て下さった麗しきお方! まさに希望!! 私と結婚してください!」


「えっ、だれこの人?」


 突然現れ求婚してくるルーティアに戸惑うセシリアの目の前では、フェルナンドとグンナーに蹴られるルーティアの姿がある。


「このクソガキ! いきなりセシリアに求婚するとかふざけんなよ!」


「言葉遣いの良い礼儀正しいヤツかと思ったら油断ならんなコイツめ!」


「あいたたっ!! 私、ル、ルーティアと申します! あなたのお名前をっお聞かせぇ下さいっ!」


 フェルナンドとグンナーに踏まれながら名乗った名前を聞いて、セシリアは目を大きく見開く。


「もしかしてあなたがルーティア王子なのですか? 私の名前はセシリア・ミルワードと申します。お父様からあなたをラビリント監獄から出す許可は頂いていますから一緒に帰りましょう」


「な、なんと父が私をここから出す許可を出したのですか!? 信じられませんが私の希望であるあなたでしたらやってのける気がいたします! それに私のことも既にご存知の様子、そして私を地獄の監獄から救うため舞い降りたあなたはなぜにかくも美しいのでしょうか! これは運命でしょうか? ああそうに違いありません! 結婚してください!」


「違うと思いますけど。とりあえずここから魔族を追い払う必要がありますので、怪我が酷いですし下がっていてください」


「いや、俺等もまだ戦えるぜ。怪我も治してもらったし大丈夫だ」


 冷たく言い放つセシリアに胸を押さえキュンとさせ、頬の赤いルーティアを羽交い締めにするフェルナンドが戦えると訴えるとセシリアは首を横に振る。


「いいえ、さっきのはあくまで応急処置。表面の小さな怪我は癒えても大きな怪我までは治っていないはずです」


「だがセシリア様。後ろに控えている魔族だけならまだしもここにはまだ多くの魔族がいる。流石に一人にするわけにはいかない、俺らも戦う」


 グンナーも戦えると訴えるが、セシリアは再び首を横に振ったあと微笑む。


「ご心配には及びません。このラビリント監獄で一緒に戦ってくれる頼もしい方々を連れて来ましたから」


 セシリアの言葉の意味が分からず聞き返そうとしたフェルナンドたちが口を開く前に、地鳴りが鳴り響き建物を震わせる。


 そして闘技場へと入るための扉の辺りが騒がしくなったと思ったら、大きな扉が勢いよく開き囚人たちが雄叫び上げながら流れ込んでくる。


 なだれ込む際、勢いに飲みこまれたゴブリンたちが人の波に流され闘技場内へと無理矢理運ばれてしまい広場へ投げ出される。


「みなさーん! いいですかー! 危ないと思ったら下がる! 無理はしなくちゃいけないこともあります無謀ダメですからねー! 命は大切にですよー!」


 セシリアが手をぶんぶん振りながら大声で囚人たちに注意を促すと、囚人たちが拳を上げ行儀よく返事をする。


「なんなのですかこれは……あの極悪非道と呼ばれた囚人たちがこんなにも素直に言うことを聞くなんて信じられません」


 目を丸くして驚くルーティアの肩をニヤリと笑みを浮かべるフェルナンドが叩く。


「すげーだろ。あれが聖女と呼ばれる俺のセシリアだ」


「でたらめしか言わないその口を切り落とすぞ!」


 グンナーがフェルナンドをにらみつけるがすぐに、肩をガクッと落とし青ざめて表情になる。


「一緒に戦いたいところだが、ここはセシリア様にお任せしよう。正直俺の腕折れてる……」


「奇遇だな俺もあちこち折れてる……」


「ええ、私もです……」


「「「痛い……」」」


 同時に呟いた三人は青ざめた顔で腕や腹をそれぞれ押さえ、足を引きずりながら後ろへと下がっていく。


 下がるフェルナンドたちとは逆に観客席からは(へい)を乗り越えオークと鬼がそれぞれ二人づつ闘技場内へ降り立つ。

 先程流されてきたゴブリンたちも立ち上がり、ぴょんぴょん跳ねて怒りをあらわにする。


 未だ観客席にいるザブンヌ腕を組み、囚人たちの先頭に立つセシリアとにらみ合う。


「行きます!」

「行け!」


 奇しくも同時に叫んだセシリアとザブンヌに反応し、両陣が雄叫びを上げ闘技場の中心へと向かって走りぶつかるのである。

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