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第121話 希望の聖女を胸に抱いて

 グンナーが鞘に納めた剣を目にも止まらぬ速度で抜き放つ。


天鳴龍(てんめいりゅう)三爪(さんそう)


 三連の斬撃は一つ一つが致命傷を与える威力を持つ。それがほぼ時間差なく同時に放たれトロストの動きを制限する。

 それに合わせ燃え盛る剣が振り下ろされるが、トロストが腕で受け止める。だがその瞬間、剣が真っ赤に光を放ち炎が弾け爆発する。


「おいガキ、やれ!」


 フェルナンドが叫ぶと同時に黒髪の青年が氷の結晶がまとう剣を地面スレスレから振り上げると、地面に氷が張りトロストの足ごと凍り付いてしまう。


 目の前で起こった爆発に視界が奪われさらには足が凍ってしまい、がら空きになったトロストの腹目掛けグンナーとフェルナンドが左右から剣を振り抜く。


 衝撃で僅かに前のめりになるトロストの顔面に凍り付いた剣先が迫る。だが、鼻息を一つ吐くとトロストは頭を屈め頭部に生えている角で剣を受け止め、そのまま頭を振り上げ青年を吹き飛ばし大きく胸を張りグンナーフェルナンドも吹き飛ばしつつ足元の氷を破壊する。


「ちっ、どんだけ頑丈なんだあの野郎は」


「魔力の壁を破らないと傷もつけれないらしいからな」


 ダメージで振るえる足を押えながらフェルナンドとグンナーが立ち上がりながら愚痴る。


「おい、ガキ。早く起きろ」


「ガキではありません。先程からルーティアだと名乗っているはずです。いい加減に名前を覚えてもらえますか」


 フェルナンドに怒鳴られ剣を支えにしてなんとか立ち上がった青年はルーティアを名乗る。


「大体こんな化物に勝てるのですか。私たちの攻撃は全く効いてませんよ」


 ルーティアの訴えにフェルナンドが口角を上げ笑う。


「全くってわけじゃねえだろ。それにな、あの化物を押えれることが出来れば勝てる道筋が見えてくるってものだ。後は任せりゃいい」


「ふっ」


「おいグンナー! 何がおかしい」


 鼻で笑うグンナーにフェルナンドが怒鳴るが、グンナーは益々可笑しそうに笑う。


「いやいや、俺が俺が! と言ってた人がずいぶん変わったものだなと。なんだかんだ言いながらルーティアに叱咤激励するところなんて、らしくなさ過ぎて……ぷっ」


「なんだとコラ! おい! 笑ってんじゃねえぞ!」


 顔を赤くして怒鳴るフェルナンドと笑うグンナーをルーティアは不思議そうに見ながら尋ねる。


「この状況でよく笑ってらますね」


「まあな、絶対にここに来てくれるって信じてる希望があるからな。だからやれるってもんだ」


「ぷっ、フェルナンドの口から希望とか言う単語を聞けるとは」


「おいコラ!!」


 二人のやり取りを見てルーティアも僅かに笑みを浮かべる。


「この局面でも諦めず笑顔までもたらすあなた方の希望とは、とても凄いのですね」


「ああ、とてもなんてもんじゃないな」


「凄いなんて枠には収まらない方だな」


「そんなに凄い方なら私も会ってみたいものです。あなた方がそこまで信頼を寄せるのです、きっと来てくれるのでしょう。会うためにももうひと踏ん張りしてみましょう」


 ルーティアの言葉を聞いたフェルナンドとグンナーがそれぞれに笑みを浮かべる。


「よしっ、もういっちょいくぜ!」


 気合を入れた三人が武器を構えると、しばらく三人のやり取りを静観していたトロストも拳を握り、ギリギリと音を立てながら構え戦闘態勢を見せる。


 ここまで突っ立っていただけのトロストが動いたことに、手ごたえを感じつつも緊張した面持ちで笑みを浮かべるフェルナンドたち三人と、それを観覧席で観戦するザブンヌが手を叩き喜ぶ。


