第114話 脱出ゲームはお任せ!
ブツッと音を立て消えたガイコツ男の映像のあとに残されたテレビの画面を見て、目を輝かせ食い入るように見るアメリーと、早速ラベリが部屋を歩き始める。
セシリアも周囲を見回して部屋の様子を改めて観察する。
部屋の真ん中にあるのは大きなソファーとソファーテーブル。その正面に大きなテレビが壁に掛けられいて、その横には額縁に入った猫によく似た愛玩動物ニャコの絵が飾られている。
右へ視線を向けるとセシリアたちが入って来たドアがある。表側は金の装飾がされていたドアも裏側は木目が艶やかだが落ち着いた雰囲気を見せている。だがその扉には鍵穴もドアノブもなく人が外へ出ることを拒んでいる。
ドアの反対側の壁には窓があるが、木製の内窓がありそれを開けると壁に埋められている窓が姿を現す。壁に埋まっているので外には繋がっていないのでもちろん開くこともできない。
埋まった窓から右に目をやると白く丸い枠に囲まれ、一から十二までの数字が書かれた文字盤と長い針と短い針があるものが壁に掛けられている。
「時計?」
セシリアが首を傾げる。
『ああ、時計だな。時計はアイガイオン王国では大聖堂にしかないが、あんなに小さな時計を作れるのは遊戯人だけであろうな』
『あの形、禁書で見たことあるのじゃ。腕につけるタイプもあるのじゃぞ』
聖剣シャルルとアトラの話を聞きながらセシリアが知るなかで一番小さな時計を見て感動する。
「あれ? でもあの時計って動いていない気がするけど、どういう仕組みなの?」
「さすがセシリア様。おそらくあれは壊れているのではなく、針が示す数字に意味があるのです」
六時十七分を指す時計を見てそう呟くセシリアの横にいつの間にか来たラベリが感心しながら頷く。
「アメリー、メモしてください」
「はいはいっと」
アメリーが手帳にさらさらっと時計を描いて、六時十七分を指すとメモを取る。
「六、一、七……三ケタの数字が使えそうなところ。ダイヤル式の鍵って三ケタではなかったです?」
「んーっとそうね。小箱に掛かっている鍵が三ケタね」
ラベリとアメリーがチェストの上に置いてあった小さな小箱にあるダイヤル式の鍵を時計が示す数字に合わせる。
「開いた! 底に文字が書いてますね。えっと●=四……また数字ですか。そう言えば鉄の金庫の扉に手書きで●△□◆の記号がありましたよね?」
「ええっとそうね。これが●のところに四を当てはめるパターンとすれば他の記号と数字もどこかに隠されているはずね」
テキパキと謎を解き始める二人は部屋中を駆け回りながら数字やら道具を手に入れていく。
(実はあの二人結構いいコンビなんじゃないかな?)
いつもいがみ合うラベリとアメリーがお互いの知識を出し合い力を合わせて謎を解いていく姿を見てそんなことを思う。
『セシリア、棚の下にくぼみがあってそこにハサミが落ちているのじゃ』
アトラが端に置いてあった棚に影を伸ばし教えてくれる。棚に近づいてよく観察すると壁に横にへ擦ったような小さな傷があることに気づく。
棚を観察していたセシリアの近くにアメリーがやって来る。
「棚とか椅子って固定されているのか動かないのよ。その棚も引っ張ってみたんだけどビクともしないの」
「棚をこっちの方向へずらせないかな? ほら、壁に傷がついてる」
セシリアが棚を傷の入った方向へ押すと下に小さなくぼみがあって、そこに置いてある小さな変わった形のハサミが姿を現す。セシリアは知らないがそれは異世界である日本ではペンチと呼ばれるもの。
そのペンチを手に取って観察するセシリアを見てアメリーが声を上げる。
「それってハサミよね! ラベリ、これ使えるんじゃないかしら?」
「確かにこれならいけそうです。完璧なタイミングでハサミを探し出してくれるなんて、さすがセシリア様です! 貸してもらえますか?」
セシリアからペンチを受け取ったラベリが、クマのぬいぐるみの背中に雑に縫ってある針金をペンチで切断していく。
背中から出て来た鉄の棒を手に取ったラベリが不思議そうにそれを観察する。
「先端が変わった形をしていますね。おそらくここに意味があると思われます」
「あ、あれじゃない。ほら、なんだっけ釘みたいなのを外す道具!」
「ああ、先端の十字の形の溝にこれを差し込んで回す道具ですね。確かドリャイバーとかそんな名前だったと思います。後はこれをどこで使うかですけど」
部屋を一通り探索したラベリとアメリーが手帳を見返しつつドリャイバーの使う場所を探す。セシリアも周囲を注意深く見渡すと、壁に掛けてあった額縁に入ったニャコの絵を眺めていたグランツが長い首を傾げる。
『セシリア様、この額縁四隅に金属っぽいものが埋め込まれていませんか?』
