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第118話 何者か?ただの聖女ですよ

 王座の間に大臣が走って入って来る。日頃あまり動くことがないのであろう豊満な体を重そうに揺らし、薄い頭や首筋から大量の汗を拭き出しながら肩で息をする。

 はあはあ息を切らす大臣をユーリス王は、(さげす)んだ目で見つつ声を掛ける。


「何用だ?」


「はあ、はい。はあはあ。大変でございっ、んくっ! ます。はあはあ」


「何を言ってるか分からん。落ち着いてから話せ」


「はあはあ、お心、はあはあ遣い、はぁーありがと、ふーぅございます」


 息を整えた大臣が懐をまさぐり二枚の便箋(びんせん)を取り出す。


「シュトラーゼ、トリクル女王とリンゲンブルーメのクレマティ王からユーリス王宛の文になります」


 少し湿った便箋(びんせん)を嫌そうに受け取ったユーリス王が二枚の便箋(びんせん)の表裏を一通り見て喉を鳴らして唾を飲み込む。


「なにゆえこのタイミングで隣国、しかも二か国同時に私宛に文を寄越すのだ。それにただの文ではなく返信をして受領証明をしなければならぬ証跡(しょうせき)ペレグリン便ではないか……」


 受け取ったことを本人の自筆の文言で返すことで受領証明しなければならず、文を届けるペレグリンと呼ばれる鳥には、どこを移動し無事辿り着いたかを定期的に信号を送り主に知らせるペンダントつきの便は受け取ってないとは言わせないためのもの。

 滅多に使われることのない移送方法を取ったと言うことは、ユーリス王に何らかの圧を掛けている可能性が高いと言うこと。


 ユーリス王はやや湿った便箋(びんせん)を開けると中に入っている紙を取り出し読み始める。一枚目を読み終わり次の便箋(びんせん)を開封すると再び読み始め体を小刻みに震わせ始めると目をつぶり歯ぎしりをしながら唸り始める。


「大臣、前に聖女が提出したトリクル女王からもらった文はまだあるか?」


「え、ええ。脱出不可能な部屋にて懐柔したのちそこで初めて謁見しトリクル女王からの紹介状を受け取る、そして聖女自らの意志で我が国のために役立ってもらう算段でしたから、聖女はまだ到着していないことになっていますので保管しております」


 王は大きく息を吐く。


「シュトラーゼ、リンゲンブルーメ二国からの正式な使者……いやトリクル女王に至っては自分の代理としてファディクトへ聖女セシリアを派遣し私との対話に望みたいとのことだ」


「なっ!? バカな。聖女と呼ばれているとは言え、所詮はたかだか一人の小娘でしょ。聡明で冷静だと有名なトリクル女王がそこまでひいきするなんて信じられません」


「あの女の腹の底は読めん。ただ、隣国二つ同時に私と聖女との対話を求めて来ているわけだ。魔族との協定を結び従属国化する動きを察している可能性もある。真相は分からないが、どちらにせよ聖女を正式に呼ばなければならないだろう。聖女はまだ捕獲されていないのだろう?」


「あ、はい。町中を探しておりますがまだ発見にすら至っておりません」


 ユーリス王は自分の指の爪を噛み歯ぎしりをして悔しさをにじませる。


「ルーティアの側近どもすら見つけられないのだ、役立たずの兵どもに聖女は捕まえられんというわけか……。本当に無能どもしかいないのだな。

 一先ず警戒態勢を解け、そして時間を置いて城壁の外で待機しているアイガイオン王国の集団に聖女の謁見を許可することを伝えるのだ」


「はっ、もしも聖女が見つからなかった場合はどういたしましょう?」


「そこまで知るか。警戒態勢を解けば帰ってくれるかもしれんだろ。祈れ」


「は、はあ」


「早く行け!」


「はっ!」


 ユーリス王に怒鳴られ身を縮ませた大臣は、再び豊満なん体を揺らし王座の間から走り立ち去る。


「何者なんだ聖女セシリアとは……底が知れないな」


 爪をギリギリと音を立て噛むユーリス王は誰もいなくなった部屋で、どこを見るわけでもなく唸る。



 ***



 空気を切り裂き飛ぶペレグリンは目的の物体を見つけると一直線に急降下を始める。ランタンに入った木の実はドルチュと呼ばれ硬い殻の中には甘い実が詰まっている。種を食べてもらい大地にまいてもらうために魔力を含んだ光を放ち、ペレグリンたちに向けアピールするドルチュの実を使った手紙のやり取りは、この世界では確実な手紙のやり取りの方法となる。


 ランタンに入ったドルチュの実をついばむペレグリンのポシェットに入っている便箋(びんせん)を係りの者が取り出すと、セシリアに手渡される。


 開封し読み終えたセシリアが微笑む。


「計画通りってこと?」


 セシリアの横にいたアメリーが顔を覗き込みニヤリとする。


「それ以上かな。トリクル女王様がファディクトの下に位置するリンゲンブルーメのクレマティ王にも話を持ち掛け、私を両国の正式な使者として迎え、私との対話をするようにユーリス王へ文を寄越したみたい」


「それは断れない状況ですね。今頃焦って私たちを探していないといいですけど」


 そう言いながらラベリがニンマリと笑う。


「これでようやくユーリス王と直接会えることが出来る。やることも多いしここからが正念場だから頑張らなきゃ! 私は所詮ただの人、それでも聖女の肩書が役立つならやってやるし。それにもう一つのお願いもトリクル女王様に伝わったみたいだからできる! うん、私頑張る!」


 セシリアはそう自分に言い聞かせ呟くと城壁のなかから慌てて走って来るファディクトの伝令兵を見て両頬をペチペチと叩いて気合を入れる。

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