 フェルナンドの剣がトロストの角とぶつかり炎が弾ける。頭を突き出したトロストのあごをグンナーの剣が捉え刃先を当たるが、魔力で守られているトロストに刺さることもなく止められてしまう。


 あごで受け止めた剣を押すトロストの顔面に氷の剣が突き立てられようとするが、角を大きく振るいフェルナンドとグンナーを突き飛ばしつつ剣先を角で受け止める。


 瞬時に凍りつく空気がトロストの角を伝い顔面に氷が張り付くと突如足元が爆発し、爆風でめくれた地面に足を取られてしまったトロストが背中から地面に落ち叩きつけられてしまう。


 倒れてなおも氷で繋がるルーティアの剣はトロストを捉え続け、広がっていく顔面の氷は地面にまで達しトロストの頭を地面に縫い付ける。

 氷で塞がれ息苦しさを感じたトロストが顔面に張り付く氷を剥ぎ取ろうと、伸ばす両腕それぞれにフェルナンドとグンナーが飛び乗り、折れた剣を突き立て必死に腕を押さえる。


 ルーティアの額から噴き出す汗と厚みを増していく氷の下からくぐもった苦しそうな声が大きな唸り声に変わると同時に、トロストは両足を上げ勢いをつけ反動で体を跳ね上げ氷を割りながら立ち上がる。


 真っ赤な顔は怒りと氷の冷気、そして何より息苦しさから来るものである。


 起き上がった勢いに巻き込まれ壁まで飛ばされ背中を打つルーティア。そして、未だ両腕にしがみつくフェルナンドとグンナーをハエを叩くようにして互いをぶつけ叩くと、それぞれ順にルーティアのところへ投げ飛ばし三人をまとめて

 真っ赤な顔をから蒸気のような鼻息を吹き出しながら足で地面を掻くと角を三人に向けて突進しようとしたときだった。


 大きく地面が揺れる、いや正確には建物全体が揺れ天井からホコリや小石がパラパラと闘技場にいる全員に降り注ぐ。


 トロストは突進を止め周囲を見渡す。ザブンヌも眉間にシワを寄せつつ辺りを警戒した様子で探り始める。


 そして同じ場所に投げられ固まった三人のうちフェルナンドがニンマリ笑う。


「多分来た……な」


「多分じゃない、間違いなくだろ」


 脇を押えるグンナーも痛みで顔を引きつらせつつも笑って言う。


「この揺れを起こしたのがあなた方の言う希望の方だと言うのですか?」


 ルーティアは苦悶の表情を浮かべながらも、笑みを浮かべる二人を見て自身も痛む胸を押えむせながら、先ほどの揺れの影響で天井から落ちてくるホコリや小石をしかめ面で見上げる。


「この巨大なラビリント監獄を建物ごと揺らす人……? あいたっ!」


 呟くルーティアの肩をフェルナンドが叩く。


「お前今、すげーごついヤツ想像しただろ?」


「え、あ、いえ。まあ……」


 額に脂汗を流しながら笑うフェルナンドに突っ込まれ戸惑うルーティアの横で、よろけながら立ち上がるグンナーが折れた剣を捨て腰に刺してある鞘を抜き構える。


「それは本物を見たらすごく驚くだろうな」


「ちげえねえ」


 フェルナンドが血の混じった唾を吐くと痛みに耐えながら立ち上がると半分に折れた剣を拾う。そして手をルーティアへと伸ばす。


「おい、立てよ。もう一踏ん張りするぞ! ルーティア、お前にも見せてやる希望ってやつをな」


 差し伸べられた手を見て、顔をフェルナンドへ向けるルーティア、そして二人が目を合わせ同時に大きく頷くとルーティアは手を貸してもらい立ち上がる。


「ええ、是が非でもその希望にお目に掛らないといけませんからね」


 ルーティアはダメージで振るえる足で地面を踏みしめ、腰に装備してあった短剣を抜き構える。


 自身のたくましい胸筋を拳で叩き気合を入れたトロストが再び足で地面を掻き始める。向かい合うフェルナンドたち三人も手にした武器を力強く握り締め立ち向かう。

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