片方の羽でニャコの絵を指すグランツに呼ばれセシリアが額縁をみつめると、青い額縁の四隅に金属っぽい光沢があり、上から青色で塗ってあって目立たないが十字の溝があるように見える。
「ねえラベリ、この絵だけど」
「ニャコの絵ですか? その絵の裏に鉄の糸が張ってあって、小さな穴に落ちている鍵を取るのに使ったのですが」
「この額縁の四隅に十字の溝がある金属がある気がするんだけど」
セシリアがニャコの絵を手に取ってテーブルの上に置くと、アメリーもやって来て三人でまじまじと見る。
「本当です。一度謎解きに使った物は関係ないと思っていましたが、まさか裏だけでなく表にも秘密があるとは盲点でした」
さすがですとセシリアに尊敬の視線を送ったラベリが、額縁にある十字の溝にドリャイバーを差し込み回すと額縁が外れる。
ニャコの絵を手に取ったアメリーが、一通り表を観察したあと裏返すと声を上げる。
「あったあった! □=五だって」
「これで集めるべき数字は後一つですね。図形は◆なんですけど、どこを探せばいいのか困っているんです」
「後一個なら適当に数字入れてみたらいいんじゃない?」
セシリアの質問にラベリが首を横に振る。
「金庫のダイヤルの上に『三回失敗したら中身が燃えてなくなる』と書いていますので、うかつに数字を入れるわけにはいきません」
「そっか、それなら探すしかないよね」
セシリアは改めて辺りを見渡す。
アトラ隙間に入り込めるアトラと、基本視点が低くときには上の方へ上がって見てくれるグランツも総動員して人では気付けない場所も探すがなかなか見つからない。
『セシリアよ。上のシャンデリアなんだが』
「シャンデリア? グランツが上って探してくれたけど特に何もなかったって言ってたよ」
聖剣シャルルに話し掛けられセシリアは天井を見上げる。天井には四角いシャンデリアがぶら下がっており、仕掛けがないかグランツによって探索済である。
『このシャンデリアに仕掛けがあるのではなく、これ自体が数字じゃないのか? この狭い部屋になぜ三つもあるのか気になっていたのだが三つが並ぶ方向から見れば◆に見えないか?』
セシリアは上を向いたまま移動するとシャンデリアの形と並びを見つめる。
「あ、本当だ。◆が三つ並んでいる」
セシリアの声を聞いたラベリとアメリーも一緒に天井を見上げると声を上げる。
「なるほど仕掛けがあるのではなくこれ自体が数字を示していたと言うわけですね! さすがセシリア様です!」
「脱出ゲームの本を読んでて自信あったんだけど、こういう仕掛けはなかったから気付かなかったわ。セシリアって強いだけでなく頭もいいのよね」
「なに当たり前のことを言ってるんですか。早速数字を打ち込んでください」
「えぇ、なんで私なのよ。燃えたらどうするのよ」
「三回目で燃えるんですから、一回は失敗してもまだ大丈夫です」
「いいよ、私がやる」
セシリアが前に出るとラベリが慌てて止める。
「セシリア様に万が一があってはいけません。ここは私がやります!」
「えっ、じゃあ私がやるわよ」
三人が顔を見合わせる。
「どーぞお願いします」
「えっと、どーぞ」
セシリアとラベリに譲られて、しまったと頭を抱えたアメリーだが、すぐに意を決して金庫の図形の下にある数字のダイヤルを回し探し出した数字に合わせる。
そしてノブにあるレバーを押し込むとカチャっと心地よい音が響き金庫の扉が開く。
「なにこれ?」
四角いペラペラのカードを手に取ったアメリーが不思議そうに見つめている。
「外へ通じるカギと書いていますね。これでドアが開くとかではないですか?」
ラベリがカードを手に取り書いてある文字を読むと扉のもと行く。三人がドアを穴が空くほどみつめるが何も見当たらない。
「ふつうならこの辺りにドアノブや鍵穴があるんですよね」
ラベリがカードで鍵穴がある辺りをパシパシと叩くとガチャっと鍵が開く音が響く。
「え? どういうことですか?」
「まあ開けばなんでもいいじゃない! 早速開けて外へ出ましょうよ」
特定の魔力に反応するカードリーダー式の鍵であるとは知らないラベリが驚きアメリーが僅かに開いたドアの隙間に手を掛けるがその手をセシリアが握る。
「アメリー、ラベリ下がって」
手を掛けたアメリーと近くにいたラベリを後ろに引っ張って強引に下がらせる。倒れる二人を影が受け止めそっと座らせると、セシリアは背中に生えた翼を広げ聖剣シャルルをドアの隙間に差し込み一気に開ける。
ドアの外にあるのは廊下ではなく、夜空のような暗い空間のなかに鈍く光る小さな光の粒たちが渦を巻いてゆっくり動いている。そこへ聖剣シャルルを突き立てると魔力を集め始める。
「ぐぬわわわわぁぁっ!?」
夜空のような空間に声が響く。
「斬ります! 核を斬られたくなければ避けてください」
そう叫んだセシリアが空間を切り裂くと、夜空のような空間は弾け天井からガイコツ男が落ちてくる。